第20話 勇者ボコボコにしちゃった
勇者とは、読んで字の如く勇気のある者の事だ。
勇気は誰でも持っている。君にも有れば僕にも有る。貴族だって平民だって農民だって、男にも女にも、子供にも大人にも。
それは大切な物を、人を、己の尊厳を守ろうとする時に恐怖を打ち払い、自らが傷付く、或いは死ぬ事も厭わず発揮される力だ。
辺りは静まり返り、多くのギャラリー達が何故か俺が勇者に語る勇者論を聞いている。
勇気ある者達の中で、何故勇者は特別なのか?それは人々を脅かす魔王を退け、倒すために神より選ばれて力を授けられた者であり、その能力を用いて人々のために艱難辛苦を乗り越えて命を懸けて戦う者であるからだ。だから人々はその者を勇者と呼び、感謝し、称賛を惜しまず、尊敬して憧憬する。更にはその名を後世に語り継ぐ。それは決して「勇者」の能力を授かっただけの者に、ではない。
「しかし、今のお前はどうだ?「勇者」の能力を授かっただけで自らを勇者と驕り、たった4人のパーティですら掌握出来ないで全てを聖女という少女に任せきり。「剣聖」を授かったばかりの少女を親元から黙って連れ出そうとした。それが勇者のやる事なのか?」
と、ここで勇者はブチ切れ!
「うるさい!お前に僕の何がわかる?お前なんか単なる田舎貴族の小倅だろうが!知った風な事を言うな!偉そうに僕に説教するな!」
そう来たか。確かに俺は田舎者だし、あんたの事情なんて知ったこっちゃないし、たかだか騎士爵の三男さ。だがしかし、
「だけど、俺は少なくともお前よりは強いぞ?」
「女の子をいたぶるような奴が僕より強い?勘違いが過ぎるようだな」
「その女の子を連れ去って魔族と戦わせようとした自称勇者には確かに卑怯さでは負けるさ」
勇者からただならぬ殺気が俺に向けられる。まぁ、痛くも痒くもないけどね。
「そこまで僕を虚仮にして無事で済むと思うなよ?貴様、僕と戦え!決闘だ!」
また決闘か?一日のうちに二度も決闘とか、はぁ。
「構わない。俺が勝ったら俺の要求を飲め」
「いいだろう。そんな事にはならないだろうがな!」
この流れで、今度は勇者と決闘する事となった。そして勇者に代わって聖女がラース辺境伯に決闘と立会いを願うと、ラース辺境伯は呆れ顔でこれを了承した。
「お前は勇者である僕を愚弄した。ならば僕は勇者の力でお前を倒す」
決闘に勇者の能力を使うとか、俺を殺す気満々といったところか。
「わかった、好きにしろ。では俺も俺の能力を使うとしよう」
これはこの馬鹿勇者からマリーを守り、「勇者」の力で俺を害しようとする悪意から自らを守るための戦いだ。「アクションヒーロー」の全力を出せる条件を満たしている。
再び騎士団長が審判を務めてくれる。いや、この人、若くして(30代?)辺境伯家の騎士団長になるくらいだから実力あるのだろうけど、変な事に首突っ込み過ぎじゃないか?何かわくわく感ダダ漏れだし。
「ホルスト、武器はどうする?勇者は恐らく聖剣を使うぞ?」
騎士団長は俺の身を案じて?そう言ってくれた。
「大丈夫です。俺には俺の能力がありますから」
「おお、そうか。どんなもんか楽しみにしてるぞ」
いや、楽しみって。やっぱりあんた楽しんでるよ。
そして騎士団長の掛け声と共に俺と勇者の戦いが始まった。
〜・〜・〜
勇者が腰に佩いた聖剣をこれ見よがしに抜いて構える。俺も初めて見る聖剣は、いかにも聖剣ですという感じで剣身を七色に煌めかせている。
だけど、それがどうしたという話だ。どんなに威力がある武器であろうと使い手にその力量が無ければ単なる綺麗な剣ってだけ。よく言われるように当たらなければどうという事はないのだ。そして勇者の構えを見ればその実力も知れる。
「ラジャータ!」
俺は「アクションヒーロー」の能力、万能武器ラジャータを呼び出し、その形状を鞭状に変化させる。
「ラジャータ、ウィップ」
ラジャータは銀色の光を発して棒状の形態から銀色に輝くしなやかな鞭へ変化した。
「何⁉︎」
驚きの声を上げる勇者、と驚愕と好奇心に目を見張る騎士団長。ギャラリー達からも騒めきが聴こえて来た。
勇者よ、驚いている暇は無いぞ?もう戦いは始まっているんだ。
俺は動きを止めたままの勇者の頚に容赦無くラジャータウィップを巻き付けると、更に一気に締め付けた。
「うぐっ」
勇者は呻きながら頚に巻き付いたラジャータウィップを切ろうと聖剣を振るうけど、俺はそれを許さずラジャータウィップを引き付けて勇者の体勢を崩した。
勇者はそのまま前のめりに倒れかかったので、俺はラジャータウィップを解くと、構えも取れない勇者の顔面にラジャータウィップを放った。
強かにラジャータウィップに顔面を強打された勇者は、「がふっ」と呻くと仰反るようにして後ろに倒れた。
俺は倒れた勇者の聖剣を持つ右手を踏み躙ると、奴が手放した聖剣を遠く蹴り飛ばした。
「聖剣の 近くにありて こそ勇者ってね」
勿論、決闘がこれでお終いなんて事はない。何といっても勇者はまだ降伏していないのだ。降伏を促さないのかって?生憎と俺はそこまで親切でもお人好しでもないんでね。
俺は上半身を起こして聖剣を拾いに行こうとする勇者のガラ空きになった腹に遠慮なく蹴りを入れる。戦場で相手に背中を見せちゃいけませんよっ!っと。
「ぐぁぁ」
練兵場に倒れて悶える勇者は未だ降伏しない。俺は腹を押さえて腹這いになった勇者の頚部を踏み潰そうとしたところでメルから待ったがかかった。
"ホルスト、勇者は殺しちゃダメ"
"殺さなければいいんだな?"
"う、うん。でも、ほどほどにしてね?"
"わかったよ、メル"
そうした訳で、仕方なく俺は左手で勇者の胸倉を掴み上げると、その顔面を殴り付けた。
一発、二発と殴り、三発目行こうかと右の拳を上げると聖女から悲鳴のような声がかかった。
「もう、もうやめて下さい。それ以上殴られたら死んでしまいます。降伏します。あなたの勝ちです」
聖女から降伏の申入れに俺が審判の騎士団長に視線を向けると、騎士団長は俺の勝利を宣言した。
「勝者、ホルスト・ヴィンター!」
しかし、ギャラリー達から歓声は上がらず、辺りは驚きなのか恐怖からなのか押し黙ったままの沈黙が続く。これを敢えて言語化するならば、
「あいつ、軽々と勇者をぼこっちまったよ」
といったところだろうか?
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それでは次話もお楽しみに!




