第122話 エマちゃんのホルスト観察日記②
1週間のテント生活で私達の身なりはすっかりサッパリ清潔になり、3食お肉やパンやお魚と、や、野菜も、いっぱい食べて体力も回復!髪の毛も尻尾の毛も艶々です。
ミリーちゃん以外のみんなもホルストさんが放つ青い光を浴びました。ホルストさんが言うには、私達はミリーちゃんと一緒に生活していたから症状が無くてもあの病気に感染していたらしいのです。ホルストさんは私達にその光を浴びせ、あの病気を治してくれました。それで私達の身体にはあの病気に抵抗する力?が出来たそうです。
私達はメリッサさんが用意してくれた綺麗な服に着替えると、アイーシャさんが手配した2台の馬車に分乗してキャラバンサライを離れました。一体何処へ行くのでしょうか?
馬車は王都の正門に向かっていました。ちょっ、私達は今や身元も不確かな孤児ですよ?王都に入れるはずがありません。ですが、城門でホルストさんが衛士に二言三言何か言うと、馬車の中が検められる事など無くあっさりと王都への入城が許可されました。流石は上位金級冒険者、凄い信用度です。
車窓から見る景色、それは3年前まで父と兄と私が暮らしていた街並みでした。道行く人々は何ら危険に晒される事無く当たり前に道を歩き、或いは立ち止まって知り合いとお喋りし、買い物をしています。それはありふれた街の景色。叔父によって奪われていたありふれた街の景色を漸く取り戻せた思いです。
馬車は連なって都大路を進み、更に驚くべき事に貴族街の入口で止まりました。という事は、これから貴族街へ行くという事?
先頭馬車に乗るホルストさんが衛士に懐から何かを見せると、やはり衛士から何ら誰何されたりする事無く滑り出しました。ホルストさんって上位金級冒険者と聞いていましたけど、本当、一体どんな人なんでしょう?
しかし、驚きはまだ続きます。なんと馬車の行先は勇者様のお屋敷だったのです。しかもこれから暫くの間、この勇者様のお屋敷で暮らす事になるとか、もう理解の外ですね。
〜・〜・〜
ホルストさんが私達を貧民街から引き取って1ヶ月が過ぎました。この1ヶ月でわかった事、それはまぁいろいろありますけど、ホルストさんに恋人が、しかも複数の恋人がいるという事です!
パーティメンバーのアイーシャさんとメリッサさんは元より、勇者パーティの弓聖ゾフィ様もホルストさんの恋人でした。聖女ミシェル様は、微妙ですけど、ホルストさんを好きな事は見ていて丸わかりです。
また、勇者パーティの方々は貴族出身という事ですけど、皆さんとても優しくて私達にも親切で、決して見下したりはしません。
以前は端くれとはいえその一人だった訳ですけど、貴族と聞くと傲慢で横柄、薄情にして残酷、貪欲、そんなイメージです。勿論貴族の皆が皆そうだとは言いませんが。
思わず「何でなんですか?」と勇者パーティの中で一番話しかけ易い聖女ミシェル様に尋ねてしまいました。すると勇者様方も以前はそうではなかったとの事。
「私達も貴族の御多分に洩れないでね。特にクリスなんか伯爵家の出身で「勇者」の能力を授かったものだから、特権意識もあってかなり鼻持ちのならない嫌ぁ〜な勇者だったの」
意外です。今の勇者様を見る限りとてもそうは思えませんけど。
「でもホルスト様の婚約者が「剣聖」の能力を授かった元服の儀で、クリスがホルスト様の前でその娘を連れ去ろうとしてね。それに抗議したホルスト様と決闘になってボコボコにされたちゃったの」
「ボコボコ、ですか?」
「そう。クリスなんか聖剣まで使ったのに、私が降服しなかったら殺されていたわ」
それってホルストさんは勇者様より強いって事ですよね?ホルストさんって魔王ですか!
「その後で私達から謝罪して和解したのだけど、その時にホルスト様がクリスに言ったの。「強さ、それは優しさだ」って。それでみんな目が醒めたって感じかな」
「強さ、それは優しさ。ですか?」
「そう。強ければ強い分だけ優しくなれる、優しくなければならない。誰よりも強いのが勇者なのだから、誰よりも優しいのも勇者だ、ってね」
という事は、
「じゃあ、ホルスト様が私達に優しくしてくれるのって、
「それだけホルスト様が強い方って事ね?」
そういう事なんですね。やっぱりホルストさんが私達を救ってくれた事に裏も表も無くって、純粋に優しさからだったんですね。
「あれあれ?エマちゃんもホルスト様の事好きになっちゃった?」
「なっ!そ、そう言うミシェル様はどうなんですか?」
「勿論、私もホルスト様の事が好きよ。もうあと一押しなんだけどねぇ」
私はこの日を境にホルストさんの観察を止めました。もうそんな事をする必要なんてないからです。そして聖女様も人を揶揄うという事も知ったのでした。
そう言えばミシェル様に揶揄われて訊けませんでしたけど、「剣聖」を授かった婚約者ってその後どうなったのでしょうか?
〜・〜・〜
勇者パーティの館に私達が滞在したのは1週間ほどでした。実はホルストさん達は勇者様パーティの館に居候していたのだそうで、居候が居候を増やせないからと私達と一緒に住める物件を商業区に態々購入したのです。
その家は商業区の冒険者ギルド本部にも近く、貴族街の勇者様パーティの館からもそう遠くない絶妙な立地。そんな好条件な物件がよくあったなぁ、なんて思っていたら、
「実はぁ〜、お化け屋敷だったのよぉ〜」
とメリッサさんが教えてくれました。態と怖い声を出して。
貧民街には幽霊話なんてありません。何故ならみんな生きるのに必死で死んだ人を悼んだりする余裕なんて無いからです。それに人の死も日常的にあって特別な事でもありませんでしたから。そして、何よりも幽霊や悪霊なんかよりも生きた人間の方が余程害を成して恐ろしい存在ですからね。
とは言え、誰も好き好んでお化け屋敷なんかに住みたいとは思いません。
「大丈夫よ。取り憑いていた亡霊達は全てホルスト様が払いましたから。安心していいわ」
アイーシャさんが優しく微笑んで安心させてくれます。でもホルストさんって悪霊退治まで出来ちゃうなんて、本当にどんな人なんだろうって思います。
引っ越し先は確かにお化けが出そうに古くてボロい屋敷でした。
「ホルスト兄ちゃん、なんかこわ、古そうだね」
ミレーちゃんがホルストさんに甘えるように怯えた声を上げて抱き着きました。
「見た目は何だし、中もボロいけどお化けはもういないから大丈夫さ。住めば都ってね」
ホルストさんはそう言ってミレーちゃんの頭を撫でます。因みにミレーちゃんは病気を治して貰って以来すっかりホルストさんに懐いています。まぁいいんですけどね、別に。ちっちゃい子はいいなぁ、なんて思ってませんよ?
見た目は何ですけど、確かに敷地内も家の中も空気は澄んでいて、お化けの類は居そうにありませんでした。
ボロいとは言え、外構や内外装は最低限の補修がされていて、住むのに問題は無さそう。部屋数が多くて庭も広く、みんなで楽しく暮らせそうです。
部屋割りは流石に一人一部屋にはならず、兄弟姉妹の相部屋となりました。ケントとミリー、リラとミラ、ジョグとリグといった具合です。ですが、兄と私はお互いが思春期のお年頃という事で、何と一人部屋になったのです。自分だけの部屋なんて夢みたい!
そうして始まった新居での生活。ホルストさんが家に取り憑いていた悪霊を払ったのですが、新生活も落ち着いた頃になって幽霊を見たという目撃談がで始めました。
最初に見たと言い出したのはミリーちゃん。
「夜中、トイレに起きたら2階の廊下を白い服の女の人が歩いてたの」
ミリーちゃんの話を聞いてみんなは寝惚けか?なんて反応でした。ミリーちゃんは絶対に見た!寝惚けてなんかない!って怒ってましたけど。
その数日後、リラとミラも白い服の女の人を見たと言いだしました。
「夜中に目が覚めて」
「ちょっと星でも見ようかなぁって」
「窓開けて外を見たら」
「「ホルストさんの部屋のベランダに白い服の女の人がいたんだよね」」
ミリーちゃんには悪いけど、リラとミラの目撃談は2人だけに信憑性があります。しかもホルストさんの部屋のベランダって、私、気になります!
そして、遂に兄までもその白い服の女の人を見たと言うんです。
「俺も夜中に小腹が減ったんで食堂でつまみ食いをしようとしたら白い服の女の子が一人でワインを飲んでいたんだ」
「うん。それで兄さんはどうしたの?」
「どうしたのって、それが物凄い美人でさ!思わず見惚れちゃっていたら俺に気付いて食堂から出て行っちゃったんだよ」
もう!見失ってどうするのよ。ダメ兄だなぁ。
「なんで捕まえなかったの?」
「無理無理。なんか神々しいっていうか、俺なんかが手を出しちゃ駄目な存在だったよ」
その後は兄とケントは「物凄い美人な白い服の女の子」の話で盛り上がっていました。男って本当に馬鹿ばっかです。あ、ホルストさんは違いますよ?
家の中で白い服の女の子が目撃されたからって何か悪い事が起きた訳じゃありません。でも、やっぱり気になるので私はホルストさんに白い服の女の人について直接尋ねてみました。
そうしたら、
「あ〜、あれはお化けとかじゃなくて、どちらかと言うとその真逆な存在というか。いい奴だからそのうち紹介するよ」
との事で、知っているどころか親密な関係さえ匂わします。
きっとホルストさんのパーティにはまだまだ知られざる秘密の数々があるのでしょう。
ホルストさん、底の知れない人です。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




