第138話 心の傷
「マシンガンアーム!」
ラジャータを4番目の昭和ライダーの武器「マシンガンアーム」に変形させて今回は右腕に装着する。
「アイーシャ、メリッサ、俺が撃ち漏らした魔物を斬ってくれ。絶対に組み付かれないよう連携してな」
「「はい!」」
声を揃えて返事をする2人は、それぞれ俺の左右に位置すると抜剣して構える。
「クリス、そっちはどうだ?」
「あぁ、こっちもばっちりだ」
少し離れたクリス勇者パーティに声をかけると、戦闘準備が整ったとの事。彼等の陣形は後方から弓聖ゾフィの援護の元、盾聖ディックがパーティの前面で盾を構えて攻撃を引き付け、勇者クリスと剣聖マリーが攻勢に出るというものだ。
聖女ミシェルはゾフィの背後に控える事となる。そこは一応安全な位置となるものの、単体や少数の魔物では有効であっても、今回のような集団戦ではその限りでは無い。だから勇者パーティにも要塞まで下がって欲しかったのだけど、これは取り敢えず今後の課題にして今回は聖女ミシェルを守る為に4体もの戦闘用の強力な式神を俺が貸与してミシェルの周囲に配置している。
さて、準備も整ったようなので、早速おっ始める事にしようか。
〜・〜・〜
ギィエー!
無数の鉄棘が打ち込まれた棍棒を手にしたゴブリンの群れが遂に押し寄せて来た。俺はゴブリンが爆発する危険を考慮して長距離から躊躇う事無くゴブリンの群れにマシンガンアームの一連射を食らわせる。
ゴブリンどもは魔弾を浴びてバタバタと倒れてゆく。先の長い撤退戦だから魔力を節約してマシンガンアームの口径を抑え目にしてあるため、ゴブリンどもも被弾して倒れても身体が四散する事は無い。今のところ撃ち漏らしは無く、たまたまなのか群の中に魔物爆弾は混じっていないようだった。
その後もクリス達と連携してゴブリンの群れを屠り、まずはゴブリンの第一波を捌き切った。と、そう思ったその瞬間、
ドゴォォォン!
隣で戦うクリス勇者パーティの方から爆発音が響いた。どうやら魔物爆弾のゴブリンがいたようだった。
まずは勇者パーティの被害を確認しなければならない。勇者パーティの面々は神が加護も授けているからそう簡単に死なないし、また死なない限りどんなに重傷を負っても聖女ミシェルの回復魔法で治癒が叶う。とはいえ、受傷の程度によっては回復までに時間を要し、その間は誰かが無力な彼等を守らなければならない。
「ホルスト様?」
アイーシャが俺に指示を仰ぐ。俺を呼んだきり彼女の言葉は続かないけど、俺に向けられた目はどうするのか?と問うていた。
「2人とも、クリス達と合流しよう」
「「はい!」」
〜・〜・〜
クリス勇者パーティがいるのは俺達3人から離れる事、西側に約15メルテといった所か。魔法で強化した脚力なら数秒で着く。
俺の見たところ勇者パーティに負傷者は無いようだ。彼等の前には魔物爆弾が爆発したであろう50セメナ程の浅いクレーターが出来ている。
俺が「大丈夫か?」と尋ねるとディックは振り向きもせず只「あぁ」と応じ、クリスは立ったまま「大丈夫だ。何とか」と応えたものの、呆然として表情も無い。目の前で魔物が爆発したその光景と爆発音、そしてその威力に衝撃を受けてしまったようだ。
どうやらクリスとディックから離れていたマリーも同様で、クリスとディックを呆然として眺めている。
クリスよりも重症なのはディックだろう。彼は盾を地面に刺し(下部が尖っている)、片膝を突いまま肩で荒い息をしている。
この世界には爆弾や爆発物という概念がまだ無い。戦闘に於ける火力は火矢か火魔法による火球や火炎放射が専ら。この世界の者が目前で爆発を見たり体験したりする事などまず無い事だ。それが正に目の前で起きたのであり、彼等がショックを受けるのも無理は無いと言えよう。しかし、
(不味いな、勇者パーティが戦闘ストレス反応とか洒落にならない)
幸い魔物群の2波はまだ来ていない。混乱しつつも迎撃しているであろう友軍の援護をする余裕は無いものの、勇者パーティのために割くくらいの時間はある。クリスには悪いけど、ここはちょっと仕切らせて貰うとするか。
「マリー、ゾフィ、ミシェル、こっちに来てくれ」
大声で呼びかけると、3人は俺の元に集まって来る。
「ゾフィ、何があったか教えてくれ」
「えぇ、いいわ」
ゾフィが語るところによれば、襲い来るゴブリンの群れにクリス勇者パーティは連携し、効率良く迎え撃ってほぼ全滅させるに至った。
「だけど一体のゴブリンが仲間の死骸に隠れていて、不意にクリス目掛けて飛び掛かって来たの」
勇者と言えども流石に魔物爆弾に抱きつかれて爆発されたら、どうなるだろう?
おそらくは死なないまでも重傷を負って無力化されてしまう事は必定だ。あわやそうなるところを寸前でディックがクリスの前に入り込んでその聖なる盾で防いだという訳か。
「その途端、ゴブリンがピカッと光ったかと思ったら次の瞬間凄い音を上げて弾けたの」
しかし、そこは神より授かった「盾聖」の威力がいかんなく発揮されて爆発の衝撃と熱量と爆風を防ぎ切った。そのためディックは元より彼が庇ったクリスも怪我一つ無い。
ディックもクリス、そしてその一部始終を目撃してしまったマリー。彼等は神より「能力」の中の「能力」たる「勇者」「盾聖」「剣聖」を授かって生命力、身体能力共に頗る強化されている。しかし精神の方はその限りではないようなのだ。
これは「能力」を授かった者全般に言える事だ。「能力」により生命力、身体能力が強化されるため精神面が逆に脆く不安定になる傾向があり、勇者や盾聖や剣聖であっても例外じゃない。それを俺は「剣士」「剣聖」「勇者」で経験済みだ。
実際、クリス達3人は目前での魔物爆弾の爆発により明らかに動揺し、ぱっと見はPTSD一歩手前といった様相を呈している。心理的ショックが深刻化する前に対処する必要があるな。
「ホルスト、クリス達大丈夫かしら?」
ゾフィが心配そうに尋ねる。その後ろに佇むミシェルも心配そうだ。
「マリー、大丈夫か?」
「ホルスト兄さま?」
俺はまずマリーのケアに取り掛かる。一度両腕でギュッと抱き締めて背中を撫でてから少し離してその表情を見る。俺の呼びかけに応じて見上げるマリーの表情は案外しっかりとしていて、声にもしっかり力が込められていたので一先ず安心する。
「ホルスト兄さま、私は大丈夫です。私にはこうして抱き締めてくれる兄さまがいますし、兄さまに言われた通り頑張って修行しましたから。それよりもクリスさんとディックさんの方が深刻です」
マリーは俺に自分よりもクリスとディックのケアを促した。まぁその通りなんだけど、マリーも随分と成長したようだな。頼もしい限りだ。
「ホルスト様、魔物の第2波が迫ってます!」
アイーシャが崩壊した戦線の方から目を離さないまま魔物群の接近を告げた。アイーシャは狐獣人故に優れた聴覚と嗅覚で察知したのだろう。
俺は「わかった」と応じてマリーから離れ、地面に片膝突いて自らの盾に体重を預けたディックの前に回り込むと、ディックの背中を軽く叩く。
「ディック、流石だな。その盾とお前の咄嗟の防御がクリスを救ったんだぞ」
「そう、だな」
ディックは虚な目のまま力弱く応じる。
「そうだ。自信を持て。誇っていい。お前は勇者を護り切ったんだ」
俺はディックの反応を見ないまま、次に隣のクリスにも声を掛ける。
「クリス、パーティの連携もばっちりじゃないか。大したものだぞ?このパーティじゃなかったらさっきの攻撃で全滅していたはずだ。お前の、お前達の努力がお前達を生かしたんだ」
「うん、そうだな。僕達は上手くいっている」
さっと蒼白で無表情だったクリスの顔に赤みが戻り声にも力が入ると、クリスは徐にディックの前に跪く。
「ディック、有難う。お陰で助かった」
今の様子を見るに、クリスは幾らか持ち直したようだな。ディックは未だショックから脱し得ていないようだが。こうなったら奥の手だ。
「ミシェル、済まないけどこっちに来てくれ」
「は、はい?」
聖女ミシェルは俺から呼ばれると、小走りでこちらに駆けて来る。
「何でしょう?ホルスト様」
「時間が無い。クリスとディックに回復魔法をかけて欲しいんだ」
「え?お二人はどこかお怪我なされたのですか?」
「いや、どこにも怪我は無い」
「怪我が無いのにどうしてです?」
ううむ、食い下がるな。時間が勿体無いのだけど。まぁいきなり怪我の無い者に回復魔法かけてくれと言われたら詳細を求めるか。
「今、クリスとディックは目の前で起きた魔物の爆発で心に傷を負っているんだ。だから回復魔法でその心の傷を治して欲しい」
「心の傷、ですか?」
不思議そうに尋ねるミシェル。やはりこの世界には心的外傷の概念はまだ無いようだな。
「詳しく説明している時間が無い。傷を負っている心とその傷を癒す事をイメージして回復魔法をかけてくれないか?」
「…わかりました。やってみます」
聖女ミシェルは半信半疑といった感じではあるものの、二人に回復魔法をかける事を了承すると、両手を胸の前で合わせて回復魔法を発動する呪文を唱え始めた。
すると聖女ミシェルの身体からは淡いエメラルドグリーンの光が輝きだし、次いでクリスとディックもその光に包まれた。その効果は直ぐに現れ、二人は口元を引き締め瞳を燃やす。
やがて二人を包む回復魔法の光が消えると、すっかり、かどうかはわからないものの、クリスは俺と目が合うとしっかりと頷いて見せた。
「有難う、ホルストにミシェル。気分がとても落ち着いたよ」
「有難うな、2人とも」
ディックとクリスはしっかりとした足取り立ち上がると、そう言って自らの得物を片手で高く掲げて見せる。取り敢えず、この現場ではこれ以上悪くなる事は無いだろう。
「回復魔法をイメージ通りにかけたミシェルのお陰だ。それより間も無く魔物群の第2波が来るぞ」
アイーシャが捉えた気配の方向に先に放っていたホッパーを向かわせると刻々と迫る魔物の群れが脳裏に映し出される。
「どうも次が本番のようだ。第2波はゴブリンどころじゃない。もっと大型の、オークにオーガ、トロールがいる。流石に俺達でも手に余る。ソフィア殿下が逃げる時間は十分に稼いでいる。俺達もアルビオン要塞まで引いて態勢を立て直そう」
ソフィア殿下を逃がす戦いだからこの場は俺に指揮権がある!という俺の屁理屈が効いてか、クリスは「わかった」と頷いた。
となれば善は急げだ。
未だこの戦場では生き残っている友軍が魔物と戦い続けている。あるいは必死に敗走しているだろうか。しかしジギスムンド王国の貴族でも軍人でも傭兵でもない俺達親衛隊には彼等を救う義務は無い。まぁ余裕があればそれも吝かじゃないけど、ソフィア殿下を逃がすというミッションをクリアした今は俺達には勇者パーティを生き残らせるという裏任務が残っているからな。
案の定、勇者クリスは後退しながらも救える者達は救いたいようだ。却下したけど。
俺は「明日のために今日の屈辱に耐えろ。それが勇者だ。わかってくれクリス!」と某宇宙戦艦の艦長の台詞を引用してクリスを説得。そして俺達は襲い来る大型魔物群を相手に進撃よりも余程難しい撤退戦を開始した。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




