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第37話 ゴルムおじさん

ヘルベルト騎士爵は改めてラース辺境伯からの書状を読むと、ふーっと荒く息を吐いてドカリと椅子に座り込んだ。


「ムスダンの身柄は引き渡す。証拠の書類も持って行くがいい。それでいいんだな?」


「はい。有難うございます」   


察するに、あの書状には経理担当家士の身柄と関連書類の引き渡しに応じれば色付けた復興資金をラース辺境伯家と冒険者ギルドから出すよ?良く考えてね。みたいな事が書かれてあったのだろう。まぁ、そもそも今回の事態が辺境伯家の御家騒動とそれに関わるギルド幹部の委託金横領により生じた事だから復興資金を出すのが当たり前なのだけど。


ヘルベルト騎士爵は執務室から家臣達を退がらせと俺に椅子を勧めた。


「ホルスト、お前を責めるような事を言って済まなかった。領都に出した援軍の要請も途中で魔物共に殺られてしまってな、正直言えば詰んでいた。お前のお陰で皆が助かった。誠に有難う」


ヘルベルト騎士爵は居住まいを正してそう言うと深々と頭を下げた。


「閣下、顔を上げて下さい。あれは仕方の無い事でしたから」


ヘルベルト騎士爵は顔を上げると、神妙だった表情を一転して不満げなものに変える。


「ホルスト、閣下呼ばわりはよせ。前みたいにゴルムおじさんでいいんだぞ」


ヘルベルト騎士爵は不満げに言った。彼は父の友人で、元は傭兵団の団長だった人だ。その縁で俺は同じラース辺境伯家の寄子という事もあって幼少期から何度も会った事がある。傭兵団の団長だっただけあって豪快でカラッと快活な人柄のヘルベルト騎士爵を俺はゴレムおじさんと呼んで懐いていた。


「俺はもう平民なので。でも流石は『ヘルベルト戦斧団』ですね。あんな上位種に率いられた魔物の群れに包囲されても士気は落ちてませんでしたね」


ヘルベルト騎士爵はその昔、『ヘルベルト戦斧団』という傭兵団を率いる凄腕の傭兵だったのだ。20年くらい前に起きた隣国ローメリア帝国と魔王国との戦争「ローメリア9月戦役」ではジギスムンド王国からの援軍として参戦した領軍の一翼を担って従軍、敵の本陣を奇襲して大将の首級を正にその戦斧で斬り落としてローメリア・ジギスムント同盟軍に勝利を齎した。その功により国王陛下から叙勲されてラース辺境伯から騎士爵の爵位と領地を与えられている。


従ってヘルベルト騎士爵家の家臣団や村人達の多くは元ヘルベルト戦斧団の団員(=傭兵)という訳だ。まぁ、みんな爺様になっているし、息子に代を譲ったりしているようだけど。


因みにヘルベルト騎士爵には息子と娘がそれぞれいて、息子のロームスは俺と同い年で俺の数少ない友人の一人だ。二人とも現在は王都の王立学院で学んでいる。


「昔取った何とかって奴さ。しかし、お前の能力は凄かったな。「アクションヒーロー」だったか?オーギュストの奴もお前を手離すなんて馬鹿な事をしたもんだ。まぁ、お前ならすぐに上級の冒険者になれるだろうがな」


「いや、ゴレムおじさん、跡取りがちゃんといるヴィンター家に俺がいたら揉め事の種にしかならないからこれで良かったんだよ」


あそこにいたらやりたい事もやれないしな。


「おっ、やっと前の口調に戻ったな。しかし、そうかもしれんな」


その後、俺はヘルベルト騎士爵から経理担当家士の身柄と出納の裏帳簿を引き渡され、更に街道の領境で待機していたラース辺境伯家の家臣団に引き渡した。


〜・〜・〜


館を囲んでいた魔物の類はあらかた始末したものの、村は魔物に荒らされて破壊されていた。館の内に収容されていた村人達も騎士爵家の家臣団と共に魔物と戦っていたので戦死した者もいて、負傷者も多かった。


俺が冒険者ギルドから請け負った依頼は表も裏も無事達成させていたので、俺の仕事はもうお終い。だけど、この村人達の惨状は正義の味方としては見逃せない。ラース辺境伯からの援助が届くまで、俺はせめてとも思って再びヘルベルト騎士爵領に戻って回復魔法で怪我人の治療に当たる事にした。


俺の回復魔法は母から習ったもので、元々は小さな傷を治す程度だった。だけど1年程前から何故か威力を増し、今ではかなりの怪我でも治せてしまえるようになっている。俺は恐らくメルと一緒にいる事が影響していると思っているのだが、どうだろうか。


幸いに、という事べきか、村人や家士達の負傷者の中に手足を失った者はいなかった。どうにか生命の危機にある者や、そのままならば創からの感染で壊死や敗血症で死んでしまうだろう十数人いた重傷者も回復させる事が出来た。


これに関しては、前世においてヒーローアクション同好会のメンバーはみんな上級救命講習を受講していて、大学内外でのイベントでの救護所ボランティア活動経験、それと弟に勧められてハマって読んだ『Dr.コトー診療所』、『医龍』、『はたらく細胞』、『Dr.くまひげ』などの医療系漫画で得た知識がこの時案外と役に立ったな。


医者も回復術師もいない田舎での事だ。俺が負傷者を手当てして回った事はヘルベルト騎士爵家の家臣団や村人達からは随分と感謝された。


〜・〜・〜


「なぁ、メル、何か怒ってないか?」


俺達はヘルベルト騎士爵領で治療活動を終えてラースブルグに帰る途中、街道沿いの宿場町に立ち寄った。そこでちょっと高めのホテルに宿を取り、一風呂浴びて人心地ついたところで騎士爵領からずっと口を聞いてくれないメルにそう尋ねてみた。


"ホルスト、あんた思い当たる事は無いの?"


メルから逆に問われて、はて?と思い出してみる。何がメルを怒らせてしまったのかと。


う〜ん、何も思い当たらないのだが…


"……"


そうした俺の様子に業を煮やしたメルは猫から美少女の姿に戻ると、猛然と詰め寄って来た。 


「あんたねぇ!何でゴブリンキングと戦うのに私を降さなかったのよ?お陰でスリングの中から出られなくて、あんな激しい動きするからずっと揺さぶられて吐きそうだったのよ!」


ああ、そういえばそうだった。だけど、あの時はまさか魔物があんなに増えて、しかもゴブリンキングまでいるとは思っていなかったから。だからメルを降ろす余裕も暇も無く、いきなり戦闘になっちゃってたからな。


「いや、本当にごめん、メル」


とはいえ、確かにそれは俺が悪かった。こういう時は謝り倒すのがベストアンサーだ。


まったく、もう!と尚も起こりながらメルは一人でベッドに潜り込んだ。


「今夜は私が一人でベッドを使うから。ホルストは罰として床で寝なさい!」


メルは俺に背を向けると、「ごはんの時はちゃんと起こしなさいよ」と言うやそのまま眠ってしまった。メルも疲れていたのだろうか?


俺はちょっとお高いホテルに宿泊しながら床に野営用の毛布を敷いた。そして本来の姿に戻ったメルの可愛い寝顔をちょっとだけ見て眼福眼福と思い直し、毛布の上に寝転びながら夕食まで昼寝を決め込んだのだった。








いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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