第114話 昨日までの自分にさよなら
半陰陽、ふたなり、両性具有者。どのように表現しても意味するところは同じ、男性の性器と女性のそれを併せ持つ者の事だ。
いきなり余談なんだけど、俺は生前の大学生だった頃、ゼミの先輩に誘われて数人によるAV鑑賞会に参加した事があった。その先輩はかなり偏った好みの持ち主で、洋物・ふたなり系が大好物な人だったのだ。
その時俺は鑑賞会は洋物とは聞いていたけど、雰囲気的にフランスのポルノ作品を見るものだと思っていたんだよね。ところが始まってみたらびっくり、それはブラジルで撮影された古めのふたなり作品!しかも無修正と来たものだ。
内容はここでは割愛させて貰うけど、その女優さんはとてもご立派な槍をお持ちな黒髪ロングでエキゾチック、且つナイスバディな美女だった。
様々な小説、漫画、映画、舞台でもふたなりは美人や美少女として描かれている。それはフィクションだから美人や美少女としているという面もあるだろうけど、実際に生前に見たブラジルのふたなりポルノ女優(多分本物)は美女で、今俺の目の前にいる自身が半陰陽だと告白したリサルト殿下もとんでもない美少女だ。もしかしたら本当にそうした傾向があるのかもしれないな。
"先輩、この世界には両性具有な種族がいたりするんですか?"
"俺の知る限りではいなかったな。別の大陸にはいるかもしれないが"
かつて宮廷魔術師だった丸谷先輩も知らないんじゃ、少なくともこの大陸西側の人類領域にはそうした種族はいなそうだ。だとすればリサルト殿下は俺の前世でもあったようにDNAの気紛れの結果、という事になるのだろう。
「ボクが男の子だと喜んで優しかったお母様。でもボクが半陰陽だとわかり、成長するにつれて見た目が女の子のようになるとそれまでと違って冷たくなった。時には忌々しそうに睨まれて、ボクはその頃からこの事実が知られないように王宮内の奥深くに軟禁されたんだ」
リサルト殿下は淡々と自身の身の上を語る。きっと誰かに聞いて欲しかったのだろう。
「ボクはそれでも対外的には今まで通り男の子で王子。でも、もうボクは自分が女の子なんだと自覚してたから、それがとても辛かった。まして同じ"女の子"と婚約しなければならないなんて嫌に決まってる。だから公爵令嬢との婚約の席でお母様やドゲメネ公爵にボクがどんな人間なのか言ってやったんだ」
…いや、殿下も随分と大胆で、思い切った事をしたもんだ。
「あの人達にとってボクの心なんてどうでもよかった。半陰陽であれ何であれ、ボクが"王子"である事にしか価値を見出していなかったんだ。それで公爵令嬢との婚約は成立、でも結果としてあの塔にボクは幽閉されちゃった」
カップを両手で持って俯いたままリサルト殿下は「たはは」と暗く笑った。
それから俺はお返しとばかりにリサルト殿下へ自分の生い立ちを面白おかしく話した。メルやアイーシャ達の事は伏せたけど、リサルト殿下は俺の話を聞いて面白がって笑ったり、泣いて怒ったりと百面相を見せてくれた。そして気付けば殿下はうとうとと舟を漕ぎ始めたので俺はテントに入って寝るように促す。
「リサルト殿下、もう寝ましょう。明日からは旅行ですから」
「…わかった。おやすみ、ホルスト」
そう言うとリサルト殿下は眠そうによろよろとテントの中に潜り込んで行った。
「先輩、これで良かったんですかね?」
俺はテントに潜り込む殿下を見届けると、丸谷先輩に尋ねてみた。
「お前が付いてりゃ殿下も安全だし、問題ないだろ。まぁ、問題があるとすれば、後でお前がハーレムメンバーの吊上げに合うくらいか?」
あ〜、それはキツイ、かなぁ?
「それは、その分をあっちの方で頑張ったりして赦して貰います」
「ならいいんじゃないか?殿下に広い世界を見せてやんな。だけどな、惚れられないようにしろよ、色男。下手すりゃあ掘られちまうからな。フヒヒ」
「俺にそっちの趣味はありませんよ!」
全くゲスいな。何が「フヒヒ」だよ、下品だな!
〜・〜・〜
翌朝、俺は亜空間収納から俺の普段着を取り出すと、リサルト殿下に着替えるよう手渡した。かなりブカブカになったけど、あの薄い部屋着のままでいるよりはいいだろう。
それから空路を南へと飛び、途中にあったミールコット伯爵領の町で殿下の服やら靴やら旅に必要な生活道具一式を購入。この日はこの町の宿屋に一泊した。
男の2人旅の体なので、部屋は一部屋でベッドは2つ。殿下の着替え中は部屋から出たりと気を使う。
明くる朝は宿の朝食を食べて精算を済ますと、町を散策してから人気の無い辺りで殿下を抱えてスカイジャンプ。再び南の海を目指す。
因みに一昨日の夜、殿下がテントで眠りについてから事の次第を式神でアイーシャに送っている。王都に帰ってからの反応が恐いところだけど、作戦の成功についてアイーシャから従姉妹のエリーシャを通じてハインシャルタット殿下には伝わるだろう。
そして到着しました、港湾都市ナヴォーリ市。
「ナヴォーリよ、私は帰って来た!」
なんだかんだで半年振りくらいになるのかな?上空から見るナヴォーリの街もナヴォーリの港も変わり無く、随分と活気に満ちているように見える。
「へぇ、あれが海!あれ全部が水なんて凄い!」
お姫様抱っこされたまま、リサルト殿下は遥か水平線の彼方まで見渡して感嘆の声を上げる。
「ねぇホルスト、あの向こうには何があるのかな?」
殿下の口調は随分と砕けたものとなっている。それはこの3日の間行動を共にしているという事もあるけど、俺と殿下が男2人の冒険者パーティで旅をしているという設定にしているからでもある。
短い間とはいえ王族である事を否定する訳だから、ひょっとしたら憤るかなとも思ったけど本人はその設定にノリノリ。
「今日からボクは王族なんかじゃなく、冒険者なんだね」
「あぁ、でん、いやリサルトは何か特技だとか「能力」なんかはあるの?」
「うん。「能力」は授からなかったけど、ボクは魔法が得意だよ。魔力量も多いし、全ての属性が使えるんだ」
それは何気に凄いな。下手な「能力」があるよりか、その方が余程使い勝手が良い。
因みに、その後スカイジャンプする前、森の中で殿下の風魔法を見せてもらった。それは初歩的な攻撃魔法である風刃で、木立の太い枝が綺麗にスッパリと切り落とされ、十分に実戦で使えるレベルの威力だった。
凄いじゃないかと声を掛けると、リサルト殿下はドヤ顔で振り返るも、その後で何故かシュンと俯いてしまった。
「でも、塔の上の部屋に幽閉されたのはこの魔法を警戒されてでもあったんだ」
何でも、あの塔の上の部屋には魔法を封じる術式が施されていたそうだ。「アクションヒーロー」の能力を使ったから俺には通用しなかったけどね。
〜・〜・〜
ナヴォーリの港をリサルト殿下に案内。そして昼食のため以前に滞在した繁華街にある宿屋魚藍亭を訪れると、早速宿の女将さんに見つかった。
「あら久しぶり。魚藍亭にようこそ、街の救世主様」
「ご無沙汰してます、女将さん。でも救世主はやめて下さいよ」
「ふふふ、冗談よ。今日は、まぁ!綺麗な娘さん連れちゃって。でもウチに来てくれたから市長には黙っておくわ。ご注文は?」
俺は宿の食堂メニューで一番高い大海老のトマト煮の定食を2つ注文。椅子を引いても一向に座る気配の無いリサルト殿下は心ここに在らずといった感じでいる。
「ねぇホルスト、今、あの店の従業員さん、ボクの事を綺麗な娘さんだって」
「言っていたね」
「ボク、生まれて初めてだよ。女の子って言われたの」
それが余程嬉しかったようで、リサルト殿下は鼻息も荒く、頬を上気させていた。
その後、ナヴォーリの街では何処に行ってもリサルト殿下は女の子として見られ、扱われた。そこで俺は旅のオプションサービスとして殿下を女性用の服などを扱う店に女性用の下着と服を購入すべく連れて行き、その服を着たまま続いて髪結屋に直行した。
髪結屋のお姉さんにリサルトの髪を整えて貰う。その間、俺はお姉さんから「彼氏さんは後のお楽しみ」と店から追い出されたため、近くのカフェでお茶しながら待機する。彼氏では当然無いけど、そこは野暮な事は言わない。
そして待つ事1時間と少し、「出来ましたよ」と呼びに来たお姉さんに連れられて髪結屋に行って見ると、そこで俺が見たのは町娘の衣装を着た輝かんばかりの美少女だった。
「どう、かな?」
頬を染めてもじもじと恥ずかしそうに訊くリサルト殿下、もう破壊力抜群だ。
少し赤みのある金髪は後ろで紫色のリボンで束ねられたポニーテール。薄化粧を施されて薄っすら紅色のチーク、唇は薔薇のように赤く、青い瞳がキラキラと輝く。
白真珠の首飾りが真っ白な首元を飾り、双丘が水色の袖が膨らんだワンピースドレスの胸を押し上げて締まったウエストと共にスタイルの良さを際立たせてせいる。
「綺麗だ。凄く似合ってる」
「そっ、そう。有難うホルスト。ねぇ、ボク、ちゃんと女の子に見える?」
「あぁ、それ以上無いくらいに」
リサルト殿下は照れて恥ずかしそうにしながらも本当に嬉しそうだ。髪結のお姉さんもリサルト殿下の出来栄えに満足気で、逆に俺が「最高の素材を有難う」と感謝される始末だ。
真珠の首飾りは店の商品だったので他のリボンや髪飾りと共に購入し、殿下に献上した。
〜・〜・〜
髪結屋から出ると、俺は陽が暮れて灯台と街灯の灯りが照らすナヴォーリ港の水面を見ながらリサルト殿下をエスコートして歩いた。そして途中にあったレストランで夕食を摂る事に。
ウェイターに心付けを握らせて案内させたテラス席。今日のおすすめは白身魚のムニエルだと言うので2人分を注文する。
白ワインの食前酒が運ばれ、乾杯して一口飲むとリサルト殿下が徐に口を開いた。
「ホルスト、今日は色々有難う。ボク、本当に嬉しくて」
うんうん、殿下が喜んでくれて俺も嬉しいさ。
「殿下が喜んで下さっ「待って!」」
ん?何でか言葉を遮られたぞ?
「その殿下だよ。今のボクは殿下じゃなくて平民の冒険者でしょ?」
「そうですね。俺が言い出した事でしたね」
「それで、ボクはこの旅が終わったらナルディア様の神殿に預けられるんだよね?」
「そうですね。俺がそう伝えましたからね」
「だから、ボクは今日限り王族も王子も男の子も辞める!」
なるほど、そう来ましたか。自分意志でどうこう出来ないのが王族籍な訳だけど、その辺はハインシャルタット殿下がどうにかするでしょうし。
「そうですね」
「もう!ホルストは「そうですね」ばっかりだね=3」
「ご丁寧に俺の物真似までどうも。でも俺もそれがいいと思います」
「え?」
「リサルト殿下は今まで本当の自分を押し殺して来ました。今のあなたを見たら10人が10人、奇麗な女の子としか思わないでしょう。だからこれを機会に世間の熱りが冷めるまでナルディア教団の神殿で過ごして、その後は一人の女性として、新しい自分として生きてみたらどうです?」
そう言ったところでウェイターが前菜を持って来て配膳し始めたため会話は中断。この会話の続きが話されたのは夕食が終わり、ほろ酔いとなったリサルト殿下を支えて魚藍亭に戻る道すがらになった。
「ホルスト!聞いてる?ボクはねぇ、生まれ変わるの!本当だからね?」
はいはい、聞いてますよ。殿下が酔うと絡む癖があるのは聞いてませんでしたけどね。
「だから名前も変えるよ。今からボクは、そうだな、リサルトだからサリーってどう?いいよね?よし、今からボクの事はサリーって呼ぶんだよ?わかった?」
「サリーね。わかったよ、サリー」
「うん、大変宜しい!」
満足気に微笑むリサルト殿下改めてサリー。もうドゲメネ公爵別邸離れの塔で見た諦め切った生気のない表情のリサルト殿下じゃない。希望に満ち自信に溢れて新しい人生を歩もうとしている奇麗な女の子だ。
魔法が得意だと言っていたっけ。魔法が得意なサリー、魔法使いサ…
〜・〜・〜
その後、俺とリサルト殿下改めサリーは数日かけてナヴォーリの街と港を堪能し、ババール山麓の温泉を楽しみ、ラース辺境伯領の領都ラースブルグを経由して王都に戻った。
このコース、お前が行きたい所じゃねぇの?という突っ込みが来そうだけど、俺だってこの世界をよく知っている訳じゃないからね。行った事のある場所に偏るのはしょうがない。
王都のナルディア教団の神殿では俺の寄り道に怒ったメル達が待ち構えていた。しかし、連れて来るのが第2王子かと思いきや、すっかり女の子の装いが板についたサリーだったので「え?どういう事?」と怒気がすっかり抜けてしまっていた。よし、計算通り!
俺とサリーは別れの抱擁を交わすと、サリーはナルディア教団の巫女さんに連れられて神殿の中に消えて行った。
さて、俺とサリーは再び会う事がこの先有りや無しや?それはわからない。ビーバップビバップ未来の事は誰にもわからないよ♪って歌もあるからな。
もし再び会う事があるなら、それまではさよなら、サリー。いい女になるんだな(CV:池田秀一)。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




