第46話 メリッサとアイリーン
「へぇ〜、あなた格好いいのに面白いのね。気に入ったわ。私、メリッサっていうの」
「君も美人なのに乗りがいいよね。俺はホルスト、冒険者さ」
いゃあ、すっかりこの自己紹介が板に付いたな。
メリッサと名乗った少女と俺は互いによろしくと言うと、何となくそのまま通路のベンチに腰掛けて世間話を始めた。
「へぇ、メリッサはナボォーリ市長の娘さんなんだ?お嬢様だね」
「そんなんじゃないわ。貴族でもあるまいし。自由なナボォーリに生まれ育ってるから貴族とかお姫様なんて息が詰まりそう」
メリッサはそう言うと心底嫌そうに態とらしく顔を顰めて首を振った。
「言えてる。俺も田舎貴族の末息子だったけど、平民の冒険者になって本当に良かったと思ってるしな」
俺もそう言い終えると、メリッサの真似をして嫌そうに首を振り、俺達は笑い合った。
と、メリッサは急にグイッと顔を近付ける。
「ホルストって貴族だったんだ。道理で綺麗な顔立ちしてると思った」
この娘、やたら人懐っこいな。これが自治都市気質って奴だろうか?
「褒めてくれるのは嬉しいけど、メリッサだって大概な美少女だけど?」
「そ、そ、そ、そんな事、あるのかな?」
「ある、ある。大いにあるよ」
メリッサは頬を赤らめて恥ずかしそうに下を抜いた向いてしまう。恥ずかしがる美少女って、イイね。
と、その時、女性の声がメリッサを呼んだ。
「お嬢様、こちらにおいででしたか。アイリーン様がお探しでしたよ?」
どうもメリッサの侍女が彼女を探していたようだった。
「アイリーン様って、今度王都からナボォーリのナルディア神殿に赴任する巫女様なんだけど、私が市を代表して迎えに行ったの。でも、彼女世間知らずで、話していてどうも調子が狂うのよね」
メリッサはそう俺に小声で耳打ちすると、ベロッと舌を出した。可愛い…
「じゃあね、ホルスト。楽しかったわ。白猫ちゃんに抱っこしていいか頼んでおいてね」
「俺も楽しかったよ、メリッサ。頼むだけ頼んでみるよ」
メリッサは「またね」と言うと、侍女に伴われてアイリーンとやらの待つ船室へと戻って行った。
俺はメリッサを見送りつつ、明るくていい娘だったな、などと思っていると、どうも懐の辺りから決して神族が放っちゃいけない類のマイナスオーラが感じられ。
"随分と楽しそうにおしゃべりしてたわね、ホルスト"
俺がメリッサとお喋りしていた事て機嫌を損ねたメルから皮肉混じりの念話が伝わって来た。
「まぁ、実際に楽しかったしな。でもメルを抱っこさせてっていう要求はちゃんと断ったろ?」
"そうだけど、また頼んでみるよとか言ってたし。ホルストは女嫌いじゃなかったの?"
「いや、別に女嫌いじゃないよ。ただ散々裏切られたってだけで。っていうか、メルに焼き餅焼かれるなんて嬉しいな」
"はぁ?"
俺は両手をメルの両脇に差し込んで持ち上げた。
「ごめんな。俺にはメルがいるのに他の女の子と喋って。これで許してくれ」
俺はそのままメルを引き寄せてメルにキスしようと口をチュウの形に突き出した。メルは"え?""え?"と言いながらジタバタ身を捻って暴れると、前脚の爪で俺の顔を引っ掻いた。
突然、顔面を襲った激痛に俺は呻き、メルはその隙に逃げ出してしまった。
「痛え、何すんだよ」
おそらく俺の鼻梁には右から左へかけてメルの爪による引っ掻き傷があるはずだ。
"ふんっ、いい気味よ。どうせすぐに治るんでしょ!"
メルは俺に一瞥くれると、そのままどこかへ行ってしまった。
確かに10番目の昭和ライダーに自動回復能力があるから、俺はどんなダメージを受けても治ってしまうけど、痛いもんは痛いんだヨォ!
〜・〜・〜
この世界の船旅にも食事サービスはあった。船室によって差はあるようだけど。
俺は大部屋の客なので食事は肉が少し入ったスープとパンといったもの。それ以上は別料金を払うか、自分で持ち込んだ食料を勝手に食べてね、といった感じだ。
メルは俺の顔を引っ掻いたままどこかへ行ったきり。俺は仕方なく甲板のベンチに腰掛けると、パンとスープを一人で食べ始めた。
パンは意外な事に内陸地方でよく食べられている日持ちさせるため硬く焼き締めたパンではなく、ベッキオで焼き立てを仕入れたのか、柔らかくてスープに浸さずそのままたべても十分美味しい。そして、少し酸味のある肉(少)と芋と野菜、ルオーテのようなパスタが多めに入ったミネストローネ風のスープは実に味が良く、思わず「君、シェフを呼んでくれたまえ」と言いたくなる程だった。このジギスムント王国南部紀行、食べ物に関しては期待出来そうだ。
食事を終え、メルもいないので俺は亜空間収納からスケッチブックを取り出し、このグランデプロフィット号や岸辺の風景のスケッチを始めた。
下位金級冒険者となった俺は、懐も温かくなったのでラースブルグの画材屋でスケッチブックと鉛筆を大量に買い込んだのだ。画材はこの世界ではなかなか高価な物で、金が無いと買えないからね。
実は前世の俺は少々絵心があり、ヒーローや怪人、怪獣のイラストをよく描いたものだった。いや、ほら、夏コミとかではコスプレだけじゃなく、パンフレットとか小冊子とか作って売ったりもするでしょ?
そんな訳で写真の無い世界だから時間のある時にこうしてこの世界の、俺が生きている時代の風景や建物、人物像なんかを描いて後世に残しておこうと思ったのだ。出来れば色々と収集もしたいな。
「へぇ〜、上手いのね」
メリッサが後ろからスケッチする俺の手元を覗き込んでいた。まぁ、近付いて来ている事は気付いていたけどな。
俺は手早く描きかけのスケッチを仕上げると、スケッチブックを閉じてメリッサに振り向く。そこにはメリッサと侍女の女性、そして巫女服を着た金髪に緑色の瞳の美少女が立っていた。
「メリッサ、さっき振り。そちらさんは?」
「こちらは王都のナルディア教団からナボォーリの神殿に派遣された巫女のアイリーン様よ。さっきホルストの事を話をしたら会ってみたいって言うから連れて来ちゃった」
アイリーンという巫女の少女は勇者パーティの聖女ミシェルが着ていた物とは所々意匠が異なる巫女服を纏っていた。そして、その緑色の瞳で俺を見下ろしている。
「あなたがホルスト?ふ〜ん…」
アイリーンは値踏みするように俺を見る。その無遠慮な視線にちょっと引いてしまった俺は、思わず助けを求めるようにメリッサに視線を向けた。
「ア、アイリーン様?そのようにされてはホルストも困ってしまいます。引き合わせた私の立場もお考え下さい」
意外にもメリッサはアイリーンを嗜め、且つ自分の信用まで失い兼ねない彼女の行為に抗議までした。
「あら、ごめんなさい?ホルスト、あなた、なかなか男前なのね。冒険者なんでしょ?私の護衛にならない?」
「「はあ?」」
図らずも俺とメリッサから同時に声が出てしまった。
「折角だけど、ナボォーリへは王都へ行く途中の、半ば物見遊山の旅なんだ。だから依頼を受ける気はないんだ」
アイリーンは気分を害したようで、ムッとした表情となった。
「物見遊山なんていいご身分ね?駆け出しの冒険者がそれでいいのかしら?」
この巫女さんは俺を駆け出しの冒険者と見ている訳か。まぁ、俺も見た目は15歳だからな。そう思われても仕方なくはある。
「駆け出しって訳でもないんだけど。それに俺を指名すると依頼料高いよ?」
「高いって、銅級くらいでしょ?私の権限で依頼料くらい出せるわ」
銅級か。駆け出しと見られている以上、それくらいに思われるか。
「いや、俺は銅級じゃなくて金級なんだけど」
「「金級⁉︎」」
今度はメリッサとアイリーンの声が重なった。俺が証拠とばかりに首から下げている金色のタグを見せると、メリッサは目を見張って「本物だ」と呟いた。
「船長!」
と、その時、船首で見張りをしていた水夫が振り返って大声を上げた。
「船長、下流から国籍不明船が2隻、当船に接近して来ます!海賊船と思われます!」
水夫が上げた声からは厄介事の臭いががぷんぷんと漂って来ていた。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




