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第112話 バラライカ作戦始動!

さて、第1王子ハインシャルタット殿下からバラライカ作戦の内諾を得られたので、いよいよ本格的にバラライカ作戦開始します!


の前に、ちょっと現在のジギスムンド王国における王位継承紛争(仮)について学習してみよう。


この問題、そもそもの発端は現国王ザーカイラス陛下と正妃であるキャサリン王妃との間に男児が産まれなかった事に起因する。


王妃キャサリンは隣国ガルメーラ王国から陛下の元へ嫁いで以来長女チェルシー王女を出産した後に懐妊無く、側妃マーガレット妃(国内のルーデンドルフ侯爵家出身)が先に長男を産むに至った。それが第1王子であるハインシャルタット殿下だな。


このハインシャルタット殿下は文武両道に優れた方で、国王直系の男児が他にいなかった事から立太子する事が王宮では既定路線となっていたという。しかし、キャサリン妃の妨害でなかなか王太子にはなれないまま数年が経過。


そして遂にキャサリン王妃に待望の男児が誕生し、ハインシャルタット殿下の立太子は当面見送りとなった。それによりジギスムンド王国の政情は側妃が母親でも優秀な長男を次代の国王と望む第1王子派と正妃が産んだ第2王子が正統な跡継ぎであるとする第2王子派による派閥争いにより揺れに揺れる事となった。


ここで更にこの問題を複雑にしたのが2人の王子の母親の出身だ。正妃であるキャサリン妃は隣国ガルメーラ王国の王族出身であり、言ってしまえば外国人。対する側妃であるマーガレット妃はジギスムンド王国の由緒正しいルーデンドルフ侯爵家から国王ザーカイラス陛下に輿入れした側妃。つまり第2王子は正妃が産んでいるとは言え外国の王家の血が入っているのだ。まぁ、前生でのヨーロッパの王侯貴族では普通にあった事だけどね。


外国王家出身と言えども王妃は王妃なので第2王子がジギスムンド王国の王位を継承しても何ら問題は無い。しかし、側妃が産んだとは言え既に優秀な長男がいるのだ。しかも母親が同国人で侯爵家という高位貴族出身の。心情としてどちらに寄り添いたいか?とこの国の者に問うたならば多くが愛国心、王家への忠誠心から第1王子寄りとなるのが人情というもの。こうして王太子の座は再び第1王子へと傾いた。


ここで自派の不利を悟ったキャサリン王妃が打った手によって形勢は逆転、とまでは成らなくとも第1王子派に拮抗出来るほどの勢力に盛り返す事に成功。それは第2王子とジギスムンド王国の4大公爵家の一つ、ドゲメネ公爵の息女チェルシー嬢との婚約だった。


マルティン子爵こと丸谷先輩が宮廷魔術師(王室の特務機関長)が生前に掴んだ情報によれば、このドゲメネ公爵こそが長年に渡り魔王国群と繋がり王国を内から蝕み続けた獅子身中の虫、売国奴の親玉なのだ。


外国王家出身の王妃と売国奴公爵の結託。その背後には黒幕として魔王国群がいるという訳で、それぞれの思惑を秘めてジギスムンド王国の政情は不安定化し、王国内の混乱は王都から次第に国土全域へと広がって行った。


でも王命で次の国王は第1王子に決まってるんじゃなかったっけ?という質問もある事でしょう。それはそうなんだけど、その王命って飽くまで王位継承順位の話であって、立太子の勅命ではないんだよね。国王陛下は王命という勅許よりも拘束力の無い曖昧な命令で第1王子を王位継承順位の1位にしておくけれど王太子にはせず、第2王子の立太子の可能性も残し両派のバランスをとって政局の安定を図ったのだろう。


これは第1王子若しくはその派閥にとっては迷惑極まるよな。この王命によって第1王子派がやや有利に見えても何も行動が起こせず、政情も国内の混乱も糺すことが出来ないのだから。だからハインシャルタット殿下がついポロッと「陛下が追討の勅許を出してくれれば」とボヤいてしまったのもそこなんだな。


では王妃が産んだ正統な王子でありながら何故第2王子が王太子と成れないでいるのか?俺が思うに第2王子自身に何らかの問題があるのではないだろうか?アイーシャによれば第2王子自身に関する情報は極めて少ないそうだ。年の頃は俺より2コ下で妹エミリーや第3王女のソフィア殿下と同い年。だけど王立学院には在学していない。


第2王子の為人もわからない。学院に入学しなかったのは精神に問題があるのか、身体に問題があるのか、或いはその両方か。第2王子であっても正妃が産んだ男子であれば"まとも"な人物なら、例え優秀なハインシャルタット殿下の存在があったとしても第2王子が王太子となっていただろうに。どうもそこら辺にこの問題の根源がありそうに思えるよ。


そしてそこに俺が一石を投じる訳だけど、果たしてハインシャルタット殿下はそれをどう利用してジギスムンド王国の争乱を治めるのか。まずはお手並拝見という感じかな。


〜・〜・〜


あの非公式な夜中のハインシャルタット殿下との会合から一夜明けた翌日。我等冒険者パーティ「猫連れ」はバラライカ作戦を本格始動すべく動き出した。


と言って皆特別これといってやる事は無い。第2王子の居場所はメリッサがダウジングにより割り出し、そのピンポイントな監禁?軟禁?されている部屋まで特定出来ている。


そこへ俺が8番目の昭和ライダーの能力「重力低減装置」で空から侵入し、第2王子の身柄を確保。再び空を飛んで現場をずらかって王都のナルディア教団の神殿に降り立ち、神官達にその身柄を引き渡して終わりだ。後は神官や巫女さん達が丁重に保護してくれるだろう。


ナルディア教団の神殿にはメルがナルディア様の許可を得て顕現し、ナルディア様の御神託として教団に第2王子の保護を命じてある。アイーシャとメリッサも既にメルと一緒に神殿に赴いて待機しているだろう。


第2王子の居場所は王都から東へ約20カリーグ(1カリーグ=1Km)離れたドゲメネ公爵の飛領地内にある別邸だ。


別邸といっても周囲を水堀と石垣の城壁で囲った実質的な城塞。


別邸の建物は城壁の四隅に物見塔があり、中心には居館と広場、居館から渡櫓で結ばれた離れの塔がある。メリッサの占いによれば第2王子はその塔の最上階にいるという事だ。これでは監禁されているようなもので、とても一国の王子への待遇とは言えないな。


俺は目撃されないよう、念には念を入れて王都から離れた郊外の森から8番目の昭和ライダーの能力で飛び上がると、ドゲメネ公爵の別邸まで飛行し、その別邸上空に到達。


今夜は空一面に厚く雲が覆い、雲のため地上は別邸とその周囲の灯り以外は漆黒の闇が広がっている。


この作戦では20番目の平成ライダーにゲスト的に登場したシノビライダーの能力を主に用いる。このライダーの能力で周囲の闇に同化した俺は、上空から音も無く別邸離れの塔、その屋根に降り立った。


屋根は瓦葺きで滑り易いけど、シノビライダーの能力でその心配は無い。


え?こういう場合はスパイダー男の方がいいんじゃないかって?う〜ん、それも一理あるけどね。でもスパイダー男ではビルの谷間が無いから離れの塔への空からのアクセスが出来ない。それにスパイダー男はどちらかと言うと壁をよじ登るイメージだから、本作戦とはちょっと違うんだよな。


俺は瓦屋根の一部に手を当てると、今度は8番目の昭和ライダーの能力「ブレイク」で瓦屋根を粉々に崩して大穴を開けて内部に侵入する。


別邸離れの塔の最上階部分はフロアー全てが1室になっている。照明の魔法具により室内は全体的に薄暗く、暖炉の炎が赤々とその周囲を照らしていた。


その暖炉の前で一人掛けのソファに座り、光球の灯りで読書する人物が天井裏から見て取れる。おそらくあれが第2王子だ。


天井裏から覗き見る限り第2王子は兄であるハインシャルタット殿下と同じく金髪であるけど少し赤みがかっているようだ。しかも背中までと随分と長いな。まぁ、それは個人の好みだからいいのだけど。


室内には第2王子(仮)の他に5人の気配があり、その内の3人は発する気配から護衛の騎士、他2は女性の気配だから侍女とかメイドといったところか。護衛とか侍女とか言っても監視役なんだろうけどな。


第2王子を掻っ攫う前にまずはその護衛の騎士と侍女を無力化しなくてはならない。俺はシノビの能力で自らに認識阻害を掛けると、3人の騎士を7番目の昭和ライダーの能力で電撃を放って気絶させる。


バチバチという電気の破裂音と3人の騎士が倒れる音に気付いて注意を向ける侍女。いや、侍女というよりは侍女の服を着た女騎士かな。何にせよ、すかさず大振りのナイフを構えた2人の侍女にも容赦無くその鳩尾に当て身を食らわせて意識を刈り取った。


忽ち周囲にいた騎士と侍女がバタバタと倒れる事態に第2王子も異常を感じたのか、座っていたソファから立ち上がると周囲を警戒するように見回している。


俺は消したままの気配を認識阻害を外して第2王子に存在を露わにした。


「ひっ」


第2王子にしてみれば騎士や侍女が意識を失って倒れたかと思えば、突如として自分の前に見知らぬ男が現れたのだ。それは驚くだろうな。


「どっ」


ど?いや、意外に可愛い声だ。


「どなた、で、ですか?」


驚愕から怯えた表情となった第2王子。おずおずと俺に誰かと訪ねる。


「泥棒です」


「ど、泥棒、ですか?」


はっ、しまった。つい劇場版フランスの怪盗三世ネタで返してしまった。


「あ、違います、正義の冒険者でした」


「正義の?」


まぁ、つい流れで泥棒なんて言ってしまったけど、俺が「正義の」を強調して正体を明かすと目の前にいる第2王子は訝りながらも少し警戒度を下げたように見えた。


ここで改めて第2王子をまじまじとみてみると、背は高くなく俺の肩くらいで体格は華奢。赤みがかった金髪はサラサラで艶も良く背中まで伸びている。その面差しは兄であるハインシャルタット殿下と少し似つつもより柔らかで瞳はアイスブルーだ。俺より2コ下らしいけど、より幼い感じがする。そしてその纏った可愛らしい部屋着と相まって、まるで王子というよりはお姫様というか、美男の娘といった感じ。


「第2王子リサルト殿下でいらっしゃいますか?」


「そ、そうですけど。あなたは誰ですか?ボクをどうするつもり?」


あぅ、そんな怯えて涙が滲んだ上目遣いで「ボクをどうするつもり?」とか言われちゃって、もう一つの明日への扉が開いてしまいそうだ。この場合、メルがピート役かな?


"こら、ホルスト!他人の性癖をとやかく言うつもりは無いが悶ている場合じゃないぞ?"


"わかってますよ!"


懐の杖から丸谷先輩に突っ込まれてしまった。いやいや、俺はちゃんと女の子、女の人が好きだから。ボクっ子の男の娘は精々見て愛でるだけだ。


「別にどうもしやしませんよ。俺は殿下の派閥による叛逆を阻止するよう依頼を受けました。殿下がここにいると大袈裟に言えば大陸西側の人類社会が滅亡の危機になるものでしてね。なんで、申し訳ないですけど、これから俺と一緒にここを出てもらいます」


「ど、どこへ?」


「王都のナルディア教団の神殿です。そこなら世俗の者は手を出せないから安全でしょう」


ナルディア教団と聞いてリサルト殿下は安堵の表情を浮かべる。


「わかりました。あなたと行きます。ボクもボクがここにいていいとは思っていませんから。ドゲメネ公爵に利用されて結婚させられるなんてまっぴらです。でもどうやってここから出るの?ここはドゲメネ公爵の別邸で塔の最上階ですよ?それに別邸は公爵家の騎士団や私兵が警備してます」


まぁそこは疑問に思うところだよね。


「俺は空飛んでここに来たんで、帰りも殿下を抱えて空飛んで行きます」


「そ、空を?そんな事出来るの?」


「はい、勿論。現にここにいるでしょう?」


リサルト殿下は怯えるかと思いきや、何かワクワク感を出している。ソフィア王女もそうだけど、こういうところは普通の人の感覚とは違い、流石は王族という特殊な人種なのだと思う。


「では急ぎましょう。何か持って行く物は有りますか?」


「いえ。大事な物は身に付けてますから。あの、あなたの名前を訊いてもいいですか?」


名前か。それはちょっとどうなんだろうな。


「他言無用でお願いします。俺はホルストって言います」


リサルト殿下は声には出さず唇だけで俺の名を呟いた。そして8番目の昭和ライダーの能力「ブレイク」で壁に大穴を開けると、室内に風が吹き込んで来た。


「では失礼しまして」


そう言って俺がリサルト殿下を抱き上げる(お姫様抱っこ)と「ええっ⁉︎」と慌てたような声を上げて俺の頸にギュッと抱き着く殿下。軽っ、それに男子とは思えない良い匂いするんですけど!


「あの、ホルストさん。ホルストさんに私を連れ去るよう依頼したのは兄ですか?」


リサルト殿下は抱き付いた腕を少し緩め、俺の目を見てそう尋ねた。あの、顔近いんですけど…


「依頼人は違いますけど、その(あに)さんにもちゃんと話を通してあるのでご安心を」


「そうですか。じゃあお願いします」


再びギュッと抱き付くリサルト殿下を抱えた俺は壁の大穴から幾らか雲の切れ目が出来た夜空に向かって飛び出した。


スカイジャンプ!




いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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