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第136話 親衛隊とは恐れられてこそ

クリスの勇者パーティが視察に訪れたのはジギスムンド王国派遣軍のとある重装歩兵部隊。大楯と長槍を装備して密集陣形をとる、所謂ファランクスって奴だな。


この歩兵は無論貴族では無く、部隊は平民の志願兵からなる。彼等は2期4年以上の軍務を務め上げると国王より名誉除隊者の称号を授与され、その後軍務に就いて教養や技術のある者として王室直轄領で下級役人として登用されるなど社会で優遇されるという。


つまり、この歩兵達は無事に軍務を務め上げられた暁には平民としては名誉と安定した人生が待っている訳だ。しかし、平時なら兎も角、今は戦時。勇者パーティを前に見事に整列する彼等の内、果たして幾人がそうした未来を手にする事が出来るだろうか?


クリスが短い演説と共に檄を飛ばすと、重装歩兵達は長槍を高く掲げ鬨の声を上げて檄に応え、更に国王や祖国への忠誠を唱え始めた。


国王陛下万歳!

ジギスムンド王国万歳!

勇者クリスに栄光あれ!


クリス達が彼等に向かって拳を掲げ、歩兵達の興奮度は頂点に達した。


「…兄貴、何か凄いですね」

「って言うか、恐いです」


ティグルとエマは歩兵達の勢いに引き気味だ。


「これから戦いに出る訳だからな。ああやって集団で叫んだりして戦意を高めたりして恐怖に打ち勝つ必要があるんだよ」


「そうなんですね」とエマが俺の傍で呟いた。


「人は誰しも好き好んで殺し合いなんてしたくないものさ。だけどそんな綺麗事だけで生きてはいけないのが現実だ。俺達は生きる為にやむを得ず命の遣り取りをする冒険者になったけど、あの兵士達は元々平民だからな。平穏に生まれ育った彼等が兵士となり、更に戦場に立つにはああした儀式が必要なんだ」


ティグルは俺の言葉にうんうんと納得するように頷いた。


「ホルストさん、私達は貧民街で生きる為に徒党を組み、そして今は冒険者になってます。その人生を数奇とは思いますが、私は決して不幸だなんて思ってません」


「そうか。それなら良いけど」


「だってそのお陰でホルストさんと出会えて、こうして一緒に居られるし…」


エマの「だってそのお陰で」の後は残念ながら兵士達の雄叫びで掻き消されたため聞こえなかった。でも下を向いて恥ずかしそうにもじもじする仕草に、おそらくエマが何か気恥ずかしくなるような事を言ったのだろうと想像出来た。


と、そこへ一羽の鳩が俺の元に飛来して来た。俺の左腕に止まった灰色の鳩は俺がアイーシャに与えた連絡用の式神。この式神の鳩が来たという事はアイーシャ達に何かがあったのだろう。


左腕に止まった灰色の鳩に耳を寄せるとアイーシャの魔力を感じる。


「ホルスト様、バルモンド伯爵家の騎士達に親衛隊の天幕が囲まれました。伯爵は私の身柄引渡しを要求しています。至急お戻りを」


メッセージを告げた式神の鳩は途端に紙に戻り、ひらひらと地面に落ちる。


バルモンド伯爵か。俺はちょいワル風な口髭伯爵の容貌を思い出した。


そいつは前にアイーシャに一目惚れしたとか言って言い寄り、本人に手酷く拒絶されるや俺にアイーシャを寄越せと脅して来やがった奴だ。その後もアイーシャを渡すなら言い値で金を払うなんてふざけた事を言って来やがったな。ランボルト将軍から警告を受けて大人しくなったけど、いよいよアイーシャ欲しさに狂っちまったようだ。


こっちが平民だからって舐めやがって。脅されようが、金積まれようが、拉致に及ぼうが大事な恋人を誰が渡すかっての!


「ティグル、エマ、親衛隊のテントがトチ狂った貴族共に包囲されたそうだ。すぐに戻るぞ」


「「!!、はい!」」


俺は更に近くにいる聖女ミシェルに事情を話し虎獣人兄妹を連れて現場を離れた。


〜・〜・〜


⭐︎ アイーシャ視点


また厄介な奴が厄介な事をしてくれたものですね。はぁ、全く、美しいって罪な事です。


冗談はさて置き、まずはこのイカレた伯爵がこれ以上おかしな事をしでかさないよう言いくるめ、ホルスト様が来るまでの時間を稼ぐとしましょうか。


「バルモンド伯爵、これは何事ですか!」


私が天幕から出て問い糺すと、バルモンド伯爵ほホルスト様が言うところの"ヤリサーのボス"みたいに相好を崩しました。でも"ヤリサー"って何なのでしょう?語感で何となく意味を察しますが、ホルスト様は訊いても教えてくれなくって。


「アイーシャ、私のために出てきてくれたのかい?勿論君を迎えに来たんだよ」


迎えに来た?意味がわかりません。私の居場所は唯一ホルスト様の傍らだっていうのに。


「さぁおいで、私の元に。君をあの薄汚く無礼な平民の男から解放してあげよう」


バルモンド伯爵は自家の騎士達の間から数歩前に出ると両腕を開きました。本当に気持ち悪い男です。権力に飽かせて好き放題、自分は家臣達に守らせ安全な場所からホルスト様を悪様に罵って他人の恋人を奪おうなんて、正に下衆の極み!人間の屑!


「私には大切な旦那様がいるからと何度もお断りしているはずですが?それにこのような事しでかして、ここが王女殿下の居所である事を理解していますか?既に殿下には知られているでしょうが、さっさと兵を引き上げた方が身のためですよ?」


「貴様!伯爵に無礼だぞ!」

「平民の分際で驕るな女!」

「我等は兵ではなく騎士ぞ!」


私の言葉に伯爵本人よりも周りの騎士達が騒ぎ出す。全く、弱い犬ほど良く吠えるとは良く言ったものですね。


「こんな事してただで済むと思ってるの?この変態伯爵!」


「ホルストさんに鍛えられたウチらを舐めないでくれる?この勘違いキモオヤジ!」


いつの間にか天幕から出ていた猫獣人姉妹のリラとミラが口々に伯爵を罵り、メリッサも腰間の秋水に手をかけて伯爵を睨んでいます。


「何と言われようが私の君への想いは変わらないさ。ソフィア殿下に知られようが小娘に何が出来ようか。それに我が伯爵家は古くからの第1王子派なのでね。王太子殿下も多少の事は目を瞑ってくれるのだよ」


バルモンド伯爵はリラとミラの罵声など意に介さず、サラッとソフィア殿下への不敬を口にした。


「その王太子殿下が私達にソフィア殿下を守るよう依頼したんですけど?その辺を理解してますか、(やから)伯爵?」


(やから)伯爵」だなんて、メリッサも上手い事を言いますね。


「まぁ何とでも言えば良い。親衛隊などと勇ましく名乗っても所詮は女子供の集団だ。あの平民の男もいない今、我が伯爵家の騎士達に抗する手立ては無いだろう?全く、手を煩わせて困った()だ。私の求めに素直に応じない君が悪いのだよ?」


バルモンド伯爵が傍らの騎士に「女共を捕らえよ」と命じると、騎士達は皆抜剣して私達を捕らえるべく左右に展開し始める。


あ〜あ、殿下の居所近くで剣を抜いちゃいましたか。ですが、そろそろ頃合いでしょうか。私とメリッサは顔を見合わせて頷き合います。そうです、ホルスト様が助けに来てくださいました。


〜・〜・〜


俺がティグルとエマを連れて親衛隊の屯所にしている天幕に戻ると、そこは20人ほどの騎士と従卒によってすっかり囲まれていた。


(トチ狂いやがって。自分が何やっているのかわかってるのか、あのおっさんは)


小物臭漂わすバルモンド伯爵。俺はその様に留年を繰り返して怪しいインカレイベントサークルのボスの座にしがみついてイキっていた前世の先輩を思い出す。


なのでティグルとエマに待機を命じ、魔法で脚力を強化して跳躍。アイーシャ達を囲むバルモンド伯爵と家臣団の頭上を飛び越えて着地だ。


「「「「ホルスト(様、さん)!」」」」


俺は彼女達を安心させるべく片目を瞑ってみせ、そしてバルモンド伯爵と対峙する。


「風に呼ばれて来てみれば、伯爵、どういう事だ?お前、自分が何をしているのかわかってるのか?」


「くっ、調子に乗るなよ孺子(こぞう)。何が親衛隊だ、何が上位金級冒険者だ。アイーシャは、この美しい狐獣人の娘はお前のような平民には勿体ない。私にこそ相応しいんだ」


語るに落ちるとはこの事か。本音が漏れたな。


「何だ、要するにお前、俺に嫉妬していただけか。その腹いせにアイーシャを奪おうとか、情けない野郎だな」


「黙れ!やれ!男は殺せ、女共を捕らえよ!」


図星か。そっちがそのつもりなら相手になってやろう。久々に「アクションヒーロー」解放だ。


「みんな、下がっていろ」


俺はアイーシャ達を後方へ下がらせると、片肘を地に着き右拳を地面に突き立てる。そして一斉に襲いかかるバルモンド伯爵家の騎士共へ高圧の電流を放つ。


「エレクトロファイヤー!」


言わずと知れた7番目の昭和ライダーの技だ。俺の右拳から放たれた電流は青い稲妻となって地を走る。更に幾筋へと別れた雷の蛇達は迫り来る騎士共に襲いかかってスパークした。


騎士共は感電して身体を硬直させると「グアッ」とか「グギッ」という悲鳴を上げて丸太のように倒れていった。


「ラジャータ、ロングポール!」


俺はラジャータを召喚するとロングポールに形状変化させる。そして左大腿をグッと上げ、ロングポールを八相に構えてるとアイーシャ達を捕えんと向かう騎士共に向けて水平に振り抜いた。


「ホルストホームラン!」


これは俺が作った5番目の昭和ライダー(X)のロングポールに7番目の昭和ライダーの電気技で発生させた電磁波を纏わせた複合技である。ロングポールに打たれた物体は電磁波の反発力によってロングポールを振り抜いた方向へすっ飛ばされるという訳だ。


騎士や従卒共はロングポールに打たれるや、次々と弾かれて某タイム○カンシリーズの3悪人若しくはロケット団の迷コンビよろしく飛ばされて行く。


「…」


騎士も従卒も白煙を上げて倒れ、或いはホルストホームランでかっ飛ばされて伯爵を守る者は今や誰もいなくなった。


「さて、孤立無援のバルモンド伯爵閣下。俺の女を奪わんとしでかしたこの事態、どう責任を取るんだ?幸いここは戦地だ。目撃者も少ないし、一つ名誉の戦死といこうか。アンタ、色んな女に手を出してそうだから伯爵家は後継者に困る事も無さそうだ。尤も、後継者候補が多過ぎて随分と揉めるかも知れないけどな」


自慢の騎士団(の一部)を失い(殺してはいない)、いつの間にかティグルに背後から腕を捻り上げられて膝を突かされ、エマにナイフを首筋に当てられ身動き出来なくなったバルモンド伯爵に俺は今後の運命を告げてやった。


「平民の分際で伯爵たるこの私にこんな事をしてただで済むと思っているのか?す、すぐに私を解放しろ」


「この期に及んで強がりとは、流石は貴族様といったところか。だけどアンタはこれから魔族の挺身隊と遭遇して名誉の戦死を遂げるんだ。強がるだけ無駄だぞ」


「ま、待て、女はもういらない。手を引く。だから殺さないでくれ」


伯爵は俺の軽い脅しに命乞いをし始めるも、そこは敢えて無視し、俺はブレードソードに形状変化させたラジャータを殊更大きく振りかぶり、


「チィエストォォー!」


態とらしく猿叫を響かせ伯爵の頭上に振り下ろした。


「ひぃっ」


勿論寸止めである。だけど伯爵は悲鳴を上げてそのまま白目を剥いて意識を失った。


「ぷっ、とんだ小物ね。あ、失禁してるw」

「「汚ぁ〜い!」」


「うわ、臭え!」

「兄さん、こっちに寄らないで」


メリッサが口火を切ると皆から次々に気絶した伯爵を小馬鹿にし始めた。アイーシャを奪わんと一個小隊もの騎士を引き連れて乗り込んでみれば返り討ちに遭い、挙げ句の果てに脅されて意識を失って失禁だもんな。


「申し訳ありません、ホルスト様。助けに来て頂いて有難う御座います」


アイーシャは駆け寄って来ると、ペコリと頭を下げた。その可愛らしさに思わず目の前に晒し出されたアイーシャの狐耳を堪らず撫でくり回す俺。


「ホ、ホルスト様、みんなが見ています」


「ご、ごめん」


恥ずかしがるアイーシャもまた良きかな良きかな。


その後、俺はソフィア殿下とランボルト将軍にバルモンド伯爵の暴挙を報告し、拘束した伯爵本人と回復させた騎士共の身柄を憲兵隊に引き渡した。バルモンド伯爵は大激怒したソフィア殿下とランボルト将軍に従軍貴族としてのすべての権利と権限を停止させられ、後日正式な軍事裁判にかけられるまで派遣軍司令部で拘置し続ける事となった。伯爵家から俺達への謝罪や慰謝料はその裁判で決まるらしい。まぁ精々吹っかけてやるか。


バルモンド伯爵の愚行は忽ちのうちにジギスムンド王国派遣軍の間で知れ渡り、親衛隊の女子達へちょっかいをかける痴れ者は出なくなった。それはそれで面倒事が減って良かったのだけど、親衛隊は伯爵家の騎士団を叩きのめした上に当の伯爵を蟄居させた(うそ!)アンタッチャブルな存在として恐れられるようになった。まぁ親衛隊とは恐れられてこそだからな。


そんな事があった数日後、最前線から早馬の伝令が到着した。その伝令が齎した情報は西方同盟軍の戦線が魔王国群の奇襲によって突破されて崩壊したとの一報だった。


いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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