表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/144

第51話 ナヴォーリの休日①

翌朝は朝風呂に入ってさっぱりし、鱸のような白身魚の切り身と豆と押し麦の入ったスープにパンという朝食を頂いた。スープは魚の出汁が出ていて実に美味かった。


その後、メルと共に冒険者ギルドナヴォーリ支部に赴いてナヴォーリへの滞在手続きをして、オーク20体の討伐と昨日の海賊襲撃及びその際の海賊討伐の報告を行った。


「ホルストさんは暫くナヴォーリへ滞在されるのですか?」


報告の内容が内容だけに応接室に通された俺は、報告を終えるとアイーシャさんという副ギルドマスター(狐獣人の出来る女感溢れ出る美人さん)からナヴォーリでの今後の予定について訊かれた。ギルドマスターは本日不在だそう。


「ええ、ここのところずっと働きっぱなしだったので、憧れのナヴォーリで命の洗濯でもしようかと思っています」


「そうでしたの。ナヴォーリはとてもいい所ですよ、海があって温泉もありますしね」


そう言ってアイーシャさんはニッコリと微笑む。


「そのお休みの合間で構いません出来ましたら、依頼を受けて頂けたらと思うのですがいかがでしょうか?」


くっ、狐獣人のケモミミ美人お姉さんに上目遣いでお願いされたら断れる訳無いじゃないですか。


「依頼の内容によりますが、街の人達が困っている様な事でしたら吝かではありません」


なのでこんな事言っちまったぜ。


するとアイーシャさんはぱっと笑顔を綻ばせた。


「本当ですか?有難う御座います。それでは何かありましたらご滞在の魚藍亭に使いを出しますね?それと偶にはギルドに顔を出して頂けたら嬉しいです」


騙されるな俺、アレは営業スマイルだ。


とはいえ、胸の前で手を組んで喜ぶアイーシャさんを見ているとしょうがないなあと思ってしまう俺がいる。このナヴォーリでも何か問題があれば対処するつもりではいたから良いのだけど、あまり深く考えるのはよそう。もう既に海賊を返り討ちしているしな。



〜・〜・〜


"全く!あの女狐にすっかり乗せられちゃってさ。ホルストって何かチョロいよね"


冒険者ギルドナヴォーリ支部を辞した俺とメル。現在、港の食堂で昼食を摂るべく徒歩にて移動中。そしてメルからギルドでの俺の対応について絶賛嫌味を言われ中。


「別に何でもするなんて言ってないだろ?一応街の皆さんが困っているような事って枠は嵌めているんだし」


"でもそれだとあの女狐に「街の皆さんが困ってます」とか言われたらやらざるを得ないんじゃない?"


うぐっ、鋭い。しかもアイーシャさんの声真似までして。


「そうそう無いってそんな事」


"どうだか。行く先々でトラブルに遭っているんじゃ説得力無いわね"


メルの機嫌が悪い。安易にアイーシャさんに言われて依頼を受けるとか言っちゃったからだろうか?


「ホルスト〜!」


そんな事を考えていると、不意に何処からか女子の声で名前を呼ばれた。


声がした方へ振り向けば、路肩に停車した馬車からメリッサが降りて来た。


「もうホルスト、探したんだからね!宿に迎えに行ったらギルドに行ったって言われるし、ギルドへ行ったらもう帰ったって言われるし、でも見つけられて良かった」


「メリッサ、どうしたんだ態々馬車で?」


俺がメリッサに尋ねると、一瞬ムッとした表情となる。


「だって、昨夜は船から降りたらそのままいなくなっちゃうし!」


俺はメリッサに海賊襲撃について衛兵隊から出張所で事情聴取を受けていた事、偶然だけど紹介された宿で船長達の亡くなった船乗り達を悼む宴会に参加していた事などを簡潔に説明した。


「そうだったの。それじゃあしょうがないけど。ねえ、明日って何か予定はあるの?」


「明日は特に何も無いけど?」


「そう!それは良かったわ」


俺に予定ないと聞いて喜ぶメリッサ。


「あのね、お父様が海賊退治のお礼がしたいからって明日の夕食にホルストを招待したいって言うのだけど、どうかしら?」


メリッサの父親ってナヴォーリの市長だよな。この世界の自治都市の市長って元の世界の地方自治体の長なんかより余程権威があり身分も高く権力もある。確かナヴォーリ市の市長はジギスムント王国では侯爵相当の身分なんじゃなかったな?


正直面倒くさい。そういう貴族社会のしがらみやら何やらが嫌で冒険者になったという事もある。だけどお礼がしたいと侯爵相当の身分の者から夕食に招待されたら断るのは失礼に当たろう。


「わかった。有り難くお受けするよ」


「本当?良かった。それじゃあ明日の夕方に迎えに行くね」


「あぁ、それで構わないよ」


「極内輪の催しだから特にドレスコードなんかないから、気兼ねしないでね?」


「それは旅先だから有難いな」


するとメリッサはちょっともじもじしながら俯いた上目遣いで「それで、今日はこれから何か予定はあるの?」と切り出した。


「いやこれといって無いよ?強いて言えばこれから何処かで昼飯を食おうとしていただけ」


「その、良かったら私がナヴォーリを案内しよっかなって、ど、どう?」


美人系で一見気が強そうな(実際強いけど)女の子であるメリッサ。そんな彼女が恥ずかしそうにもじもじする姿は実に可愛らしく、これを断るなど、そんな選択肢はこの世に存在しない。


「うん、お願いしようかな」


「本当?じゃあ私のとっておきを案内するね!」


そう言うが早いか、メリッサは俺の手を取ると、道端に止めてある馬車へと引っ張って行った。結構積極的なんだな。


〜・〜・〜


メリッサと俺とメルを乗せた馬車はメリッサの実家、コトセット家が所有する馬車で、ナヴォーリ市庁所有の物ではないとの事。


メリッサがまず案内してくれたのは、港の海沿いにあるレストランで、ナヴォーリ港が一望出来るテラス席が既に予約されていた。まぁ、それについて訊くのは野暮というものだろう。


席に着いた俺達に出された料理は魚介を炊き込んだパエリアそのものの米料理に、これまたほぼブイヤベースな魚介のスープ。それらの美味い事この上無く、長くて粘り気が無くても米は米。もう最高!って感じだった。


「メリッサ、本当に美味いよ!有難う」


俺があまりに感動したものだからメリッサも随分と驚いていたけど、嬉しそうだ。


「気に入って貰えて良かった。ホルストが船でナヴォーリでは魚介の料理を食べたいって言っていたから。ここは私のお気に入りのレストランなのよ」


ちゃんとメルの分も取り皿に分けてあり、メルも美味しいのか椅子の上で、がっついていた。神族の品位は…


〜・〜・〜


メリッサの実家コトセット家は本来貿易商で、彼女の曽祖父の代で政界に進出し、その2代目にして市長の座を射止めたそうだ。今はメリッサの父親が政治を、メリッサの叔父が家業の貿易商をそれぞれになっているという。敢えて前世の歴史に例えてみればフィレンツェのメディチ家みたいなものだろうか?


ただ、メリッサの父親が市長の座を継ぐ市長選は前市長メリッサの祖父の反対派が巻き返しを図ったため激戦となり、現市長は長年ナヴォーリを苦しめていた海賊退治を選挙公約にした事で勝利したいという。


当時はナヴォーリの沖にあるオーラン諸島が海賊の根拠地になっていた。現市長は公約のため市の海軍だけではなくジギスムント王国の海軍も巻き込んでオーランド諸島の海賊を平定し、市長としての座を揺るがない物にしたそうだ。


海賊を退治したメリッサの父親である現市長、コトセット氏は高い支持率を背景に海賊の壊滅により盛んになった貿易で上向いた税収によって公共事業を多く起こし、市政は順風満帆だった。


「だけど、この2〜3年はまた海賊の被害が出始めて海運業者も対策費の負担が大変なの。その分が商品に価格が上乗せされて、回り回って結局苦しむのは一般の市民達だからね」


食後の菓子を頂きながら、メリッサはナヴォーリ事情について語ってくれた。


ところが、ここに来て俄に起こった海賊の跳梁により現市長の支持率は下がり気味。しかも昨日などは外海どころかナヴォーリの内懐に等しいシレジア川の河口にまで海賊が侵出し、あまつさえナヴォーリに新たに赴任するナルディア教団の巫女と市長の娘(メリッサの事ね)が拐かされそうになる始末。


「だから父は大規模な海賊討伐をするつもりみたい」


「そうか、ナヴォーリは今、大変なんだな」


この時は他人事としてメリッサの話を聞いていた。海賊討伐はナヴォーリの為政者がすべき事であり、実際には海軍がやる事だ。俺が海賊と戦ったのはたまたま海賊の襲撃に居合わせたからに過ぎない。


しかし、まさかこの後、自分自身が海賊討伐の渦中に巻き込まれる事になるなんてこの時は知る由も無く、まさに神のみぞ知る、だ。


あれ、神、の眷属は、まだ食べてる…

いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ