第116話 あいつ今頃何してる?
俺がレイスのマルティン子爵こと丸谷先輩からの依頼を受けてから1ヶ月が過ぎた。世間は未だハインシャルタット殿下率いる第1王子派による第2王子派の粛清、排斥の影響でギスギスとした雰囲気が残るものの、各地の流通も回復して国民生活は落ち着きを取り戻しつつある。
俺はというと、何故かハインシャルタット殿下から褒美?として大金貨100枚(1億円くらい)と王家の紋章が入った短剣を下賜された。
殿下からそんな大金や短剣を貰う謂れなんか無いのだけど、相手が相手だけに返すに返せない。
テーブルの上に積み上げた金貨の詰まった皮袋と短剣を遠巻きに眺めながらそんな事を思った。
勇者パーティの盾聖デリックは「くれるって言うんだから貰っておけよ」と他人事のように(事実他人事だけど)言うと、勇者クリスは短剣を見て「これ見せれば王城はフリーパスだよ」ととんでもない事を曰った。
クリスの話を引き継いだ聖女ミシェルによれば、王家の紋章が入った短剣は王族に謁見資格の無い平民や下級貴族に下賜されるものだそう。
「まぁ2度と俺から殿下に用があって会いに行くなんて事は無いだろうけどな」
「そんな暢気に構えていて良いものではありませんよ?」
ミシェルの解説では、この短剣は王族が個人的に呼び出したい平民や下級貴族に与えられ、王族が下賜した相手に用があれば容赦無く呼び出されるのだという。その時はこの短剣で正規の手続きを踏まず王城に入る事が出来、呼び出した王族と面会出来ますよ、という代物だそうだ。
「つまりハインシャルタット殿下はこの度の事でホルスト様に利用価値を見出し、これから事ある毎に呼び出すぞって事です」
えぇっ?!嫌すぎるのですが。
「まじか?」
「まじ、ですとも!」
「謹んでお返ししたいのですが?」
「馬鹿なの?ダメに決まってるでしょ!そんな事したら下手すれば不敬罪で処罰されるのよ?」
ゾフィよ、「馬鹿なの」は無いだろうよ。でも処罰されるのは嫌だな。全く、あの殿下は厄介な代物を押し付けてくれたものだ。
「しょうがないよ、ホルスト。それだけの事に手を出しちゃったんだから。何かあったらその時はその時だよ」
メリッサが慰めるようにそう言って俺の頭を抱き抱える。うん、柔らかな双丘の感触とメリッサの良い匂いに包まれて、イイね!
しかし、丸谷先輩の奴め。転生する前にちょっと地獄で鬼灯様に絞られて来いってんだ。
〜・〜・〜
そんな話を昨夜は館でしつつ、今の俺達が何をしているかといたえば、パーティメンバーで貧民街を歩いているのだ。
貧民街は王都からやや離れた、位置的には王都の城壁とシレジア川の間、城門に繋がる街道からやや外れた川沿いで元は湿地帯だった地帯にある。
王都は王国の中央に位置するラプラータ平原を流れるシレジア川の河岸段丘上に築かれている。河岸段丘上に最初に築かれた王城を中心とした城塞都市を形成し、時代が下って経済の発展とそれに伴う人口増加により更に外へ外へと拡張された。この地に王都が遷都されてから約300年で現在の姿となっている。
一応、都市計画に基づいた街割と拡張ではあるそうだけど、都市の拡張が人口の増加に追い付いてないのだそう。そのため王都に収容しきれなくなった人口は城壁の外に集まって暮らすしかなくなり、やがて貧民街の原型が形成されるに至ったという。
貧民街が形成されると、貧民街の住民達はその貧しさ故に助け合いながらいくつかの集団に別れた。集団の構成員は互いに強く団結し、次第に犯罪組織化し、貧民街は犯罪の温床となっていった。そのため現在までに何度か司直による大規模な手入れと街の破却が行われている。
しかし、そこに貧者の集団がある限りすぐに別の場所に貧民街は形成され、犯罪組織もやがて息を吹き返し、とその繰り返しが続く。
そして近年の王国における経済発展により王都への人口流入が加速されると、貧民街も住民が増えて大きくなった。貧民街は現在では最早以前のように王国側が容易に破却出来ない規模になっているそうだ。
で、何で俺達「猫連れ」冒険者パーティが貧民街にいるか、という最初の問いに戻ると、人探しのためだったりする。
それは人探しの依頼を受けた訳ではない。俺の個人的な動機による。俺が探しているのは、あの武闘大会の拳闘部門で俺と当たった銀狼獣人の少年だ。
名前も知らず、なかなかの格闘センスを持っていたし根性もあった。まぁ俺が出場していなくても熊僧兵のシグルトやダークエルフの武者修行者ガラハッドがいただろうから優勝は出来なかっただろうけど。
だけど、あの試合の最後で叫んだ
「勝って優勝しなければならないんだ!」
あれがどうにも気に掛かっていたのだ。
熊僧兵のシグルトも貧民街での奉仕活動では気に掛けておくとは言っていたけど、あれ以来それに関しては何の音沙汰も無いので発見には至っていないのか、シグルトが忙しいのか。
俺の方は漸く丸谷先輩の件が片付いたし、国内の混乱も落ちついたようなので銀狼獣人少年の捜索に着手出来たという訳だった。
探してどうするのかって?そこが悩みどころなんだけど、試合時の発言から推測するに銀狼少年は何らかの困った状況にあるのではないかと。
武闘大会優勝とは即ち金と名誉だ。貧民街の住民である銀狼少年の場合、名誉というよりもぶっちゃけ金だろう。剣、槍、弓は得物が必要であり、素人がちょっと齧ってモノになるものではない。腕っ節に自信があって大金が必要なら拳闘部門に出て優勝狙うのが手っ取り早い。つまり、銀狼少年は急にどうしても金が必要な状況にあるのだ。
では貧民街の住人で急に大金が必要になるって何だろう?
「博打のし過ぎで胴元から借金して返済を求められた、とか?」
「俺の感じだとあの子はそういうタイプじゃなかったな。はい、メリッサ案消えた」
「娼館に好きな女の子がいて身請けしたい、というのはどうでしょう?」
「それもありかもしれないけど、もっと必死な身を斬るような悲壮感があったかな。アイーシャ案も消えた!」
そんな遣り取りをしているとメリッサが文句を言う。
「じゃあホルストは何だと思うのよ?」
それを調べに行く訳だけど、そこへスリングから顔を覗かせた白猫メルが加わった。
"家族の誰かが病気を患った、早く治療を受けなければ、みたいな?"
「「「それ(だ)(ですね)(よ)!」」」
流石はメル、いい線行ってる。
要は銀狼少年が困っているようなら助けてやりたいな、と。
〜・〜・〜
貧民街のメインストリートを進み、もう随分と奥まで来た。ナルディア教団の焚き出しの警護で貧民街には何度も来ているけど、ここまで奥に来たのは初めての事。無論何が起きても対処できるものの、警戒するに越した事は無い。
貧民街のメインストリートは道幅は4m程で、その両側には何やらの肉を調理する屋台、食品やら薬?はたまた雑貨やなんかを商う小店が軒を並べ住民の往来も多い。
今のところ絡んで来る悪党や財布を擦ろうというスリ小僧もいない。シノビライダーの認識阻害を俺だけじゃなく全員にかけているからで、お約束な展開は無い。
俺達の先頭を進むのはメリッサだ。銀狼少年を探す手掛かりは俺の記憶にある彼の姿と貧民街の住民だろうという予想だけ。俺はそれをメリッサに伝え、それを元に彼女の能力「ダウザー」で大まかな居場所を掴んで貰った。更に現地に赴いて棒を使ったダウジングで銀狼少年の居場所を探って貰っている。
因みに棒を使ったダウジングっていうのは、探す対象を思い浮かべ、地面に垂直に立てた棒から手を離して倒れた方に進むという占いだ。
それを子供の遊びと言うなかれ。これが結構正確で、ダンジョン内ではとても役立っているんだ。俺達「猫連れ」が効率よくダンジョン内での活動で稼げているのはメリッサの棒倒しによるところが大きい。
「こっちよ、ホルスト」
メリッサが棒の倒れた方を指差す。そこは貧民街のメインストリートから横に延びた小路の一本。そこは暗く狭く、かつての九龍城もかくやという、正直入って行くのに躊躇するレベル。俺だけならまだしも、アイーシャとメリッサを連れて行くのが躊躇われる。
「ホルスト、行かないの?この奥にいるよ?その銀狼少年」
メリッサが躊躇し佇む俺を怪訝そうに見る。この先に用があるんでしょ?と。
「ホルスト様、もしかしてこわ「い訳あるか!行くぞ」」
アイーシャとメリッサが突っ込みを入れた俺を見て顔を見合わせるとクスッと笑った。
全く、2人して揶揄いやがって。
〜・〜・〜
薄暗い小路を進む。路面には板が敷かれているけど、その下は所々水が溜まっていて、踏み込むと時折ぐずゅっという音と共に周囲に水が飛び散る。小路の両側からは俺達を警戒する視線を感じる。
暫く進むと小路は広場の様な交差点に出た。そこには住民達が集まっていて、俺達は図らずも包囲される形に。
「お前達、ここに何の用だ?」
住民達を率いているのは大柄なオッサン、ではなく大柄ではあるけどまだ少年の面影を残した虎獣人だ。住民達をよく見てみればヒト族や獣人族の少年少女の集団。
警戒心と敵意に満ちた視線を周囲から浴びつつ、しかし彼等を刺激しないようさり気なく俺達は互いに背中合わせに構える。
とはいえ、それほど脅威に感じているという訳ではない。リーダーらしき虎獣人の少年こそ大柄ではあるけど、俺達を包囲するのは皆貧しげで痩せている子供達だ。
俺はまず腕を組んで威嚇するかのように仁王立ちする虎獣人の少年に自分達がここに来た理由を、穏便に説明してみる事にした。飽くまで穏便に、な。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




