第22話 勇者だって辛いんです
「待って下さい」
練兵場から立ち去ろうとする俺に、聖女から少し焦ったような声がかけられた。俺は立ち止まり振り向かずに要件だけ訊いた。
「まだ何か?」
「あの、名前を、まだちゃんと名前を教えて貰ってません」
「ホルスト・ヴィンター。冒険者さ」
言っちまった。これ言ってみたかったぁ!
「私は聖女でミシェル・メルマルクと申します。メルマルク伯爵家の次女です」
「私は弓聖でゾフィ・マルグリット。見ての通り森エルフでマルグリット伯爵家の長女よ」
「俺は盾聖のデリック・ブリックショルダーだ。ホルスト、俺の家も騎士爵だ。クリスの奴には後で必ず侘びに行かせる。だからその時に、その、なんだ、少し話を聞いて貰いたいのだが」
何か勝手に自己紹介された上に厄介な事も言ってきたよ。まぁ、乗りかかった船だ。領都にいる間くらいは面倒を見よう。
「わかった。今日はヴィンター家の領都分家で世話になっているけど、明日からはギルド近くの啄木亭という宿屋に泊まる。明後日には出るけど、その間なら待つよ」
「かたじけない。必ず伺う」
何かこのでかぶつ、心なしが言葉も丁寧に改まったな。
〜・〜・〜
果たして明くる日、勇者はパーティの仲間に連れられて啄木亭にやって来た。
貴族籍抹消の手続きは昨日ラース辺境伯家の役所で既に済ませてある。更にラース辺境伯家の役所も寄子子弟の貴族籍抹消の手続きを王都の役所で行うだろう。
だから、今の俺は貴族であって貴族じゃない中途半端な身分だ。そしてこれからヴィンター家から離れて生きていく以上、けじめがつかないなと思って叔父の館を出て宿屋に移った。叔父一家には引き留められたけど。
午前10時を過ぎ、自分の客室にいた俺は宿の女中に呼ばれ、自分への来客を告げられた。宿屋の1階は食堂になっていて、勇者パーティのメンバーがそれぞれ椅子に座っていた。宿泊客の朝食も終わり、食堂には厨房で昼食の仕込みをする亭主と従業員の少年がいるのみだ。勇者パーティに訪われている場面など見られたくない俺にはこのタイミングが有り難かった。
俺が食堂に現れると席に座っていた全員が立ち上がり、深々と頭を下げた。
俺がそういうのは止めてくれと頼むと、皆頭を上げる。だけど、俺をチラチラ見ては何も言わない勇者の態度に豪を煮やした弓聖のゾフィ(だったっけ?)が「ほら」と言いながら勇者の足を軽く蹴っ飛ばした。
「あ、あの、昨日の事は大変申し訳なかった。分別の無い行動だった。それで剣聖の娘とは婚約解消にもなったと聞いた。重ね重ね申し訳なかった」
「…」
まぁ、マリーと婚約解消になるのはこれからだが。早いか遅いかの違いしかないけど。
勇者は意外にも真面に謝罪をした。であるならば、もうマリーの件を聖女が引き受けているので、もう何も言う事も、思う事も無い。
「その謝罪を受けるよ」
「ではホルスト様、これ以降の遺恨は無しという事で宜しいですね?」
聖女が俺に確認を求め、俺も是と応じた。食堂内になんとなくホッとした空気が流れる。
しかし、勇者の謝罪は本当だけど、それは飽くまで前振りであって、本題はあるのだろう。
「で、何か話があるのだろう?無いならいいけど、あるなら手短にしてくれ。ここもそのうちに昼の客が入るだろうから」
俺がそう促すとパーティの4人は互いに顔を見合わせ、結局3人の視線が集まった勇者クリスが口を開いた。
「実はホルストに相談があって、」
こいつ、何か俺の事を呼び捨てにしやがった。
「いつから俺達は友達になったんだ?"さん"を付けろよ」
本当はその後に「デコ助野郎」を付けたかったけど、止めておいた。デコ助野郎って何?ってなるだろうからね。
「あ、あぁ、済まない。ホルストさん、これでいいか?」
俺が黙って頷くと、勇者はその相談とやらを勝手に喋り始めた。
「僕はマックバーン侯爵家の次男に生まれ、4年前の元服の儀で「勇者」の能力を授かった。以来、周りの者達からは勇者と呼ばれて、」
どうも話が長くなりそうなので、俺は無言で勇者パーティの皆に椅子を勧めた。
「最初「勇者」の能力は素晴らしかった。戦いに際しては身体は軽く、キレも良くなり、全身に力が漲った。実家の騎士と立ち会っても負け知らずで、僕は「勇者」の全能感に酔い痴れていたんだ」
酔い痴れたとか、溺れていたという方が正しいと思うのだけど?勿論、口には出さない。
「この能力があれば魔族だろうと魔王だろうと敵じゃない、きっと倒せる筈だと確信したんだ。侯爵である父も兄も一族の誉れと大喜びで、遂には国王陛下にも拝謁した。その頃の僕は得意の絶頂で、本当に恐いもの無しだった」
まぁ、そうだろうね。ただ、実家の騎士達は多少の手加減を加えていたと思うけど。
「だけど、主神アプロス様の神託があって、アプロス教団の肝煎でゾフィ、デリック、ミシェルとパーティを組むと、途端に何もかもが上手く行かなくなったんだ」
この辺りで他のメンバーから勇者に一瞬僅かではあるけど怒りや反感といった不穏な感情が向けられた。きっと勇者がいろいろとやらかしたんだろう事が想像つく。
「パーティを組むなんて僕は初めてで、そもそもパーティをどう指図していいのかわからない。連携がとれない。いろいろ考えて指示を出しても皆が思うように動いてくれないし、後で駄目出しされる。王国も、教団も、冒険者ギルドも誰も何も教えてくれない。だからそんな状態のパーティで行かされた初めての魔物退治は散々だった。僕は自分にもパーティにも失望した。だからそれ以来敢えてパーティの連携は取らないで個々のスタンドプレーで魔物退治をして誤魔化して来た。そうすればある程度の結果は出せたからね。そんな時に「剣聖」が現れると神託があって、僕はそれが行き詰まったこのパーティが変わるきっかけになると思ったんだ」
勇者は黙ったけど、俺は続きを促した。
「だから、早く剣聖に会いたくて。それが犯罪に当たるとは知らず、あのような行為に及んでしまった。僕は「勇者」の能力で傲慢になり、それ故に自分の失敗を認められず見ないふりをして、あまつさえパーティメンバーに責任転嫁して、まだ見ぬ剣聖に勝手に期待したんだ」
あれ?この勇者、意外と客観的に自分を分析出来てる?
「だけど、ホルストさんに負けて僕は自分の愚かさに気付かされた。だからどうか教えて欲しい。僕は勇者としてどうしたらいいのだろうか?」
知るかよ、そんな事。自分で何とかしろってんだ、と思ったけど勿論口には出さない。何と言っても色々な思惑からこのパーティにマリーが剣聖として加入させられるのはほぼほぼ決まりだろうから。マリーがこんな迷える勇者のバラバラ寄せ集め残念パーティに入った日には魔王との戦いで生き残れる可能性は限り無く低くなる。
しょうがない、マリーのためだ。俺は幼馴染のためにもう一肌脱ぐ事にした。
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それでは次話もお楽しみに!




