第128話 親衛隊、北へ
今朝からの曇り空は昼過ぎからぐずり始め、とうとうポツリポツリと無数の雨粒を降らし始めた。
(雨は降る降る 人馬は濡れる 越すに越されぬ田原坂、か)
俺は次第に強くなる雨に馬上濡れながら、ふと前世で聞いた熊本民謡を思い出した。
王都を出発したローメリア帝国派遣軍はやがて大粒となった降雨の中を進軍速度をやや落としながらセプテント街道を北上し続けていた。
国王の名代として従軍するソフィア殿下が乗った馬車は隊列の中央に位置し、その前後を白百合騎士団の女性騎士達が固めている。俺達親衛隊は一台の馬車と2頭の馬に分乗し、白百合騎士団の更に前方を進んでいる。
馬車も3頭の馬も王室からの支度金で購入したものだ。アイーシャもメリッサも乗馬が出来る。アイーシャは工作員だけにそうした訓練を受けているし、メリッサはナヴォーリ市の市長令嬢という上流階級出身だから彼女にとっては乗馬なんか教養の一つだ。
俺はと言えば「アクションヒーロー」の能力で結構高度な乗馬が出来たりする。ほら、平成ライダーの6番目(鬼)や10番目(10周年)とか劇場版で乗馬してたでしょ?
幌付きの馬車には「夜明けの星」が乗っている。彼等が乗馬出来ないからな訳だけど、乗れないまでも馬車は操作してもらわないと困るので馬車購入と共に一時的に馭者も雇って彼等に特訓を施して貰った。
馬上街道を進むは俺とアイーシャ。メリッサは「夜明けの星」と共に今は馬車に乗車し、ケントが馭者を務めている。
今日到着する予定のセプテント街道を北へ進んだフォートセプトという都市だ。北から南下してくる敵に対する王都防衛の要となる城塞都市で、小高い丘の上に築かれている。高く分厚い城壁と幅広く深い水堀に囲まれ、王都からの距離は約60リーグといったところか。朝に王都を発てば歩兵の進軍速度で順調なら日没までに入場出来るのだけど、今日は生憎の悪天候。幸い街道の路面は石畳で舗装されているから、泥濘に足を取られないだけマシではあるものの、到着遅延は避けられないだろうな。
俺が乗る馬に並行して進むアイーシャが馬を寄せて来る。
「ホルスト様、雨で幾分遅れますが概ね2時間で到着すると思います」
季節は9月も半ば、本来なら日中の気温はまだまだ強く気温も高くなるのだけど、降雨による天候悪化と日没で気温は低くなっている。雨に打たれて体温も奪われがちだ。
まぁ俺もアイーシャもフード付きの撥水加工が施されたレインコートを着込み、手袋もはめている。身体強化の魔法もかけているからこれくらいの雨などどうという事はない。
が、恋人の体調を気遣うのが出来る男というものだ。
「そうか、有難うアイーシャ。体調はどうだ?冷えてはないか?」
「はい、なんともありません。ホルスト様はどうですか?」
「俺だって大丈夫だ。ピンピンしてるぜ」
俺はそう言って右腕で力こぶを作って見せた。
「まぁ、ふふふ」
フードの奥に微笑むアイーシャの笑顔が見える。
その後、雨中を2時間程進み、辺りがすっかり暗くなった頃、ローメリア帝国派遣軍は漸く全軍がフォートセプトに入城する事が出来た。
〜・〜・〜
俺達冒険者パーティ「猫連れ」がギルド本部で王太子ハインシャルタット殿下の依頼を引き受けると、自宅に帰って早速「夜明けの星」の面々にソフィア殿下護衛依頼の件を話した。
そしてソフィア殿下の身辺警護に当たる白百合騎士団とは別で独立した別部隊「親衛隊」を立ち上げる旨、従軍中「夜明けの星」に親衛隊に入って欲しい旨を伝えると、
ティグル「やります!是非俺達を親衛隊に入れて下さい」
エマ(何度も頷きながら)「もちろん、もちろんやります!(やった、ホルストさんと一緒、ずっと一緒だ!)」
ケント「やります。どこまでも兄貴に着いて行きます」
リラ・ミラ「「やりま〜す!」」
ジグ「兄貴に頼まれて嫌と言う筈がありません」
といった感じでみんな二つ返事で引き受けてくれた。情けは人の為ならず、この子達が無事に帰って来られるようにしないといけないな。
と、ここで問題となるのが年少組であるミリーとリグの2人だ。白い木馬の強襲揚陸艦よろしく子供達を戦場に連れて行く訳にはいかない。かといって子供2人をこの家でいつ帰れるとも知れない間留守番させる訳にもいかない。さて、どうしたものか。
で、結局どうしたかというと、2人とも隊員として連れて行く事にした。「子供達を戦場に連れて行く訳にはいかない」と言っていた奴がどの口で言うんだ?という突っ込みもありそうだけど。
当初、俺は2人を勇者パーティの館で懇意にして貰っていた執事さん夫婦か、若しくは毎度毎度頼って申し訳無いけどナルディア教団の王都神殿に預けようかと考えていたのだ。ところが、当の2人が俺達と一緒に行くと言って頑強にその案を拒絶したのだ。仕舞には2人の兄であるケントとジグが自分達で面倒を見るから、迷惑かけないから一緒に連れて行って欲しいと懇願する始末。
ミリーとリグの年齢は11歳と12歳で、小学生で言えば高学年。そんな子供を従軍させるなんて!と、みんなも反対するかと思いきや、アイーシャもメリッサも案外と「う〜ん、どうしましょう」といった感じで、それほどの忌避感は無かったりした。
と言うのも、出征する貴族には従兵として少年が就く事があるし、騎士には騎士見習いの少年もいる。
また、この世界では貴族や裕福な平民以外、子供だって貴重な労働力。なんなら王都の貧乏な法服貴族や地方の貧乏な領主の子弟だって内職や狩猟で家の収入の一翼を担うのだ。
これは農村の口減らしも兼ねていて、平民の子弟は商家や職人や豪農或いは曲芸団の元に年季奉公に出るのが一般的と言える。
子供達は10歳くらいから奉公に出る(出される?)のだけど、残念な事にこの世界にはそういった商家・職人・豪農等の他に特殊な奉公先が存在する(子供が奴隷として売られるケースは稀)。それは女児の場合は娼家であり、男児の場合は剣闘士の興業主や傭兵団だ。
傭兵団といっても流石にいきなり10歳の男児を戦場に立たせるような事はしない(多分)。団の雑務を担うのが専らで、やがて長じて少年兵となる。歴戦のベテラン傭兵は大抵がそうした少年兵の出身であったりするらしい。
余談だけど、それだけに傭兵達は自分達を傭兵団に"売った"農村に対しては過酷で執拗な略奪をする傾向がある。村長を拷問にかけてでも根こそぎ奪うらしい。やっぱり恨みがあるのかな。
つまり、この世界では良い悪いかは別として従軍に子供を伴う事はタブーでも何でも無く、「割と有る事」なのだ。
また、ミリーとリグを親衛隊員として連れて行く事にしたのは何も2人が一緒に行きたいと強請ったからだけではない。実は現在のこの2人、とんでもない能力の持ち主になっているのだ。
能力と言っても13歳の元服の儀に神々から授かる「能力」ではなく、純粋に自らの能力という事。
ミリーは俺から血咳病治療のため9番目の昭和ライダーの能力である回復光線を浴びたせいか回復魔法が使えるようになっていた。おそらく潜在的にその素養があったのだろう。それが回復光線を照射された事により顕在化したんだと思う。その後、それが聖女ミシェルの知るところとなり、現在のミリーは聖女候補となり、近い将来はメルティース教団の王都神殿に修行に出る事となっている。
レグには数学の才能があり、俺の乏しい数字知識を教えると砂が水を吸うように吸収し、四則演算は元より、現在では数Ⅰくらいまでの内容は理解している。まぁそれ以上を教えようにも、俺ももうあまり憶えていないから教えられないのだけど。
幸いな事に丸谷先輩から譲られた知識の杖に組み込まれていた先輩の知識には、何と数学に関する知識もふんだんにあったのだ。なので俺は時間がある時には杖から数字の知識を引き出し、どうも数学が好きらしいレグに求められるまま筆記して教えている。
そしてレグに複式簿記なども教えると、今ではレグが「夜明けの星」の会計などを完全に掌握するに至っている。
だからミリーとレグは親衛隊員として従軍させても足手纏いどころか、それぞれの分野で大人顔負けな即戦力!いや、違うな。所詮それはミリーとレグを戦場に連れて行く下手な言い訳だ。
そうした訳で皆で話し合い、ミリーとレグに親衛隊員として従軍を許すと2人は大喜び、「夜明けの星」のメンバー達も喜んでいた。俺はその様を複雑な気持ちで見ざるを得なかった訳だけどメルにたしなめられたものだ。
"ホルスト、気持ちはわかるけどあの子達が不安に思うから今はそんな顔を見せちゃダメ。連れて行くと決めたんでしょ?だったらしっかりあの子達を守ればそれでいいのよ"
そうだな、メルの言う通りだ。あの子達の意志を無視して王都に残す事だって十分可能だったのだから。
結局従軍を許したのは誰でもない俺自身。俺は俺の結果に対する責任を果たすため、危機の際には2人を守るよう式神に強力な魔力を込めるとミリーとレグに分け与えた。
〜・〜・〜
フォートセプト市に入城。馬と馬車を市の衛兵に預けつつ周囲の安全を確認すると、俺達からやや遅れて白百合騎士団に守られたソフィア殿下の乗る馬車が入城した。するとすかさず先に入城した派遣軍司令のランボルト将軍と市駐屯部隊司令、フォートセプト市代官が迎えに現れる。と、これで本日の親衛隊の業務は終了だ。
市代官所から親衛隊に割り当てられた待機場所は代官所の中庭。中庭だから屋根も無い屋外だけど、一応はソフィア殿下が休まれる貴賓室の直近とはなっている。
俺達が王太子の肝入りで誕生した親衛隊であり、ソフィア殿下の護衛部隊だから俺達を殿下の休まれる近くに待機させる。とはいえ親衛隊の誰もが平民の冒険者だから室内には入れない。誰の采配か知らないけど、絶妙な嫌がら、いや、待遇と言えよう。
まぁ俺達は冒険者だから外だろうと雨が降っていようとテント張ればいいんだからな。
「よーしみんな、ここにテントを張るぞぉ!」
俺が魔法で亜空間収納からテント等を取り出すと「は〜い」という元気な返事と共に揃いの灰色のレインコートを着た隊員達が集合、雨の中でも手際よくテントとタープを張って行く。
男女に分けた二張りのテントに調理や食事に使うタープ。まさにキャンプのようだけど、これが従軍初日における親衛隊の駐屯地となる。
隊員の皆には俺の能力「アクションヒーロー」により「戦隊ヒーロー化現象」(みんなには説明済み)が及んでいるため疲労の色も見えない。
駐屯地の設営が一段落すると、俺はアイーシャに促されソフィア殿下が休まれる貴賓室に向かう。明日以降の行動等の打ち合わせのためだ。
「アイーシャ、了解した。メリッサはここを頼む」
「わかったわ。こっちは任せて」
待ち構える白百合騎士団の事を考えると正直気が重いけど、行かない訳にはいかないのだ。
メリッサからの返事を聞くと、コートに帯剣のまま俺とアイーシャは代官所の貴賓室へと向かった。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




