第5話 あぁ女神さま
ラース辺境伯領の城館から実家の騎士爵家に戻った翌日から元服の儀での決闘騒ぎの謹慎生活が始まった。
といっても、何処かに閉じ込められる訳でもなく、精々が自家領から出てはダメってくらいだ。
もっとも、山地の盆地にあり、これより東は魔族やエルフ、ドワーフの住う地になるのがヴィンター騎士爵領。言ってみればそれ自体が俺を閉じ込める檻のような物とも言えるけど。
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俺は心身を鍛え直すと両親に告げ、毎日朝から夕方まで山に籠るようになった。昼ご飯は修行の一環として現地調達。鳥や獣を狩り、魚を獲って捌いて塩振って食うのだ。食用の野草、山菜、キノコもデミレル爺さんに見分け方を仕込まれているので問題無い。
山に入って人気の無い辺りまで来ると、俺は早速「アクションヒーロー」の能力を試す。まずは誰にも見られないよう更なる山奥へ行くためある日は空を飛び、またある日は山道を加速して進む。
名もない山の岩だらけの尾根に着くと、ある日は魔術師のヒーローの能力を試し、その後は6番目昭和ライダーの能力を試すため腕と爪を強化して大岩を切断、といった具合だ。
また、金色に変化させたファイブハンドから火炎や冷凍ガスを放射。高電圧の電流を操り、果てはドラゴンを召喚出来たりもした。
そして、絶対に試さなければならなかったのがキックだ。色々なヒーローの様々な必殺キックがあり、流石にそれらを全て試す訳にはいかなかったので俺にとって印象深いキックを幾つか試すに留めた。
そうして「アクションヒーロー」の能力を試していった結果、この能力について大まかにだが把握する事が出来た。それはやはり自分が知る変身ヒーローの能力をほぼ再現して使えるという事だ。
ヒーロー好きの俺だって全てのヒーローの技を知っている訳ではないから、逆に言えば知らないヒーローや知らない技は再現しようがないとも言える。
また、ヒーローと言っても等身大のそれに限定される。だから巨大化する光の国から来た系のヒーローはダメ。
更には戦隊ヒーローの能力も使えない。まぁ、俺は一人だから3〜5人で行動する戦隊モノは当然ダメだよな。人数が揃えばわからないけど。
そして、技の名前はオリジナルの物が使える物と使えない物があるという事。あからさまにそのヒーローの技である事がわかる物は技の名称をアレンジしなければならず、そうではなく生活の中でも使う、例えば「大切断」とか「フレイム」とか「ダブルキック」なんていうのはそのまま使えるのだ。
これは何だろう?異世界にも大人の事情が適用されるのだろうか?
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そうして「アクションヒーロー」の能力を試す謹慎の日々のある夜の事。程良い疲労を覚える身体をベッドに投げ出すと、俺は忽ち眠りに落ち、気がつけば周囲のどこもかしこも真っ白な空間に一人佇んでいたのだ。
前世での俺の趣味の一つは読書。アクションヒーローはって?それは趣味じゃなくてライフワークだから趣味じゃない。
読書も特にジャンルがある訳じゃなく、書店をぶらぶら見て面白そうな本をインスピレーションで選んで買ったりと、要は乱読って感じだ。なのでラノベなんかも随分と読んだものだった。
そうすると、俺は異世界に転生して神様から「アクションヒーロー」の能力を授かった。そして真っ白な空間にいるって事は、次のイベント的に、そういう事だよな。
すると、夢の中であるにもかかわらず、辺りの空気がピンと張り詰め、何処からともなくドン!ドン!と太鼓を打ち鳴らし横笛を鳴らす音楽が聞こえてきた。
俺は思わず片膝を突いて頭を下げる。明らかにそうせざるを得ない存在がこれから顕現するだろうから。
そして、遂に高く尊き気配が辺り中を支配し、俺は自らの前に神気を感じた。
「神崎拓人さん、いえ、今はホルスト・ヴィンターさんでしたか?構いません、顔を上げて下さい」
鈴が鳴るような声とはこの事か。よく通る美しい声がかかり、俺は心持ち顔を上げる。だけど、正面切って直に見る事は依然憚られる。
「それでは顔が見られません。久しぶりです。その顔をよく見せて下さい」
その声から女神様と思われる神様にそうまで言われてしまえば、俺も更に顔を上げなければならない。然して俺の前には、艶のある長い黒髪に雪のように白い肌の美しい女神が佇んでいた。
女神様は色彩鮮やかな前合わせの和装に、髪には金銀に紅玉をあしらったサークレットを、首からは青い宝石の首飾り。そして手には薄い緑色の団扇を持っている。
その姿には見覚えが…
「弁天様でしょうか?」
「はい、流石私の拓人さんですね。毎日お参りに来ていただけはあります」
弁天様は嬉しそうに俺に声をかけられた。
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前世において、俺は筋トレとランニングを日課としていた。ランニングは起床後少ししてから家を出て、30分程のコースを走り、自宅から程良く離れた公園で折り返していた。その公園には湧水による大きく綺麗な池があり、池の小島には弁天様を祀る祠があった。俺はその祠にお参りをするのが日課ともなっていたのだった。
そこでは手を合わせて、弁天様にちょっとしたお願いをしたり、日々の感謝を伝えたり、少し愚痴をこぼしたり、こんな事が有りましたと報告したり。ただそれだけの事だったけど、その祠にお参りすると不思議と心軽やかでいられた。そういえば、たまに夢にも出て来たような気も…
「どうもお久しぶりでございます。何の因果かこうして異世界で生まれ変わっております」
「どうですか、第2の人生は?それと「アクションヒーロー」は?」
そう言われて驚く俺を、弁天様はいたずら成功!とでもいった感じで見下ろしていた。
「これは弁天様のお陰ですか?」
「ええ。いつも私への祈りを欠かさなかったあなたを私は見守っていましたよ。それにあなたの弱者を守る正義の心、社会への献身、不撓不屈な精神を私だけではなく、多くの神々が嘉給っていました。ですからあなたの落命を阻止する事は出来ませんでしたけど、あなたを見守っていた神々で力を合わせ、あなたがより活躍出来そうな世界に転生させたのです」
そういう事だったのか。まぁ、死んでしまったものはしょうがない。家族には、両親には親孝行したかったし、弟と妹には悲しい思いをさせてしまったな。でもふたりとも大学生に高校生だから俺がいなくても大丈夫か。それに恋人も、別れちゃっていなかったしな。
「それは有難う御座いました。それで、授かった「能力」ですが、」
「はい、それは神々からのあなたへのご褒美と餞別です」
ご褒美と餞別?
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




