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第52話 ナヴォーリの休日②

メリッサおすすめのレストランで昼食を堪能した後、メリッサが港の市場や市庁舎周辺の市街地を案内してくれた。


市の中心街は市庁舎や議事堂といった官公庁がある他、各教団の神殿も建立されている。その中でもメルの主神である愛と癒しの女神ナルディア様を信仰するナルディア教団と海の女神ラメーラルの神殿が最も大きく立地も良かった。ナヴォーリの人々はこれら二柱の神々への信仰が厚いのだそうだ。


俺は折角来たのだからとナルディア神殿に立ち寄らせて貰い、神殿に心ばかりを寄進してお参りさせて貰う事にした。


「ホルストって信心深いのね。意外」


実際、この世界にも元の世界にも神様はいるからね。


「まぁ、いろいろとお世話になってるからね」


「ふ〜ん」


俺達には礼拝所に通されると、他の信者達がしているように床に跪き女神像に手を合わせて祈りを捧げた。ふと見てみると、メルもベビースリングから出て頭を下げて神妙にしていた。


"ホルスト、本当なら手を組むんだからね?"


ナルディア様の眷属から有り難くも祈り方について指導を受けたけど、元日本人としては手と手を合わせて幸せ的な方がしっくりくるんだよね。


ふと気付けば辺りは真っ白で静寂な空間となっていて、メルも白猫から元の美少女の姿に戻っている。


「ホルスト、ナルディア様が顕現されるわ。失礼の無いようにね?」


って、いきなり?


「心の準備が出来てないんだけど」


で、俺の焦りなどお構い無しに早速目の前にナルディア様顕現。


俺は跪いていて頭を下げているからナルディア様の顔を見る事は出来ない。しかし、目に見える限りでは白く襞の付いたゆったりとした、ギリシャ神話の女神のような衣装を纏っている。細身でありながらもとても女性らしいラインが見て取れる。


「ホルストさん、構いませんから頭を上げて下さい。それではあなたの顔が見えません」


「はいっ」


ナルディア様から直々に許可が出たので顔を上げてみる。といってジロジロ見る訳にもいかないから視線は落とし気味に。


それでも見えるナルディア様。歳の頃は20歳くらいで、顔立ちは神々しくて美しいの一言に尽きる。腰の辺りまで伸びた髪は見事な金色で、愛と癒しの女神らしく慈愛に満ちた瞳はエメラルドグリーンだ。そういえばメルの瞳の色もエメラルドグリーンだし、巫女のアイリーンもそうだったな。


月並みな表現だけど肌は白磁のように白く、すっと伸びた鼻梁と小作りな唇は形良い。


俺が顔を上げると、ナルディア様はニッコリと微笑んだ。


「漸く会うことが叶いました。あなたがこの世界に転生してより15年。困難に挫けずよく頑張りましたね。さぁ、もっとよく顔を見せて下さい」


ナルディア様に促され、もう少し顔を上げるとナルディア様と視線が合う。澄んでいるようでいて何処までも深いその瞳を見つめていると、自分の精神がその中に沈んで行くようで…


と、そこで激しい動悸がして我に帰る。これは前世の俺の頃からあった危険信号の一つで、頭がぼーっとして勘が働かない時に身に危険が迫っている時に動悸という形で俺に知らせてくれるのだ。この場合、このままナルディア様の瞳を見続ける事が俺に何らかの悪影響を及ぼすという事だろう。


俺は最大の意思力でもってナルディア様から視線を逸らした。


「あら残念。もう気付いちゃったのね。流石は弁天様の秘蔵っ子ってところかしら」


何か企んでたよ、この女神!危ない危ない。この世界、人ばかりか神様までこんなんで本当油断も隙もあったもんじやないな。愛と癒しの女神って誰の事だよ!


「ナルディア様、お戯れも程々にして下さい」


メルが自分の主神であるナルディア様を嗜める。


「メルダリス、彼を手駒にしようとしただけで、あなたの彼氏を奪ったりしないから安心なさい?」


ちょっ、手駒?何、俺を洗脳しようとしてたのか?この女神。じゃあ、あれは魅了って奴だったのか?え?でも俺がメルの彼氏?


「ナ、ナルディア様!」


メルはナルディア様に猛抗議するも、ナルディア様はどこ吹く風と受け流す。これが主神と眷属の差か。しかし、仲良いな、この二柱。


神々の遣り取りに俺が口を挟む訳にもゆかず、俺は暫くこの嵐が過ぎ去るのを黙って待つ事となった。でも、俺がメルの彼氏って主神公認って事がわかった。


「ごめんなさいね、ホルストさん。メルとも久々にあったものだから、お喋りに花が咲いちゃったわ」


「…いえ、積もる話もあるでしょうから」


何気に魅了の件は無かった事にしようとしているな?まぁ、いいけど。


「ホルストさんには話しておきたい事があったの?だから、今日はあなたが神殿にいらした事は幸いでした」


話しておきたい事ってなんだろう?俺はそう疑問を抱きつつ、再びナルディア様と顔を合わせた。今度は変な小細工は無いようだな。


「では、時間も限られているので手短に。あなたの「アクションヒーロー」についてよ」


やはりそこだよな。


「あなたのその「能力」はこの世界の神々から警戒されている事は理解していますね?」


「はい」


「ですからホルストさんには監視役という名目で私の眷属であるメルダリスを付けています。しかし、実際はホルストさんが私の管理下にありますよという神々を安心させるための保険と考えて下さい。」


そう聞いて俺が思わずメルをチラ見すると、同じく俺をチラ見したメルと目が合う。今まで監視役よ!と強調していたのに実は監視だけではなく保険だったと俺の知るところとなってバツが悪いのかスッと視線を逸らされた。メルの奴、どうも最初から自分の役割について知っていたようだな。


「ですが、それでは飽き足らず、ホルストさんを危険視してあわよくば亡き者にしようとしている神もいます」


亡き者にって、要は俺を殺そうって訳だな?全く、俺があんたに何したよ?ってその神に問い正したいわ。しかも、俺自身その神に心当たりがある。


「その顔は思い当たる節がありそうですね?」


「はい。私は今までに3人に殺意を向けられた事があります。それはそれぞれ「剣士」、「剣聖」、そして「勇者」でした」


俺の答えを聞いたナルディア様は自らの問いに正解を答えた生徒を見るような眼差しで頷いた。


「そうです。かの神は独善的で横暴です。メルが付いているだけでは納得していないだけに、時にはそのように手を下そうとしています。十分に気を付けて下さい」


「はい、ご忠告有難う御座います」


どんなに強くなろうと人の身で神々の世界や

その目論見など知りようもない。ナルディア様も見た目と違ってなかなかどうして曲者でどんな思惑があるのかわからないけど、こうして人では知り得ない神界の情報を教えてくれ、警戒しろとまで言って下さっている事には感謝しよう。


「それでは、デートを楽しんでいる人の娘に悪いから今日はこの辺にしておきましょう。ホルストさん、たまにはこうして礼拝に来てください。それからメルはいい子ですから可愛がってあげてね?」


メルを可愛がる?それはもう!


「はい、それはもう。ナルディア様、お願いがあります。メルを嫁に「ホルスト!」もがもが」


それ以上言わせまいとメルが俺の口を手で塞いだ。それを見たナルディア様は何か微笑ましいものを見たかのような表情で、


「流石に2年近く一緒にいると仲良くなるものね。メルをお嫁さんに欲しいという話なら本人が良いなら私は構いませんよ?」


と、爆弾を放り投げてきたものだ。


「本当ですか⁉︎ナルディア様のご許可頂きましたー!」


「ちょっ、ナルディア様、なんて事を」


「それじゃあ、またお会いしましょう。ご機嫌よう〜」


そう言うと、ナルディア様はメルの抗議など聞き流してさっさとその身を隠してしまい、気がつけば白い空間から元の礼拝所に戻っていた。


ナルディア様の顕現はそう長い時間ではなかったようで、周囲の様子に変わりは無く、メリッサも跪いたままだった。


メルも白猫の姿になっていた。そしてメルは何故か俺の膝の上に後ろ脚で立ち、両前脚で俺の口を塞いでいた。多分俺の口を手で塞いだままで猫の姿になったからじゃないかな。 


「ホルスト、何やってるの?」


メリッサは俺とメルを見ると呆れたように言った。


「いや、何と言うか、口封じされているところ?」


「口封じって、何の?」


ぐいぐいと訊いてくるメリッサ。しかし小声で交わしていたつもりの俺達の会話も静寂な礼拝堂では周りには煩かったみたいだ。近くで祈っていたお婆ちゃん信者はこちらを見ると、自身の唇に人差し指を当てて「しーっ」とやり、別の爺さん信者は態とらしく「うおっほん」などと咳払いをしたもんだ。


「そろそろ出よっか?」


「そうね」


俺達は頷き合い「失礼しました」と小声で言うと礼拝堂を後にした。何となく、デートではしゃぎ、周りに迷惑をかけた末に映画館を出るハメになった中高校生カップルみたいだなと思ったのはここだけの話だ。


〜・〜・〜


その後、この街を興した英雄の像が中心に立つ円形のエンヴォーリ公園を回ってから、公園近くのカフェテリアで焼き菓子とオレンジの皮のジャムを入れた香茶を味わった。


カフェテリアから少し歩くと海外通りに出る。石造りで馬車が擦れ違える道幅の立派な道路で、防波堤の役割もあるため磯の岩場の上に築かれている。


俺達は道路を横切って展望台に行くと、2人で夕凪の海を眺めた。陽は傾き始め、もう間も無く西の山に沈み始めるだろう。


「海賊に襲われてから1日しか経ってないのね。もう随分時間が過ぎたような気がするの」


「俺もだ。今日が楽しかったからかな」


メリッサは「うん」と頷くと、そのまま俯いてしまった。


「今日は本当に楽しかったよ。案内してくれて有難う、メリッサ」


俯いていたメリッサが顔を上げて何か言おうとすると、不意に陸側から吹いた風が彼女の髪を乱した。


「キャッ」


何らその風がメリッサに害を与えるような事が無いのは知りつつも、女の子が悲鳴を上げて何もしないという選択肢は無い。俺はメリッサを風から庇うように彼女の肩を抱いた。


俺達はそのまま海陸風に吹かれながら夕焼けを眺めた。街外れの海岸通りは街の騒めきは無く、陸から吹く風の音、磯に打ち付ける波の音だけが聞こえてくる。風音と波音の中、静かに美少女と眺める夕暮れの海岸は最高だ。何となく藤沢の湘南海岸の崖の上にあるイタリアンレストランで恋人と見た江ノ島越しの夕焼けに染まる富士山を思い出してしまった。


でもそろそろ戻らないとメリッサが冷えちまう。馬車に戻ると、メリッサは馭者に指示して港の停車場まで俺を送ってくれた。


「じゃあ、また、明日、ここに迎えに来るからね」


メリッサはそう言ったものの、俺を見つめたまま"まだ帰りたくない"オーラを放っている。


なので、俺はメリッサの手を取ると、その手背に軽く口付けた。


「!!」


メリッサからは驚きが伝わって来たものの、俺の手を振り払うような事は無く、そして「明日ね」と小声で囁くと、馬車へと小走りに戻って行った。


俺はメリッサに手を振り、彼女が乗った馬車を見送ると、港の繁華街を暫くぶらついてから俺を付けてくる連中を誘い出すべく人気の無い倉庫街へと足を向けた。












いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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