第30話 い、妹よ?
日は既に傾き、盆地を囲む西の山の端はオレンジ色に染まっていた。
そういえば、前世で子供の頃にパンのヒーローのアニメをよく見た。そこでは話の終わりにゲストキャラが夕暮れの山に向かってパンのヒーローやパン職人のおじさんの元を去って行くシーンが多かった。俺はそうしたシーンを見ながら「あんな時間帯に山に向かって、その後どうするんだろ?」などと幼心に思ったものだった。
と、そんな事を考えていると、メルの旅行用にしつらえたメル用ベビースリングの中から顔を出して念話で話しかけてきた。
"ちょっと変わっているけど、あれも母親の愛情なのかしらね?"
"まぁ、そうかな。ちょっと方向性が違う激しい愛ではあったけどね"
"ふふっ、本当ね。ところでさあ、"
"うん?"
"ホルスト君?何か忘れてませんか?"
ん?何かとは何だろうか、はて?
俺が考え込んでいると、メルの呆れたような念話が伝わって来た。
"妹さんに別れの挨拶しなくてよかったの?"
あっ、すっかり忘れてた。
"やばい、忘れてた。どうしよう"
"知らないわよ、自分で考えなさい?"
くぅ、この薄情猫め!
ここまで来て館に戻るのは悪手だ。母さんとあんな遣り取りしていてどの面下げてという事もあるけど、エミリーからどんな罵詈雑言を浴びせられるものかわかったもんじゃない。おまけに何かとんでもない約束をさせられるのがオチだ。
だけど、だからといって何の手立てもせずこのまま去るのはもっと良くない。次に会った時にどんな顔をすれば良いのかわからないばかりか、エミリーからどんな罵詈雑言を、以下同文。
しかし、その瞬間、天啓とも言える妙案を俺は閃いたのだ。
「そうだ、手紙だ」
手紙ならば手元に残るし、何度だって読み返せる。
"でも領都からじゃ時間かかるんじゃない?"
"大丈夫。「アクションヒーロー」の能力の一端を使えば簡単だ"
"ふ〜ん、そんな事に能力使うんだ?"
メルの呟きは無視。俺はすぐエミリーに手紙を書き、6番目の平成ライダーの能力である式神を出現させる。そして書いた手紙を折り畳むと、鳥型になった式神に手紙を咥えさせてエミリーの元へと飛ばした。
そして翌朝、ラースブルグの城門近くのキャラバンサライで野営する俺の元にエミリーの返書を咥えた鳥型の式神が戻って来た。
〜・〜・〜
親愛なるホルストお兄さま
バカバカバカバカ!何で何も言わないで行っちゃうのよ!信じらんない。もう絶対許さないんだから!王立学院に会いに来なかったら絶対、絶対、絶対、一生許さないんだからね?学院では私もマリーも精一杯頑張るから、絶対に来てよね!それから、能力で手紙届けられるんだったら月に一回は手紙を書く事!これも絶対だから!
それじゃあお兄さまも無理しないで、体に気をつけて怪我しないように。
怒れるあなたの妹、エミリーより
〜・〜・〜
「はぁ〜」
エミリーからの手紙を読んで思わず溜息が出た。何か、結局月一で手紙書くとか別の約束まで取り付けられてしまっているし…
’’これは怒ってるよねぇ?会いに行くのも気が重いなぁ"
"自業自得でしょ!"
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それでは次話もお楽しみに!




