第41話 王家直轄領は治安が悪い
チュン、チュン、
窓から差し込む朝の日差しとさえずる小鳥達の声で目が覚めた。って、こんな始まりは前にもあったような。いや、わかってるさ、前回同様に俺の傍に美女も美少女もいない、っている⁈
何だか掛け布団が人型に盛り上がり、綺麗な銀色の髪に少しあどけなさも残る最上級の美少女の寝顔が見えるのだけど?
って、メルか。
俺、もしかしてやっちゃった?いやいや、そんな形跡ないし、第一に酒なんか飲んでない。
よし、よく思い出してみるんだホルスト。俺は昨夜は確かちょっと前世で心ならずも聞いてしまった元カノの本音を思い出して気分が落ち込んだ。そして宿で夕食を摂った後、気分が落ち込んだままベッドに潜り込んだんだった。
うん、そうだ。それでその後は元の姿になったメルが俺を心配して髪を撫でて慰めてくれ、俺はそんなメルに甘えてメルの腰に抱き付いた。その後は、思い出せない。
だけどこの状況から想像するに、どうも俺とメルはそのままお互いに寝落ちしてしまったようだな。
この後、メルの綺麗で可愛い寝顔を見続けていたら、目が覚めたメルとばっちり目が合ってしまい散々に責められたのはまた別の話。
まぁ、朝一から大変だった訳だけど、メルの優しさには癒されてとても感謝しているんだ。だからこれだけは言っておこうと思う。
「メルありがとう。メルは俺の監視者なんだろうけど、それがメルで本当に良かった。メルを選んで俺の元に遣わしてくれたナルディア様には感謝だな」
俺は背中を向けるメルにそう告げると、両手を合わせて愛と癒しの神ナルディアに祈りを捧げた。
「まぁ、ホルストがそう思ってくれるのは嬉しいわ。でも、私は飽くまであなたの監視役だからね?」
「はいはい。わかってますよ」
メルこと愛と癒しの神ナルディアの眷属メルダリス。
彼女は本人が言うように、以前夢の中で弁天様が仰っていた俺に付けられたこの世界の神々からの監視役だ。だけど13歳の元服の儀以来、俺には他人はおろか家族すら敵になった様な状況の中、今の今まで俺に寄り添って味方でいてくれたのはメルだけだった。なにせ婚約した幼馴染の恋人ですら俺を裏切って殺そうとしたのだ。
何時も何だかんだ言いつつ俺を励まし慰め元気づけてくれたメル。だから監視役だろうが何だろうが俺にとってメルは俺にとって特別な存在だ。
こうしてラースブルグを発って2日目の朝、ちょっとした喧嘩はあったものの俺たちは直ぐに仲直り。そして宿の食堂で朝食を摂ると停車場で再び街道を南へ向かう乗合馬車に乗り込んだのだった。
〜・〜・〜
リスドーを発った乗合馬車は、遂に辺境伯領を出て王家の直轄領へと入った。
このジギスムント王国の領土の内約5割程が王家の直轄領若しくは王族の領地となる。日本で例えるなら江戸幕府における天領といったところだろうか?かつての天領は藩領と違い四公六民が守られていて、町民や農民に資本が蓄えられて街並みや建物も立派な作りとなり、治安も比較的良かったという。
しかしこちらの王家直轄領はそうでは無い様だった。ラースブルグからリスドーまでは乗合馬車が単独行だったのに対し、リスドーからは治安が悪化するとの事で乗合馬車3台でキャラバンを組み護衛の冒険者も各車に2名ずつ乗り込んできた。その分運賃が割増しとなり一日で進める距離も短くなるのだけど、安全には変えられない。リスドーから最終目的地サンコレトの街まで安全のため村を一つ経由し、何ら障害も無くても最短でも2日はかかるという。
しかし、今回のキャラバンは残念ながら順調とはならないようだった。夕方には最初の村に着くはずが、1台の馬車に故障が生じてしまったのだ。その1台というのが俺達が乗っている馬車だった訳だけど、なんと車軸と車輪を固定する金具が折れて車両が外れてしまっていた。
確かに王家直轄領の街道は路面整備が十分ではなく、辺境伯領と比べて凹凸が多い。それによって車体への負担が大きくなるのは仕方がないとしても、それを見越して対策を立てておくのがプロの仕事というものだろう。ポッキリ折れた金具を見れば経年劣化の整備不良以外の何者でもなかった。
そうした訳で、現在俺達は街道脇にて夜営中。テントなんて無いからみんなそのまま馬車の中。他の2台はどうしたかって?悪いな、という掛け声と共に先に行きましたとも。キャラバンで馬車を連ねたからといってもそれぞれ別の業者だ。安全と損得を考えれば日が落ちる前に先の村に着くというのが第一選択と言えよう。
"冷たい連中ね。動けない私達を置いて行くなんて"
メルがベビースリングの中から念話で先に行った馬車の文句を言う。夜を迎え、俺達は動けないまま馬車の中で馭者が配った薄っぺらい毛布に包まって膝を抱えていた。馬車の外では護衛の冒険者2名(18歳くらいの狼獣人の女性・結構美人)が警戒に当たっている。
"彼等も商人だからな。命あっての物種なのさ。この馬車に義理立てて盗賊に襲われて死んだって一銭の得にもならないからな"
そんな会話を念話で交わしていると、隣から声が漏れ聞こえてきた、
「お母さん、お腹空いた」
「食べ物はもう無いの。我慢して」
「…うん。わかった」
こちらはジュリアンさん(お母さん・推定26歳)とリドリーちゃん(娘ちゃん・7歳)の親子。ジュリアンさんはサンコレトの商人の奥さんで、リスドーの神殿にリドリーちゃんを連れて奉仕活動に行った帰りだそう。
信心深い、という事もあるだろう。だけど、こうした奉仕活動は奉仕4割の観光6割といった感じで、奉仕の名を借りた観光の側面がある。言ってみればお伊勢参りや大山詣でみたいなものだ。
ジュリアンさんは信心深い感じの美人お母さんで、質素な服を着ていても滲み出る色香は抑え難く、思わず口笛の一つも吹きたくなるほどだ。リドリーちゃんもお母さんに似た可愛い子で人懐っこく、せがまれてメルを抱っこさせてから俺とは仲良くなった。
"ホルスト?"
"わかってるって"
俺は亜空間収納から干し杏とビスケットを幾つか出す。
「リドリーちゃん、手を出して」
「?」
リドリーちゃんは怪訝そうな表情はしたものの素直に両手を出し、俺はその手の上に干し杏とビスケットを乗せた。
「えっ、いいのホルストお兄ちゃん?」
リドリーちゃんは掌に置かれた干し杏とビスケットを見て目を見張った。
「ああ、それで朝まで頑張ろうな?」
リドリーちゃんは「うん!」と大きく頷き、ありがとうホルストお兄ちゃんと礼を述べると、「食べていい?」といった感じで母親のジュリアンさんを見上げた。
ジュリアンさんはそんなリドリーちゃんに頷くと、リドリーちゃんは早速干し杏に口を付けた。
「ありがとうございます、ホルストさん」
「いえ、こんな状況ですからね。お気になさらず」
まぁ、こんな状況で泣かれても困る、という事情もある。というのも、俺は先程から多数の魔物がこちらに近づく気配を感じでいたからだ。
"メル、ここにいてくれ"
"わかったわ"
俺は立ち上がると、馬車の乗客全員に聞こえるよう「何があっても馬車からは出ないで下さい」と声をかけて馬車を降りた。
一応、先行した馬車が村に俺達の救援要請をしているはずだけど、とても間に合わないだろう。仮に間に合ったとしても10人かそこいらの村人なら逆に死者を増やすだけだ。何故ならば、こちらに近づいて来る魔物の気配は大型な人型、豚の頭を持つオークと呼ばれる魔物だから。
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それでは次話もお楽しみに!




