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第124話 戦雲がホルストを呼ぶ

⭐︎ アイーシャ視点


「遅いな、エリーシャ姉さん」


ホルスト様の恋人にしてパーティメンバー、そして王室特務機関のホルスト様との連絡・調整担当官たる私、アイーシャは今、王都商業区にある、とあるレストランの一室で従姉妹を待っています。


この従姉妹、エリーシャ姉さんは私と同じく王室特務機関に所属しておりまして、現在は第1王子であるハインシャルタット殿下付きとなっています。 


私はそのエリーシャ姉さんからここに呼び出されている訳ですが、なかなか来ないようですね。自分から呼び出しておいてどうしたのでしょう?ここでダラダラ時間を過ごすとホルスト様と一緒にいる時間が少なくなってしまうというのに。


このレストランは表向きはさる商人の所有となっていますが、実態は王室特務機関が経営する連絡所です。通常はレストランとして開業しつつ、機関員同士の情報交換や打合せ、また、来店した貴族や商人、軍人などからの情報収集などに使われてるのです。


待ち人来らず。手持ち無沙汰になった私はバッグから革装丁の文庫本を取り出します。パラパラページを捲り、お目当てのページを探し出すとそこ色鮮やかに描かれた挿絵に目を落としました。


実はこの本、ホルスト様が私の誕生日にプレゼントとして私のためだけに作ってくれた本なんですよ?


以前、ホルスト様が貧民街から引き取った狼獣人のミリーちゃんにせがまれてお伽噺を話した事がありました。勿論、私も横で聞いていたのですけど、そのお伽噺がとても面白かったのです。


そのお伽噺はホルスト様が考えたオリジナル。主人公は剣の達人であり魔法の使い手でもある正義感溢れる貴族の令嬢で、相棒の侍女と共に仮面に素顔を隠した男装の麗人となり悪者を退治する、というストーリーです。令嬢と侍女の掛け合いやアクションが面白く、更には陰ながら令嬢を助ける謎の貴公子が現れたりと展開にワクワクするのです。


私だけじゃなく、一緒に暮らす女の子達はすっかりそのお伽噺を気に入ってしまいました。ホルスト様はミリーちゃんにせがまれて頻繁に話すのも大変なのか、そのお伽噺『美少女騎士ヒルデガルド-天に代わって不義を討っちゃうわよ?』を皆が読めるよう絵本にしてくれました。


そして私にはお伽噺『美少女騎士ヒルデガルド-天に代わって不義を討っちゃうわよ?』の内容を更に大人向けにした文庫本を作って誕生日にプレゼントしてくれたのです!


その文庫本は革表紙の豪華な装丁で、ホルスト様の手により絵本よりもアダルティな絵が描かれています。ホルスト様からこの本を頂いた時は嬉しさの余り胸におし抱いて泣いてしまった程でした。


おっと、これは自慢、じゃなくて余談でしたね。


(後にこの『美少女騎士ヒルデガルド-天に代わって不義を討っちゃうわよ?』は「猫連れ」パーティの館に遊びに来たソフィア王女の目に留まり、すっかり気に入った王女によって王宮に勤める女性や貴族の女性の間にまで広められ、やがて吟遊詩人により全世界で吟じられるようになるのはまた別のお話)


ページを開きながらあの時を思い出して幸せな気分に浸っていると、どうやらエリーシャ姉さんが来たようです。


「ごめんねアイーシャ。自分で呼び出しておいて遅れてしまったわ」


「気にしてないわ、姉さん」


まぁ、いつもの事ですからね、気にしてません。でも、こんな調子でハインシャルタット殿下付きが務まっているのでしょうか?


〜・〜・〜


互いの近況などを話して少し時間が過ぎると、運ばれて来た黒茶を飲みながらエリーシャ姉さんが本題を切り出して来ました。


「実はね、ハインシャルタット殿下からあなた達「猫連れ」に依頼があるのよ」


王位継承順位第1位にある第1王子ハインシャルタット殿下からの依頼ですか。これはかなり重い話しですね。俄かに緊張が走ります。


「どんな依頼なの?」


「うん、それがね、」


と言ってからエリーシャ姉さんは私に人差し指でちょいちょいと顔を近付けるよう合図をすると、声をひそめて話始めます。


「わかっていると思うけど、他言無用だからね?」


そんな事は勿論仕事柄十分心得てます。でも今の私には近い将来夫となる(予定)の恋人兼パーティリーダーであるホルスト様がいます。


「ホルスト様には教えても?」


「無論構わないわ、当事者でもあるんだし」


まあ、それはそうですね。


「実は…」


エリーシャ姉さんの話しとはこうです。


七魔王国群は現在カブラチッド平原に大規模な兵力を展開しつつあり、ローメリア帝国への大規模な侵攻を企図していそうという事です。1年前にも七魔王国群が後楯となってこの国で第2王子派をしてクーデターを起こそうとし、それによって我が国からローメリア帝国への援軍派遣を阻止しようとしていました。


結局、クーデターはホルスト様がクーデターの旗頭となる第2王子派のリサルト殿下を第2王子派の元からかっ拐い、ハインシャルタット殿下がすかさず第2王子派の首魁ドゲメネ公爵を族滅する事で阻止されましたね。


それによって我が国の混乱は最低限の被害と短時間で終息しました。魔王国群は我が国が盟約通りローメリア帝国への援軍派遣が可能と判断したようで、一旦は大陸西方への侵攻を断念した、と思われていましたけど。


「でね、最近になって魔王国群側に再度大陸西方への大規模侵攻の兆候が見られるのよ」


「兆候というと、具体的にはどんな感じなの?」


「魔王国群はワッフシェーゲル要塞に兵力を集結させているわ」


ワッフシェーゲル要塞というのはカブラチッド平原の東側にある魔王国群により築かれた要塞です。つまり、カブラチッド平原はその東西にそれぞれに陣営により堅固な要塞が築かれて敵による自領域への侵攻を防いでいる訳なんですね。


因みにカブラチッド平原の西側は人類の領域です。そこに存在する全ての国々が対魔王国群の相互防衛条約を結び、条約締結した国々の連合体を大陸西方同盟と呼びます。その名から"誰が誰に対する"が態とぼやかしてありますね。まぁ態々魔王国群を刺激するのはやめておきましょう、というところですかね。


これに対して7ヶ国からなる魔王国群も対人類相互防衛条約を結んでいます。こちらは単純に我々も魔族も魔王国連合と呼んでいます。


この大陸西方同盟と魔王国連合とは、それは長い間戦争状態にありまして、互いに唯一接するカブラチッド平原を巡り過去何度も侵攻し、侵攻され、押し返し、押し返されを繰り返しています。それによってどれだけの人、獣人、エルフ、ドワーフ、そして魔族の命が失われた事でしょうか?


それなのに性懲りも無くまた攻めてこようだなんて、魔族って学ばないんでしょうか?まぁ、彼等なりの理由があるのでしょうけど。


エリーシャ姉さんは話を続けます。


「同盟はこの兆候から連合に大陸西方への侵攻の意思ありと判断し、盟約に従ってローメリア帝国に大規模な援軍派遣を決定したわ」


ローメリア帝国はこの大陸西方地方の北方にある大国で、この地域における人類領域防衛の要とも言える国です。大陸西方同盟に加盟する国々は魔王国連合からの侵略の兆候があり、ローメリア帝国から援軍派遣の要請があった場合、速やかに援軍を送る事となっています。更に魔王国連合とローメリア帝国が戦争となった場合は参戦の義務があるのです。


という事はローメリア帝国から援軍の要請が既に来ているという事なのでしょう。


「でもエリーシャ姉さん、それと私達への指名依頼がどう関係してくるの?」


さて、前置きが長くなりましたが、いよいよ今日の会合の核心です。


「今回の派遣軍の司令官なんだけど、ランボルト侯爵に決まったの」


ランボルト侯爵は第1王子派に属し、陸軍常設第1騎士団の団長(大将)です。優れた指揮官と評価されていて、派遣軍の司令官として能力的には問題無いかと思いますが…


慣習的に派遣軍の司令官は男子王族がなる事になっています。ですが、国王陛下が病に臥せる今、第1王子のハインシャルタット殿下は摂政として王都を離れる事が出来ません。


第2王子のリサルト殿下は王族籍を剥奪されてナルディア教団の神殿で蟄居中。第3王子はまだ未成年の学院生です。なのでこうした人事となったのでしょう。


しかし、そうなると同盟各国の派遣軍とローメリア帝国軍で結成される大陸西方同盟軍の中で王族がいない分、同盟軍の最高意思決定機関であるローメリア帝国皇帝の御前会議における我が国の地位が他国よりも低くなりましょう。それは我が国の意思が戦略に反映され難くなり、俗な言い方をすれば作戦において貧乏籤を引かされる恐れが生じます。


「そこでアイーシャに問題よ。同盟軍における我が国の地位低下を最小限に留めるにはどうすれば良いでしょうか?」


現状で従軍出来る男子王族がいないとなれば、成人した女性王族をなんらかの名目で派遣軍に捩じ込むしかない訳ですが、あっ、そういう事ですか。


「第3王女のソフィア殿下を従軍させるって事?」


「ご名答!」


私の答えにエリーシャ姉さんは満足気に笑います。


エリーシャ姉さんによれば、ソフィア殿下の従軍はハインシャルタット殿下にとって苦渋の決断だったそうです。ソフィア殿下は兄であるハインシャルタット殿下の心中を慮ってこの決定を引き受けたという事ですが、一つだけ条件を付けたそうです。その条件というのが、


「従軍中の自身の護衛に「猫連れ」を加えて欲しいというものだったの」


ハインシャルタット殿下としてはソフィア殿下の安全のために元から「猫連れ」、つまりホルスト様を護衛に付けるつもりでいたそうで、ソフィア殿下の付けた条件を二つ返事で許可したといいます。


「でも、どういう名目でソフィア殿下を派遣軍に従軍させるの?」


「それは国王陛下の名代と従軍する勇者パーティの補佐ね」


「…」


これは面倒を押し付けられる臭いがぷんぷんですね。何故なら冒険者には指名依頼を断る権利があります。それが例え依頼主が王族で合っても。でもこの依頼はソフィア殿下の護衛です。ソフィア殿下の側近はホルスト様の妹であるエミリーさん。ソフィア殿下が従軍するなら殿下の側近にして親友たるエミリーさんも当然従軍する事となるでしょう。だからホルスト様がこの依頼を断る事は有り得無いのです。


その上でソフィア殿下が勇者パーティの補佐をするとなれば泥縄式にホルスト様が勇者パーティの補佐をする事となりましょう。何と言っても勇者パーティはこの戦争が初陣となりますし、新たに加わった剣聖マリー様もいるのですから。


ソフィア殿下を従軍させるなら国王陛下の名代だけでも良かった筈です。ソフィア殿下に幾ら魔法に長けた「魔女」の能力があるからといって態々勇者パーティの補佐任務も付与したのはこうしたハインシャルタット殿下の思惑があったのでしょう。


「エリーシャ姉さん、ここだけの話、ハインシャルタットって若いのに食えない方ね?」


「本当そう。結構腹黒いしね。でも為政者はそれくらいじゃなきゃ」


確かにそうです。ですが、そこに私のホルスト様が巻き込まれるとなれば悠長に感心なんてしてはいられませんけど。


「アイーシャ、後から正式にハインシャルタット殿下の名で冒険者ギルドに依頼が出されるわ。その前に根回しじゃないけど、この話をホルスト様に伝えておいて。其方にも条件や要求なんかを詰める時間が必要でしょうから。まさか断る事は無いと思うけど?」


〜・〜・〜


もう既に軍には派遣の動員がなされ、国軍ばかりか国王陛下の名で諸侯にも兵力派遣命令が出ています。


更には対魔王国戦という事で、各教団も兵力を出すそうでアプロス教団からは神殿騎士団、ロウオーロ教団からはロウオーロ僧兵団などが兵力を出すそうです。


今回の戦争は近年に無く大きなものになりそうですね。


まぁ戦争がどうあれ、ホルスト様がこの依頼を受けるのならば、例えそれが戦場だろうが地獄だろうが私とメリッサはただホルスト様に着いて行くだけです。だって私もメリッサもホルスト様の恋人でパーティメンバーですから。








いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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