第131話 二つの勇者パーティ
国境を越えたら、そこはローメリア帝国。
とは言え、国境を越えても穀倉地帯であるため国境の向こうのジギスムンド王国の風景とそう変わるものじゃない。
風景は相変わらずの麦畑ではあるのだけど、ジギスムンド王国と大きく変わるのは道行く人々の多くが獣人であるという事だ。ローメリア帝国は獣人族が国民の多くを占める国であり、道行く人々、街中の人々、農作業をする人々、そして騎士や兵士も獣人族が多い。
獣人族ばかりではない。エルフやドワーフも見られ、中には竜人やリザードマン、更にはローメリア帝国に亡命して定住している角のある魔族の姿も見られるのだ。
ここ、ローメリア帝国は獣人族が多数を占める多種族国家だ。ジギスムンド王国やその隣国であるガルメイラ王国にも獣人やエルフやドワーフは居住しているし、中には貴族になっている者もいる。しかし、両国はヒト族が多数を占める国であり、ローメリア帝国に比べればヒト族以外の種族は少ない。何と言ってもローメリア帝国は皇帝からして獣人(獅子獣人)であり、貴族の7割が獣人族なのだから。
かつてこの大陸西側地域ではヒト族と獣人族による対立の時代があったという。各国で迫害された獣人達は北へ北へと逃げざるを得ず、辿り着いた北の大地で後に建国の父となる獅子獣人のリチャード・ライオネルが獣人達を糾合して建国したのがローメリア王国だそう。
リチャード王は追撃して来たヒト族の軍隊をゲリラ戦に引きずり込んで撃退し、その後建国されたローメリア王国は周辺国と講和した。そして、ローメリア王国はかつて自分達が迫害された経験から大陸各地からの亡命者や難民を広く受け入れたため人口が増加して多種族国家へ、更に開拓を続けて国土も広くなったため王国から帝国を称するようになったという。
そのローメリア帝国が現在のような強大な軍事国家となる契機は大陸東側の魔族国家との接触だった。
それは不幸な偶然が重なって起こった事件だったと今では言われている。カブラチッド平原の調査に来ていたローメリア帝国の調査隊と魔族国家群の内で最も西側に位置する第7魔族国家ラピース魔王国の調査隊とが平原の中央辺りでばったり出会ってしまったのだ。
調査隊と言っても当時のカブラチッド平原には大型で凶暴な魔物が多く生息していたため、当然戦闘部隊を伴っていた。まだ魔族と獣人族・ヒト族とはお互いの存在を知りつつも交流は殆ど無かった時代。何ら予備知識も無く出合頭の接触は忽ち戦闘となってしまった。
その接触戦、どちらが先に仕掛けたのか?双方の主張が異なるため、今となってはその真相は藪の中だ。後は兵力の逐次投入から戦域の拡大とお決まりのパターンとなり、ローメリア帝国は大陸西側の国々に、ラピース魔王国は大陸東側の魔族国家群へそれぞれ援軍を求める事となった。
そしてカブラチッド平原で何度かの会戦を経て両勢力はそれぞれ要塞線を築き、現在に続く双方が睨み合う原型が出来上がったそうだ。
ん?とすると、魔王と勇者云々というのはその後出来上がった事なのか?
いや、これを深く掘り下げるのは止めておこう。事は神々にまで及びそうだからヒトが触れてはならない物に触れて藪を突く事になりかね無いからな。
まぁ、神々からの監視が付いている俺にはそんなの今更かもしれないけど。
兎に角、派遣軍はそんな古来から大陸西側諸国と東側魔王国群とが血で血を洗う因縁の戦場へとその歩を進めているという事だ。
〜・〜・〜
王都を派遣軍が出発して早くも半月、ここローメリア帝国はカブラチッド平原に俺達は到着した。秋口から半月、更に北上しているので季節は秋も中旬、秋風ぞ吹くカブラチッドの平原、といったところかな。
ここまで来たからと言ってジギスムンド王国からの派遣軍が要塞に配備されたり、ましてやいきなり前線に出されるなどという事は無い。まずソフィア殿下はジギスムンド王の名代としてローメリア帝国のアーサー・ライオネル皇帝に謁見しなければならなかった。
ジギスムンド王国からの派遣軍が援軍とはいえ、ローメリア帝国軍も帝国の軍事機密の塊であるアルビオン要塞に外国軍を入れる事は無い。同盟国からの援軍は、飽くまでカブラチッド平原で魔王国軍との決戦に用いられる兵力だからだ。
という訳で、俺達親衛隊はソフィア殿下等と共にアルビオン要塞から20リーグほど後方の丘陵地に構築した宿営地で待機中。
派遣軍はこの丘陵地を拠点とし、ジギスムンド王国の国軍である陸軍常設第1騎士団を核として歩兵2個師団、諸侯軍、アプロス教団の聖騎士団やロウオーロ教団の僧兵団が集結する事となっている。
これはジギスムンド王国だけではなく、同盟国であるガルメイラ王国、オルトメイラ王国、マーストカイラ王国、リース大公国、神聖アルストラ教国、そして大陸西端から海峡を隔てた島国であるブリスタニア連合王国、と今回の戦役にローメリア帝国の援軍として参戦する同盟国も同様だ。アルビオン要塞後方の丘陵地はそのためローメリア帝国軍によって宿営地としてある程度整備されていたようだった。
因みにソフィア殿下がローメリア帝国皇帝アーサー・ライオネルに謁見した際、俺達親衛隊も殿下の護衛として白百合騎士団と共に近侍した。
アーサー・ライオネル帝は顔の下半分が金色髭に覆われた40代の威厳溢れるちょいワルなイケオジ獅子獣人。
広大な領土を有し、常に強大な敵国と臨戦状態にある多種族国家を纏め上げるには強権が必要だ。故にこの国は皇帝に権力が集中して専制が敷かれ、武に秀でた質実剛健さと頑強な肉体、そして誰もが従う威厳が求められる。現皇帝はまさにこの国に求められるそうした皇帝像そのものと言えた。
〜・〜・〜
太陽は大きく西に傾き、間も無く辺りは薄暮の黄昏に包まれようとしている。ジギスムンド王国軍が宿営地とする丘陵地、その外れにある高台に俺は一人登って周囲を見渡していた。薄暗くなって来た夕暮れの中、同盟諸国軍が屯する丘陵地には大小の天幕と風に翻る軍旗、そして各所で燃え上がる松明の灯りが広がっていた。
ここはこの大陸西側、人類領域の最果て。この先は人類と魔族が古来から血で血を洗う激戦の地だ。その更に向こうは魔族の七魔王国群が続く。
「ホルスト兄さま、こちらにいらしたのですね」
不意に背後からマリーに声をかけられる。俺に気配を感じさせず近づくとは、剣聖として腕を上げたようだな。
「いやさ、思えば遠くへ来たもんだなって思ってさ」
同盟諸国軍が作り出す壮大なパノラマ風景を眺めるため、俺は親衛隊のテントを一人抜け出し丘陵地の外れにある高台に登っていた。
「そうですね。私達が生まれ育ったヴィンター騎士爵領からラースブルグと王都、そして今はローメリア帝国ですからね」
ジギスムンド王国の宿営地に王国の二つの勇者パーティも合流した。言わずと知れたクリス勇者パーティと、マグヌスという古参勇者の率いる勇者パーティだ。俺達親衛隊はソフィア殿下護衛依頼の契約でクリス勇者パーティの支援もする事となっいるため、クリス達もソフィア殿下の天幕近くに宿営し、俺達とも交流している。
「そう。人生、中々先はわからないものだ。こんな所にいるのもそうだけど、こうしてマリーと一緒にいるんだからな」
「はい」
マリーは俺の傍に寄り添うとそっと俺の手を握る。俺がその手を握り返してマリーを見ると、俺を見上げるマリーと視線が合い、俺達はどちらからともなく微笑み合う。
「マリー、俺を呼びに来たんだろう?」
暫し見つめ合うと、俺はマリーにここまで来た理由を尋ねた。
「そうでした。ソフィア殿下が兄さまをお呼びです。勇者マグヌス様がソフィア殿下の天幕に到着しましたので謁見と関係の顔合わせを行うそうです」
顔合わせか、ちょっと面倒臭いが、
「そうか、態々悪いな」
「いいえ。私、たまたま殿下の天幕にいたんで、兄さまを呼びに行く役を買って出たんです」
そう言うとマリーはふふっと笑った。普段は剣聖として凛とツンとした表情でいるマリーのこうした表情は破壊力が抜群だ。
俺達は手を繋いだまますっかり暗くなった宿営地をソフィア殿下の天幕へと向かった。
〜・〜・〜
勇者マグヌス、年の頃は30歳だという。朝黒く精悍な顔付きのイケメンな偉丈夫だ。鍛え上げた筋肉が内から使い込んで馴染んだ革鎧を押し上げ、腰に差した剣は聖剣だろうか。
この勇者、噂によれば元々は男爵家の出身だそうだ。なんでも彼の父親が兄弟との家督争いに負けて相続から外されたため、その息子である勇者マグヌスは貴族身分を失って平民になったという。
そして失意のうちに勤労と家族扶養の意欲をすっかり失った父親に代わり力自慢のマグヌス少年は年齢を偽り、自らコロッセオの興業主に売り込んで剣闘士となった。弟と妹のために金を稼ぐためだったそうだ。
そして13歳になり、マグヌス少年は元服の儀で「勇者」の能力を授かった。それ以来、剣闘士出身の異色な勇者として国の内外を問わず魔物退治にダンジョンクエストに勇者マグヌスと彼のパーティは腕を奮い、実力と経験を備えた勇者、勇者パーティとして現在に至っている。
ここはソフィア殿下の執務のため張られた天幕の中。ソフィア殿下との謁見を終えた勇者マグヌスの背後には彼のパーティメンバー達が控えている。
勇者マグヌスのパーティは彼を含めて6人。顔面の下半分が強そうな赤髭で覆われた巌のような大男が盾聖。鞭のようなしなやかな長身でニヒルな顔付きな男が弓聖で、オレンジ色の長い髪をしたアメコミに出て来そうで気の強そうな美女が槍聖。艶のある黒髪を後ろで束ねた長身の偉丈夫が拳聖、巫女服を纏ったスタイル抜群の金髪美女が聖女だ。
勇者マグヌスのパーティはクリス勇者パーティに比べてちと年齢層が高く、ゴリマッチョから細マッチョまでとマッチョ系が特徴だ。そして何より、勇者マグヌスのパーティにはクリス達に欠けている槍聖と拳聖が揃っている。つまり、勇者マグヌスパーティは見た目のインパクトが強く、実力と経験があり、更にメンバーも揃ったパーフェクトパーティと言えるだろう。
勇者マグヌスは「剣の勇者」と呼ばれている。元々あった剣の才能が剣闘士時代に開花したそうで、そのため彼のパーティには剣聖がいないらしい。因みに彼の佩く聖剣の名は「グランブル」。言われてみれば勇者本人を含めた彼のパーティメンバーはみんなサイゲのキャラっぽい容貌をしている。偶然だろうけど。
〜・〜・〜
天幕には勇者クリスのパーティ(マリーを除く)と既に俺以外の親衛隊も揃っていた。俺とマリーが遅れて天幕に入るとアイーシャとメリッサ、ゾフィとミシェルから一見穏やかな、それでいて鋭い視線が向けられる。
マリーはこの事態にスッと下がって俺の背後に隠れ、彼女達の視線を真っ向から受けるのは俺だけとなった。
マリーよ、これがムラージ流剣術、その奥義の一つ「自ら戦わずして難を避ける」、若しくは「立ってる物は親でも使え」か!剣聖として随分逞しくなったな。
既に勇者マグヌスのソフィア殿下への謁見は終わっていた。俺達親衛隊がこの勇者パーティ同士の顔合わせに呼ばれたのは俺達がクリス達の支援をする関係だろう。
勇者マグヌスとそのパーティメンバーはそんな勇者クリスパーティと俺達親衛隊に視線を向ける。しかし、その視線と表情からは彼等の思考は読み取れず、その辺は流石ベテラン勇者パーティと言ったところだろうか。
(でも、まぁ、十中八九俺に対しては碌な事は考えてないんだろうなぁ。はぁ、面倒臭い)
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




