第14話 勇者が街にやって来る
俺達を乗せたヴィンター家の馬車は領都へ城門が閉まる前に到着した。
ラースブルグには小さいながらもヴィンター家の屋敷があり、現在は分家となっている父の弟、エドワウ叔父が常駐して寄親であるラース辺境伯や他の寄子貴族達との連絡や調整、商家との取引などを任されている。
馬車がヴィンター騎士爵家ラースブルグ屋敷の玄関前の車寄せに回されると、エドワウ叔父が迎えに出てくれていた。
「叔父さん、久しぶり」
「おお、ホルストか。こいつめ、しょっちゅうこっちに来ているくせにちっとも顔出さんで!いつ来るかと待っていたんだぞ」
エドワウ叔父はそう小言を言いながらも歓迎してくれ、俺の手を両手で掴むと、ぶんぶんと上に下にと振った。
「すみません、冒険者として来ていたから公私のケジメはつけなきゃと思って」
「そんな事気にするな。何であれお前ならいつでも大歓迎だぞ」
エドワウ叔父は若い頃に冒険者をしていた事とお互いに当主となれない立場である事から俺とは気が合って仲が良く、父とよりも何でも話せる間柄だった。
「有難う、叔父さん。嬉しいよ」
すると、エミリーとマリーも馬車から降りようとしたので、俺は二人の手を取って降車の介助をした。
「エドワウ叔父様、お久しぶりです、エミリーです」
「おぉ、エミリーちゃんか!久しぶりだな」
「はい、この度はマリー共々お世話になります」
「エドワウ様、ジョルジュの娘マリーです」
「二人とも別嬪になったな。めでたい元服の儀だ。遠慮なんかしないでゆっくりしてくれ」
マリーも行儀良く挨拶すると、エドワウ叔父は気さくに応じてくれた。そして、エドワウ叔父の奥さんであるライラさん、長男のマーク、長女のプリシラとも挨拶を交わして屋敷内へ案内された。
そうして通された方食卓で振舞われたお茶を喫して話に興じていると、マークが勇者についての噂話を振ってきた。
「ホルスト兄さん、知ってる?ラースブルグに勇者パーティが来るんだってさ」
従兄弟のマークは俺の一つ年下で、このまま領都の分家を継ぐ身だ。領都という都会で育った事もあって俺よりも余程貴族のお坊ちゃん然としている。妹のプリシラは三つした12歳、黒髪ロングの可愛らしい顔立ちをしている。
「勇者が?何でだ?」
勇者と聞くとどうも疑心と不快感を抱いてしまう。というのも、前世でよく読んでいたラノベでちょうどクズ勇者ものが流行っていたせいか、それ以前の颯爽とした勇者像を抱けない。そして、この世界の勇者を知れば知るほど、彼等は首を傾げざるを得ない連中だという事がわかるのだ。
この剣と魔法の世界には勇者がいる。まぁ、勇者と言っても「勇者」という能力を授かっただけであり、俺に言わせれば本当の意味での勇者ではない。この世界の人々は、そんな奴等を勇者様と呼んで有り難がっている。
勇者とは社会正義や理不尽に虐げられた人々を守るため、困難に立ち向かい、何があっても諦めずにたった一人になっても不撓不屈の精神で戦い続ける者の事だと俺は思っている。正に俺が愛する前世のヒーローそのものだ。
然るに、この世界の勇者は「勇者」の能力で魔王と戦うだけの者だ。どうも俺が調べた限りでも勇者の中には授かった「勇者」の能力に溺れて随分とやりたい放題した者もいたという。一体どんな神がどんな基準で「勇者」の能力を授けているのだろうか?
また勇者は「勇者」の能力を授かった者の事なので一人とは限らず、大抵一国に複数存在する。このジギスムント王国にも当然何人かの勇者がいて、明日ラースブルグに来るという勇者も我国の勇者の一人だ。
更に勇者にはレアな戦闘系能力を持つ者達が従者として補佐に付く事となっていて、勇者は彼等とパーティを組む。これはアプロス教団が作り上げた仕組みで、「剣聖」「盾聖」「弓聖」「聖女」「魔法使い」などの能力を授けられた者が当てられる。必要によって他の能力持ちが加わったりするそうだ。因みにこれはどの国にも能力者にそれを強制する法律は無く、アプロス教団は元より他の教団にもそれを強制する聖典は無い不思議な制度だ。
「どうも今回のラースブルグでの元服の儀で「剣聖」を授かる者が出るって神託が王都の神殿で出たんだって。その新たな剣聖を仲間に迎えに来たんじゃないかって噂なの」
マークの話しを次いでプリシラが続けた。
「ふうん、剣聖ね」
この剣聖とやらだって「剣聖」の能力を、いや、キリがないから止めておこう。
「ねぇ、マリー、剣術が得意だから案外「剣聖」を授かっちゃったりしてね?どうするお兄さま?」
「無いですよ私になんて、そんな」
エミリーとマリーがそんな遣り取りを交わす。エミリーから俺に「どうする?」と振られたけど、もしそうなったら何だかんだ俺とマリーの婚約は解消させられるだろうな。もしそうなったらマリーはどうするのだろうか?思わずマリーに視線を向けてしまうと、目が合ったマリーからは「大丈夫ですよ?」といった微苦笑が返ってきた。可愛いな、全く。
まぁ、世の中には絶対は無い。エミリーとマリー、二人のどちらかが「剣聖」を授かる可能性は僅かであっても存在する。あの屑のジードですら「剣士」の能力を授かっているのだから。
〜・〜・〜
その晩、ライラ叔母から充てがわれた部屋で美少女の姿となったメルと取り止めのない雑談をした。メルと俺は就寝前に同じベッドの縁に並び座って雑談するくらいの仲にはなっている。
「何かな、勇者が来るとか嫌な予感しかしないよ」
メルは俺が魔法使いのライダーの能力で温め直したハーブティーを一口飲むと、カップをサイドテーブルに置いた。
「ホルストって、何でそこまで勇者を嫌うの?変なの」
そう言ったメルの姿は窓から差し込む月明かりで淡く光っていて、俺は思わずその美しさに息を飲んでしまった。
「?」
ん?という感じで小首を傾げる仕草も可愛い。
「いや、何かメルが綺麗過ぎて魅入っちゃった」
思わず思っていた事を口にしてしまうと、途端に頬を朱に染めるメル。
「ば、馬鹿じゃないの!いきなりそういう事を言わないでっていつも言ってるじゃない!」
「いや、だって、実際そうだし、」
「それでもいきなり言っちゃダメなの!」
この後、メルは怒って(照れて?)白猫の姿になると、布団の中に潜り込んでしまった。俺はメルって猫の姿だと甘えて来るくせに、人の姿になるとすぐ怒るのな、などと思いながら先に潜り込んだメルを追うようにベッドに横になって眠りについた。
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それでは次話もお楽しみに!




