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第49話 感謝と非難の狭間で

海賊の襲撃を返り討ちにし、生き残った海賊はグランデプロフィット号に乗り込んで来た内の3人のみ。その中の1人は斬り込み隊の隊長的な現場指揮官だった。こいつを尋問すれば今回の襲撃について色々とわかる事だろう。


今回の襲撃におけるグランデプロフィット号側の犠牲者は3人、怪我人は15人。怪我人については愛と癒しの神ナルディア様の巫女アイリーンが回復魔法で治療してまわり、皆忽ち全治して持ち場に戻っていった。


俺が海賊の迎撃に加勢した事については、船長を始め共に戦った船員や水夫達からとても感謝され、ナボォーリに着くまでの間は下にも置かないVIP待遇となった。まぁ、感謝してくれるなら、それに越した事は無い。


因みに船長からは加勢の報酬について打診を受けたけど断った。本来ならば冒険者が偶発的でも加勢して功績があった場合、その責任者は冒険者に、そのレベルに応じた報酬を払わなければならない。


例えばサンコレトへ行く乗合馬車でオークの群れに襲われたけど、あれだってあの馬車の主は俺に報酬を支払わなければならなかった。それは冒険者としては当然の権利で、冒険者も自分達の権利を守るため報酬を要求しなければならないし、受け取らなければならない。もし、商人や領主が報酬の支払いを拒んだり、渋ったり、はたまた値切って来た場合は冒険者ギルドを通じて支払いを請求出来るし、裁判を起こす事も出来る。


ただし、そうした報酬も冒険者が辞退した場合はその限りでは無い。商人も領主も急に起こった事態であるし、手持ちの現金だってそうあるもんじゃない。そして、報酬を支払う事によって事業や領地経営が左前になってしまう事も無くは無い。


だからそうした場合、冒険者が親切心や義侠心でやった事だから「報酬はいらないよ」と言えば商人も領主も報酬は支払わなくても良い事になっている。ただし、それを冒険者に強要してはならないし、強制されれば冒険者ギルドを通じて以下同文。


まぁ、長々とした説明になったけど、俺は冒険者のレベルが下位金級だから、そのレベルでの報酬を請求したらそれなりの高額になってしまう。そうしたら乗合馬車の主にしろグランデプロフィット号の船長にしろ、悪くすれば破産しかねず、だから俺は何かと理由をつけて報酬は断っていた。


俺の場合は報酬を断るにそうした理由があるし、感謝してくれればそれでいい。正義の味方が人助けして金貰う訳にはいかないってのもある。


そして、感謝してくれる人がいる一方で、そうでない人もいたりする訳で。降伏した海賊?まぁ、あいつらもそうだろうけど、もっと意外な人物から俺は海賊撃退に加勢した事について非難されていた。それは誰あろう、愛と癒しの女神ナルディア様の巫女、アイリーンその人であった。


〜・〜・〜


海賊を殲滅して事後の処理をしていると、俺の話を聞いたのか乗船客が次々と俺の元に礼を述べに来た。海賊の襲撃が成功していれば、この人達は財産を奪われ、一緒に乗船していれば妻や娘が奪われ、自身も奴隷に売られ、或いは殺されていたのだからな。


すると、そうした乗船客を押し分けて、何やら怒り顔のアイリーンが俺の前に現れた。


「ホルスト、あなた、海賊船を2隻も沈めて海賊も皆殺しにしたんですってね?しかも泳いで逃げようとした者達まで殺したとか」


誰に聞いたのか、事実は事実。


「本当だ。それがどうした?」


何か棘のある問いに、俺も思わず尖った口調で応じてしまった。う〜ん、俺もまだまだ未熟だね。


「それがどうしたって、あなたねぇ!海賊だからって殺す必要あるの?確かに彼等は咎人でしょう。だけど、彼等も海賊になりたくてなった訳ではないでしょうに。どうして生きて悔い改める機会を奪ったの?」


本人を除くそこにいる全ての者達から「何言ってるんだ、コイツは?」という痛々しい視線がアイリーンに突き刺さっているけど、本人は全く気付いていないようだ。


「彼等だって自らの罪を認めて悔い改めたならば善人となれたんじゃなくて?」


まだ言ってやがる。


確かに様々な理由から食い詰め、生きるためにやむを得ず悪事に身を染める事もあるだろう。農民が盗賊や山賊に身を窶す、とかね。だけど、海賊は別だ。海賊は海賊になるために船を、武器を、人員を揃えて自ら進んで他者から掠奪し、人を攫い、殺す。そこが盗賊や山賊と海賊の決定的な違いだ。前者が捕らえられた場合、犯罪奴隷ではあっても一応生存が許されるのに対して、海賊は殆どがその場で殺されるのはそうした理由もあるのだ。


"なぁメル、こいつはお前の主神の巫女な訳だけど?"


"愛され、癒される事によって荒ぶる魂や悪に染まった魂が善なる魂となる、っていうのもナルディア様の教えの一つではあるんだけどね。でも進んで悪事を働く者は救われないわ。あの子、神殿で何を教わってきたのかしら?"


ナルディア様の眷属に教義を心配される巫女って大丈夫なのか?しかし、俺はこんな安っぽい博愛主義なんてクソ喰らえだ。だから「はいはい、オイラ人殺しでぃ〜しゅ」って言ってやろうかと思ったら、


「アイリーン様、それは違うんじゃないですか?ホルストが戦ってくれなかったらここにいるみんな殺されるか、奴隷に売られるか、人質にされていたんですよ?」


いつの間に来ていたのか、メリッサがアイリーンに食ってかかった。


「それに海賊なんて好き好んで海賊になった奴等なんです。他に幾らでも生きる術はあるのに自分から海賊になっているんです。散々悪事を働いておいて改心したら赦す?絶対に赦しませんよ。彼奴らは人間の屑なんです。そしてホルストは私達の命の恩人です。そんなホルストをあなたは侮辱した!ホルストに謝って下さい。でないと私はアイリーン様、あなたを許さない」


メリッサは俺を庇い、最後の方は叫ぶようだった。


アイリーンはメリッサに何か言い返そうとしていたようだったけど、いつの間にか自分がただならぬ雰囲気の船員や乗客達に取り囲まれている事に気づいたようで、慌てたように辺りを見回していた。


「巫女の嬢ちゃん、その姉ちゃんの言う通りだ。嬢ちゃんには部下を治療して貰って感謝しているが、こればかりは俺達も譲れねえな。兄さんは俺達の命の恩人だ。嬢ちゃんは人質になっても教団が身代金を払えば解放されるが、他の者はそうはいかねぇんだよ。これ以上この兄さんを侮辱しようってんなら俺達も黙っちゃいねえ。正式にナヴォーリの船主協会を通じてナルディア教団ナヴォーリ神殿に抗議するからな?」


アイリーンは髭面強面船長に凄まれ、周りからの厳しい視線にたじろぎ、俺に謝る事無く逃げるように船室へと戻って行った。


俺はこれはこれで後々教団から絡まれたり、嫌がらせされたり面倒な事にならなければいいなぁ、などと考えていた。しかし、メリッサも船長も俺を庇ってくれた訳だし、周りの人達に感謝を伝えなくちゃな。


「皆さん、有難う御座います」


「なに、兄さんがしてくれた事に比べればななんて事は無いさ」


「そうよ、ホルストがいなかったら私だって今頃どうなっていたか。それなのにあの女、海賊が襲って来た時は震えていたくせに戦ってくれた船員さん達やホルストを人殺し呼ばわりして許せない!それにナルディア教団がホルストに何かしたらナヴォーリ市議会だって黙ってないんだから!」


そう言えばメリッサの父親はナヴォーリの市長だよな。


アイリーンへの憤りから嗚咽混じりに泣き出したメリッサに、俺はポケットから出したハンカチを握らせる。


「俺のために怒ってくれて有難う、メリッサ。これで涙を拭いてくれ。目が腫れたら折角の美人が台無しだ」


「ホルスト…」


メリッサはスンスンと鼻を啜りながら俺を見上げ、目が合った俺達はどちらからともなく微笑み合った。


〜・〜・〜


その後、グランデプロフィット号は河口から海に出た。航海予定は海賊の襲撃のため少し遅れたものの、その日の夕方には無事にナヴォーリの港に入港する事が出来たのだ。


沖から見たナヴォーリの街は夕陽に染まるババール山と街の灯りが相まって、それは美しい景色だったと言っておこう。


いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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