第118話 ええい、みんなまとめて面倒見ちゃえ
俺は縋り付くケントを立たせると、彼の傷んでいる右肩を触診する。どうも腕挫十字固めで脱臼させた右肩関節は整復されてはいても不十分で、可動が障害されて挙上が出来なくなっている。しかも不十分な整復の影響で右肩を動かすと強い痛みが走り、末梢の指先には痺れが出ているようだった。
しかも右腕が動かせないからか筋力も衰え、血行も良くなく右腕全体がやや蒼白。まずは右肩関節の完全な整復が必要だ。
え?何でそんな事が出来るのかって?俺、柔道部だったからね。部の外部指導者が地元の接骨院の先生だったから教えてもらったんだ。
「ちょっとだけ痛いぞ?」
善は急げ。俺はケントが怖気付いて嫌がる前に一気に右肩の関節をはめ込んだ。
「があっ!」
「はい、痛くない痛くない」
ケントの右肩に回復魔法をかけると痛みが和らいだようだ。更に炎症を起こしていた右腕の筋組織を治癒させ、神経と血行の流れも回復させた。
「どうだ?ゆっくり右肩を動かしてみな」
ケントは恐る恐るといった感じで右肩を上下させ、次いでぐるぐる回してから高く挙上した。
「動く、動くよ。痛くもない!指の痺れも無い!」
よし、上手くいったようだな。痛みで動かせず衰えた筋力はリハビリで戻せばいいだろう。
「じゃあ妹さんの元に案内してくれるか?」
「はい」
ケントに続いて小屋の中に入ろうとすると、俺に続いてアイーシャとメリッサも入ろうとしたので感染防止のため止め置く。小屋の中から僅かに聞こえた咳の音、室内から漂う湿って熱の篭った空気には血の臭いが混じっている。恐らく肺結核とかそんな感じの呼吸器感染症だろう。
小屋の奥の粗末な作りのベッドには10歳くらいの女の子がいた。背中の後ろに丸めた毛布が入れられた半坐位の体位、苦しそうな浅く早い呼吸で、時折コンコンと咳込んでいる。
「ミリー、ミリー」
ケントが呼びかけるとミリーは瞑っていた両目を僅かに開け、熱にうかされた虚な視線をケントに向けた。
「ケント、兄ちゃん?」
これもまた苦しみそうに声を出す。
「ミリー、お前の病気を治してくれる人を連れて来たぞ」
「…本当?」
「あぁ、本当だとも。俺の右肩も治してくれたんだ」
ゴホッゴホッと湿った咳込みをするミリーちゃん。口に当てたミリーちゃんの掌には鮮血が付着している。
「ミリー、大丈夫か?お願いします、妹を助けて下さい」
「任せろ。ただし、ここで見聞きした事は他言無用だぞ?」
「タゴンムヨウ?」
「誰にも言うなよって事だ」
「あぁはい、わかりました。絶対誰にも言いません!」
ケントに口止めしたところで、俺はミリーちゃんのベッド横に片膝着いて腰を浮かすと彼女の額に手を当てる。熱いな。浅く早い呼吸、混濁しつつある意識。この容体は俗に言う今夜が峠って奴か。間に合って良かった。
俺はミリーちゃんに向け右手をかざすと、8番目の昭和ライダーの能力を呼び出す。
「チェンジエレキハンド!」
すると俺の右手から右前腕にかけて青く変色して淡い光を帯び、時折バチッと青白い火花を発する。
「浄化光線、照射!」
かざした右手掌に魔力を込めると手掌から青い光が照射され、ミリーちゃんの身体を包む。すると浅く早かった呼吸は落ち着いた息遣いとなり、苦しそうだった表情もすうっと穏やかなものに変わった。エレキハンド、初めて使ったけど病気を治癒させる浄化光線も効果抜群だな。
「ミリー、おい、ミリー」
容体が落ち着いたミリーを見てケントが呼びかけるも反応は無い。ただすぅすぅと穏やかな息遣いが聞こえるのみだ。
「病気は今ので治ったはずだ。だけど落ちた体力は直ぐには戻らない。今はこのまま眠らせておけ」
「はい。有難う御座います」
ケントはそう言うと俺に抱き着くと、俺のシャツに顔を擦り付けて尻尾もブンブン振って喜びと感謝を現した。
こいつってこんな奴だっけ?もっとニヒルでクールじゃなかったか?
ふと視線を感じ小屋の入口を見ると、こちらを覗き見するアイーシャとメリッサが目に入った。二人は泣きながら尻尾をブンブン振る銀狼少年に抱きつかれている俺を見てクスッと笑い、そのまま引っ込んで行った。
〜・〜・〜
ミリーちゃんの感染症はエレキハンドの浄化光線で治った事だろう。だけど病気で体力も抵抗力も落ちている。このまま放っておけば別の病気になってしまう恐れがあるだろう。貧民街は王都やラースブルグやナヴォーリ市に比べるとやはり不衛生で湿度も高いから病み上がりの養生に向いた場所ではない。さて、どうしたものか。
「ねぇホルスト、まさか病気治してはいさようなら、なんて無いわよね?」
メリッサよ、勿論そんな気は無いぞ。
「ホルスト様?」
アイーシャは何故かお姉さんが出来の悪い弟を叱るような表情で俺を見る。
"ホルスト、この娘は病気が治っても体が弱っているのよ?当然最後まで面倒見るのよね?"
メルまでそんな念話を寄越した。
「俺は正義の冒険者だからな。人助けこそ俺の生きる道だ。中途半端な真似はしないさ」
〜・〜・〜
こうして俺は、というか俺達「猫連れ」パーティはケントとミリーの銀狼獣人兄妹を保護する事にした。
俺はケントにミリーはこのまま貧民街にいると病気が再発したり別の病気が発症する旨と彼女の体力が戻るまで俺達のパーティで預かりたい旨を説明。それで、
「ケントも一緒に来いよ」
「俺も、ですか?」
「お前が一緒ならミリーちゃんも安心するだろ?それにお前の腕のケアもしたいし、お前には徒手格闘の才能があるから俺が戦い生きる術を教えてやるよ。どうする?」
暫しの迷いを見せた後、ケントの答えは、
「とても有難い話ですが、俺は行けません。仲間を置いて一人だけ行く事は出来ません。妹を、ミリーを宜しくお願いします」
なるほど、仲間思いで義理堅いという訳か。
と、ここでこの孤児グループのリーダー、虎獣人のティグルがケントに再考を促した。
「ケント、馬鹿な事言ってんじゃねえ。ここからお前達兄妹が抜け出せるチャンスなんだぞ?しかも武闘大会優勝の拳王が弟子にしてくれるって言ってるんだ。こんな貧民街で他人から踏み躙られる短い一生を終えようって言うのか?行けよ!行かねぇってんならお前なんか俺達の仲間から追放する!」
おっと、まさかの追放劇だ。何か俺が余計な事を言って仲違いさせた感があるな。
「ティグル、だっけか?」
「は、はい」
「お前の仲間って何人いるんだ?」
「はい、俺と妹のエマ、ケントとミリー、後は周りにいる4人で8人です」
8人にもなるのか、どうするかな。
"なぁメル"
"わかってるわ。ホルストの好きなようにしなさい"
"悪いな"
次いでアイーシャとメリッサに視線を向けると二人とも黙って頷く。有難う、アイーシャ、メリッサ。
「よし、上位金級冒険者にして武闘大会優勝の拳王たるこの俺ホルストがお前達全員引き取って自立出来るまで面倒見てやる。どうだ?」
《ええ〜っ!!》
突然の提案に驚く少年達、驚愕の声を上げる。
エマと顔を見合わせたティグルは次いで俺に顔を向ける。
「ほ、本当にいいんですか?そんな事」
「男に二言は無い。で、どうなんだ?」
「お願いします!」
続けて呆気に取られているケントに問う。
「リーダーは俺と来るそうだけど、お前はどうする?」
「は、はい。宜しくお願いします」
ケントはまだこの展開に心が着いて行けてないようだった。
勢いでみんな纏めて面倒見るなんて言ってしまったけど、取り敢えず金は有るし、まぁ何とかなるだろう。子供達に技術を教えて少年ライダー隊的なチームを組ませてもいいしな。明日は明日の風が吹くさ。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




