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第117話 俺はそのために来たんだぜ

貧民街のメインストリートから小路に入って少し行った先のちょっとした広場、というか三叉路。武闘大会で対戦した銀狼獣人の少年を探して辿り着いた先で、現在俺達は貧民街の住民と思しき少年達に絶賛取り囲まれ中だ。


俺達に誰何してきたのはこの少年達のリーダーらしき大柄な虎獣人の少年。取り囲んでいる少年達をよく見てみれば、皆獣人である事に気付く。当然だけど痩せていて、身なりもボロく貧しい。


このジギスムンド王国はヒト族が主体となっている国だ。西の隣国ガルメーラ王国も同様で、両国では獣人族は露骨な差別こそされてないものの、高いとは言えない社会的地位にある。そうしたジギスムンド王国の現状がこの貧民街ではこうして顕著に現れていると言えよう。


因みに北の隣国ローメリア帝国は帝室こそヒト族だけど、様々な種族が混在して共存している。更に樹海にはエルフの国やドワーフの国が有り、大陸の西には獣人の国も存在しているし、カブラチッド平原の東にはご存知の魔族からなる魔王国群がある。


「俺は冒険者でホルストと言う。銀狼獣人の少年を探しているんだけど、知らないかな?知っていたら教えて欲しいんだけど」


俺がリーダーらしき虎獣人の少年に用向きを伝えると、彼の背後にいる少年達は互いに顔を見合わせたりと落ち着きを無くした。うん、知ってるんだね、みんな素直で助かるよ。


しかし、リーダーの虎獣人の少年は両目を細めてますます警戒心を顕にする。


「冒険者と言ったな?それは誰かからの依頼なのか?」


冒険者は依頼人についての守秘義務がある訳だけど、この場合は問題無い。


「俺が個人的に探しているだけだ。別に変な組織や貴族も関係無い」


リーダーの虎少年は俺の言葉が信用出来ないようで、俺と対峙しつつ少し経って漸く口を開いた。


「そいつにあんたが一体何の用があるって言うんだ?」


「俺は先の武闘大会でその少年と対戦した。その時に彼はどうしても優勝しなければならないと叫んだ。優勝しなければならないのっぴきならない事情があるみたいで気になってな。一度は拳を交えた仲だ。もし何か困っているようなら手を貸そうかと思ったんだよ


俺の説明を聞くと周囲の少年達は動揺したのか落ち着きを無くし、虎少年は依然俺に鋭い視線を向けながらも僅かにその表情に迷いの色を浮かべた。


「ティグル、この人達ケントとミリーを助けてくれるんじゃないの?」


虎少年の側にいた同じく虎獣人の少女が彼の腕を引っ張り耳元で囁いた。虎少女は俺達や周りの子供達に聞かれないようにしたみたいだけど、このホルストイヤーは聞き逃さないのさ。


「エマ、俺には信じられない。ケント達を助けたってこいつ等には何のメリットも無いんだ」


「でも早くしないとミリーは助からないよ」


リーダーの虎少年がティグルで虎少女がエマ。でもって銀狼少年がケントで、何やらミリーちゃんという病を患う女の子がいるって訳だな。


「なぁ、そのケントだっけ?そいつはミリーちゃんとやらの治療費が必要で武闘大会に出場したのか?」


「「!!」」


虎少年は小声の会話がヒト族の俺に聞き取られた事に驚いたようだけど、事情を察した俺に虎少女のエマちゃんが声を上げた。


「あなたが言った通り武闘大会に出たのは銀狼獣人のケントです。彼の妹ミリーが血を吐く病気になってその治療費を得るために。あなたはケントとミリーを助けてくれるのですか?助けてくれるなら彼の元に案内します。でも興味本位や冷やかしなら帰って下さい」


と、ここで今まで黙っていたメリッサが声を上げる。


「この人はね、決して嘘はつかないの。絶対に悪意で人を騙したりはしない。やると言った事は必ずやり通すわ。だからこの人がそのケントって子を助けると言った以上は必ず助けるって事なの」


アイーシャもメリッサに続く。


「そう。別に損とか得とか、そんなものは関係無い。彼にはそれが出来るだけの能力(ちから)がある。いきなりで難しいかもしれないけど、ここは私達を信じてケント君の元へ案内してくれないかしら?」


メリッサ、アイーシャ、後でいっぱいサービスしちゃう!


女性であるメリッサと且つ獣人族であるアイーシャから諭されティグルはエマと視線を交わす。そしてエマが一つ頷くと覚悟を決めたのか再び俺と向き合う。


「本当にケントとミリーを助けてくれるんだな?」


「勿論。俺はそのために来たんだぜ」


「…わかった。俺に着いて来い」


取り敢えずは信用して貰えたようだった。しかし、メンバーの前でリーダーの威厳を保つためか命令口調の上から目線は変わらない。


「ちょっと、助けてくれる人にそんな口の利き方しないでよ。着いて来て下さい、でしょ?」


エマがそんなティグルの態度を咎める。


「す、済まん」


「私に謝ってどうするの。謝る相手が違うでしょ?」


なかなか手厳しいエマに促されてティグルは「着いて来て下さい」と言い直す。


何と言うか、この世界の女の子って強いよね。まぁエマが行った事は正論なんだけどね。


こうして銀狼少年の元へ案内される俺達。貧民街は元がシレジア川の低湿地なので空気は少々湿っぽいものの、ケントとミリーが住む小屋は特に不潔な感じは無い。ただ、その小屋の中からは病人がいる部屋特有の汗や体臭に排泄物等からなるすえた臭いが漂って来ていた。


「ケント、俺だ、ティグルだ」


ティグルが小屋の中に向かって呼びかけると、中から銀狼獣人の少年が姿を見せた。俺の記憶にあるよりは窶れているけど、それは紛れもなく武闘大会で対戦した銀狼少年だ。


「ティグル兄、どうかしたのか?」


「お前に用があるという客を案内して来た」


「俺に客?」


ケントは客と聞いてティグルの後ろに立つ俺に視線を向ける。


「よう、武闘大会以来だな」


「あんたは、あの時の…」


どうやらケント君も俺の事を思い出してくれたようだけど、次の瞬間には口汚く罵られてしまった。


「お、お前が俺に一体何の用だ?俺の無様な姿を笑いに来たのか?だったら満足しただろう?満足したらとっとと帰ってくれ!」


俺、大会でこいつと正々堂々戦って勝っただけなのにこうまで悪様に言われんのな。


「おい、ケント。この人らはお前とミリーを助けてくれるんだぞ。滅多な口を利くな」


ティグルがケリーを嗜める。


と、ふとケントの右腕を見ると、汚れた三角巾で吊られて固定されている。確かにケントの右腕に腕挫十字固めを決めて痛みつけはしたけど、試合後は大会の救護班の回復士による治療が行われるはずだが。


「お前、右腕どうしたんだ?」


「どうしたって、お前がやったんだろ!」


「いやいや、待て待て、試合後は回復士が治療するはずだろ?」


俺がそう言うと、ケントは表情を悔しそうに歪め!何か溜まりに溜まった内心の澱を吐き出すように声を上げた。


「俺が貧民街の住人だからって奴ら碌な治療もしなかった。そのまま救護室から追い出されたんだ!」


あの連中、後でチクリを入れておくか。


そんな遣り取りの最中に小屋の奥からこほっこほっという咳が聞こえてきた。この小屋に呼吸器系の病を患う病人がいるのだろう。


「ミリーちゃんか?」


ケントはそれに応えず、「くっ」と悔しそうに呻くと顔を逸らした。


「そうです、ケントの妹です。咳して血を吐いて苦しそうなんです」


エマちゃんが助け舟を出してくれた。そんなエマちゃんもケントにキッと睨まれてしまう。余計な事言うな、といったところだろうか。


「ケント、妹が大事か?」


「当たり前だ。たった一人の妹なんだぞ!」


先程とは違って間髪入れずに応えた。こいつも妹が大切なようだな。うん、いい奴だ。


「俺にも妹が2人いる。どっちも生意気だけど可愛い奴だ。よし、俺が絶対にお前の肩とお前の妹の病気を治してやる。しかも無料(ただ)で、だ」


「ホルスト様、その「ただで」は態々言う必要ありますか?」


アイーシャのその突っ込みこそ必要ですか?と問いたい。


「無論だ。最初に言っておかないと気にしちゃうだろ」


「本当か?本当に妹を、ミリーを治してくれるのか?」


「任せておけ。まずは容体を観ないとな?」


「頼む、いや、頼みます。妹を助けて下さい。お願いです」


ケントは地に膝を突き、痛めていない左腕で俺に縋り付いて懇願する。俺はケントを安心させるように長い事洗髪出来ていないだろう脂でぺっとりとした銀色の髪をよしよしと撫でてやった。




いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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