第132話 聖女って勇者より大変なのかも
「親衛隊?はっ、そんな優男と女子供が一体何の役に立つのかしら?そんな連中に頼らなきゃならないなんて、風の勇者クリス様って何て頼もしい限りね」
いきなり放たれた罵声に嫌み。天幕内の空気が一気に張り詰めた。
ソフィア殿下とエミリーは驚いて目を見張り、むっとした表情となったクリス達からは剣呑な空気が放たれる。
これを言ったのはマグヌス勇者パーティでは最も優しげに見えるグラマラスな金髪美女の聖女様。因みに未だに勇者パーティ同士の紹介は無い。
まぁ、こうした遣り取りには残念ながら俺は慣れている。つい最近もこうした目にあったばかりだ。チラッと白百合騎士団に視線を向けるとアマーリエ・フェルゼン分遣隊長はさっと顔を背けた。
こうした罵詈雑言や嫌味も自分が言われる分には俺は「言ってろ、ばーか」って感じでそんなに気にしない。だけどそれが恋人達や仲間達にまで及ぶとなれば話は別だ。当然黙ってはいられない。
だってそうだろう?自分の大切な恋人達や仲間達が故無く辱められれば怒りを感じるし、それに対して俺が何のアクションを起こさなければ彼女等、彼等の信頼を裏切る事となるのだ。
しかも、今回はマグヌス勇者パーティは俺達親衛隊ばかりかクリス勇者パーティまで侮辱している。
確かにマグヌス勇者パーティは勇者パーティとして経験の浅いクリス達よりも実力や経験に富む。勇者マグヌスも「勇者」の能力を使いこなしているという事だし、俺としては出来れば対立したくはない。しかし、こうまで言われ、それがマグヌス勇者パーティの意思だと言うのなら俺もリアクションを起こさざるを得ない。
そして俺がマグヌス勇者パーティに抗議の声を上げ、ようとしたところで一瞬先にクリスがずいとやはりマグヌス勇者パーティに抗議するためか身を乗り出すと、当の勇者マグヌスが更に先に声を上げてクリスの動きを制した。
「勇者クリス、パーティメンバーの皆さん、そして親衛隊の皆さん、ウチのメンバーが失礼な発言をして大変申し訳無い。腹立ちは尤もなれど聖女マーゴッドには反省させて必ず謝罪させるので、ここはこの勇者マグヌスの顔を立てて矛を収めてくれないだろうか?このとおりだ!」
勇者マグヌスはそう言うとその場でクリス勇者パーティと親衛隊に頭を下げた。聖女を除く他のパーティメンバー達もマグヌスに続いて頭を下げる。
俺達が唖然としていると聖女マーゴッドへオレンジ髪の美女である槍聖から叱責の声が浴びせられた。
「マギー!いい加減にしなさいよ?いつもいつも!いきなり相手を侮辱したり煽ったりするなっていつも言ってるわよね?クリス様方に謝りなさい!」
槍聖にガツンと叱られて顔を顰めて僅かに身を縮める聖女マーゴッド。
「だって、キャシー、最初が肝心なのよ?最初にガツンと言って上下関係をはっきりさせないと」
「公の場でキャシーって呼ぶなって言ってるでしょ!それに上下関係って、勇者同士に上も下も無いでしょう。それに親衛隊の皆さんだってみんな相当な実力者なのが見てわからない?」
「え?キャシーも今私の事マギーって。それにそんな事言われたって私、戦闘職じゃないからわからないわ」
「殿下の御前なのよ、さっさと謝りなさい!」
槍聖に怒られた聖女マーゴッド、まだぶつぶつ何か言い訳めいた事を口にしつつも勇者マグヌスやパーティメンバー達からの無言の圧力に屈して涙目で謝罪の言葉を口にする。
「し、失礼な事を言って、た、大変申し訳ありませんでした」
そりゃあもう、渋々といった感じで。
「殿下、御前で醜態を晒し、大変申し訳ございません」
勇者マグヌスがソフィア殿下に謝罪の言葉を述べて深々と頭を下げる。
「はい。勇者マグヌスの謝罪を受けましょう。私としては戦を控えた今ですから、この度の出来事で雨降って地固まるよう望みます」
ソフィア殿下の言葉にその場にいる全ての者達は畏れ入ったように頭を下げる。すると、すかさず殿下の側近であるエミリーが場を締めるように言葉を継いだ。
「皆様、殿下は味方同士の諍いを厭い、誼を結ぶ事をお望みです。味方同士、互いを良く知り、後顧の憂い無きようお願い致します」
ふっ、エミリーの奴、側近ぶっちゃって。って本物の側近なんだけど。俺がニマニマと妹を見ていると、俺の視線に気付いたエミリーは一瞬キッと俺を睨むと、フンっという感じでそっぽを向いた。
〜・〜・〜
その夜はそのまま両勇者パーティ同士のちょっとした交流会になった。クリスとマグヌスは早速勇者同士挨拶を交わして誼を結ぶ。他のメンバー達もそれぞれ会話を交わし、交流を深める。
エミリーは槍聖のキャサリン・ガイエス子爵令嬢と会話に花を咲かせている。
と、マグヌス勇者パーティの弓聖がゾフィに積極的に話しかける。ちっ、俺のゾフィに気安いぞ?するとそんな思いが伝わったものか、ゾフィがチラッと俺を見ると「大丈夫よ」とばかりに軽くウィンクを飛ばした。俺はそんなゾフィに安心するしつつも、案外嫉妬深い自分に可笑し味を感じる。
「よう、親衛隊長さん。初めましてだな」
俺にそう話しかけて来たのはマグヌス勇者パーティの拳聖だ。
「こんな別嬪二人も連れて羨ましいな、全くヨォ。俺はアレックス・ヴァリヤートだ。マグヌスのダチで拳聖なんてやってる」
俺と一緒にいるアイーシャとメリッサを見て拳聖はアレックス・ヴァリヤートと自らを名乗った。
「私はこの度の戦役ソフィア殿下の親衛隊長を任されましたホルストと申します。隊員達共々普段は冒険者をしております。以後宜しくお願い致します」
親衛隊だ上位金級冒険者だと言っても俺の身分は平民だ。こういう場合、勇者パーティのメンバーには慇懃に頭を下げるのがマナーというもの。何せ神々に選ばれた人達なのだからな。
え?じゃあ何でクリス達にもそうしないのかって?それはまぁ、今更だし?それに何だかクリスもデリックも友達みたいになっちまったしな。
しかも、その神々に選ばれたうちの2人を恋人にしてるじゃないかって?そこは男と女の事だから、それ以上は突っ込まないで欲しいかな。
「固いなぁ、ホルスト隊長。もっとフランクに行こうぜ?俺の事はアレックスって読んでくれ」
そこへマリーと共にオレンジ髪美女の槍聖が加わる。
「そうよ?パーティは違っても同じ目的で集まった仲間なんだから。私は槍聖のキャサリン・ガイエス。仲間はキャシーって呼ぶわ、親衛隊の皆さん?」
この美女は見た目を裏切らないアメリカンな感じだ。勇者パーティメンバーにこうまで親しげにされ昵懇を求められたら無碍には出来ない。
「わかったよ、アレックス、キャシー。俺はホルストだ。宜しく頼む」
勿論合わせて近くにいた親衛隊員の紹介も忘れない。
「ああ、宜しくな、拳王」
「そうそう、その方がいいわ。宜しくね「猫連れ」さん?」
俺の事を拳王と呼んだり冒険者パーティ名をさり気なく付け足すあたり、マグヌス勇者パーティはクリス達だけでなく俺達の事もある程度調べていたのだろう。これも見た目でマッチョ系の脳筋かと思いきやインテリジェンスの面もさり気なくリードしている訳か。まぁ、だったらあの公爵令嬢聖女の暴走も事前にどうにかしてくれって話だけどな。
いや、待て。そうするとあの初っ端の出来事も狂言で一種の観測気球という可能性もあるのか?
そうしていると、アレックスがこちらに聖女マーゴッドを呼び寄せた。
「さっきはこいつが失礼したな。悪い奴じゃないんだけどね」
「そう、基本はいい娘なの。ちょっとやらかす、ちょっとだけイキリポンコツなだけで」
「ちょっと、イキリポンコツなだけでな」
「イ、イキリポンコツって言わないでって言ってるでしょ!」
聖女は憤慨しているけど、どうやら今の拳聖と槍聖が言ったように、どうもこの聖女は今までも何かとやらかしているようだ。観測気球説は消えたか。
訝しむ俺達からの視線に気付いた聖女マーゴッド。こちらに向くと若干気不味そうな表情をしつつも次の瞬間にはふんっ!と鼻を鳴らして強気な口調で声を上げた。
「当然知っているでしょうけど、私は勇者マグヌスパーティの聖女、マーゴッド・ドギースよ。先程は失礼したわ」
"ドギース公爵家の令嬢です。ソフィア殿下のはとこに当たります"
アイーシャはそっと手を繋ぐと念話で教えてくれた。なるほど、だからソフィア殿下もあまり強くは言えなかった訳か。
ドギース公爵家はジギスムンド王国の五公爵家の一つに数えられる最高位貴族家だ。魔王国群に内通していたドゲメネ公爵家が族滅となって文字通り消滅したから、今は四公爵家か。確か政治的には王家より、だったと思う。
「でもね、」
この聖女、上から目線で渋々謝罪しつつもまだ言いたい事があるようだ。まぁ言わせてみよう。
「私達勇者パーティの行先には私達を利用して利益を得ようと企んだりする輩も多いの。下手に出たり、弱気なところを見せようならすぐにつけ込まれてしまうわ。だからその前にガツンと言ってこちらが上だとわからせる必要があるの。風の勇者のパーティと違ってうちのパーティで政治的後ろ盾になるのは私の実家くらいだから私がガツンと言わなきゃならないの。そうした事情がある事も理解して欲しいわ」
因みに勇者マグヌスが「剣の勇者」と呼ばれているように、勇者クリスは「風の勇者」と呼ばれている。何故かと言えばクリスは風属性があって元から風魔法が得意。だから俺が風、というか気象についての科学知識を教えて2人で様々な新たな風魔法の技を開発した結果そう呼ばれるようになっていたという訳だったりする。
閑話休題。確かに海千山千の貴族や聖職者なんかを相手するのは大変だ。クリスのパーティはクリスの実家が侯爵家でミシェルとゾフィの実家が伯爵家だから無茶振り出来るのは王家くらいしか存在しない。それに対して勇者マグヌスのパーティは聖女マーゴッドが言ったように高位貴族出身は公爵家の聖女マーゴッドだけ。アイーシャによれば槍聖キャサリンがガイエス子爵家の出身だそうだけど、子爵家では後ろ盾となるにはちと弱い。
「わかりますよ。私も冒険者ですから舐められるのは悪手ですもんね」
そう、舐められたら相手から理不尽な要求を突きつけられる。何事も強気で出なければダメなのだ。
「あなた、わかってるじゃない!」
聖女マーゴッドは我が意を得たりとばかりに喜色を浮かべた。聖女の言動にはおそらく高位貴族出身らしい浮世離れしたものがあり、パーティメンバーはそれで苦労しているのかもしれない。しかし彼女は彼女でパーティのために彼等のために後ろ盾になろうと一生懸命頑張っているのだろう。ミシェルと話が合いそうだな。
そう思っていると、やはりミシェルもマーゴッドにシンパシーを抱いたようで、その後は二人の聖女は話に花を咲かせていた。敢えて聞くような真似はしなかったけど、おそらくその内容はパーティメンバーへの愚痴だろうな。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




