第42話 オーク二十番勝負!
馬車の外では2人の冒険者と馭者の男が焚火を囲んでいた。俺が馬車から降りて近付くと馭者の男が訝しげに声をかけてきた。
「どうしましたお客さん?」
魔物の正体はオークだ。馬車は既に囲まれつつあり、逃げ出す手段は無い。時間の余裕が無いので単刀直入にその事実だけを伝える。
「馬車にオークの群れが接近している。数は20体ほどだ」
「「「え?」」」
驚く馭者と対照的に2人の冒険者は懐疑的だ。
「何でそんな事がわかるのよ?」
「この辺にそんな魔物の群れがいるなんて情報はギルドにも出ていませんよ?」
この2人の冒険者は狼獣人の若い女性で、年齢は俺より上の見た感じでは18歳くらいだろう。2人とも灰色の髪を短く切り揃えたボーイッシュな感じの美人だ。
獣人はヒトよりも身体能力が高い。特に狼獣人は嗅覚鋭く聴覚もすぐれて、冒険者としてはうってつけの種族と言っていい。そんな彼女達の嗅覚がオークの接近を嗅ぎつけていないという事は、
「風下から接近しているという事だろう」
「「!!」」
論より証拠。彼女達もより接近してきたオークの臭いに気付いたようだった。
「た、確かにオークの臭いがするわね」
「ど、ど、ど、どう対処するつもりですか?」
どうするもこうするも馬車が動かない以上は迎え撃つしか無い訳だけど。
「臭いでオークの接近に気付いたって事は風下から風上にも回られたっていう事だから俺達は既に包囲されたな」
「お、お、お、お姉ちゃん。どうしよう?」
お姉ちゃんと言っている事からこの2人は姉妹なのか、まあこの際それはどうでもいい事だけど。
「どうするって、私達2人でオークの群れ相手に戦うなんて無理だよ」
20体ものオークの群れにこの2人の冒険者(多分上位銅級か下位銀級?)では瞬殺されるか、生け捕られて散々凌辱されてオークの子供を孕ませられるか。
冒険者の女性ならそうした事は当然知っている事だ。現に2人ともガチガチ歯を鳴らして震えている。
「しっかりしろ2人とも。オークは俺が潰すから2人は馬車の乗客と馭者さんを守ってくれ」
「無理よ。あなたが何者か知らないけど1人で何が出来るって言うの?」
お姉さんの方が俺に噛み付いた。狼だけに。
お姉さんがそう言うのも無理はない。普通に考えれば2人が3人になったところで死人が増えるだけだ。だけど俺には「アクションヒーロー」がある。それを説明する時間は無いけど。
「信じられないのも無理はない。だけど死にたくなかったら今は言う通りにしろ。馭者さん?」
「はっ、はい」
「あなたも多少は得物の心得はあるだろう?斧を持って乗客達を守ってくれ」
「わっ、わかりました」
続いて冒険者の2人にも同様に改めて乗客死守の任務を付与する。
人間は恐怖の中にあってもパニック状態になっても役割を与えられるとその役割を果たそうとするものだ。冒険者の2人も馭者さんに続き馬車へと急ぐ。
これで良し。暗闇には更に距離を詰めたオークどもの目が欲望と暴力への衝動に爛々と輝いている。
とはいえ、多勢に無勢であるのは変え難い事実。ちまちまやっていたら馬車が襲われてしまう。ここは一気にさっさと片付けるべし。
フーッ、フーッというオークどもの荒い鼻息が強化した聴覚により聞こえてくる。奴らはこちらに何の警戒もしていない。楽勝な獲物と思っているのだろう。5番目の平成ライダーの暗視ズーミング能力で見れば、身長2メートル以上あるオークの何奴の誰もが手に持つ棍棒を構えてすらいなかった。
まずは地道に数減らしといこうか。俺は片膝を地面に突くと右拳を地面に当てる。
「エレクトロファイヤー」
これは7番目の昭和ライダーが多用していた技だ。
俺の右腕から生じた紫色の稲妻は地面で弾けて高圧電流の奔流となり、青白い光を発しながら正面から迫る数体のオークへと襲いかかった。
青い電流は一瞬でオークの足元から全身を貫き、オークの一群は悲鳴を上げる間も無く感電死して次々と倒れていった。
(まずは5体)
そのまま俺は馬車の反対側に回り込みながらエレクトロファイヤーを2発、そこにいたオーク共に叩き込んで倒す。
(次いで10体)
この事態に呆けていた残りの5体のオーク共も漸く自分達が狩る側から狩られる側になっている事に気付いたようだった。が、時既に遅し。俺は残っている5体のオークを殲滅すべくラジャータを召喚する。
「ラジャータ、ブレード!」
俺はラジャータをブレードに変化させて下段に構える。そして加速して一気にオーク共に距離を詰めると、斬撃で5体のオーク共の胴を払い抜き全てを上下真っ二つに斬り裂いた。
(これで20体全てだ)
辺りに別の魔物の気配は感じられず、俺は馬車を襲わんとしたオークの群れを全滅させた。
どうにも一方的な戦闘とも呼べない虐殺の様になってしまった。しかし、多数を相手どり 馬車を守りながら戦うというシチュエーションだ。効率的にああした戦い方になってしまったのも仕方の無い事と言えよう。これはスポーツでも試合でもなく、馬車の乗客達の命がかかっていたのだから。
いつの間に来たのか、気がつけば狼獣人姉妹の冒険者と馭者の男が呆然として俺を見ていた。
「あ、あなた、い、今のは一体」
「凄っ」
「…」
3人からは三者三様な反応が示される。
「喫緊の脅威は除いた。朝までもう数刻頑張ろう」
「「「は はい!」」」
俺が馬車の幌を開くと途端にメルが飛び出してきたので慌てて受け止める。
"お疲れ様ホルスト。乗客達はみんな無事よ"
"そうかありがとうメル"
そんな俺とメルを見て冒険者(妹)が声をかけてきた。
「あなたも冒険者、ですよね?」
「そうだけど?」
「凄腕でその猫!もしかして「猫連れ」さんですか?」
「猫連れ」とはメルを連れてソロで依頼をこなす俺をラースブルグの冒険者達が揶揄って付けた仇名だ。正直あまり好きではない。
「そう呼ばれることあるけ「「キャー!」」」
まだ言い終わってないにもかかわらず俺の言葉は途中で狼獣人姉妹の歓声で遮られ、当の姉妹は互いに手を取りあって喜んでいた。
「わ、私ウルマって言います。ランクは上位銅級です。「猫連れ」さんの事は前から知っていて、今回は助けていただいて有難う御座いました」
「私はウルマの妹でウルメっていいます。ゴブリンキングを5体も討ち倒したんですよね?凄いです。能力持ちって本当だったんですね」
2人から矢継ぎ早のマシンガントークな質問攻め。正直オークの群れを殲滅するよりある意味げんなりとしてしまった。逃げ損なった俺は彼女達の質問に答えつつも早く朝が来ないかなと願わずにはいられなかった。
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それでは次話もお楽しみに!




