第23話 強さ、それは優しさ
しかしこの勇者、俺より2歳も歳上だというのに、歳下にそんな事を訊くのか?といっても俺の場合、前世22歳で死んでいるから実質年齢は、え〜と、37歳になるのか。おっさんだな。
まぁ、そう考えるならば、この勇者も齢僅か17歳。日本でいえば高校生だ。17歳の男子が、いくら「勇者」の能力を授かったからといって魔王退治なんかを押し付けられたらそりゃあ悩みもするだろう。
しかも、驚くべき事に、と言うべきか、呆れた事にと言うべきか、この世界の国も教団も冒険者ギルドも勇者や勇者パーティにそんな大それた使命を課しながら一切のケアもしていないのだ。今までもそうだったのだろうか?他の勇者パーティもそうなのだろうか?恐ろしい話だ。
兎に角、この世界はおかしな事が多すぎる。俺が思うに「能力」と魔法がこの世界に文明にも社会制度にも停滞を齎しているようなのだ。
「能力」と魔法が使える身で言うのもナンだけど、そんな物ない方が文明も社会も発展するだろう。俺には「能力」も魔法も神がヒトにかけた呪いのように思えてならない。
それはともかく、マリーの件だけではなく、俺はこの勇者が少々気の毒にも思えてきたのだ。だから多少のアドバイスくらいはしてみてもいいかな?という気になっていた。
俺が黙って考え事をしていたせいか、4人の視線が突き刺さる。
「お前、俺に負けてどう思った?」
「殺されるかと思ったし、正直、恐ろしかった」
「他には?」
「自分よりも強い存在を知ったというか、」
そう、その言葉を聞きたかった。この勇者は上には上がいるという事に気付かなければならなかったのだ。
「自分より強い者に会って、お前はどうする?」
「今までの自分ではいけないと思った。俺はホルストさんが言った通り「勇者」の能力を授かっただけだったと思った。能力の上に胡座をかいてこの3年間で技を磨くような事は何もしてこなかった」
「それと?」
「それと、一人では限界が有っても皆で力を合わせれば強い敵とも戦えると思った」
うん、そこに気付けば良い。
「お前達のパーティが上手く回らなかったのはやはりそこに問題があったという事だ。勇者であるお前が能力に胡座をかいて何もしなければ、他のメンバーはそれを見てどう思う?リーダーたる勇者が何もしないのであれば自分達も何もしなくていいだろう、若しくは何も出来無い、そう考えるはずだ。違うか?」
俺は黙って聞いていた他のメンバー達に視線を送る。
「あぁ、その通りだ。最初の頃は皆初対面だし、連携して動けるように訓練をしようと提案していた。だが、勇者は「能力」があるのだから何もしなくても大丈夫だと言ったのだ。だったら俺からはそれ以上何も言えない。そう思っていた」
「私も一人じゃ限界があるし、私が訓練をしようと言っても誰も聞く耳を持ってくれなかった。だったら、もういいかなって」
デリックとゾフィは堰を切ったように自身の思うところを打ち明けた。
「「率先垂範」という言葉がある。要は上の者が人を動かす場合、自分がまず率先して動いて模範を示さなければならないという意味だ。勇者、お前はどうだった?自分を振り返ってみろ」
勇者は黙り、何かを思い出すように目を瞑り、次第に辛そうに顔を顰めた。
「何もしていなかった。「勇者」の能力を授かり、確かに僕は強くなった。だけどだからって何をしていいのかわからない。周りはあれこれ言ってくるけど、勇者になって、初めて会ったメンバーとパーティを組まされ、魔王を倒せって漠然と言われたって何をどこから手をつけていいのかもわからない。そのくせ貴族のパーティに出ろと言われ、勇者様とちやほやされ、そのくせ初めての魔物退治に失敗すると一転して蔑みの目を向けられて、」
そこまで言うと勇者は「くっ」と呻き拳で自分の大腿を叩き始める。ストレスからの自傷行為だな。
「お前も辛かったんだな。しかし、過去は過去だ。これはもうどうしようもない。だけど、お前には、お前達にはこれからがあり、失敗だって取り戻せる時間がある。お前はリーダーとして何が最優先かを考え、物事に優先順位をつけろ。まずは自分達が強くなる事が重要だ。それぞれの「能力」を使いこなす鍛錬だけじゃなく、パーティで連携出来るようにならないといけない。個々の力を足しただけじゃなく、個々の力を掛け合わせて何倍もの力を出せるのがパーティという物だ。そのための連携訓練をしっかりやらなければならない」
勇者は黙って頷く。
「勇者はリーダーとしてパーティを率いなければならないが、同時に独善になってはならない。メンバーの意見も聞き、よく話し合う事も大事だ」
盾聖デリック、弓聖ゾフィ、聖女ミシェルが同時に頷く。
「それにパーティで強くなれば、優しくなれる」
「優しく?」
「そうだ。優しさの無い強さは単なる暴力だ。強くなればなるほど優しさを持てる心の余裕も生まれる。強さは優しさであり、誰よりも強く優しい、それが勇者ってものだ」
これは俺のヒーローに関する持論だ。俺が前世で子供の頃に見たアニメ映画の主題歌の歌詞にそうあった。リアル勇者パーティが目の前にいるんだ。良い機会だから俺の持論を押しつけてみよう。
俺が話し終えると、黙って聞いていた勇者は感極まったように両眼を涙でうるわせ、立ち上がって俺の両手を取って掴む。
「ホルストさん、ありがとう。僕はホルストさんのお陰で自分どうあるべきか、自分達がどうすべきかがわかりました」
勇者の顔は端正なイケメンだが、今は涙と鼻水でぐしゃぐしゃとなり、唾が顔に飛んでくるので、正直あまり近づけないで欲しい。
「良かったな。頑張れよ、お前ならきっと出来るさ」
勇者はまだ俺の両手を掴んだままうんうんと何度も頷いた。
まぁ、これにてこの件は一件落着、かな。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




