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第125話 王太子からの指名依頼

ミレーちゃんとリグを家寝かしつけると、俺達は寝室に集まった。「夜明けの星」は商隊護衛の依頼で出払っているので年少組の2人の面倒を見なくてはならなかった、からな。


いや、別に寝室に集まったからって何やらおっ始める訳じゃ無いぜ?(たまにはあるけど)。アイーシャからソフィア殿下護衛依頼の詳細を聞くために集まったのだ。




指名依頼に関して言えば、冒険者には指名依頼を断る権利がある。それが例え王侯貴族からであろうともだ。


まぁ、そうした連中は指名依頼を断られたとしても、飴や鞭やのあの手この手で依頼を引き受けさせるのだろうけど。


そうした事はしがらみの少ない無い俺にはあまり関係無いと思っていた。だが、ソフィア殿下が従軍するならば、殿下の側近になっているメアリーが従軍しないという事は無い。なので俺にはこの依頼を断るという選択は事実上無いと言って良い。



アイーシャから聞かされた今や王太子となったハインシャルタット殿下からの依頼。それは国王陛下の名代として此度の戦役に従軍するソフィア殿下の護衛な訳だけど、問題はそれに付随する「勇者パーティの補佐」だ。


俺達がソフィア殿下の護衛依頼を受けたならば、当然俺達もソフィア殿下と共に従軍する事となる。その際、「補佐」のため勇者の側にソフィア殿下がいる訳で、護衛で殿下の側にある俺達が何もしない、という事は有り得るのだろうか?


ソフィア殿下の護衛は当然ながら俺達だけじゃない。近衛騎士団や王室特務機関から護衛要員が出される事だろう。そうした由緒正しい護衛要員達が勇者パーティの補佐をするとも思えず、結局は俺達にお鉢が回って来そうだ。クリスの勇者パーティならまだしも、他の勇者パーティの面倒見るとか冗談じゃないぞ。クリス達は大分矯正出来たけど、勇者とかそのパーティメンバーとかなんて性格の歪んだ碌な奴じゃないだろうからな。


兎に角だ。そうした依頼内容の細部や派遣軍に於ける俺達の待遇から権限等々詰めなければならない事だらけと来たもんだ。報酬額も交渉しなければならないけど、そもそも王族の護衛報酬って相場はいかほどなんだ?


よし、こういう時は先人の知恵を借りよう。


「知識の杖!」


俺は意図的に濁声を出して亜空間収納から一本の杖を取り出した。メルとアイーシャとメリッサの冷めた視線はスルーして。


黒檀の様に黒光するその杖は先々代宮廷魔術師だったマルティン子爵こと転生者の丸谷先輩の知識と技術が込められた物だ。俺はそれを丸谷先輩から依頼された第2王子誘拐の報酬として受け取った。


「ヘイ、先輩。王族の護衛報酬の相場を教えて」


俺の問いを受けると丸谷先輩の杖は俺の手から離れてテーブル上で垂直に浮かぶ。そして淡い緑色の光を全体に纏わせると


「漸く俺の出番か?」


と、丸谷先輩と同じ声を発した。さて、どんな回答が出るものか?


「そんな事、俺が知る訳ないだろ」


え?


「いや、だってそうだろう?王族警護の料金表なんてギルドにだって無いんだから。それに王族警護なんて近衛騎士団の独占分野だ。冒険者の入る隙なんかそもそも無いんだよ」


「先輩、王子の警護をしたって言って」


「それは王族が視察に来る工事現場の護衛だって言ったろ?それにその時の報酬だって50年も前の話だ。現在の物価とは大分違っているんだから参考にもならない」


……


「ねぇホルスト、ちゃんとギルド本部で確認した方がいいんじゃない?」


「ホルスト様、この依頼はギルド本部経由になりますから、その折にでもお尋ねになれば?」


メルとアイーシャが心配そうにそうにギルド本部での話合いを勧める。


「そうだな。そうしようか?」


彼女達にそう頷いたものの、正直、俺はあまり王都の冒険者ギルド本部が好きでは無かったりする。


「力になれなくて済まんな。まぁ何だ、ドンマイ?」


杖には丸谷先輩の知識だけじゃなく、先輩の擬似人格まで付与されているようだった。俺は杖の発した言葉には応じず、再び杖を亜空間に収めた。


〜・〜・〜


俺と王都の冒険者ギルド本部とはお世話にも良好な間柄とは言えない。と言って積極的に対立している訳ではないけどね。そうなるに至るには原因は幾つか有ったのだけど、そのため今ではお互いに必要最低限な付き合いになっているのだ。


その原因は二つある。一つ目として俺が王都の冒険者ギルド本部以外の支部で上級冒険者となった事が挙げられる。


冒険者は地方の支部で登録して冒険者となる者が大半を占める。それについては問題は無い。寧ろ王都でしか登録出来ないのでは冒険者の数は少ないだろうし不便だ。しかも冒険者は粗暴で力自慢で行き場の無い田舎者の受皿となる側面もあるから、犯罪を未然に防ぎ治安を維持する役割も担っているので尚更と言えよう。


だから地方で登録した冒険者達はその地方で活動し、経験を積んでランクを上げる。そしてランクが上がった冒険者は更なるランク上昇と高額報酬、それと中央の権力者との繋がりを求めて王都を目指すのだ。


冒険者は個人であれ、パーティであれ、レベルが下位銅級となると王都へと上京する者が多い。彼等は王都で依頼を引き受け、或いは郊外にあるダンジョンでクエストをこなして実績を積むと貴族や大商人の依頼を引き受けられるようになる。更に国から募集される厄介な魔物の討伐などにも参加して王都の冒険者ギルド本部によって銀級、そして金級といった上級冒険者へと昇級されるのだ。


つまり、上級冒険者はその多くが王都の冒険者ギルド本部で昇級している。その段階で彼等は王都の冒険者ギルド本部の、或いは貴族や大商人の紐付きと言っても過言では無い。


それに対して俺はラースブルグの冒険者ギルド支部(地方の冒険者ギルド支部)で登録して冒険者となった。それは良いとしても、その後のヘルベルト騎士爵領事件での活躍でラース辺境伯の推薦により上位銅級から銀級を飛び越して下位金級、ナヴォーリ市の海賊紛争に従軍して戦果を上げてナヴォーリ市長及び市議会からの推薦で上位金級となっている。


俺は王都の冒険者ギルド支部によらず上級冒険者となっていた。つまり、俺は王都の冒険者ギルド支部から見ればラース辺境伯や自治都市ナヴォーリ市といった地方勢力の推しによって上級冒険者となった、実力はあるものの自分達(中央の貴族や大商人も含む)の紐が付いていない扱い難い上級冒険者となるのだった。


それは王都の冒険者ギルド本部にとり不都合な存在だ。だからギルド本部の俺への対応は俺が王都へ来てから現在に至るまで良いものではない。招かれざる客というか、塩対応というか。要は気に食わないのだろう。


二つ目の理由として、俺がギルド本部が斡旋する貴族からの依頼を全て断っている事が挙げられよう。


ギルド本部としては俺に報酬額の高い貴族からの依頼を斡旋し、遅ればせながら俺との関係改善を図ろうとしたのだろう。しかし、それにはやはり裏があり、実は国内でも数少ない上位金級冒険者である俺に貴族や大商人からの依頼を斡旋して手数料での一儲けを企んでいたようだったのだ。また、そうした依頼で俺達に利益を上げさせて上手い事思い通りに操ろうともな。


そんな思惑が透けて見えていたため、俺はギルド本部からの斡旋依頼は断っている。まぁ俺達のパーティはそうした依頼に頼らなくてもダンジョンでのクエストで十分な利益を上げているのでそうした彼等の思惑も外れた訳だ。


そもそも、俺は貴族からの依頼は基本受けない方針だ。


え?何で貴族からの依頼を受けないかって?


俺は正義の為に持てる能力(ちから)を振るいたいのだ。いけ好かない貴族に尻尾を振る為では決してない。まぁ自分も末端とはいえその一員だった訳だけど。この国の封建体制をぶっ潰してやろうまでは思っていないけど、どうにもこの国の貴族どもは気に食わない。


と、いう訳で俺とギルド本部とはお互いに煙たく思いつつも、全く関係を断つ訳にもならない着かず離れずな関係となっているのだ。


「まぁまぁホルスト様、そういう遣り取りは私に任せて下さい」


流石は元冒険者ギルドナヴォーリ支部の副ギルドマスター。ギルド本部の連中もアイーシャ相手ではさぞかしやり辛い事だろう。


「いつも済まない、アイーシャ。俺がもう少し妥協すればいいんだけど、」


「ホルスト様、それは言わない約束ですよ?ホルスト様はありのままのホルスト様でいて下さればいいんです」


「有難う、アイーシャ」


アイーシャはギルド本部との面倒事は自分に任せ、俺に節を曲げず俺の正義を貫いて欲しいと言ってくれた。メルにしろ、アイーシャにしろ、メリッサにしろ、今の俺には理解者が居てくれて実に有難く思っている。


⭐︎ アイーシャ視点


「ホルスト様、それは言わない約束ですよ?ホルスト様はありのままのホルスト様でいて下さればいいんです」


「有難う、アイーシャ」


私の言葉に素直に感謝の言葉を口にするホルスト様。実に可愛い限りです。


私の言葉に嘘は有りませんよ?でも、額面通りという訳では無いんです。私は私の得意とする分野でホルスト様が苦手とする事を積極的に助け、ホルスト様が私に依存するように仕向けているのですから。


私だけじゃないですよ?監視役と言いながらメル様もそうですし、メリッサさんも同じ事をしています。


別に悪い事をしている訳じゃありません。少しでもホルスト様を支えて彼の負担を取り除きたいですし。ただ何と言うべきか、そうですね、これは少しでもホルスト様が私達と一緒にいたいと思って貰えるような環境作りの一環?そんなところです。


〜・〜・〜


王都の冒険者ギルド本部は、このジギスムンド王国における冒険者ギルドの頂点ある組織だ。とはいえ王都の冒険者ギルド本部がこの国の冒険者ギルドの総元締めか?と問われたれならば、その答えは「否」である。


確かに王都の冒険者ギルド本部が頂点にはある。しかし、国内には男爵以上の領主貴族の領都や自治都市に、また王室直轄領にも複数が各ギルド支部設立されている。


各ギルド支部は王都の冒険者ギルド本部から指導や指示を受けながらも独立性が高く、その財政も独立採算制だ。


王都の冒険者ギルド本部とは、言うなればその規模や財力から他の支部から頭一つ抜きんでた存在に過ぎないというところだろうか。


(まぁ何と言っても支部への人事権が無ければそうなるわな)


本当ならば王都の冒険者ギルド本部は国内支部への人事権が欲しかっただろう。しかし、それは諸侯からの有形無形の妨害により頓挫したそうだ。


おっと、ギルド話が過ぎてしまったようだな。まぁそんな事をつらつらと考えて現実逃避していた訳なんだけど、俺達は自宅でアイーシャから今や王太子となったハインシャルタット殿下からの指名依頼について説明を受けると、頃合いを見計らったかのように現れた王宮からの使者によって俺達はギルド本部へと案内された。


何故ギルド本部かと言えば、今回の指名依頼はハインシャルタット殿下からギルド本部を介しての依頼となる。そのため依頼内容の詳細などの重要事項説明をギルド本部職員立ち合いの元でハインシャルタット殿下の代理人から受けるためであった。


そこでは依頼内容から俺達の待遇、権限、報酬額などについて話し合い、そして契約する事となる。


そうした現在の状況はといえば、ギルド本部の貴賓室で俺達はギルド本部職員を間に挟み、王宮からのハインシャルタット殿下の代理人と対峙していたりするのであった。







いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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