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第107話 拳王と剣王

「拳王」か、ふふふ。何と良き響きな事か。これ、男(前世限定)なら一度はみんな憧れるんじゃないか?


最強にして不撓不屈、決して膝を屈せず愛する(ひと)に一途な男だ。まぁ、俺は全てを手にする気は無いけど。


考えてみれば、この世界にど田舎底辺貴族の三男として転生して高ランク冒険者になったり、海賊と戦ってナヴォーリ市から様々な称号を贈られたりもしたけど、それらは前世での知識や授かった能力や魔法に因るところが大きく。だけど今回ばかりはそうしたチートは封印して用いず、自分の実力だけで戦って掴んだ結果と称号だ。これは素直に嬉しい、しかもその称号が「拳王」なんだからな。


午前の部が終わり、簡易的な表彰式が終わると小競技場の前の広場で一息吐いてそんな事を考えた。するといきなり背中をバンッと叩かれ、思わず「ゲフォ」と黒髪イケメンが決して出してはいけない系の呻き声を出してしまった。考え事もしていたけど、敵意や悪意が無かったので全く気配に気付かなかったのだ。


誰かと振り返ってみると、俺の背中を叩いたのは、なんと決勝戦で戦った熊僧兵だった。


「いゃあ、貴公は真に強かったでござるな。拙僧は決して侮った訳では無かったのでござるが、いやいや、どうして完敗でござったよ」


そう言ってワッハッハと大笑いするのは正義と裁きの神ロウオーロ、その教団の僧兵で熊獣人のシグルドさん。


年齢は25歳だそうで、身長は190cmくらいあり、短く刈った灰色の髪からちょこんとのぞく熊耳は可愛らしいけど彫りの深い端正な顔といい、その筋肉で覆われた肉体といい、見た目的はシグルトさんの方が全く「拳王」だ。


僧兵のシグルトさんはロウオーロ教団の僧兵団でも指折りの実力者だそうで、王都武闘大会には腕試しのつもりで参加したとか。


「油断は無いつもりでござったが世の中は広く、上には上がいる事がわかり申した。それがわかっただけでも今回は実に有意義でござったよ」


見た目と違って物凄く謙虚だよ、この人。


「私もシグルトさんを見て、もうあれしか勝つ手立てが思い付きませんでした。次があったらとても勝てる気がしません」


なので俺も正直な気持ちを打ち明けた。


「ホルスト殿はなかなか良き御仁。どうでござろう、これを機会に拙僧と昵懇に願えないでござろうか?」


昵懇?仲良くしようという事か?


「私からも是非にお願いします」


そう言って俺達は互いに手を差し出して握手をした。


「これにて拙僧等は友どちでござるな。良きかな、良きかな」


シグルトさんは気持ちの良い人(熊?)だな。


こうして熊僧兵シグルト坊と俺は友達となった。俺達は互いの住まいを明かして別れた。シグルトさんは暫くは王都の教団本部に務めるのだそう。


そういえばこの世界で出来たもう一人の友達は暫く会えていないけど元気にしているだろうか?


シグルトさんとも少し話したけど銀狼少年の事。彼が優勝する事に執着して口にした「勝って優勝しなければならないんだ!」とは気になるところだ。それになかなか良い素質の持主だからこのままスラム街に埋もれてしまうのは勿体ない。


「貧民街には拙僧等の教団も施しを行なってござれば、拙僧もそれとなく気を配っておくでござるよ」


俺が銀狼少年についての懸念を口にするとシグルトさんも協力を申し出てくれた。うん、やっぱり気持ちの良い人(熊?)だな。今の俺はバラライカ作戦で手一杯だから、この件が片付いたらちょっと手を出してみるか。


〜・〜・〜


俺は拳闘部門で優勝を果たした訳だけど、残念ながらその会場となった小競技場に俺の恋人達が応援に来る事はなかった。嫌われた?愛想尽かされた?いや違う!それはクリス達の勇者パーティが来賓であり、来賓席が大競技場だったからだ。そのためクリスがコネで用意してくれたメリッサの席も大競技場の来賓席だったと。


優勝したぞ〜と喜び勇んでメリッサ達の元へ向かうも、俺は来賓席の招待客ではなかったため警備の近衛兵によって門前払いされてしまった。これはいくら上位金級冒険者が貴族待遇であろうと、今大会拳闘部門の優勝者であっても仕方がない事だ。席数は決まっているのだし、来賓席にはこの国や周辺国からのVIPも来ているからな。例えこの国の貴族がゴネたとしてもやはり同じ結果となっただろう。


なので、俺は念話でメルに拳闘部門の優勝と来賓席には行けない旨を伝えた。


"おめでとう、ホルスト。やったわね!それでこの後はどうするの?"


''ありがとう、メル。表彰式まで剣術部門の試合を自由席で見ているよ"


"わかったわ。でも剣術の試合みたらきっと驚くわよ、きっと"


メルは俺にそう含みのある事を伝えると一方的に念話を切ってしまった。驚くとは一体どういう事なのだろう?まぁ、実際見てみればわかるか。


〜・〜・〜


大競技場の自由席は当然既に満席だけど、その最後列に当たる立ち見席ならまだ余裕があった。


(トホホ、上位金級冒険者にして拳王の称号を持つ俺が自由席の立ち見席とは)


ローマのコロッセオを思い浮かべて貰えばわかると思うけど、大競技場の観覧席は後ろになるほど中央の舞台から遠く高くなってゆくのだ。もう双眼鏡でもなければ舞台の人物など豆粒レベルに小さく見えるくらいに。


まぁ、嘆いてもいられないし、贅沢も言えないか。幸いに俺はアクションヒーローの能力で遠く小さいものをみる手段は幾つかある。


俺は広場の屋台で肉串とサンドイッチとお茶を買い込むと、大競技場の自由席最後列に陣取って3番目の昭和ライダーの偵察能力「ホッパー」を使って剣術試合観戦と洒落込んだ。


残念な事に剣術部門のトーナメント試合は既に始まっていて1回戦は全て終わり、2回戦目に突入していた。ホッパーを魔力で遠隔操作しつつ試合を見てみると、とある試合会場でよく知った女性が剣を振るっていた。


その女性剣士は明るいブラウンで肩口まで伸ばした綺麗な髪の頭に可愛い狐耳、キリリとして美しい面差しに超可愛い狐尻尾。何度も共に戦い、稽古を共にして見た剣の構え。


アイーシャ、何で剣術の試合に出てるんだ?


そうしている間にも試合は進み、アイーシャは対戦相手(多分どこかの貴族の騎士か私兵)にあっさりと勝ってしまっていた。


(アイーシャ、強いな…)


この強さの秘密には恐らく例の「スーパー戦隊化現象」が影響しているのだろう。


しかし、アイーシャの剣の腕が立つ事は実際に共に戦って前からわかっているし、稽古して今もその腕前が上がっている事も知っている。だからこの世界広しと言えども俺の背中を預けられるのもアイーシャただ一人だ。


とはいえ気になる事も。偵察機であるホッパーから俺の脳裏に送られて来た試合後のアイーシャは喜ぶでもなく、硬く思い詰めたような表情をしていたのだ。


アイーシャが一体何を考え、何を悩んでいるのかわからない。だけど今は試合に集中しなければ危険だ。


俺は紙に「おめでとう。だけど今は勝負に全集中!」と(したた)めると、雀型の式神にそれを託してアイーシャの元まで飛ばした。


暫くしてアイーシャが控えの間から出てきたかと思うと、観客席の方をキョロキョロと見渡し始めた。多分俺を探しているのだろうが、その様子に可笑しみを感じる。


流石に広い大競技場の観客席から俺一人を探し出すのは無理だったようで、やがて踵を返して戻って行ったアイーシャ。しかし、戻る途中で一度振り返った彼女の表情には思い詰めた硬さは無く、不意にその口許が何かを呟くように動いた。ホッパーに集音能力は付与されていないのでアイーシャが何て呟いたのか聞く事は出来なかったけど、その唇の動きを見るに「ばか」と呟いたようだった。


〜・〜・〜


その後のアイーシャの快進撃は止まる事を知らず、大剣(木剣)を振るうスキンヘッドの巨漢や剣技に自信があるのだろうクソ生意気そうな騎士や貴族のガキ共に勝利を治めると、遂に決勝戦へと進んだ。


決勝戦でアイーシャと当たったのは超イケメンのエルフ剣士だ。長身でエルフらしい緑色の剣士然とした衣装に長髪の金髪を後ろで束ねたなんちゃって髷姿も様になっている。


見事な剣捌きの狐獣人の美女と超イケメンエルフ剣士との決勝戦に会場は否が応にも盛り上がる。


(クソォ、イケメンエルフめ。俺のアイーシャにちょっかい出しやがったらドラゴンヘッドアームのブレスで消し炭にしてやるからな)


などと串焼きの肉に齧り付きながら思っていると試合が始まった。


双方無言のまま中段の構えで対峙。やがてイケメンエルフがアイーシャを挑発するように爪先をツイと進め切先を鶺鴒の尾のように動かして当てる。


それに対してアイーシャは動ぜず、と思いきや、意表を突いて一気にイケメンエルフの喉に鋭い突きを入れる。


イケメンエルフはその突きを右に半身を切って避けつつアイーシャの木剣を捌いて払い落とそうとする。アイーシャは一歩退いて腰に溜めを作ると脚力を利用した突きの連打を放った。


アイーシャの打突は鋭いけど、それらを全て捌き切ったあのイケメンエルフも凄い奴だ。そしてイケメンエルフは間を詰めてアイーシャの突きを封じると双方は再び間合いを取った。


その後は一転して激しい打ち合いが始まるもどちら有効打が出ないまま鍔迫り合い、引き際に打ち合い対峙。


そのまま息を呑むような時が過ぎる。そして互いに勝負を決せんと動きに出る。


先に動いたのはアイーシャだ。


アイーシャは半歩間を詰めて切先を交叉させると、一瞬イケメンエルフの木剣に圧を加える。するとイケメンエルフはその圧に反応してアイーシャの木剣を弾かんと自らの木剣を擦り上げる。


アイーシャはそれによって僅かに空いたイケメンエルフの胴を払おうとするも、その動きを読んでいた(多分)イケメンエルフは木剣を垂直に下ろして柄頭でアイーシャの木剣を突き落とした。


イケメンエルフは木剣を八相に振りかぶり、態勢を崩したアイーシャを薙ぎ払わんとし、次の瞬間には勝敗が決するかに思えた。しかし、アイーシャは右斜めに地を蹴るとイケメンエルフの左大腿に痛烈な打撃を与えた。


左大腿部に打撃を食らったイケメンエルフ。その衝撃と痛みで僅かに前方に重心を崩すと、アイーシャはその隙を逃さずイケメンエルフの喉元に木剣の刃を当てたのだ。


動きが止まった2人。そしてイケメンエルフが何かを呟くと審判員がアイーシャの勝利と優勝を高らかに宣言した。多分「参った」とか言ったのだろうな。


大競技場は観客席からの割れんばかりの歓声と拍手に包まれ、アイーシャの剣術部門優勝で今年の王都武闘大会は幕を下ろした。


いや、全く。俺の恋人は大したものだ。剣術部門で優勝したんだから「剣王」だもんな。








いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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