第113話 お任せ旅行案内
リサルト殿下をお姫様抱っこしてスカイジャンプ。眼下のドゲメネ公爵別邸には特段動きは見られず、未だリサルト殿下が奪われた事はバレていないようだった。
「凄い、本当に空飛んでる!」
俺の首にしがみつきながらも驚くリサルト殿下の声を耳元で聞く。
「今夜は雲が出ていて今一つだけど、晴れた夜は綺麗なものだよ」
「へぇ〜、そんなんだ。見たかったな、そんな綺麗な夜空」
俺が引き受けた依頼はこのままリサルト殿下を抱いて王都のナルディア教団の神殿まで飛んで行けば終わりだ。このままゆっくり飛んで行っても1時間くらいなものだろう。リサルト殿下はそこで教団に引き渡されたらその後どうなるのだろうか?
ナルディア教団にリサルト殿下を引き渡すのは、殿下の第1王子派による暗殺と第2王子派からの奪還を防ぐためだ。
この世界では神の存在は当たり前。前世の地球のように神は存在するのかしないのかと論争になる事も無く、しっかりはっきりと存在している。神々は能力や魔法という形で人々に恩恵を与え、神託という形で人間社会に容喙し、時にはその姿を顕現したりもするのだ。メルのように人間社会に紛れ込んでいる眷属も案外多いんじゃないかと俺は思っている。
そんな神々を奉じるだけに各教団は世俗の権威とは一線を引いて接し、付かず離れずの距離感を保っている。そうしなければ人間社会は神が支配する完全な政教一致した世界になってしまうから。そうした訳で教団と為政者とは互いに介入しないという相互の暗黙の了解が出来ていたりするのだ。
俺がリサルト殿下の保護をナルディア教団に頼んだのも、その世俗権力の不介入を当て込んでの事で、リサルト殿下が神殿から出ない限り殿下の身体と生命の安全は保障される。
(その代わり一度神殿に入ったら政治状況が変わらない限り出られないんだよなぁ)
つまり、リサルト殿下が自由でいられるのはこの飛行中だけという事になる。
"先輩、ちょっとだけ寄り道しても大丈夫ですかね?"
"問題無い。殿下に世界を見せてやんな"
丸谷先輩、理解が早くて助かる。
俺は滞空していた高度から上昇し、更にスピードを上げる。
「殿下、ちょっと寄り道しますよ?」
俺は殿下の答えも聞かず上昇を続け、厚い雲の層を突き抜けた。
雲の上は星々の世界だ。銀盤のような月の光が雲に反射して雲海を仄かに白く輝かす。
「わぁ、凄い!綺麗!」
この光景にリサルト殿下は興奮したようで、盛んに声を上げる。
「殿下、寒くないですか?」
低層な雲海を突き抜けたので、今の高度は凡そ2000mといったところか。酸欠にはならずとも地上の気温よりは単純に12℃は低くなっているはず。俺は火魔法を応用して自分達の周囲を20℃位に保つようにはしているのだけど。
「うん、寒くないよ。大丈夫」
月光に照らされたリサルト殿下がフワッとした笑顔で頷く。
「ホルスト、ボクからあなたに最大の感謝を。この先ボクが自由に生きられないだろうから、こうして星々の世界を見せてくれたのでしょう?」
察しが良い。
「そうだ!殿下、俺にお任せ旅行案内を依頼してみませんか?」
「お任せ旅行案内?」
「えぇ。俺が受けた依頼は第2王子派のクーデターを未然に防ぐ事です。それはドゲメネ公爵の元から殿下を拐って件の公爵はクーデターを起こす名目を失ったから、俺が受けた依頼はほぼ達成しています。依頼主も多少の寄り道は認めると言ってますから問題無し!」
俺からの提案に目を見張るリサルト殿下。
「行きたい、行きたいです!ボクは冒険者ホルストにお任せ旅行を依頼します。あ、でも報酬が払えない…」
冒険者が報酬で動く事は知っているなんて、案外と下々の事にも詳しいのな。
「報酬は、そうですね。俺はこう見えて絵を描くのが趣味なんで、殿下の姿絵を描かせて貰えませんか?」
「ボクの姿絵?そんなでいいなら幾らでも。じゃあ出発進行!」
「了解。全速前進、ヨーソロー!」
「え?何それ?知らない」
「いえ、何でもない、デス」
…まぁ、仕方ないよな、知らなくても。世界が違うんだし。
〜・〜・〜
俺がリサルト殿下に提案したお任せ旅行案内。殿下は実にノリノリだけど、いざ出発するも時間は既に深夜に近かった。当ても無く飛行し続ける訳にも行かず、今夜は何処かしら地上の安全な場所に降りる必要があった。
この付近はドゲメネ公爵の飛び領地であり、そもそもドゲメネ公爵が将来王都を攻略するために領有したのがこの飛び領地だ。主要街道からも外れ、別邸という名の軍事施設まで設けている訳だから周りに町や村なんて無い。街道に出れば宿場町や農村なんかはあるだろう。しかし、こんな夜更けに訪を入れても怪しまれるのがオチだ。
という訳でお任せ旅行の初日は野宿。
パチパチと焚火が爆ぜる。俺は平成ライダー(魔法使い)の能力である亜空間収納から鍋を出して焚火に掛け、魔法で水を注いで湯を沸かすと2人分のテントを張った。
リサルト殿下は俺のコートを羽織って床几に腰掛け、焚火に当たって暖を取っている。俺は亜空間収納から茶葉と砂糖を出すと鍋で沸かした湯に入れ、お茶をカップに注いでクッキーと一緒に殿下に渡した。
「有難う、ホルスト。実はボク、少しお腹空いてたんだ」
俺は更に腸詰めも出してその辺に落ちていた小枝に刺して焚火で炙る。
「凄いね、ホルストは。何でも出来ちゃうんだ」
「何でもは出来ませんよ。出来る事だけで」
いや、何か羽川さんみたいな事言ってしまった。
「それでも凄いよ。ボクなんか自分じゃ何も出来ない。利用されてばっかりで」
それまでの高めなテンションから急にしゅんとなるリサルト殿下。俯いたままお茶を啜り、クッキーを齧る。
「ねぇホルスト、ホルストは気付いたでしょ?ボクの身体…」
「えぇ、まあ」
最初、ドゲメネ公爵の別邸離れの塔でリサルト殿下を見た時は前世の日本で言うところの性同一性障害なのかと思った。しかし、リサルト殿下を抱き上げてみてわかった。殿下は男性の性同一性障害ではなく、その身体は女性のものだった。まぁ、その、胸もしっかりあったしね。
だけど、わからなかった事もある。女性の身体で、ボクっ子だけど女性の心を持つ殿下が何故第2"王子"なのか。
「ボク、半陰陽なんだ」
全てのピースが出揃い、パズルはピタッとはまり込んだ。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




