第140話 撤退戦②
「みんな何か勘違いしているようだけど、俺達も残って戦うからな?」
アイーシャとメリッサは俺の言葉を聞くと嬉しそうにうんうんと頷き合う。
「ホルストはソフィア殿下の護衛任務があるだろう。俺達に構わず自分の成すべき事を成してくれ」
ディックが例によって偉そうに言い、クリスが何か言わんと口を開きかけたので先に声を上げて妨げた。
「俺達が受けた依頼はソフィア殿下の護衛だけじゃない。ここでくどくど説明はしないけど、勇者パーティの支援も含まれているんだ。だからクリスが残って戦うと言うのなら俺達も支援のため一緒に残って戦うって話だ」
「そうか。何か色々と済まないね」
クリスは俺の言葉を聞くと少ししゅんとなり、ボソリと呟いた。
「いや。それに」
と、俺はゾフィ達3人にチラリと視線を向ける。
「自分の女は何があっても守らなければならないからな」
「「ホルスト(兄さま)!」」
ゾフィとマリーはキャーと歓声を上げ、2人で手を取り合って喜ぶ。一方、ミシェルからは「私は?」といったジト目を向けられる。
"ホルスト、あの娘の気持ちには気付いているんでしょ?"
「ホルスト様、私は構いませんよ?」
「ホルスト、みんな平等に愛してくれるなら私も反対しないわ」
メルとアイーシャとメリッサから要約すると「女を待たせるな、男らしく決めろ!」という厳しいお言葉を頂いた。みんなここは戦場で今は地獄の撤退戦の真っ只中なんだけど忘れてないよな?さっきまでのシリアスな雰囲気はどこへ行ったのやら。
それでも何も言わない俺に女性陣から非難めいた視線が向けられる。わかってますよ、こんな時にこんな事を言うとフラグが立ちそうだけど、立ったら折ればいいもんな。
「ミシェル」
「は、はい」
急に畏まるミシェル。何か期待が込められた表情をしている。その期待は裏切らない。
「後で大切な話があるんだ。俺達の将来に関する大切な話だ」
コクリと小さく頷くミシェル。
「ミシェルの事は俺が必ず守るから、それまで待っていてくれるか?」
「は、はい。待ちます、いつまでも待ちますから!」
パァッという表現がぴったりな笑顔を浮かべると、一瞬ミシェルの全身からエメラルドグリーンの光が迸る。
「おぉ、これが愛の力か!」
ディックの奴が余計な感想を述べるも、メルからは及第点が貰えた。
“う〜ん、曖昧だし結局待たせちゃってるけど、まぁ合格ね"
“何か上から目線だね“
“そりゃあね、私は愛と癒しの女神ナルディア様の眷属ですからね“
そういえば、そうでしたね。
〜・〜・〜
撤退戦というものがこうも困難なものだとは、俺も実際に経験するまではわからなかったな。当たり前な話だけど、これ、単に現場から撤収するだけじゃないんだ。
敵と戦いながら退く訳だけど、敵は勝ちに乗じて勢いがあるし、それはヒトも魔物も同じ。対してこちらは負けているという意識と死への恐怖がある。そうした中で少ない戦力で敵を効果的に攻撃して進撃を遅らせ、且つ自らも後退しなければならないのだ。
しかも、この撤退戦は単なる撤退戦じゃない。敵は意思疎通など出来ない凶悪な魔物で降伏なんて出来ないのだ。更にその魔物の中には爆発する魔物、魔物爆弾が混じっている。
魔物を倒したら爆発、魔物が突っ込んで来ては爆発。これが敗走する将兵達の恐怖心を更に掻き立てた。
襲い来るオークやオーガなどの大型人型魔物の数が多く、安易な接近戦は数的劣勢にある敗走将兵達は忽ち包囲殲滅されてしまい、または魔物が爆発して甚大な被害が出てしまう。そのため距離を空けての戦闘をせざるを得ない。
といって皆が皆、そうした遠距離攻撃能力がある訳ではなく。クリス勇者パーティでは弓聖ゾフィが弓を射掛け、勇者クリスが風魔法で風刃を放つ。俺は3番目の平成ライダーのドラゴンヘッドアームから火炎を放射して魔物を遠距離から仕止め、或いは接近を阻んでジリジリと後退していた。
やがて周囲の友軍による迎撃が散発的となり、それまで抑えられていた魔物の群れが更に押し寄せるようになった。どうやら友軍は撤退戦に失敗して全面潰走となってしまったようだった。
そしてクリスが敗走する将兵を援護するようになると、彼等の一部がクリスの元に集まるようになった。そして彼等の口からジギスムンド王国派遣軍司令部の全滅、ランボルト将軍の戦死を知る事となった。
〜・〜・〜
現在の俺達の状況はというと、夕暮れを前に小休止中だ。俺は今までの戦闘で随分と魔力を使ってしまっていたけれど、大気中の魔素をこの小休止で十分に取り込んだので余裕がある。俺の能力「アクションヒーロー」による「戦隊ヒーロー化現象」で俺から能力を分け与えられているアイーシャとメリッサも大丈夫そうだ。しかし、クリス勇者パーティのメンバーはそうではない。
勇者クリスと盾聖ディックはその能力とそもそも体力に優れた男性なのでまだ幾分余裕ありそうだけど、それでも時折り辛そうな表情を垣間見せる。
それに対して弓聖ゾフィと剣聖マリーは明らかに疲労の色が濃い。聖女ミシェルに至っては回復魔法で負傷兵の救護をしつつの撤退だったので疲労困憊、息も絶え絶えといった感じだ。
流石にミシェルをそのままには出来ない。俺は自分の魔力を回復させると13番目の平成ライダーのアイテム「メディカルスイッチ」を使用。黄色い光に包まれたミシェルは忽ち魔力と体力を回復させた。
昼前に始めた撤退戦は6時間を経過し、既に陽は西に傾いている。前線から現場まで達するにもう6時間も戦いながらの撤退、距離にして16リーグほど。その間はほぼ休みは無く、水分補給はしつつも食事などは出来ずだった。
同盟軍が秩序だった撤退戦に失敗した結果、友軍は既に激減して追撃する魔物の群れも敵を求めて一時的に広範囲に戦場でバラけ始めていた。そのため皮肉な事に俺達が今の小休止を得る結果となっている。
ここで体力と魔力を回復させたら撤退を再開する。恐らくこの現場から要塞線までは凡そ6リーグ、多少ペースを早めれば日没までには到達出来る距離だ。
しかし、魔王国連合軍もこのまま逃してはくれないようだ。何処かに連合軍の斥候が潜んでいるのか、どうやら小休止中の俺達は敵に発見されたようだった。
「ホルスト、魔物がこっちに集まって来てる」
メリッサが身を寄せると声を顰めて報告した。
「わかった」
俺は頷くとアイーシャも呼び寄せ、これから先について考えている事を告げようとしたところ、先に言われてしまった。
「勇者様方を逃がすのですね?」
むっ、と図星を突かれて黙るとメリッサがすかさず追撃をする。何か、この2人って凄いコンビネーションなんだけど。
「私達が囮になるのね?まさか自分だけで、なんて考えてないわよね?」
「そんな事考えちゃいないよ。敵を引き付けるだけ引きつけたらクリス達には要塞線の向こうに行って貰う。俺達の脱出については考えてあるから心配しないで欲しい」
「はい、それはもう」
「信頼してるわ」
俺達は頷き合う。そして恐らくは素直に要塞線の向こうに行ってはくれないだろうクリスを嵌めるため、勇者パーティ内に内通者を求めてゾフィの元へ向かった。
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それでは次話もお楽しみに!




