第137話 魔物爆弾
最前線の部隊から早馬の伝令により齎された情報。それは短く、魔王国連合軍の奇襲により戦線が突破され味方は総崩れとなったというものだけだった。そして魔王国連合軍はそのままこちらに向かっているという。
勿論、伝令がソフィア殿下の幕下に直接来た訳じゃない。同盟軍前線司令部に齎された情報がさらに司令部の伝令により伝えられたのだ。
という事は、前線が突破されたリアルタイムの情報ではなく、それなりに時間が経過しているという事か。不味いな。
前線を突破した魔王国連合軍部隊の戦力についての情報は無かった。何でも、早馬の伝令は満身創痍だったそうで、馬から降りて通信書を渡した途端に亡くなってしまったのだという。
おそらく伝令はローメリア帝国軍の軍人なのだろう。その伝令と友軍総崩れな状態から情報を後方の本軍に伝えようと機転を利かせた司令部の誰かしらには感謝しかない。何も知らないよりは心構えが出来るというものだ。ただ、そんな電撃戦を成功させられる程の戦力だ。贅沢を言えばせめてそれがどんな戦力でどんな兵器が使用されたのか知りたかったな。
とはいえ、俺達親衛隊は近いうちに魔王国連合軍が何かしら仕掛けて来る事をメリッサの占いによって知っていたからな。戦闘及び撤収準備は万端だ。
この事態にジギスムンド王国派遣軍ではランボルト将軍はソフィア殿下とは謀らず独断で麾下の全軍に迎撃を指示し、威力偵察隊を数隊出動させた。
俺は俺で敵部隊戦力の情報を得るため3番目の昭和ライダーのアイテムであるホッパーを飛ばして索敵を開始する。
「ホルストホッパー!」
毎度の事ながら自分の名を冠した技を使う時は羞恥心に悶える思いだ。特にこの「ホッパー」は両足を開いて左手腰に当て右腕を垂直に伸ばし、右手に持った筒状にしたラジャータから「ホルストホッパー!」と叫んでタ○コプターっぽい形状のホッパーを打ち上げなければならないのだ。そこは「ホッパー!」だけで良いのではないかと思うのだけど。まぁ、この技の本家であるV3も「V3ホッパー!」って叫ぶから仕方ないのかもしれない。
そんなポーズをしてホッパーを打ち上げた俺を親衛隊の皆が無言で見詰める中、上空を飛行するホッパーから戦場の映像が俺の脳裏に送られて来た。
魔王国連合軍の戦力は、魔物だ。正規軍ではなく、西方同盟軍と交戦しているのは魔物の大群。ゴブリン、コボルト、トロール、オークにオーガといったヒト型の魔物が土埃を上げて怒濤の如く押し寄せて来ている。
友軍は総崩れの敗走状態で、魔物の波に呑み込まれつつある。稀に仲間を逃がすためか立ち止まって数体の魔物を斬り伏せる猛者もいるけど、ん?その騎士の背に一体のゴブリンがしがみ付き、動きが鈍った騎士にもう一体が脚にしがみ付く。騎士は必死に振り払おうとするも、次の瞬間騎士にしがみ付くゴブリンが二体とも爆発した。
爆発⁉︎
爆発したゴブリンは勿論の事、二体のゴブリンにしがみ付かれた騎士の身体は四散して跡形も無い。
それほどの威力のある爆発力とは。どういう事だ?
ホッパーを上昇させてより広く戦場を俯瞰すると、戦場のあちこちで大小の爆発が見られた。
魔物は何か爆発物を背負うでも巻き付かせているでもない。ならば体内に爆発物を埋め込まれている?魔物の脂肪や蛋白質が爆発的に燃焼する薬物でも投与されているとか?それとも爆裂術式でも仕込まれている?
そんな爆発物や薬物や術式がこの世界にあるのかどうか。丸谷先輩の知恵の杖に尋ねている余裕なんて無い。
しかし、これは、これではまるで某無敵超人的なロボットアニメで敵が使った人間爆弾そのものじゃないか!この場合は魔物爆弾とでも言うべきか。
魔物の群をよく見てみると全ての魔物が爆発する訳ではないようで、比率はわからないけど、通常?の魔物の中に魔物爆弾が混じっているようだ。しかもより大きい魔物ほど爆発力も大きいみたいでもある。
やってくれたものだな、魔族どもめ。これは禁じ手だろうに。魔物でこれをやるとなれば捕虜にした友軍兵士や難民でも文字通り人間爆弾にして使わない訳は無いのだ。
そりゃあ戦線も崩壊するはずだろう。魔物の数が多いとはいえ、単なる魔物ならば友軍も数の多さに苦戦するにしてもどうにか対応出来るはずだ。しかしその中に爆発する魔物が混じっているならば、それがいつどこでどれが爆発するのかわからないとなれば対処は困難。
そもそもこの世界には爆発物という概念が無い。火薬は発明されて無いし、気化燃料もそうだ。あっても鉱山で稀に起こる粉塵爆発くらいだろう。目の前で爆発が起きる、魔物が爆発する、しかも上官や戦友や部下を巻き込み、戦死体も惨たらしい。そんな初めて経験する事態の戦場で即応するのは無理というものだ。
と他人事のように考えている場合じゃない。もうじきその魔物の大群がここにも押し寄せてくるのだ。
「みんな近くに集まってくれ!」
俺は親衛隊を全員集めと、俺がホッパーで見た光景を伝えてティグル達「夜明けの星」組に現場からの脱出を命じた。
「兄貴はどうするんですか?それにソフィア殿下の護衛は?」
「俺とアイーシャとメリッサはお前達が脱出する時間を稼いでから後を追う。これから俺は殿下にアルビオン要塞への退避について意見具申する。もう猶予が無い。却下されたら周りの連中を俺が無力化するからお前達は殿下を縛ってでも連れてアルビオン要塞まで逃げろ」
俺の「殿下ふん縛って連れて逃げろ」発言に皆は「それってどうなの?」という感じで黙り込む。いやいやいや、俺何も間違った事言ってないよな?
「俺達の任務は他がどうなろうとソフィア殿下を守って生きて国に帰す事だ。ここで下手な尊厳か何かのために死なせるためではない」
俺が「わかるな?」と念押しするとティグル達は「わかりました」と返事をする。まぁ今は理解はしなくても良い。俺の指示を守り、実行して皆が欠ける事無く生きて国に帰る事が出来れば良いのだ。
「でも、そうしたらホルストさん達が」
「私達は大丈夫よ。無敵のヒーローがいるんですからね」
エマに最後まで言わせず、アイーシャが皆を安心させるよう穏やかに、それでいて確信をもって断言した。
それからティグル達にソフィア殿下の天幕周囲を固めさせると、俺はアイーシャとメリッサを伴って殿下側近のエミリーに殿下への目通りを申し入れた。幸いにも殿下の天幕にはクリス勇者パーティも来ていたためあっさりと殿下の前まで通される。そこには殿下の側近達から身辺警護の白百合騎士団まで揃っていた。どうも前線での事態について話し合っていたようだ。
「ホルスト親衛隊長、何事ですか?」
殿下の前で片膝をついて畏まる俺にシンシア女史が問い掛ける。俺は自身で掴んだ敵の情報を伝える。
「前線を突破したのは正規兵ではなく魔物の大群です。その中に自爆する魔物も少なからず混ざっていて、友軍は敗走状態。間も無くこちらにも到達するでしょう」
「自爆する魔物って、ホルスト親衛隊長、それは本当ですか?」
俺が黙って頷くと皆が息を呑む。俺に索敵能力があり、嘘を吐くような人物ではないと周知されているようで、根拠だ何だと騒ぎ出す者はこの場にはいない。
「殿下、もう一刻の猶予も有りません。我等親衛隊が全力で時間を稼ぎます。直ちにアルビオン要塞までお下がりください」
「ホルスト親衛隊長、あなたを疑う訳ではありません。しかし前線からの第一報で現在ランボルト将軍が迎撃態勢を整えています。ここで殿下だけが下がるのは全軍の士気に影響しかねません。せめて迎撃態勢が整うまで待てませんか?」
シンシア女史が至極真っ当な意見を述べた。それが正論だ、だがしかし、もうそんな悠長な事を言っている場合では無い。
ドガーン!ビリビリビリ
と、そこに爆発音が空気を振るわせ、地響きが伝わって来た。ここに居る殆どの者がビクッと一瞬身を震わせた。いや、ほら見た事か!なんて思ってないよ?そんな余裕なんて無いからな。
「お兄さん、ランボルト将軍は、」
「殿下、残念ながら間に合いません。殿下には生きて頂き、アルビオン要塞で残兵の指揮を執って再起を図って頂かねばなりません」
迎撃するより要塞まで引くのがベストだ。ベストだからってそう出来ないのが世の中な訳だけど。ランボルト将軍もきっとわかりながらも立場上そうせざるを得ないのだ。だから伝令の一報以来ソフィア殿下に諮らず独断で全軍に迎撃を下命し、もしかしたらクリス達がここにいるのもランボルト将軍の図らいかもしれないな。要は王族と勇者にここで死んで貰っては不味いという事だ。
ソフィア殿下は両目を閉じて一回深呼吸をすると覚悟を決めたのか、徐に両目を見開きそこに居る全員を見渡した。
「お兄さん、いえホルスト親衛隊長の意見を良しとします。私の権限を持って現時点でこの居所と資材を放棄し、アルビオン要塞まで転進します。総員、直ちにかかりなさい」
ソフィア殿下の決断に天幕内に居た者達は慌しく転進という名の撤退にとりかかる。殆ど身一つで逃げ出すようなものだ。ふと視線を感じると、シンシア女史とアマーリエ分隊長に促され天幕を後にしようとするソフィア殿下が振り向いて俺を見つめていた。俺は「よく決断したな、偉いぞ」という思いを込めて頷いてみせると、ソフィア殿下は泣き出しそうになりながらも微笑んで頷き返し天幕を後にした。今なら俺達が頑張れば殿下達は要塞まで辿り着く事が出来るだろう。
「お兄さま」
「エミリー、お前も急げ。時間が無いぞ」
エミリーは返事をせず、じっと俺を見詰める。
「お兄さまだからきっと大丈夫だと思うけてど、絶対死なないで。必ず帰って来てね」
いつになく真剣な面持ちのエミリー。こんな時だから当然か。
「当たり前だ。あんな魔物の群れなんかサクッと焼き尽くしてさっさとお前達の後を追うさ」
エミリーは「看破」で俺の言葉に嘘が無いと見抜いたのだろう。先程から一転して笑顔を見せると「じゃあ先に行ってるね」と言ってソフィア殿下の後を追った。
「ホルスト、俺達もここに残って戦うぞ!」
盾聖のディックがそう言って俺の肩を叩く。振り向けばクリス勇者パーティの面々が揃っていて皆が盾聖の言葉に頷いた。
勇者パーティ、特に勇者クリスにはここに残らずソフィア殿下達と一緒にアルビオン要塞まで下がって欲しかった。恐らくジギスムンド王国のもう一つの勇者パーティ、マグヌス勇者パーティはランボルト将軍から要請されてアルビオン要塞に下がり、ソフィア殿下を救出する運びになっていると俺は思っている。どうもランボルト将軍は二つある勇者パーティをそれぞれ理由を着けて別行動させ、常にどちらかのパーティがソフィア殿下の側にいられるよう腐心していたようなのだ。
ここでクリス達と下がれ、いや戦うぞと問答をするだけ時間の無駄に時間がかかってしまう。
「これはソフィア殿下を護衛する戦いだからここで戦うというのなら俺の指示に従ってくれ。クリス達も殿下が無事にアルビオン要塞に着いたらタイミングを見て要塞に引き揚げろ。いいな?」
「あぁ、わかった!」
俺としては意外な事にクリスもディックも素直に了解した。もっと渋るかと思ったけどな。
"勇者は魔族と戦い、魔王を倒す存在なのよ。目の前に魔王に使役されている魔物がいるから戦いたくてしょうがないんじゃない?しかもこれは彼等にとって初陣だからね。張り切っているのよ"
肩から下げるベビースリングから顔を出して白猫のメルが俺を見上げる。メルからの念話には納得だな。確かに勇者は元より他のメンバー達も顔が上気し、この状況に怯えるどころか少し興奮気味に見える。ただ聖女ミシェルはやや不安気だ。
"大丈夫なのか?勇者の勇が蛮勇の勇であっては困るんだけどな"
"ホルストが鍛えたパーティでしょ?心配ならあなたが手綱をしっかり取ればいいのよ"
まぁ確かにね。俺の指示に従うとも言っているしな。
「ホルスト、私の矢が常にあなたを守るからね」
「私の剣が兄さまの背中を守ります!」
「マリー様、生憎ですけどホルスト様が背中を預けるのは私だけなんですよ?」
と、何故か魔物の大群を前にしてゾフィとマリーとアイーシャが睨み合う事態に!
「ちょっと、今そんな事してる場合?」
メリッサのフォローに3人は顔を見合わせて笑い出す。なんかみんな余裕有り気なんですけど?。魔物爆弾混じりのスタンピードとか、前代未聞の事態なんだけどな。
"みんなはホルストがいるから落ち着いているのよ"
"そうなのか?俺の存在が皆の安心材料になるなら良しとするか"
天幕から出ると土埃が見え、魔物の大群はもう間近に迫っていた。ソフィア殿下と側近達は白百合騎士団に警護されて既にその姿は無い。ティグル達にもソフィア殿下を護衛させ、共に要塞まで下がらせてこの場にはいない。
かなり皆からは抵抗されたけど、そこはミリーとリグの年少組の存在を匂わせ、更に「命令だ!」で了承させた。この状況はまだあの子達にはキツいからね。
よし、これで後顧の憂いは無くなった。
俺の左右にはアイーシャとメリッサがいて、そしてクリス勇者パーティが迫る魔物どもに構える。さて、これから忙しくなるな。「アクションヒーロー」全力全開で行くか!
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




