第21話 勇者パーティに要求しちゃった
盾の大男が慌てて俺が蹴り飛ばした聖剣を拾いに走る。そして俺が勇者を掴み上げた左手を離すと、グッタリとしていた勇者はそのままどさりと地面に落ちた。聖女が駆け寄って直ちに回復魔法をかけ始めた。
結局、勇者は聖剣を抜いて構えただけで一太刀も振るう事も出来ず、一方的に俺に嬲られる結果となった。瀕死、とまではなっていないけど、顔面陥没骨折に内臓破裂、右手関節骨折でかなりの重症なはずだ。まぁ、こいつは聖剣で俺を殺そうとしたのだから、これくらいは当然と言える。むしろ殺されなかった事を感謝すべきだろう(メルに)。
腹腔内出血による出血性のショック状態、蒼白だった勇者の顔貌は聖女の回復魔法で徐々に赤味を取り戻し、浅く早かった呼吸も安定したものになっていった。挫創と腫れでグサグサボコボコだった顔も元に戻り始めている。聖女の回復魔法って凄いな。
「ふう」
回復魔法で勇者を治療した聖女は、かなり魔力を消費していたけど、勇者の容態が安定すると安堵の溜息を漏らした。
「あなたは一体何者ですか?」
抑揚の無い声でこちらも見ずに聖女が俺に尋ねる。
「最初に言ったろ?俺は通りすがりのただの騎士爵家の三男坊さ。それでいられるのもあと僅かだけどね」
「どこの世界に勇者を事も無げに打ち負かすただの騎士爵家の三男坊がいるんですか」
聖女は俺の言葉を聞くと、徐に顔を上げて呆れ顔でそう言った。
「ところで、勇者から挑まれたこの決闘は俺の勝利で終わった訳だけど、お前ら、俺の要求を飲むんだよな?」
「「「えっ⁈」」」
三人からは揃って意外といった反応が返って来た。それは三人が俺と勇者が交わした約束を他人事と認識していた事を意味する。まぁ、そうと言えばそうなのだけど。
「それはあんたがクリスとした約束でしょ?」
弓聖エルフ女は、さも心外だ、お前の思い違いだといった感じでそう言い放った。
「そうか。だったら勇者パーティは自分から戦いを挑んでおいて、ボロ負けした上に約束を反故にして逃げたと領都の酒場で愚痴って回るけど?」
「お、お前…」
「あんた、」
「それは…」
三者三様に戸惑いの呟きが漏れた。
一つの事実が有れば噂なんてあっという間に尾鰭を付けて広がるものだ。
ここに勇者と勇者に婚約者を連れて行かれそうになった冒険者の決闘があった。勇者は自分が負けたら冒険者の要求を飲むという約束をしていた。そして勇者が負けた。そこには多くの目撃者達がいた。これらの事実があり、今夜あたり俺が酒場をはしごして酔客に酒を奢って愚痴ってまわれば、後から教団や辺境伯家が噂を打ち消しても無駄だろう。
「わかりました。それで私達は何をすれば良いのですか?あまりに無体な要求には応じられませんが」
やはりこの聖女さんは頭が良い。ここは俺と揉めるよりも俺の要求を聞き、その上で交渉しようというのだろう。
「別に無理難題をふっかけるつもりは無いんだ。俺の要求はただ一つ。マリーをパーティに入れる前にお前達の資金と権限と伝手で王立学院に入学させ、且つ然るべき剣術の師に就けて剣術を修めさせろ。それだけだ」
「「「…」」」
この要求は彼等にとっては決して難しいものではない筈だ。勇者パーティのバックには主神アブロスを崇めるアブロス教団と王室に軍部が付いているのだから。
「それは出来ると思うけど、それならあんたが剣聖の子に教えればいいんじゃない?勇者に簡単に勝っちゃうほどなんだからさ。それに婚約者なんでしょ?」
「婚約はどうしたって解消されるよ。マリーが「剣聖」を授かった以上俺みたいな小僧がいくら騒いだところで動きは止められないし、さっき見ただろ?マリー自身がもう俺との婚約を望んでいない。それに俺も自分を裏切って殺そうとした奴は許す気になれないし、結婚なんてしたくないしな。とはいえ、今まで一緒に育って来た幼馴染としての情はまだある。あいつが未熟なまま剣聖として使い潰されるのは偲びないのさ」
「そう、なんか申し訳無かったわね」
「いや、お前が謝る必要なんか無いよ。それに、これ以上お前らと関わり合いになりたくないしな」
俺は弓聖エルフ女に訊かれた事に対し、自分の思うところを返事とした。そして彼女が何に対してかよくわからない謝罪の言葉を口にしたのでその必要は無いと言うと、何故か三人とも一様に傷付いたような表情になった。
「わかりました。マリー様の件は聖女たる私、ミシェル・メルマルクが責任を持ってお引き受け致します」
「済まないが頼む。なるべく死なせないでやってくれ」
うん。これがマリーにかけてあげられる俺の最後の情だ。やるべき事はやった。俺は踵を返してこの一連の騒動を見守ってくれたラース辺境伯の元へ赴くと、片膝を突いて臣下の礼をとった。
「閣下、幾度もお騒がせして申し訳ありません。今まで大変お世話になりました。これで私は実家の籍を離れますが、ヴィンター家を今後とも宜しくお願い致します」
首を垂れる俺の頭上からラース辺境伯の渋いイケボがかかった。
「よい、面を上げよ。この度の事、その方の骨折りだったな。剣聖の娘の事は辺境伯家からも支援を入れる故、心配するな」
「有難き幸せに御座います」
「うむ。ホルストは今後冒険者になるのであったな?お前の事だから大丈夫だろうが、息災でな」
「はっ」
俺は再び頭を下げる。ラース辺境伯は何故か俺の能力には一切触れなかった。
成り行き上、勢いで寄親へ騒動の陳謝と貴族籍離脱の挨拶をしてしまったけど、挨拶ってしないよりした方がいいよね。
こうして俺はおのれを繋ぐ鎖を断ち切り、晴れて自由の身となった。え?白い鎖にガッチリ繋がれているって?それは、まぁ、取り敢えず可愛いから放置かな。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




