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第50話 船乗り達の挽歌

その日の夕刻、グランデプロフィット号はナヴォーリの港に無事入港した。船員達の遺体や海賊の死体搬出、降伏した海賊の官憲への引き渡しが船員達によって行われ、俺は船長と共に事情聴取のためナヴォーリ市の衛兵隊港湾出張所へ連れて行かれるハメになった。


海賊の襲撃なんて事件があって犠牲者も出ているので仕方の無い事だ。俺も協力するに吝かではない。


衛兵隊港湾出張所での事情聴取は、事実を述べただけで特に問題無かった。よくラノベであるような腐った役人や貴族による威圧的高圧的な取調べや、「お前が海賊を手引きしたんだろう?吐け!」みたいな謎展開も無かった。


衛兵隊の衛士さん達もナヴォーリ市民だからだろうか、彼等の接遇も良く、俺は感謝されつつ友好的に聴取は行われた。俺の「能力」や魔法についても伏せるべき部分は冒険者の秘匿権で伏せられた。


〜・〜・〜


一通りの聴取が終わると、渋い壮年でガタイの良い衛兵隊の隊長はグランデプロフィット号の船長と今までとは違いナヴォーリ訛り全開で駄弁り始めた。どうやら二人は顔見知りであるらしい。


「海賊船2隻にカチ込まれたぁに、乗客に凄腕の金級冒険者がいたなんざぁお前、幸運にも程があっぞ?」


「全くだぁに。兄さんには足向けて眠れねぇだわ」


「「ダッハッハッハ」」


いや、そこ笑うところか?ナヴォーリっ子の笑いのセンスはいまいちわからないな。


「ホルストさんには市から海賊退治の褒賞金と感謝状、それからナヴォーリ船主協会からも感謝状が出るので受け取って下さい。この度は誠に有難う御座いました」


あ、共通語に戻った。ナヴォーリ市は国際貿易港だけに治安を担う要職にある者には教養が必要とされるのだろう。


「お役に立てて何よりでした。褒賞金と感謝状は有り難く頂きます」


「夜遅くなってしまい申し訳ありません。宜しければ宿を紹介しましょうか?」


確かに夕方には入港して諸々の作業があり、それから衛兵隊の出張所で事情聴取となったから夜もいい時間だ。初めて来た街で右も左もわからない中で、これから宿を探すのも億劫だ。なので衛兵隊長の好意に甘える事にしよう。


「それでは、ご飯の美味しい宿があったらお願いします」


俺のリクエストに衛兵隊長はニヤリと笑うと


「メシが美味いね。とっておきを紹介しますよ」


と、片目を瞑って親指を立てて見せた。大人の男の色気って言うのかな。不覚にも、ちょっと渋くてカッコいいと思ってしまったりして。


〜・〜・〜


衛兵隊出張所を出ると、衛兵隊長が紹介してくれた港近くの繁華街にある宿に向かう。宿の名は「魚藍亭」と言い、その目印は魚籠から魚が顔を出している絵の看板だそうだ。


夜もそろそろ更けようという時間にも関わらず、港から伸びる繁華街には煌々と明かりが灯っていて、多くの船乗りや港湾労働者達で賑わっていた。


魚藍亭は木造3階建て。1階が食堂兼酒場で2階3階が宿屋、白壁にオレンジ色の瓦が葺かれている地中海風というか、南欧風な宿だ。


いかにもブイヤベースとか、アクアパッツァとか、パエリアとかそんな料理が旨そうで、国内外の名酒が飲めそうな雰囲気が醸し出されている。


"メル、これは当たりだ。俺の勘がそう告げているよ"


"そうなの?当てになるの?その勘って"


全く失礼な猫ちゃんだな。俺はこれでも前世では部活の試合や合宿に同好会のイベント等で結構あちこち旅行しているんだ。


"まぁ、行ってみればわかるよ"


魚藍亭の酒場からは酔客の話し声や笑い声に混じって歌声まで聞こえてきている。


「はぁ〜るばる来たぜナヴォーリへ〜♪」


「「「ナヴォーリへ〜♪」」」


いや、これって俺が船長に教えた「函館の(ひと)」の替え歌じゃん⁉︎しかも、常連客感がハンパない。


どうもこのまま宿に入るのに躊躇してしまう。


"なぁ、メル。他の宿にしよっか?"


"なんでよ?当たりなんじゃないの?"


うぅ、メルが俺に厳しい…


"いいからさっさと行きなさいよ!男でしょ?"


前世で旅行した中で、苦手だったのが常連客メインの居酒屋やスナックだった。アクションヒーロー同好会でそのへん無頓着にどんどんそうした店の扉を開けて飛び込んで行く先輩(女子)はリアル勇者だったな。


俺はメルに背中を押されるようにして魚藍亭に足を踏み入れる。


「いらっしゃい!」


威勢の良い美人巨乳熟女女将に迎えられ、ちょっと良いかもと思い直す。


「あの、宿泊したいのですが。衛兵隊隊長のルビンスキーさんが魚藍亭さんを紹介してくれまして、」


「あぁ、あのでかぶつね。部屋は空きがあるから大丈夫よ。お兄さん一人?」


でかぶつって、衛兵隊長…


「一人ですが、俺、冒険者で使い魔の猫がいるんですが、大丈夫ですか?」


「それは構わないけど、猫ちゃんが部屋を汚したら掃除代貰うけど、それで良いかしら?」


「それでお願いします」


「は〜い、お一人様ご案内!」


俺が女将さんに案内されて酒場の中に入ると、盛り上がっている最中の酔客達の視線が俺に集まる。


「おーっ、ホルストの兄さんじゃねえか!」


船長がいた。確か俺より少し前に衛兵隊出張所を出たはずだけど、そのままこの酒場に直行したんだな。


「おおい、俺達の可愛い船を海賊から守ってくれた救世主、ホルスト兄さんが来たぞ!」


おぉー!


何と、酔客の筆頭が船長であるばかりか、酔客の多くがグランデプロフィット号の船員や水夫達だった。


次の瞬間には俺は船長に肩を組まれ、片手にジョッキの把手を握らされていた。


(この俺が後ろを取られた、だと?)


そして宴たけなわな飲み会の中に引き摺り込まれ、ジョッキになみなみとエールを注がれていた。これはもう逃げられないパターンだ。


「女将さん、悪いけどこの子と荷物を部屋に、頼む」


俺はかろうじてそれだけ言うと、メルの入ったベビースリングと手荷物を女将さんに託した。


「あいよ」


女将さんは笑いながらメルと手荷物を持って奥へ消え、俺は何やら期待感満々の視線を向ける酔客達に囲まれてしまっていた。これは乾杯したいから何か気の利いた音頭を取れという事か。


「ナヴォーリの勇敢な船乗りのため、乾杯!」


俺がそう言ってジョッキを高く掲げると、船乗りの酔客達もジョッキを高々と掲げる。


かんぱぁ〜い!!


〜・〜・〜


結局、その晩は皆が酔い潰れるまで宴会は続いた。ここナヴォーリでは死者を悼む際にこうしたどんちゃん騒ぎをするのだという。船長や船員・水夫達は海賊の襲撃で戦って犠牲となった仲間を悼み、この魚藍亭でそうした宴会を催したのだろう。


因みに、俺には「アクションヒーロー」の能力に自動回復能力(10番目の昭和ライダー)があるため、酒を飲んでも僅かにほろ酔い程度になるだけで、酔っ払う事は無い。


船乗りの酔客達が酔い潰れたので俺は直ちに現場を離脱。かなり時間が過ぎてしまったな。漸くの事で部屋に辿り着くと、美少女姿のメルがベッドの縁に腰掛けて待っていてくれた。


「お帰りなさい。お疲れ様、ホルスト」


お帰りなさいって、もうこれお嫁さんじゃん!と、思ったけど言わない。


「ただいま、メル。ごめんな一人にして」


「ううん、亡くなった船乗りさん達を悼んでいたんでしょう?」


流石は愛と癒しの女神ナルディア様の眷属といったところだろうか?


俺は持ってきた料理を魔法で温めてテーブルに並べ、亜空間収納からグラスを2つ出して白ワインを注いだ。


「これで追悼の続きをしよう。ナルディア様の眷属に悼まれれば彼等の魂もあの世行くに箔が着くだろう?」


「じゃあ、ナヴォーリの流儀でね」


そう言うとメルは跪くと両手を組み、俺は立ったまま手を合わせて黙祷し、船乗り達の魂の平安を祈った。


〜・〜・〜


この後、俺とメルはグラスを合わせた。初めて2人で飲んだワインは、さっきまで野郎共と飲んだ代物と同じであるにも関わらず、とても甘美に感じられた。






いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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