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第110話 深夜の謁見(非公式)

ぬばたまの夜の帳が降りた深夜の王都、僅かな街灯の明かりが照らす通りを進む何の紋章もない1台の黒塗りの馬車。静まり返った王都の闇に心を開けば、蹄の響きもリズミカルに聞こえてくる夜の静寂のなんと饒舌なことでしょうか。これからの一時、皆様の夜間ドライブのお供いたしますアクションヒーローは、私、ホルストです。


なんてことをメルと共に乗る馬車の中でミスターロンリーのインストゥルメンタルをバックに思い浮かべたりして。もちろん声は城達也さんで。


"なぁメル、俺達どこに連れて行かれると思う?"


"知らないわよ。どうせ第1王子の元でしょ?"


"まぁそうなんだろうけどね"


俺は膝の上で丸くなっている白猫姿のメルを撫でながら退屈凌ぎにそんな遣り取りをメルと念話でした。


〜・〜・〜


深夜近くになってクリス勇者パーティーの館に1台の馬車が訪れ、馭者と共にいた男が俺を迎えに来たと用向きを伝えた。もちろん誰がとか、どこに等は一切口にせず。


馬車は黒塗りでその車体には何の紋章も無く、馭者もその男も黒ずくめの服装。身分や所属などが知れるものは何一つ身に付けていなかった。まぁ、客観的に見たらそいつら怪しさ満天だよな。


だけど、状況的にこれは第1王子から差し向けられた迎えの馬車だろう、多分。と言うことで俺はこの馬車に乗って行き先も知れぬ第1王子の元へ行ってみる事にしたのだけど。


「私が一緒に行くわ。妻だし、当然ね」


「いえ、メルダリス様、ここはパーティメンバーにして剣王たる私が、」


「私も行きたい!占いとダウジングで秘密を暴ける、室内での戦いなら得意だし」


メルとアイーシャとメリッサが俺と一緒に行きたがった。


「だったら私も行くわ。だって、その、私だってホルストの恋人だし、」


「じゃ、じゃあ私も行きます。私も、ほら、仲間ですし!」


いや、ゾフィよ、恋人だからというのはこの際関係無い。それにミシェルはクリスの仲間だからな?


「俺達も行った方がいいんじゃないか?なぁクリス?」


「そうだな。相手が誰だか知らないが勇者パーティが一緒に行けば向こうも安心するだろうし」


おい、お前達勇者パーティは全員貴族だろ!もっと実家の派閥関係とか政治力学とか気にしなさいよ!それに勇者パーティは建前でも政治的には中立なんだから、夜中に第1王子とコソコソ会ってたりしたら色々と不味いだろうが!そういう事わからないかなぁ?


「ホ、ホルスト、大丈夫?顔真っ赤よ?」


俺が一人で腹立たしさから顔を顰めているとメリッサが心配してくれた。


「有難う、大丈夫だ」


俺はメリッサが出してくれた彼女の飲み差しのお茶を一気に飲み干すと、俺一人が呼ばれており、呼ばれていない者を同伴すると相手からの信用を損なうし、馬車も小型だから誰も同伴出来ないと皆に説明して納得させた。


なんだ、その「ちぇっ」みたいな表情は。遊びじゃないんだぞ、王子の呼び出しは!(はっはぁ〜ん)


それに、これは誰にも言わないけど、そもそも俺は一人で行く訳じゃない。懐に収めてある杖を依代とする丸谷レイス先輩が一緒だ。


俺がくどくど説明するより依頼人である本人が直接第1王子に言った方が早いでしょう。


〜・〜・〜


だかしかし、事実メルは今馬車に乗って俺の膝の上にいる。それは何故かというと、俺が馬車に乗り込みドアを閉める寸前で、ドアの隙間からスルリと入り込んで来たからだ。


そしてドアが閉まり馬車が動き出すと馬車の後ろから


「メル様、狡い!」

「それでも女神の眷属ですか!」


などという罵声が聞こえて来たけど、当のメルは全く意に介さずしてやったりといった感じで俺を見上げた。


"だって私はホルストの妻であると同時にナルディア様から承った監視者としての役目があるんだから、一緒にいて当然よ!"


"それはいいよ。俺だってメルと一緒に居れて嬉しいし"


"そうね、私達は夫婦なんだから、当然よね"


ふん、と得意げに鼻を鳴らした。


馬車は僅かな街灯しかない暗闇の街路を行くものだから、正直今自分がどの辺りにいるのかさっぱりわからない。馬車の窓にはカーテンが掛かっているし、そもそも俺は王都の地理に疎いからな。


ただ、馬車が走り出して1時間くらいが経過し、馬車の速度が大体7〜11㎞/分というから10㎞くらい移動した事になるだろうか。


そうして俺とメルを乗せた黒塗り馬車は王都貴族街第1区のとある貴族の邸宅の門を潜った。速度を落とした馬車が門から敷地内をまた少し進むと、その邸宅の離れと思しき別館の車寄せで止まった。外からドアが開けられる。


「どうぞお降り下さい。この後は別の者がご案内致します」


黒装束の男はそう言って馬車に乗ると馭者と共に車寄せから去っていった。ではそこに俺が一人取り残されたかというと左にあらず。姿形は見せないけど周囲からの視線を感じ、見張られているのがわかる。


"みんなホルストに注目してるわ。人気者ね"


"人気者が辛いって本当なんだな"



そうしている内に邸の玄関扉が開き、中から狐獣人の女性が現れた。


「冒険者のホルスト様ですね?どうぞこちらへ。ご案内します」


栗色の艶やかな長い髪に形の良い狐耳。年の頃は20代半ばといったところだろうか。黄緑色のタイトなドレスも良く似合っている。


ただその面差しには見覚えがあり、それもとても良く知る女性に良く似ている。


促されるままにその狐獣人の女性に続いて邸宅内の通路を進むと、どうもピンと立った狐耳と形の良いお尻、それにそのお尻から揺れる艶のある毛並みの尻尾に目が入ってしまう。


"どこ見てるのよ!私がいるのにいい根性してるじゃない?"


早速メルにバレて叱られてしまう。


"ごめん。でもあの()、アイーシャに似てない?"


"そうやって誤魔化して。そうね、親族なんじゃない?


まぁそうかもしれない。アイーシャの一族は王室に暗部として代々仕えているからアイーシャの親族の女性が第1王子の側で仕えていても不思議ではない。


暗い通路を行くとやがて大きな両開きの扉の前に至る。


「こちらです」との狐獣人女性が招き、近付いて彼女の横に並ぶと、不意に耳元で囁かれた。


「アイーシャが可愛がって貰っているそうで」


「ご親戚ですか?」


「はい。従姉妹でエリーシャと申します。以後宜しくお願いしますね?」


やっぱりアイーシャの親族だったか。そうすると、アイーシャが妙齢になると彼女のような大人の婀娜っぽい女性になるのかな。うん、いいね!


俺が驚いているとエリーシャはイタズラ成功!みたいな表情を見せる。その表情もアイーシャに似ているな。


次いでエリーシャはその重厚な扉をノックすると、中に向かって「ホルスト様をお連れしました」と呼びかけた。


すると扉の向こうから「通せ」と短く一言。エリーシャは扉を開くと俺に「どうぞ」と室内に入るよう促した。


部屋の中に入ると、落とした照明の薄暗い室内では暖炉で薪が爆ぜ、その明かりが周囲を赤く染めている。暖炉の前には大きなソファがあり、座っていた人物が立ち上がるとエリーシャは深々と一礼して退き、扉を閉めて行った。


立ち上がった人物はこちらへ振り向く。その姿は昼間に大競技場で俺が暗殺者から守ったジギスムンド王国第1王子であるハインシャルタット殿下、その人だ。


俺は咄嗟に片膝を突いて頭を垂れて控える。すると殿下から即座に「よい。この場で礼は不要だ」と声をかけられた。


そう言われて俺は立ち上がり、不躾にならない程度に目の前の貴人へ視線を移した。その姿は確かに昼間見た通りのハインシャルタット殿下だ。ただ良く見てみると何処と無く昼間と雰囲気が違う。


昼間の殿下は紛れも無い貴公子のオーラを醸し出していたけど、この殿下から感じるのは王族の威厳と高貴さ、一国の命運と重責を担う指導者のそれだ。


つまり、今俺の前にいるの男こそが本物のハインシャルタット殿下だ。昼間俺が命を救った方が偽物、というか日本風に言えば影武者だな。


「お初にお目にかかります。私は冒険者のホルストと申す者。このように呼ばれましたのは私の力が殿下のお眼鏡に適ったと理解して宜しいのでしょうか?」


俺が多少煽り気味に名乗るも殿下は「ふっ」と笑いそれには乗らず。


「昼間の俺を影武者と気付いたか。拳闘術部門での優勝といい上位金級は伊達ではないという事か。合格だよホルスト、何なりと思うところを俺に言ってみろ」


ハインシャルタット殿下は砕けた口調でそう言うと俺にソファの席を勧めた。今夜はどうやら長い夜になりそうだな。






いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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