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第133話 勇者クリス、斯く語りき

初めて自分以外の勇者と会った。


この世界に自分以外に「勇者」の能力を神から授かった者がいる事は当然知っていた。そもそも1国に1人か2人しかいないのが勇者というもの。だから同じ国の勇者同士だって顔を合わせるのは稀で、一生に一度そうした機会があるかどうかと言われている。


現在、ローメリア帝国のカブラチッド回廊において、魔王国軍が自軍の要塞地帯に大規模な戦力を集結しつつあり、且つ緩衝地帯での蠢動を繰り返すためローメリア帝国との軍事的緊張が高まっていた。ローメリア帝国皇帝は魔王国軍の戦力規模から大規模な攻勢ある事を懸念し、西方同盟規約に基づき同盟国に援軍の派遣を求めた。


となれば、魔王を倒す事が神より与えられた使命であるのが勇者だ。魔王を倒しその使命を果たすべく、その出現に備えて各国の勇者達も戦場に集うのが道理と言えよう。


そうした中で俺は勇者マグヌスとソフィア殿下の天幕の中で出会った。筋肉で覆われてガッシリした長身に浅黒く精悍な顔つきの男前。既に勇者の能力も使いこなし、剣闘士出身故に剣捌きも巧みで「(つるぎ)の勇者」の二つ名を持つ実力者だ。


周囲に圧倒的な存在感を放つ勇者マグヌス。俺はその圧力から後退りしたくなる心を奮い起こすと、一歩前へと徐に歩を刻む。


(臆するな。俺だって今までホルストから特訓受けて鍛えられているんだ。あのホルストからだぞ!)


俺は厳しくも的確な指導を施すホルストに感謝しつつ、最悪だったホルストとの出会いを思い出していた。


俺は彼との決闘に及び、結局自分は勇者であるにも関わらず手も足も出せないで一方的に嬲られた。聖女ミシェルがその場で降伏しなければ俺はそのままホルストに殺されていただろう。まぁ、あの時の事は俺が全面的に悪いのだけど。


あの時の決闘は悪夢のように今でも時折思い出される。そして考えてしまうのだ。もしあの時に戻ったならば、俺は剣聖マリー・マイルスターの手を取っただろうか?と。


剣聖の手を取らなければ、その後の俺とホルストとの決闘は起こらなかった。成す術も無く半殺しにされる事態は避けられただろう。


しかし、そうであればその後の俺はどうなっていたか?俺はきっと侯爵家の長男として無駄にプライドが高く、更に「勇者」の能力を授かった事で増上慢となって鼻持ちならないクソ野郎のままであった事だろう。


実力も無く、「勇者」の能力に胡座をかいてその能力も十分に引き出せず、パーティはバラバラで。それでも自分の過ちは認められず、そのため誰からも見放され、魔王討伐など見果てぬ夢で孤独なまま魔王国軍との戦いで死んでいたかもしれない。


だから俺はあの時に戻っても剣聖の手を取り、ホルストから半殺しにされる。真に勇者となるために。


俺の心はきっとあの決闘で一度死んだのだ。そしてホルストの「優しさの無い強さは単なる暴力だ。ー略ー 強さは優しさであり、誰よりも強く優しい、それが勇者だ」という言葉で「勇者」の能力を授かっただけの貴族の馬鹿息子は真に勇者として生まれ変わったのだ。


その後、弓聖ゾフィがホルストの恋人となったのは幸いだった。そのお陰で俺もホルストと交流を持てるようになり、更には俺達が国王陛下から下賜された館にホルスト達が居候する事となると、彼からその対価として様々な教えを受ける事が出来たのだから。


そうしてホルストに鍛えられた俺は強力な風魔法を駆使する「風の勇者」と呼ばれるまでになった。そう、今の俺は悪夢そのものであったあの決闘で生まれ変わった。だから自信を持って言える、俺は「風の勇者クリス」なのだと。


俺は目を瞑り一度深呼吸して心を落ち着かせると、一歩前へと進む。


「勇者マグヌス、初めまして。私はクリス・マクロイド、風の勇者と呼ばれています」


〜・〜・〜


見た目に反して、と言っては失礼だけど「剣の勇者」マグヌスは実に紳士的で、強さと優しさを併せ持つ勇者だった。話をする内に勇者同士打ち解け、話題は俺のパーティを支援するホルスト率いる親衛隊についてとなった。


「一見、優男が率いる女子供のパーティに見えるが、中々どうして皆凄い実力者ばかりだね」


勇者マグヌスはその鋭い眼差しを天幕の隅でマグヌス勇者パーティのメンバー達と談笑するホルストと親衛隊に走らせると、彼等についてズバリと言い当てた。


「流石ですね、わかりますか?」


強者は強者を知る、という事だろう。


「それは勿論。しかもホルスト君だっけ?彼は特に凄まじいな。俺達パーティが総掛かりでも果たして勝てるかどうか」


それはそうだろう。ホルストとの決闘で死にかけた俺にはその気持ち、よくわかる。


「一体彼、何者だい?」


勇者マグヌスがそう率直に尋ねるも、ホルストの為人以外の情報を俺が第3者に教える事は出来ない。常識として他人の能力について無闇に口にしてはいけないのは俺も理解している。


「彼は俺の師です。申し訳ありませんがそれしか言えません」


「ふむ」


勇者マグヌスは黙考すると肩を竦めて見せる。


他人(ひと)の能力を聞き出すつもりはなかったが、些かマナー違反だったね。いや、済まない事をした」


「いえ、私としては是非ホルストと話をしてみる事をお勧めします。何か感じる物があるかもしれませんよ?」


〜・〜・〜


その夜はそのままソフィア殿下の天幕で夕食を振る舞われた後に解散となった。ゾフィとミシェルとマリーは親衛隊の天幕に寄るようだが。俺にも盾聖デーリックにもそこに含むものは特に無い。確かに彼女達は素晴しい美人揃いではあるが、俺にもデーリックにも最愛の婚約者がいるのだ。


ホルストの周りには彼を慕う美女や美少女達が集まってハーレム状態となっている。羨ましいとか思う者も嫉妬する者も多い事だろう。だがホルスト達を見ていると現実のハーレムはそう良い物ではなさそうだ。


ホルスト達と共に暮らし、身近に接してみて良くわかった。ホルストがいかに彼の恋人達に対し互いの嫉妬や不平等が生じないよう気を配っているか、そして彼の恋人達がホルストを自分達以外に奪われないようガッチリと囲い込んでいるのかが。


以前にデーリックと駄弁っていた時、ホルストのハーレムについてが話題となった事があった。勿論誰にも聞かれないようにして、だ。


「なぁデーリック、ホルストのハーレムって羨ましいか?」


「いいや、ダイアナがいてくれたらそれだけでいいよ、俺は」


ダイアナというのはデーリックの婚約者だ。デーリックの実家と同格の騎士爵家の娘で、一つ年上の幼馴染なのだそうだ。一度彼女の姿絵を見せて貰った事があったが、黒髪のちょっと吊り目で気の強そうな美人だった。


「うん、俺もリリアがいればいいかな」


リリアは俺の婚約者。3歳歳下の従姉妹で、ドルフレン伯爵家の次女だ。お互いの母親同士が姉妹で、ってそれはこの際どうでもいいか。リリアはちょっと癖のあるふわりとした金髪に笑顔が映える美少女なんだ。彼女を思うといつも心が暖かくなる。


それはさておき、ゾフィは既にホルストの恋人で、マリーは俺が馬鹿やったせいでホルストとは婚約が解消されてしまったが、今は彼の恋人に返り咲いている。ミシェルは、うん、頑張ってくれ、君を応援してる。ミシェルによれば「あともう一押しで落ちる!」らしいが。


因みに剣聖として勇者パーティに加わったマリー、俺達との連携は上手く行っている。しかし俺は、仕方の無い事だが、彼女から少し距離を置かれている。


「メルダリス様やアイーシャさん達からも受け入れて貰って、外堀は埋まってるんですから。後は突撃あるのみ!」


ミシェルの勇ましい覚悟を聞き、思わずホルストの寝室に突撃するミシェルを想像してしまった。それにしても、メルダリス様って誰なんだ?


〜・〜・〜


ジギスムンド王国からローメリア帝国のカブラチッド平原に到着し、早くも数日が経過した。前線であるアルビオン要塞戦からは魔王国軍に大きな動きが見られるとの報告が入ってそうだ。


報告を受けてローメリア帝国のリチャード・ライオネル皇帝は同盟国軍の司令官達も列する御前会議を招集した。そして、そこでついに西方同盟軍の総兵力により魔王国軍を包囲殲滅するとの命を下した。


いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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