第44話 コレト村
ドワーフの鍛治職人が馬車の修理を終え、俺達を乗せた乗合馬車は夕方には目的地であるコレト村に到着した。
村への到着が夕方になったのは、馬車の修理が飽くまで応急処置であったため、馭者が速度を落として騙し騙し走行させたからだった。これは事情が事情だけに仕方が無い事だろう。
護衛である狼獣人の冒険者姉妹とは、彼女達からのパーティ勧誘を断って一時は険悪な雰囲気になっていた。しかし、俺がオークの群れから彼女達を救った事は彼女達も十分理解していて、感謝はしているようではあった。現に姉のウルマからは強引なパーティ勧誘について一応の謝罪があった。
なので馬車の旅はまだ続く事だし、そして何よりも前世からの獣人好き俺としては、折角知り合えた美人狼獣人姉妹とは仲良くなりたい。であるならば、多少の小細工を弄しても良いだろうと、俺は亜空間収納からラースブルグで仕入れた菓子類をここに惜しげもなく投入(勿論他の乗客達にもね)、美人狼獣人姉妹宣撫作戦を成功に導いたのであった。
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南の海港都市ナボォーリへの中継地となるコレト村。現在の住民は200人程で、今は農業と畜産業が主産業となっている。今でこそこじんまりとした農村だけど、かつては街道の宿場町としてそれなりに栄えていたとか。
王家直轄領の開拓が進み、コレト村から少し南に下った辺りに既存の街道と交差するように新しい街道が開通した。すると利便性から新たな宿場町が造られてコレト村はその地位を失ったそうだ。正に栄枯盛衰、諸行無常だね。
因みに新たに造られた宿場町はサンコレト(新しいコレトの意味)という。
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コレト村に到着したのは夕方も遅い時間となった。果たしてこんな遅い時間に宿は取れるのか、そもそも宿自体が有るのかと心配になったけど、そこは元宿場町。それなりに宿はあったのでそこは杞憂であった。
村内は遅い時間にもかかわらず、大量のオーク肉入手によりその解体と分配作業で篝火がが煌々と炊かれ、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
"村の人達に喜んで貰えて良かったわね"
"そうだな"
俺はメルが念話でそんな会話を交わしつつ、きっと昔の日本の漁村でも鯨が獲れた時なんかこんな風だったのかなと前世の歴史に想いを馳せた。
すると不意に声をかけられる。
「食糧難だったところにこんなに大量のオーク肉が手に入り、皆本当に喜んでいる。全てホルストさんのお陰だ」
誰かと思えば自警団のリーダー格のフランツさんだった。
「喜んで貰えたなら何よりだ」
フランツさんによれば、彼は村長の息子だそうで、村長が俺にせめてもの御礼をしたいとの事。俺はそういう事であるならと村長宅にお招きに預かる事となった。
村長のボルグさんは見た目篤実そうな農家のおじさん。俺は感謝と「礼としては僅かばかりで心苦しいですが」と謙遜の言葉の後に夕飯を饗され、その夜は村長宅に泊めてもらえる事となった。
〜
食事の後で地元産だというハーブ茶を喫していると、村長家族は俺の冒険者としての体験談を聞きたがった。なので差し支え無い範囲で俺の冒険話を話す。
そして村長家族はヘルベルト騎士爵領でのゴブリンキング退治の件で皆興奮度が最高潮。
「いやあ、ゴブリンキング4体にコボルトキング1体を1人で討ち取るとは流石だなあ。若いのに大したものだ」
話し終えた後も興奮冷めやらぬといった感じの村長の家族。村長の孫達(男子)は母親に叱られながらも冒険者ごっこを始める始末だった。こうした田舎では外部からの話や情報が喜ばれる。俺も実家にいた頃は領都や王都に出かけて帰ってきた父や兄達に話をせがんだものだった。
「ところでホルストさんはまだお若いが結婚はせんのかい?」
と、ここで村長が意外な話題をぶち込んできた。ふむ、この俺が結婚とな。
「いゃあ、私は実はもう嫁がいるようなもので」
「ほう」
「実はこいつなんです」
俺はそう言いながらベビースリングを捲ってメルを皆に見せた。
「メルっていいます。可愛いでしょ?」
メルは急に話題に上げられてキョトンとした表情で俺を見上げている。
「猫が嫁か?こりゃあいい」
村長達は俺が冗談を言ったと思ったのか、大爆笑となった。いや、冗談じゃないんだけどなぁ。
「でも、こんな可愛い猫ちゃんならそれもアリかしらね?」
村長の家族はしばらく笑っていたけど、フランツの奥さんがそう言って話を締めくくり、宴たけなわですがと、これにて解散となったのだった。
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「ねえホルスト、あんな風に私の事自分の嫁とか言うのやめてよね!」
その後、フランツの奥さんに案内された客間で、就寝する前に美少女姿になったメルから苦言を呈された。
「ダメかな?」
「ダメに決まってるでしょ!」
これは俺が考えたメルを嫁にする作戦で、題して「嘘も100回吐けば本当になる」作戦。それはこうして事ある毎にメルは俺の嫁嫁と言い続け本人を徐々にその気にさせようという物で、そうしていい感じになったところでメルにプロポーズする作戦なのだ。
これは俺が猫を嫁と言う変人と思われてしまうデメリットが伴うものの、試してみる価値はある。まぁ、メルが本気で嫌がるならやめるけど。
「でも、メルは俺の監視役でずっと俺と一緒にいる訳だろ?」
「…そうだけど?」
「それってもう奥さんなんじゃないかな?」
いや、理論が飛躍している事は認める。だがしかし、ここで大事なのは勢いだ!
「はあ?違うわよ!」
「じゃあメルは俺の事、嫌いか?」
ちょっと寂しそうに尋ねる。論点ずらしだって余裕でしちゃう。
「き、嫌いじゃないけど…」
「けど?」
まあ、今夜はこの辺が潮時かな。引き際を心得ておかないと嫌われてしまうからね。
「もう!ホルストの事は嫌いじゃないけど、私はホルストの嫁でも奥さんでもないの!」
メルはそう言うと例によって白猫の姿になって毛布の中に潜り込んでしまった。
〜・〜・〜
翌朝、村長宅で朝食を振る舞われた後、俺達は停車場へ向かうべく村長宅を辞した。
俺達の乗った馬車は昨日コレト村に着いた別の荷馬車とキャラバンを組み、この乗合馬車の最終目的地であるサンコレトへ向けて出発した。
車内ではお菓子のお陰で蟠りも消えた狼獣人の冒険者姉妹がよく話しかけてきて、特に妹のウルメは、
「ねぇホルスト、お菓子もう無いの?」
などとねだってくる始末。リドリーちゃんだって遠慮してそんな事言ってこないのに。流石に姉のウルマに怒られていたが。
この間、白猫姿のメルは何故か不機嫌そうなのに俺の膝の上に居続けた。どうしたのか念話で尋ねたら、
"昨夜は私の事を嫁だとか言っておきながら、今日は別の女の子達と随分楽しそうね?''
との事だった。
(効いてる効いてる)
俺は作戦が上手くいっている事に満足しながらも、メルの意外な嫉妬深さに内心驚いた。
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それでは次話もお楽しみに!




