第16話 やっぱり勇者って…
マリーに「剣聖」の能力が授かってどよめく神殿内。すると、そこへラース辺境伯に伴われた勇者一行が姿を現した。
勇者はそのままマリーの元へ向かうと、未だ呆然としているマリーの手を取った。
「お嬢さん、「剣聖」の能力が授かりおめでとう。是非、私のパーティに入ってその能力を振るって欲しい」
勇者に手を取られて真顔でそう言われたマリーは、頬を上気させたまま「はい」と答えた。そして勇者はそのままマリーの手を引き、仲間の元へ連れて行こうとした。
「異議あり!」
勿論俺は勇者の思う通りになどさせない。俺は手を上げて大声で勇者に異議を唱え、勇者共の前へと進み出た。
神殿内は俄かに起こったこの事態に誰も言葉を発せず、固唾を飲んで事の推移を見守っている。
と、そこでどうにか声を出せたのは当事者であるマリーと名前も知らない勇者の男だ。
「ホルスト兄さま…」
「一体何だ、君は?」
なんだ君は、ってか?
「自分は名乗らず、他人に名前を尋ねるような非常識人に名乗る名前は無いな」
勇者から剣呑な気が流れる。
「俺はクリス・マクロイド、勇者だ」
渋々といった感じで勇者は名乗った。「勇者だ(キラッ)」だと。何か聞いていて恥ずかしいな。だが、勇者とやらが名乗った以上は俺も名乗らなけれはなるまい。
「俺はヴィンター騎士爵家の三男でホルスト・ヴィンター。このマリー・マイルスターの婚約者だ」
俺がそう名乗ると、この勇者はあからさまに表情を変え、俺に侮蔑する視線を投げつけた。
「それでマリーの婚約者だから何だ?この娘は「剣聖」の能力を神から授けられたんだ。ならば勇者である俺に従って共に魔王と戦わなければならないんだぞ?それくらいお前のような田舎者にだってわかるだろう。これは誰にも止める事など出来ないよ。婚約者だからってマリーに縋ろうとしないで、さっさと身を引いたらどうだ?見苦しいぞ!」
"ほらな、メル。勇者ってクズだろ?"
"う〜ん、今の見ちゃうと否定出来ないかなぁ"
このクズ勇者、俺が騎士爵家の三男と知って地が出たのか、途端に口調が変わりクズの本性を現したようだ。
「いや、まずは勇者とやらに幾つか質問したい」
「な、何だ?」
「まず、マリーは俺の婚約者で、当人同士ばかりか双方の親も俺達の婚約を認めている。それを誰の許しを得て婚約者のいる女性の手に勝手に触れ、あまつさえ連れ去ろうとするのか?納得のいく返答を聞きたい」
俺から詰問されて言葉に詰まる勇者。顔を真っ赤にさせて実に悔しそうだ。でも、俺は何も間違った事は言っちゃいない。
この世界でも当然、人妻や婚約者のいる女性にそういった行為を迫る事は倫理に反する。しかも、マリーはまだ未成年。客観的に見れば、この勇者は未成年で婚約者のいる女の子の手を婚約者の前で握り、連れ去ろうとしたのだ。
この事態に勇者の仲間達はどうしているかといえば、盾の大男は俺をギロリと睨み、弓のエルフは自分には無関係という態度を崩さない。しかし、聖女は違うようだった。
「誠に申し訳ございません。マリー様がホルスト様の婚約者とは知りませんでした。御無礼のあった事、ご容赦ください」
聖女はそう言って俺に深々と頭を下げた。
「態々謝ってくれたけど、あなたの謝罪には意味が無い。申し訳無いというのなら何故本人が謝らない?そして、その男はいつまで俺の婚約者の手を握っている?」
俺の返答が意外だったのか、聖女は呆然とした表情となった。そして、悔しそうに俺を睨むと、次いで勇者に向き、
「クリス、いつまで手を握っているの?早く手を離しなさい。それからホルスト様に無礼を謝りなさい」
と叱責するように勇者に言った。
クリスと呼ばれた勇者は忌々しそうに俺を一瞥すると、握っていたマリーの手を離した。しかし、黙ったまま謝ろうとはしない。まぁ、それはいい。こいつはそういう奴なのだろう。
「それと、もう一つ。マリーが「剣聖」の能力を授かったからといって誰の許しを得て連れ去ろうとしたのか?何を根拠にしているのか?この娘はヴィンター騎士爵家の家臣の娘だ。連れて行くにしてもこの娘の親の承諾は得たのか?ヴィンター騎士爵の承諾は?更に言えばラース辺境伯様の承諾はどうした?さっきはマリーに婚約者がいるとは知らなかったと言ったな?だが、もう知った筈だ。婚約解消するにしても婚約者たる俺の同意はどうするんだ?」
「そっ、それは…」
「くっ」
そう言ったきり黙り込む勇者、言葉に詰まる聖女。
これも俺は何一つ間違った事を言ってはいない。未成年の子女を親や保護者などの親権者からの同意無しで連れ去るのはこの世界でも犯罪だ。貴族が平民にそれをしたならば、権力や金銭で黙らせる事は出来ようが、ここはラース辺境伯の居城で、しかも神殿。未遂とはいえ、ラース辺境伯を始めとする多くの貴族や神殿の聖職者が見ている中で起きた事だ。
思うに、この勇者は無知で世間知らず。そしてやはり能力を授かった事により思い上がってしまっている。「勇者」の能力を授かったならば魔王との戦いを免罪符に何をしても許されると思っているのだろう。
この事態は奴のそうした思い上がりと無知が招いた事態で、奴の失態だ。
マリーが「剣聖」の能力を授かったのは人智を超えた災害のようなもので、仕方が無い事だと思う。だけど、一体何を根拠にしているのか知らないけど、他人の娘を、他人の家臣の娘を、そして他人の婚約者を、勇者を支える従者として差し出せというのなら然るべき「手続き」という物が必要だろう。しかしこの勇者はその全てをすっ飛ばして、事もあろうにマリーを連れ去ろうとしたのだ。これは看過出来る事じゃない。
誰もが黙ったままのこの事態。その静寂を破ったのはマリーだった。マリーは俺を睨むとこう言った。
「ホルスト兄さま、いい加減にして下さい。私は兄さまが何と言おうと勇者様と行きます!」
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それでは次話もお楽しみに!




