第17話 マリーとの決闘
「だめだ」
「どうしてですか?」
「今のままのマリーではそのうち使い潰されて死ぬからだ」
マリーは何故か婚約者である俺を憎々し気に睨みつけると、今までの彼女では有り得ない激しい口調と態度で俺を罵り始めた。
「何が無理なんですか!私は剣聖になったんです。もう兄さまよりも強いんですよ!私のやる事に偉そうに口出さないで下さい」
やはりジードの時もそうだったように、戦闘系の「能力」を授かると強くなった気になって一時的な精神異常を来すようだ。
実際強くなるのだけど。
恐らく今まで抑え込んでいた欲求や感情が「能力」により解放されるのだと俺は思う。だからジードだって「剣士」なんて能力を授からなかったら、きっと今も周囲の者達から内心疎まれながら男爵家の跡取り息子でいられただろう。
残念ながら2年前と全く同じ事が全く同じ場所で起きてしまった。しかも俺の大切な幼馴染にして婚約者のマリーで。
「いや、お前は剣聖なんかじゃない。「剣聖」の能力を授かっただけの世間知らずなただの小娘だ。勘違いしちゃいけない。それに俺より強いって?それこそあり得ないな」
「なっ!」
絶句するマリー。まさか俺がここまで自分を否定するとは思っていなかったのだろう。
「私はお前なんかより強い。早く移動出来るだけの訳のわからない能力しか持たないお前なんかより、私の「剣聖」の方が!」
"あ〜、兄さまからお前に格下げされちゃったよ、ホルスト?"
"メルさんや、ちょっと黙ろうか?"
これがマリーの本音だと思うと悲しくなるな。まぁ、「アクションヒーロー」についてはマリーにも能力の一端しか教えてなかったから仕方無くはあるけど。
「私はもうあんな山奥の田舎なんかまっぴらなの!あんな所で薄鈍な男と結婚させられて、子供産まされて、家事に一生費やすなんて絶対にイヤ!お前の事なんて大して好きじゃなかったけど、見た目が好きなタイプで、優しくて、強くて頭が良くて、冒険者になって私を外へ連れ出してくれるって言うから婚約しただけじゃないの!お前なんかより勇者様の方が私をもっと明るい世界に連れて行ってくれるんだから、もう私の足を引っ張らないでよ!」
"見た目が好きなタイプで、優しくて、強くて頭が良くて、って随分褒めてるわよ?でも、ぶっちゃけちゃったわね、あの子"
"…"
これが「能力」の恐いところだな。
メルの同情めいた念話に何も返さないでおいた。マリーの叫ぶような告白に周囲の人々からは「アチャー言っちゃったよ」といったやはり同情する雰囲気が伝わって来る。心なしか勇者一行からも憐れみの眼差しが向けられているような。
マリーは溜まりに抑圧されていた本音を一気にぶちまけた反動か荒い息を吐いている。勝気だけど、俺には素直で甘えて来る可愛いマリーが内心俺の事などあまり好きじゃなかったとか、やっぱり使えない能力持ちだとか思っていたのかと思うと悲しいものがあるな。
ラース辺境伯は渋いナイスミドルだけど、なんだか残念な人を見る目でマリーを見ていた。
「よし、じゃあこうしよう。マリーが俺とその「剣聖」とやらで戦って俺に勝てたらマリーの好きにすれば良い。婚約だって解消しよう。ただ、俺が勝ったら俺の言う通りにしろ。剣聖様は俺よりも強いんだから簡単だろ?」
軽く煽るとマリーは荒い息のまま俺を睨む。
「わかりました。ホルスト兄さまには絶対にまけませんから」
マリーは自分の思うように行きそうになったからか、少し落ち着いて言葉も元の口調に戻ってきた。マリー、お前呼ばわりは悲しかったよ…
「どうでしょうか、閣下?」
俺はラース辺境伯に向き直ると、この件に関して伺いを立てた。
「まぁ、それしか無かろう。俺は構わないが、ホルストよ、お前はそれで良いのか?」
「私が言い出した事ですから。それに寄子として最後のご奉公をしたく存じます」
「であるか。ならば流石に神殿はまずかろう。練兵場を使え。勇者方もそれで宜しいか?」
「え?は、はい」
俺とマリーの遣り取りに呆然としていた勇者クリスは、急に辺境伯から話を振られて咄嗟に言葉が出ないようだった。
「それで私共は構いません、閣下」
そんな勇者に代わって辺境伯に返事をしたのは聖女様だ。名前は知らないけど、どうもこのパーティのキーパーソンは今のところ勇者じゃなくこの聖女様のようだ。
〜・〜・〜
所変わってここはラースブルグ城の練兵場。
この決闘の当事者たる俺とマリーだけじゃなく、見届け人のラース辺境伯に勇者御一行も神殿から移動して来た。また、興味深々で神殿から付いて来た寄子貴族に噂を聞きつけてやってきた手隙の騎士にメイド達も押しかけて、練兵場は結構な見物人で埋まった。
俺とマリーは練兵場で対峙する。得物は互いに練兵場で訓練に使用する刃引きした両手剣だ。審判はなんと騎士団長が勝って出てくれた。剣聖の剣筋と滅多に無い能力者同士の戦いを間近で見たいからだそうだ。
「私、兄さまだからって容赦しませんから」
「お前じゃ俺には一生勝てないよ。能力なんて使わなくてもな」
俺達は互いに訣別の言葉を送り合うと、頃は良しと騎士団長が決闘の開始を告げる。
「よし、双方構え、始め!」
まずはマリーに好きに打たせてやろう。
「うらあぁぁぁ!」
激しい気合と共に俺目掛けて鋭い突きを放つマリー。元々の良い剣筋に「剣聖」の能力が上乗せされ、心・技・体が一体となった打突は確実に俺を仕留めんと俺の左胸を狙って来た。流石は「剣聖」の能力と言えよう。対戦相手が俺じゃなく、並の騎士や傭兵ならこの一撃で落命していた事だろう。
俺がその鋭い突きを右に半身を切って躱すと、マリーはそのまま横薙ぎに剣を振るう。これを身を捩って軽々と躱すと、マリーは更に右上段から斬り下げ、バックステップで躱しながら俺はマリーの剣に俺の剣を巻き付けて剣先を落としてみる。
この程度ではマリーの体勢を崩す事は出来ないけど、マリーは一撃で俺を殺すつもりだったのだろう。であるにもかかわらず必殺の打突を俺に散々躱され、更には剣先を落とされたのでカッとなったようだった。
その後は躱すだけでなく、続くマリーの猛攻と打ち合った。そして頃合いを見計らって俺はマリーの上段からの一閃を事更に剣で受けると、受けきれなかった体で剣を手放した。
剣はカランと乾いた金属音を立てて地に落ちる。
俺が剣を落とすとは考えてはいなかったのだろう。マリーは一瞬動きを止め、その隙に俺はマリーの手を剣ごと捻り上げ、更に足払いをかけてマリーを背中から地に落とした。
そして俺はマリーの剣を奪って遠くへ投げると、どうにか立ち上がったマリーへ間合いを詰めて鳩尾へ重い右フックを打ち込んだ。
「ぐふっ」
マリーはくぐもった声を出すと、鳩尾を押さえたまま意識を失って前のめりに倒れ込んだ。
「剣聖も剣がなければただの人、ってね」
「勝者、ホルスト・ヴィンター!」
審判の騎士団長が高らかに俺の勝利を告げた。
〜・〜・〜
マリーは元が素直な女の子なだけに、以前から素直な剣筋だった。「剣聖」の能力を授かってもわかりやすい剣筋で予測がしやすいものだったな。
マリーは俺を自分の人生の邪魔者として殺す気満々だった訳だけど、俺は随分と手加減をして最後は当て身を食らわせて死なせはしなかった。幼馴染であり、もう"元"になりつつあるけど婚約者であり、裏切られて殺されそうになってもマリーへの情はまだあるから。
意識を失い練兵場の地面に倒れてピクピクと身体を痙攣させていたマリーは、城のメイド達によって運ばれて行った。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




