第109話 暗殺者
始まった武闘大会3日目の優勝パレード。綺麗で可愛い女騎士ちゃん達にエスコートされて乗ったのは何と白い馬車(オープンな奴)。
いや、もう、そんなのに乗った事無いし。小っ恥ずかしさ大爆発で、早く大競技場に到着しないかと願わずにはいられなかったよ。
「どうしたでごさるか?ホルスト殿。ここは拳王らしく堂々と観衆に手を振る場面でござるよ?」
「そうそう。ホルストは拳王なんだから、拳を掲げろよ、叩きのめされてもな」
熊僧兵のシグルトに続いたのは拳闘術部門3位入賞者のガラハッド・ケルウン。彼はダークエルフで、何と驚くべき事にケルウン伯爵家の次男様なのだ。
ガラハッドの実家であるケルウン伯爵家はその領地がカブラチッド平原に近い樹海に接している。そのためケルウン伯爵領は国防の要地として、また王室の藩屏として常に魔王国群に対して睨みを利かせる位置にあり、それ故伯爵でありながら辺境伯に準ずる領内での権限を有しているのだそう。
じゃあ何で辺境伯ではなく伯爵なのかといえば領の位置的に辺境伯だと魔王国群を刺激してしまう恐れがあるからその配慮らしい。だから実質的には侯爵に等しいのだそうだ。
そんな家の次男坊であるガラハッド、伯爵家の跡を継ぐ長兄を軍事面で支えるべく武芸詮議という名目で諸国を武者修行の旅に出ている最中だという。
このガラハッド、ダークエルフなので大層な男前なのだけど、どこかの伯爵家のご長男さんとは違ってイケメンなのに武芸者らしく竹を割ったような性格で非常にいい奴だ。大会で俺と戦って負けた後も「世の中強い奴はまだまだいっぱいいるもんだな」と嘆くでもなく、さっぱりとしていた。
俺とシグルト、そしてガラハッドの3人は生まれも年齢も種族も身分も違うけどお互い妙に馬が合って意気投合し友達になったのだ。
シグルトとガラハッドの言った事も一理ある。これはお祭りであって王都の誰もが騒いで浮かれているのだ。そこでこの祭りの主役の一人である俺が恥ずかしがっていたら観衆も騒ぐに騒げない。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆ならって言うしな。こうなったら俺も一丁やったるで!
俺は座っていた馬車の座席から立ち上がると、拳を握った右腕を天に向けて高く突き上げた。
「うおーっ!」
……
「ホルスト殿、走行中の馬車で立ち上がるのは危険ですからお止め下さい」
馭者の横に座る黒髪ショートの美人女騎士が冷めた目で振り向き、ニコリともせずに言い捨てた。
「…すいません」
女騎士のお姉さんに注意されて気勢を削がれた俺がシュンとなって腰を下ろすと、両脇の席から笑い声が聞こえてきた。
「プッ、クックック」
「ブハァッ、ひ〜腹いてぇ」
俺が両脇に目をやるとシグルトとガラハッドが腹を抱えて笑っている。
「お前ら…」
俺が両手をワキワキさせながら電流をスパークさせるとシグルトとガラハッドが尚も笑いながら釈明を始めた。
「いや済まないでござる。ククッ、ホ、ホルスト殿も案外と乗りやすい御仁でござるなぁ」
「お、お前、そんな黒髪クールイケメンでスカしといて、プッ、「うおーっ!」って。そんで、騎士の姉ちゃんに冷静に突っ込まれて、いゃあ最高に面白いな」
「騒がないで下さい!」
「「「済みません(でござる)」」」
馬車で騒いだため、俺達は3人とも女騎士のお姉さんに咎められてしまった。結局俺達は座ったまま静かに観衆に手を振り、暫くし大競技場に到着したのだった。
〜・〜・〜
大競技場で馬車を降りると、俺達は係員の役人に誘導されて表彰会場へと進んだ。観客席は満席で、俺達優勝者と入賞者が登場すると大歓声が観客席から湧き起こった。その中を俺達はパレードと同じく手を振って進む。
表彰台の前に至ると、司会進行役の宮廷貴族が表彰者の名を呼んで台上に上がるよう促す。
「剣術部門優勝者アイーシャ・ロッカ様」
まずは剣術部門からとなり、優勝者のアイーシャが呼ばれた。表彰台に上がったアイーシャは試合時と同じく冒険者スタイルで、第1王子の御前となるため帯剣はしないまま。
ここで俺は初めてこの国の第1王子であるハインシャルタット・ジギスムント殿下のど尊顔を拝した。
ハインシャルタット殿下は現在22歳だそうで、長身で金髪碧眼の彫りの深い男前な顔をしている。案外に簡素な装いを身に纏いつつも自身の持つ高貴さがその立ち振る舞いを貴公子然とさせていた。
殿下の佇まいは確かに他の貴族連中とは一線を図す高貴さを感じさせる、のだけど、どこかしっくり来ない物を感じてしまう。
「皆の者、面を上げよ」
全員の表彰が終わり表彰台の前に並んで片膝突く俺達は殿下のお言葉により一斉に顔を上げた。
「その方達の戦い、いずれも実に見事であった。よって王家より褒美と称号を授ける故、今後ともよく武芸に励むが良い」
ハインシャルタット殿下は皆の顔を見渡すとそのような言葉を述べた。
ここで時代劇であるように「ははぁ」とか「有難き幸せ」とかは誰も言わず、誰もが黙って「そのお言葉に従います」といった感じで事前指示の通りに首を垂れた。
それからハインシャルタット殿下は優勝者の一人一人に声をかけ始め、剣術、槍術、弓術と続いた。剣術部門で優勝して剣王の称号を賜ったアイーシャと殿下の間でどのような遣り取りが交わされたのかは俺の位置からは不明。
そして殿下は拳闘術部門の優勝者たる俺に声をかけるべく片膝突く俺の前に至った時に異変が起きた。
それは殿下が弓術の優勝者に声をかけ終えて俺の前に至ろうとするところ、それまで声をかけ終えた優勝者達に背を向けた瞬間。片膝突く槍術部門の3位入賞者の男がやおら立ち上がったのだ。
そいつは30代前半に見えるゴツい傭兵の男で、その男は立ち上がるや氷魔法で氷槍を錬成し、自分に背を向けたハインシャルタット殿下に向けて氷槍を投擲した。
その間合いは遠からず近からず、手槍を投げてターゲットを狙うには最良の距離と言えるだろう。その間合いから武闘大会槍術部門で3位に入賞するような槍使いの傭兵が手槍サイズの氷槍を投げ放った。それは有り体に言えば「的を〜狙えば外さないよぉ」という事に等しい。
だけどそれは狙った的が動かなければの話だ。俺は咄嗟にハインシャルタット殿下の胸倉を掴むと力任せに引き寄せ、そのまま押し倒して倒れた殿下の上から覆い被さった。その上を一瞬遅れて氷槍が通り過ぎる。
「シグルト、ガラハッド、そいつを拘束しろ!」
「心得た!」
「任せろ!」
いくら槍名人の傭兵と雖も、今現在の2位と3位の徒手格闘名人にかかれば忽ち無力化されようというもの。事実、暗殺者の槍名人は逃走に移行しようとしたところをガラハッドに脚払いをかけられて転倒し、続いてシグルトによりフロントスープレックスを決められている。そして更にガラハッドが暗殺者が呻いて開けた口の中に何処から出したものか不明な得体の知れないボロ布を自殺防止のため突っ込んでいた。
この一部始終を観客席から見ていた観客達は騒ぎ出し、この頃になって漸く王族警護の近衛兵や近衛騎士が駆け寄って来た。俺は暗殺者の二の矢を警戒しつつ引き倒したハインシャルタット殿下の身を起こし、一応怪我の有無を確認した。
「殿下、お怪我はありませんか?」
まぁこの殿下にしてみればいきなり胸倉掴まれた挙句押し倒されて覆い被さられた訳だから、俺に文句の一つでも言うかなと思ったけど、豈図らんや状況を理解しているようだった。
「だ、大事無い。どうやらその方に助けられたようだな。大儀であった」
よし、大丈夫なようだな。ちょっと青ざめてはいるようだけど。
〜・〜・〜
その後、ハインシャルタット殿下はわんさかと押し寄せて来た近衛兵に取り囲まれて現場から離れて行った。
「ホルスト様、お怪我は?」
血相変えて駆け寄って来たアイーシャに身体中触らせてチェックされる。
「うむ、大事無い。大儀であるぞ」
「あぁ、ホルスト様。頭を打たれたんですね?」
いや、どこも打ってないから!
そうしている内に俺達も近衛兵に囲まれ事情聴取を受ける事となり、表彰者全員が王城の近衛師団の屯所に連行された。ただ、俺とシグルトとガラハッドは暗殺者からハインシャルタット殿下を救ったため、アイーシャは俺のパーティメンバーのため、エベンスはマルグリッド伯爵家の跡継ぎであるため早々に解放された。
俺とアイーシャは近衛師団の屯所から帰宅のため辻馬車を拾うと居候するクリス勇者パーティの館に戻った。流石の俺達も屯所から歩いて帰るのがかったるかったのだ。
館に戻ると先に帰っていたメルとメリッサ、クリス勇者パーティの面々が揃っていた。俺とアイーシャは皆から今日の労いを受け、戦勝会を兼ねた夕食を皆で食べた後で風呂に入ってさっぱり。そして激動の1日も終わろとする頃、本館の勇者パーティの執事さんから王城より1台の高級馬車到着が告げられた。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




