第31話 新たなる旅立ち
母の見送りを背に、俺はアンパ○マンのゲストキャラよろしく夕暮れの山の端を目指して街道を進んだ。この行為はこの世界の常識に照らし合わせたら非常に危険な自殺行為と言えた。
何と言っても、この世界の森や山には危険な野生動物もいれば魔物も出るばかりか、この辺りにはいないけど盗賊や山賊だって出没する。前世の日本だって明治時代までは魔物がいないだけで内実はそう変わらないし、現在でも夜に山道を一人で歩くなんて大変危険な行為だろう。あ、山の妖怪的な何かと出会っちゃうかもしれないしな。
まあ、勿論そこは「アクションヒーロー」の能力、八番目の昭和ライダーの重力低減機能を使って俺はラースブルグまでひとっ飛びした。流石にもう夜になっていたから城門は閉じられていたから、その晩は城門近くに設けられている領都に入りっぱぐれた連中が野宿するキャラバンサライにテントを張って夜明かしをした訳だけど。
〜・〜・〜
明る朝、俺は起床すると早々にテントを撤収し、ラースブルグの城門を潜って市内に入った。まずは腹拵えのため定宿にしている啄木亭へ。
"ねぇホルスト、冒険者ホルストとしては今後どういう方針でいるの?"
俺が肩から掛けているベビースリングからメルが顔だけだして尋ねる。
"まずは王都を目指す訳だけど、取り敢えずこの街で依頼を受けつつ情報収集かな。もう気ままな身分だし、あっちこっち寄り道しながらこの世界の色んな物を見て聴いて、美味いものを食べて、時には困った人を助けて悪を挫き、って感じでさ"
"ホルストらしくていいんじゃない?どこに行こうと私はあなたに着いて行くだけだし"
う〜ん、なんか今のメルの「あなたに着いて行くだけ」は勘違いしてしまいそうだけど、俺の監視が目的なんだよな。
"これからもよろしくなメル"
"こちらこそね。でも私は飽くまであなたの監視役なんだからね?そこ勘違いしないようにね?"
"わかってるよ。でも俺はメルの事が大好きだよ"
"ばっ、馬鹿じゃないの?だから勘違いしないでって言ってるじゃん!"
メルはキッと俺を睨むと出していた頭をスリングの中に引っ込めてしまった。因みに俺は猫の時のメルも表情がわかるようになっている。今のは随分とびっくりからの照れだ。
"でもさぁ、俺達もう2年も一緒にいて、一緒に食べて、夜も一緒に寝てるじゃん?メルを撫でて、頬擦りして、キスして。勘違いじゃなくて、俺はこういうのは好きな女の子にしかしない主義なんだ"
"そっ、そういう言い方は誤解を招くの!それにそれは猫の姿でしょ!"
"誤解って誰のだよ?それに人の姿でキスしてくれたし"もういいからさっさとギルドに行きなさいよ!"
"いや、まずは啄木亭でメシをだな、"
"どっちでもいいから!"
その後メルはベビースリングから出て来なくなってしまった。そして、その夜は人化せず猫の姿のまま、俺から離れて寝てしまった。俺はそんなメルを抱きかかえようとすると、手の甲を引っ掻かれてしまった。まぁ、怒ってたメルも可愛いのだけどさ。
〜・〜・〜
次の日、俺は冒険者ギルドラースブルグ支所へ赴いた。入口から館内に入ると、掲示されている依頼書を見たり、テーブルで打ち合わせをしている冒険者達が俺の存在に気付きヒソヒソと囁きだした。
曰く、
「おい、猫連れだぜ」
「勇者をボコったってよ」
「実家の騎士爵家を追い出されて平民だってよ」
などなどだ。
俺はそんな冒険者達の噂話(一部悪口を含む)を聞き流して受付カウンターへと向かう。どうやら俺はラースブルグの冒険者達からの評判は良くないようだった。冒険者は舐められてはならない以上絡んで来た連中は全員叩きのめして来た。そんな訳で自分でも無理はないと思ってはいる。
しかし、理不尽に絡まれて泣きを見れば良かったという訳でもないし、ああいう連中は無視しても絡んで来る。上手くスルー出来たら良かったのだろうけど、まだ子供みたいな歳のルーキーが自分達よりも強く、ソロでも十分稼ぐ事が出来、おまけに下っ端とはいえ貴族の息子とくれば嫉妬もされようという事なのだ。
では、そうした俺が貴族から平民に身分が落ちたとなればここの冒険者達はどう思い、どう出て来るだろうか?
しかし、俺の場合貴族であった事で得した事なんてあまりなかった。飢える事無く、それなりの教育を受ける事が出来たくらいだろうか?むしろ貴族である事により同じ寄子の子弟にも絡まれるわ、そのくせ家名を傷つけず、汚さぬよう気を使うばかりだった。
冒険者家業をする上で貴族のコネがあって良いだろう?そういう考え方もあろうけど、それは爵位持ちであったり、実家が強い影響力を持っていたりする場合である。俺の実家レベルじゃ影響力なんてある訳無いしな。
と、そんな事を考えている間にも受付カウンターに至る。受付嬢のお姉さんはラース辺境伯の寄子である男爵家の令嬢だ。彼女は俺より3つばかり歳上で、男勝りで頼り甲斐がある寄子子弟では姐さん的な存在だ。俺も子供の頃から彼女に頭が上がらない。
そんな彼女でも俺の顔を見ると、ほんの一瞬ではあったけど、表情を強張らせる。すぐに職業意識で笑顔に作ったものの、いささか心外だけど、やはりギルドの職員達の間でも俺の心証は良くないようだった。
「こんにちは、ホルスト。今日はどのような用向き?」
「久しぶりです、アンジェリカ姉さん。この度、実家の籍から抜けまして平民になりました。今日はその手続きをお願いします」
アンジェリカ姉さんは俺が手続きに来た事がわかると僅かにほっとした表情になる。
「そう、わかったわ。身分変更の手続きはしておくわ。それで、依頼はいいの?」
「依頼は受けます。俺、近いうちにラースブルグから出ようと思って。それでこの街のギルドにはこの一年世話になったから、その恩返しじゃないけどそれまでは誰もやらなくて溜まったままの依頼をバシバシ受けようと思ってる」
「本当?」
アンジェリカ姉さんはそれまでの態度を一変させて喜色を浮かべる。
そうした誰も引き受けない依頼が溜まる事は世間からのギルドの評判や信頼度を落とす事に繋がるので、ギルドとしては解消させたいところだ。しかし、実際には依頼内容と報酬面などで誰も引き受けない依頼は結構な数がある。ギルドとしてもそうした引き受け手がなさそうな依頼を最初から拒否する訳にも出来ず、されど、溜め込む訳にも出来ない、頭痛の種となっていたりするのだ。
「それじゃあ、これと、これと、あとこれもいいかな?」
アンジェリカ姉さんはここぞとばかりに抱えているそうした依頼案件を出して来た。流石にちょっと引いてしまったけど、言った以上はやってやるさ。
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それでは次話もお楽しみに!




