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第45話 シレジア川下り

未だ中天にかからない午前の日差しは川面に反射してキラキラと光る。夏の終わりは日差しがまだ強くあるものの、川風は涼しく、日影があれば快適に過ごせそうだ。


川幅の広い河口近くの下流域。川の流れは緩やかだけど、帆は風を孕み船は時に白波を立てつつ、音も無く川面を蹴って海へと進んで行く。


俺とメルを乗せた中型貨客船グランデプロフィット号はサンコレトの近く、シレジア川の川港を出港。シレジア川を下ってナボォーリへと向かっていた。


〜・〜・〜


「遥々来たぜナバォーリへ〜、逆巻く波を乗り越えてぇ〜♪」


「ご機嫌だな、冒険者の兄さん。ナバォーリにそんな唄あったか?」


俺が前世で聴いた演歌の大御所の唄を替え歌にして口ずさむと、いつから聴いていたものか、船長のおっちゃんが話しかけてきた。


「船長さんか。俺の故郷の唄だよ。ちょっと地名だけナバォーリに変えてみたんだ」


「乗りのいい唄じゃないか。どうだ、一丁俺にも俺にも教えてくれよ?」


「お安い御用だ」


こうして俺は船の上に人生を浮かべてきただろう50がらみのごっつい髭面船長と、「函館の(ひと)」の替え歌「ナボォーリの(ひと)」(仮)を歌う事となった。


え?ここは「フリクリ フリクラ」じゃないかって?


確かにナボォーリはナポリに似ているけど、その曲って俺にとっては鬼のパンツなんだよね。


〜・〜・〜


コレト村から乗合馬車で新しい宿場町サンコレトへ至った。


俺はその足で冒険者ギルドサンコレト支部へ赴くと、コレト村で討伐した20体分のオークの討伐証明部位と村長からの証明書を提出して報奨金(60万ギールンほど)を受け取った。


サンコレトの街は2つの街道が交わり、シレジア川の水運もある交通の要衝だ。ジギスムント王家の直轄領で、王都の領地を持たない何とか言う子爵が代官として治めているという。


交通の便が良く、それ故に流通と金融も発達したサンコレトの街は、今も外側へと規模が拡大して建築ラッシュの只中にある。その分街は荒々しく、商人は元より大工を始めとする建築に関係する様々な職人や冒険者に傭兵が街を行き交い、ゴロツキやヤクザ者も多くてお世辞にも治安が良いとは言えなかった。俺は物珍しさもあって情報収集がてら3日ほど滞在、あちこち見て回った。


サンコレト滞在2日目の事。昼飯を食べようと入った食堂で俺は耳寄りな情報を得た。それはナボォーリへはシレジア川の川港から直行の船便があるという事だった。俺は塩が利いた腸詰のサンドウィッチと酸味のある野菜スープ(結構美味かった)の昼飯を食べ終えると、早速川港へ行き、明後日の席を購入した。


そして、サンコレト滞在4日目の朝、俺とメルはライン下りならぬシレジア下りと洒落込むべく、船上の人と猫になったのであった。


〜・〜・〜


シレジア川の川港はベッキオといった。シレジア川は中流域であっても川幅が広く、水量が豊かで水深も深く中型船の航行にも支障は無いそうだ。難所は少ないそうだけど、流れは季節や天候によって変わり、それによって浅瀬も移動するので、そこは船長や航海長の知識と経験、操船技術が物を言うらしい。


俺とメルが乗る船はグランデプロフィット号といい、1本マストの両舷に多数の漕ぎ手が配置された、前世でのガレー船の様な船だ。


船長はガルタスさんという50がらみで白髭混じりのごつい髭面大男。船主でもあるそうで、船名は「大儲け」という意味だと教えてくれた。


「尤も、大儲けなんてした事ねえけどな!」


と言ってガハハハと笑ったガルタス船長に俺は好感を抱いた。


〜・〜・〜


ベッキオ港の桟橋を離れたグランデプロフィット号は川の流れに乗ってゆっくりと下って行く。シレジア川を航行する船は多く、様々な小型船や中型船が上り、下っている。


グランデプロフィット号の乗客達は桟橋で見送る人々に手を振っていた。乗客の子供達は興奮してかぴょんぴょんと跳ねては手を振り、危ないと親に嗜められて泣き出す子もいた。


乗客は30人程いるだろうか?商人風の者が多いけど、家族連れ、護衛の冒険者や侍女を伴った貴族や巫女などの聖職者もいた。


こうした船旅は本当に久しぶりだ。今世では初めてでもある。前世では家族で旅行した伊豆の堂ヶ島や箱根の芦ノ湖で遊覧船に乗ったものだった。また、子供の頃は海賊の漫画が流行っていたから芦ノ湖の海賊船は特に興奮もの。そんな俺を見て弟が、


「拓兄、ヒーローが海賊好きってどうなの?」


などと揶揄ってきたけど、俺はちゃんと懇切丁寧に戦隊ヒーローには海賊のヒーローもいるんだぞと時間をかけて教えてあげた。


メルは船が物珍しいのか、スリングから出て1人で船内の探検に出かけ、その可愛い美しい容姿のため早くも船内アイドルの座を獲得していた。


船長の歌謡レッスンを終え、俺は1人で船端からの景色を眺めていた。するとメルが勢いつけて走って来ると、ぴょんとジャンプしてそのまま俺の懐の中に潜り込んだ。


「メル、どうかしたのか?」


"何か、貴族の娘みたいのが私を捕まえようと追いかけて来たの。ホルスト、どうにかしてよ"


「なるほど。メルは綺麗で可愛いから無理も無いな。綺麗で可愛いから」


"もう、そういうのはいいから!"


すると、15歳くらいの少女がメルを追いかけて来たのか、息を切らして駆けて来た。


「ねぇ、今懐に飛び込んだ白い猫ちゃんはあなたの猫?」


その少女は肩の高さまで伸ばした栗色の髪を後ろで束ね、色白で背は高く、気の強そうな大きな瞳が特徴的な綺麗な顔立ちをしている。服装は船旅だからか、長袖の青いチュニックドレスに茶色いブーツ、腰に巻いたベルトには短剣を差していた。故郷の辺境とは違い、南の奔放な雰囲気を感じさせるちょっと気の強そうな美少女だ。


「そうだけど?」


いくら美少女でも、多分メルを追いかけ回した相手だ。俺は抗議の意味も込めて少し冷たい感じで言葉短に応じた。これで勘のいい人なら俺の気分を察するだろう。


「すっごく可愛いから抱かせてくれないかしら?」


全然察してくれてなかったよ、この子!しかも既に抱かせて貰える感丸出しの、期待を込めた目でこっち見てるし!


"嫌よ。この子、私の事散々追いかけ回して首根っこ掴もうとしたのよ!"


メルからは断固拒否の意思が伝わって来た。


「悪いけど諦めてくれる?この子が嫌だってさ。追いかけ回したんだって?」


「えっ⁉︎」


俺の言葉にたじろぐ少女。


「何でわかるの?あなた、猫と話せるの?」


「まあね。この子はヨ、パートナーだからね」


嫁と言おうとしたらメルに服越しに爪を立てられてしまった。


「へぇ、凄いね。それって「能力」?冒険者さん、もう追いかけたりしないからちょっとだけでも撫でていいか頼んでくれないかな?」


少女は懲りずにそう言うと、上目遣いに俺を見つめる。あざとい。実にあざとい手口だ。全く女って奴はどうしてこうもあざといんだ!そして、今まで散々な目に遭わされているにも関わらず、そのあざとさに動揺する俺も俺だ。


「だってさ。どうするメル?」


"だから嫌だって!ビシッと断って。私は誰にでも撫でさせる軽々しい女じゃないんだから。ホルストだって自分のヨ、パートナーが他人に撫でられたりしたら嫌でしょ?"


メル、今ヨメって言いかけたよね?よしよし、作戦は順調のようだな。


俺は尚も上目遣いで見ている少女に冷徹に告げる。


「ごめん、やっぱダメだって。そのかわりと言ってはナンだけど、俺が君の頭を撫でるってのはどう?」


「はあ?何で私があなたに頭を撫でられなきゃいけないのよ?」


その少女は先程までの上目遣いから一転して、まるで馬鹿を見るような目で俺を見ると、呆れたような口調でそう言った。


「まぁ、そう思うよね。知ってた」


「なんなの?変な人…」


「うん。それも知ってた」


そう言ったところで何となく目が合う俺とその少女。そして次の瞬間にはどちらともなく吹き出して笑ってしまっていた。


冷たく突き離すつもりだったのだけどな。でも、こういう船旅での美少女との一期一会って、イイね!










いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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