第55話 狙われたメリッサ①
港の停車場でホルストと別れた後、私、メリッサ・コトセットは家路に着いた。僅かに揺れる馬車の中で思うのはホルストの事ばかり。
ホルストとは昨日出会ったばかりだ。だけど、彼には何か特別なものを感じていた。
私達の出会いはベッキオからナヴォーリへ向かう船の上。狭い船室にうんざりした私が甲板で見つけたのはとんでもなく綺麗で可愛い白猫ちゃん。抱っこしたくなって思わず手を伸ばしたら嫌がった白猫ちゃんに逃げられてしまって。それでも諦められなくて追いかけたら、白猫ちゃんが逃げ込んだ先がホルストの懐の中だった。そう、白猫ちゃんはホルストの使い魔だったんだ。
私はやっぱり白猫ちゃんを抱っこしたくて。図々しいのは承知でホルストに頼み込んだんだけど。そうしたら、ホルストは白猫ちゃんと何やら見つめ合って何か話し合ったみたいだった。そして、
「ごめん、やっぱダメだって。その代わりと言ってはナンだけど、俺が君の頭を撫でるってのはどう?」
なんて言うから、思わず「はぁ⁈」なんて険しい声が出ちゃった。
最初はなんて変な人なんだろうかと思った。でも、背はスラッと高くて、色白の黒髪がエキゾチックなハンサムで格好良くって。
その後、ホルストとは初対面なのに不思議と話し込んでしまって、とても楽しかった。でも、船に海賊の襲撃が無かったら、きっとホルストとはそれっきりになっていただろう。
〜・〜・〜
船に海賊が襲いかかってくると、ホルストは私を、と言いたいところだけど、私達乗船客を守ってくれた。
船室に避難する私達を見送って、ホルストは海賊との戦いに臨んだ。
その後のホルストの戦いを私は見ることは出来なかったけど、船員さん達から聞いたところでは、彼は能力持ちなようで圧倒的に強かったという。ホルストがいなかったらこの船はダメだっただろうとも聞いた。なんでも、火炎を放って海賊船を2隻とも燃やして沈めちゃったとか。
こんなに強くて、素敵で、格好いい男の人が未だかつていただろうか?まぁ、猫を連れているあたりはちょっと変わっているけど。
私はせめて一言お礼を言いたくて甲板に上がってみると、何やら巫女のアイリーン様がホルストを責めていた。どうやらホルストが海賊を殆ど皆殺しにした事が気に食わないらしかった。
でも、私にはわかる。アイリーン様はホルストに罪悪感を持たせ、そして自分が彼に赦しを与える事で自分の影響下に置こうとしている事を!
何という破廉恥で恥知らずな女だろう。この船のみんなの為に戦ってくれたホルストを人殺しと罵って自分の思うようにしようとしていたんだ。
私は市長の娘、市長の名代としての役割も忘れ、怒りに任せてアイリーン(様なんて付けるもんか!)を逆に非難した。そんな私にホルストは自分のために怒ってくれて有難うと言ってくれた。私は感極まって泣いてしまったけど。
その後、ホルストや船員さん達が海賊と戦ってくれたお陰で、私達乗船客は無事にナヴォーリに入港する事が出来た。尤も、ナヴォーリへの残りの航海の間中、私とアイリーンは互いに目も合わさず、口も利かなかったけど。
〜・〜・〜
船がナヴォーリへ入港すると、乗船客達は下船してそれぞれの目的地へと散って行く。私はそうなる前にホルストに会いたかったけど、私にも市長の名代としての立場と仕事があった。いくらアイリーンと仲違いしたからといってそれを投げ出す訳にはいかない。
港に迎えに来たナルディア神殿の神官達にアイリーンを引き渡すと、私は市長である父に報告するため市長公邸から迎えに来ていた馬車に乗り、ホルストに会いたい気持ちを抑え込んで帰宅した。
帰宅して早々、私は父に乗船が海賊の襲撃に合いながらも、乗り合わせていた腕利き冒険者の活躍で無事にアイリーンをナルディア神殿の神官達に引き渡す事が出来た旨を報告した。
父も母も3人の兄達も可愛い一人娘(妹)が海賊に襲われたと聞いて驚き、怒り、無事な事実に喜び安堵していた。ここで私はすかさず父にホルストを感謝の意を込めて夕食に招いたらどうかと提案した。
この提案に兄達は一様に渋り顔だったけど、父はその辺り流石に政治家。ほぼ一人で2隻の海賊船を沈め、海賊も殲滅した凄腕の金級冒険者の価値を良く理解している。父は二つ返事で私の提案を快諾した。
でも、母は父の更に上を行く女性。私の意図までもすぐさま理解したようで、
「そのホルスト君って、どんな男だったの?詳しく聞かせてね?」
と、こっそりと耳打ちされてしまった。
〜・〜・〜
翌日、港の衛兵隊詰所にホルストの所在を確認に行くと、非番の衛兵隊長が盛り場にある船乗り達の溜まり場である宿を紹介したと言う。私は早速その足でその宿屋に赴いてみると、ホルストは既に外出しているとの事。
「さぁねぇ、行先までは知らないねぇ。今日も泊まる事になっているから、どうしても会いたきゃ夕方また来な。しっかし、あの子も可愛い顔してやるもんだねぇ。もう女の子引っ掛けてるのかい?」
どの部分がとは言わないけど、ど迫力な宿の女将さんにあしらわれて引き下がる私。でも諦めはしない。私にはホルストの居場所を探る奥の手があるから。
私はバッグから愛用する直角に曲がった二本の木の棒を取り出すと、それぞれ一本ずつ両手に持ち、目を瞑って集中、ホルストの姿を思い描く。すると、二本の棒はクイッと同じ方向に向いて「ホルストはこっちよ」と教えてくれる。
実は私にも「能力」がある。それは「ダウザー」という能力で、こうした棒やペンダントを使って人や物を探す事が出来る。
私としては「剣士」や「戦士」とか戦える能力が欲しかったのだけど、授かったのはこの「ダウザー」。でも、慣れると凄く使い勝手の良い便利な能力で、今では結構重宝している。
「あっちだ!」
二本の棒に導かれ、その指し示す方へと進んで行くと、果たしてそこにはホルストの姿が。
「ホルスト!」
私は躊躇う事無く彼の名を呼んだ。
〜・〜・〜
ホルストと過ごした時間は楽しかった。彼は私と同い年のはずなのに大人っぽく、しっかり私をリードしてくれ、それでいて街を案内する私の自尊心をくすぐって、さりげなく立ててくれて。
知識も豊富、話も弾んで会話も楽しく、ホルストは手を繋いでくれたり、軽く肩を抱いてくれたりとちょっとドキドキさせてくれたりして。男の人と一緒にいてこんなに楽しい思いをしたのは初めてだった。それってホルストだから?
明日の我が家の夕食会へも快く招待を受けてくれ、明日もホルストに会える。ドレスは何を着よう?それから、これからもホルストに会う良い口実を考えなきゃね。今度は街の郊外を案内しようかな。
ホルストと別れて帰宅途上、私が一人、馬車の中でそんな事を考えていると、不意に馬車が止まった。もう公邸に着いたのだろうか?窓から外を見てみれば、辺りは暗がりで公邸ではない知らない場所だった。
ずっと考え事をしていたせいで馬車がこんな所に来ている事に全く気付かなかった。
「ロメックさん、ここは何処?道を間違えたの?」
馭者のロメックさんは30歳くらいのちょっと太った男性で、我家に仕える使用人の一人。主に馬や馬車の管理を任されていて、無口であまり会話をした事はない。だけど、仕事ぶりは真面目で評価は良いらしい。馭者としても職歴は長く、公邸への道を間違える筈は無いんだけど…
「いいえ、お嬢様。ここで間違いありません」
どういう事?
いつに無く暗い声でロメックさんがそう言った。
「えっ?」
いつの間にか馬車は黒づくめの賊達に囲まれ、強引に外から馬車のドアが開けられる。そして私は乗り込んで来た黒づくめの賊に口を押さえられて短剣を喉元に突きつけられた。
「!!」
突然の事に声も出せず、そうしている間に馬車の反対側からも賊が乗り込んで来て、抵抗する間もなく拘束されてしまった。
目隠しをされ何も見えず、猿轡を噛まされて助けも呼べない。私は賊に担がれて何処かへ連れ去られようとしていた。
(恐い、恐いよ。私、どうなっちゃうの?)
そんな時、私の脳裏に映るのはホルストの顔。昨日、私を海賊から助けてくれた彼の顔だった。
(ホルスト、助けて。お願い)
私は更に頭から粗い材質の布袋を被せられ、どうやら船に運ばれたようだった。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




