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第106話 王都武闘大会

何となくアイーシャにはあれ以来少し避けられている感じだ。そんなギクシャクした感じを孕んだまま遂に王都武闘大会は当日を迎えた。


俺達は早朝から館を出て城壁の正門から王城へ向かうメインストリート上にある競技場に赴いた。そしてエントリーを終えると、俺達は控室に向かう俺と観客席に向かうメリッサ達とに別れる。


競技場の一般席は予約席、自由席共に既に満席。なので本大会の来賓である勇者クリスがコネを使って一人分の来賓席を確保してくれていた。


飽くまで一人分。メルは白猫の姿でいるからアイーシャかメリッサがメルを抱いてその席に座る事になる訳だけど、アイーシャが「私は結構ですから」と辞退したためメリッサが占める事となった。う〜ん、やっぱりアイーシャに相談無く武闘大会出場を決めたのが不味かったのだろうか?でも敵を騙すには味方からって言うからな。後で謝ろう。


「じゃあねホルスト。応援してるから頑張ってね」


"まぁあなたより強い人間がいるとは思えないけど、一応言っておくわ。気を付けて、頑張ってね"


「二人とも、有難うな」


メリッサとメルに感謝を伝え、メリッサが胸に抱いている白猫姿のメルの頭を撫でる。


メリッサはメルを抱いたままクリス達のいる来賓席へ向かうと、ここに残るのは俺とアイーシャの2人。


「…」

「…」


ちょっと気まずい。


「あの、アイーシャ。君に相談しなくてごめ「ホルスト様」」


謝罪の言葉を口にしようとするもアイーシャに遮られてしまう。


「また後ほどお会いしましょう。お話はその時で」


何故かアイーシャは笑顔でそう言うと、俺の返事も聞かず駆けて行ってしまった。一体何だったのだろう?女心はわからん。


〜・〜・〜


昨日は勇者クリス達に俺の王都武闘大会出場を打ち明けた。当初は随分と驚いていたクリス達だったけど、クリスは「ホルストがどんな戦いをするか楽しみだ」と興奮し、デリックの奴は「よぉし、俺はホルストに全賭けするぜ!」と別のベクトルで興奮していた。


それに対し勇者パーティの女子2人は武闘大会にはさほど興味を抱いて無いようだった。だけど俺の出場を聞いてゾフィは「大会の後はどこかでお食事して帰ろう?」と、ミシェルは「どんな怪我をしても私が必ず直しますから!」と、これまたそれぞれ違う方向で張り切り出した。


因みに勇者パーティのメンバーはこうした武闘大会に出場する事は出来ないそうだ。というのも、そもそも武闘大会は飽くまで賞金や名誉で多数で多彩な参加者を集うイベントであるからだそうで。


観客達は様々な種族、階級、年齢、出身地の参加者達に感情移入して応援し、人によっては金を賭け、その贔屓する参加者の活躍や勝敗に一喜一憂する。そんなイベントであり、まぁ、日本で例えたら相撲の興行に近いものがあるかな。


そこに強くて当たり前な勇者や剣聖などが出場したら場が白けてしまうよな。そして、もし一般の参加者に勇者達が負けてしまったらどうなるか?勇者にその能力を授けた神とその代理人を自称する教団の権威が傷付き、失墜してしまう。


それに勇者の能力は神が人々を魔族や魔王から守るための力である、という建前がある。勇者がその守る対象と戦う事は神の意思に背くとして教団からも勇者パーティに出場しないよう指導があるんだとさ。


〜・〜・〜


この王都の競技場。その見た目はローマのコロッセオにとても似ている。聳え立つ競技場を見上げると古代ローマってこんな感じだったのだろうかと感慨深い。


ただ、この王都の競技場は単体ではなく大小2つの競技場からなる複合施設となっている。まぁ、代々木体育館みたいな感じかな。


この武闘大会は5部門の競技からなるものの、華となる競技はやはり剣術と槍術だ。なので剣術と槍術はより多くの観客が入る大競技場で試合が行われて午前が槍、午後が剣というスケジュール。拳闘術と異種戦闘術はやはりマイナーなので会場は小競技場で、それぞれ午前に午後の順番となっている。


小競技場の選手控室には100人ほどの選手がいて、各々が出場を控えてストレッチしたり、イメトレしたり、はたまた神に祈ったりと様々だ。


トーナメント表は壁に貼り出されていて、何でか俺は第1試合となっていた。


「第1試合出場者は試合会場に出て下さい」


係員が大声で試合会場への移動を促し、続いて出場選手の名を呼んでいく。


拳闘術部門の出場選手達は男性ばかりで、眼光鋭いカンフー映画の悪役風なヒト族やごっつい獣人など癖が凄そうな連中ばかりだ。アニメやゲームのように美女だとか美少女の選手はいない。別に女性の参加が禁止されている訳では無いらしいけど、この選手達の顔ぶれを見れば女性の選手がいないのも頷けるものがあるな。


ただ、選手達の見た目はアレだけど、ラノベであるように鬱陶しく絡む奴や舐めてかかるような奴はおらず、ある意味皆ストイックで真面目な力の求道者であるように思えた。


薄暗い選手控室から陽光眩しい会場に出ると、満席の観客席からの歓声が響く。こうして見ると、剣術や槍術よりも地味でマイナーな拳闘術は選手と観客がより距離が近い小競技場の方が合っていると思える。要は格闘技は東京ドームよりも後楽園ホールという感じかな。


俺の対戦相手は黒い胴着のような服を着た裸足の20代半ばくらいの男だ。鞭を思わせるしなやか細マッチョで眼光鋭く、俺を見るその視線は値踏みしつつも決して侮ってはいない。


審判員に促されて相対すると、号令により試合開始。対戦相手はカマキリのような構えを取ると、無言で距離を詰めて来た。


対する俺も相手と色違いの白い胴着もどき姿。こちらも裸足の摺り足で徐々に距離を詰める。


互いに相手から視線を逸らさず出方を窺い、ビリビリとした緊張感が漂う。


うん、いいね。初戦からこんな強敵と当たるなんて憑いているな。オラ、ワクワクしてきたぞ。


俺達は互いにフェイントを含めつつ打合い、そして離れる。その繰り返しは側から見ればさながら軍鶏のような戦いだ。そうした戦いを繰り広げると相手の焦りを感じるようになった。そして遂に相手が勝負に打って出る。


対戦相手は左足から距離を詰めると、素早い右上段回し蹴りを俺に放った。これはフェイントである事がわかる。本命の攻撃はこの後で、俺は回し蹴りを少し上体を反らせたバックステップで避けると相手はすかさず本命の左後ろ上段回し蹴りを放って来た。


相手の放つ渾身の左後ろ上段回し蹴りを俺は地に伏せて躱し、そのまま飛び上がって空中から相手の後頭部に蹴りを食らわした。


これはかつてアントニオ猪木の必殺技「延髄切り」だ。前世の大学で俺の属するヒーローアクション同好会とプロレス研究会は仲が良かった。それはヒーローとプロレスには正義と悪(役)という共通点があり、また、特撮ならアステカイザーやカゲスター、アニメならタイガーマスクやキン肉マンといったプロレスを扱ったヒーロー作品も数多あり互いに飲み会でも話題が尽きなかったものだった。


前世当時、俺はプロレス研究会のユニーク関根というリングネームのゼミ先輩に親しくしてもらっていて、良くプロレス技を教わった(実験台?)ものだった。ユニーク先輩、お元気だろうか?


俺から延髄切りを後頭部に受けた対戦相手はそのまま意識を失ったのか、よろめいて膝を突いて折るように前のめりに倒れた。


「勝者、ホルスト!」


審判員が俺の勝利を告げると観客席から「わっ」という歓声が湧いた。


一応、俺は観客達の歓声に応えて観客席に一礼すると両手を振る。だけど決して投げキッスなどはしない。どうしてかって?だって、この小競技場の観客って殆どがおっさんなんだから。


やっぱり、こうした格闘技というとどこの国でも、世界でもおっさんが好むものなんだな。


俺が倒した対戦相手は救護班の回復師によりヒールをかけられていた。力を加減して蹴り込んだから脳や神経にダメージは無いはずだけど。それでもヒールにより意識を回復して立ち上がる姿を見るとホッとするな。


〜・〜・〜


拳闘術部門のトーナメント戦、1回戦を勝利した俺はその後も順調に勝ち進んだ。初戦の相手こそ中々の強敵であったものの、その後の対戦相手はその限りでは無く、初戦の相手は対戦相手が俺じゃなかったら勝ち進んでいたのかなと彼の籤運の無さに同情せずにはいられなかった。


しかし、トーナメントも更に続くと、やはり実力者が残るものだ。5回戦目で俺と当たったのは狼獣人の少年で、歳の頃はよくわからないけどミドルティーンといったところ。銀色の髪から狼耳がぴょこっと立っていて、綺麗な面差しをしたワイルド系美少年だ。


だけど、彼の尋常ならざるところは世の中自分以外全て敵といったその鋭い眼差しだ。恐らくそのお世辞にも立派とは言え無いボロい身なりから貧民街の住民と思われ、日々生きるためにストリートでファイトを繰り返しているのだろう。


獣人は言うまでもなくヒト族やエルフ族や魔族よりも身体能力に優れ、俺でも能力や魔力を使わなければちと分が悪い。


試合開始と共にその脚力で加速すると、一気に強力な前蹴りを放つ銀狼少年。咄嗟に避けた俺にすかさず回し蹴りからの裏拳の連続技を叩き込んで来た。


なるほど、銀狼少年はスピードファイターであるようだ。スピードにスピードで対するは銀狼少年の方が身体能力に優れるだけにこちらが不利。


だが、と俺は思う。試合が進む内に彼の攻撃は見切れた。確かに彼の動きは早く、打撃も心技体が合わさり強力だ。しかし、直線的に過ぎるのだ。


恐らく、銀狼少年は喧嘩で実戦を積み重ねて実力を付けたのだろう。しかしこれは試合なのだ。喧嘩ならば初手の一撃で相手は昏倒していただろうけど、それを避けられて動きを見切られたら後は単純な攻撃パターンの繰り返しとなる。


俺は銀狼少年の打突を躱すと足払いを掛けて転ばせ、そのまま右腕に腕挫十字固めを決める。


「ぐぅあぁぁ!」


伸ばされた右腕の激痛に呻く銀狼少年。技から逃れようともがくも果たしていつまで耐えられるか。


「降伏しろ。腕が逝くぞ?」


「だっ、誰が!」


なかなかの強情さんだな。しかし無駄な我慢と言わざるを得ない。


仕方ないので俺は更に少し腕に力を込めて銀狼少年の右肩を脱臼させる。


「うわぁぁ!」


俺が技を解くと右肩の激痛にのたうち回る銀狼少年だが、大したもので再び立ち上がった。


「お、俺は絶対にお前に勝つ!勝って優勝しなければならないんだ!」


彼にもきっとこの大会で優勝しなければならない事情があるのだろう。俺だってそうだ。同情なんてしてはいられない。


立ち上がったのは見事な精神力だけど、痛みと疲労で最早得意のスピードが封じられた銀狼少年に俺は止めのフックを彼の鳩尾に入れて意識を刈り取った。


うっ、と呻いてドサリと銀狼少年が崩れ落ちると、審判員が俺の勝利を告げる。しかし、観客席も銀狼少年の執念に飲まれたのか静まり返っていた。その後、遅れて歓声が湧いたけど、ちょっと後味が悪かったな。


〜・〜・〜


そして遂に決勝戦。太陽はそろそろ中天に登ろうかという時刻。対戦相手は今度も獣人、それも僧兵姿をした熊獣人の巨漢だ。


この熊僧兵、恐らく今までの俺の試合を注視していたのだろう。身体能力で劣るヒト族と侮るような態度ではなく、向かい合うと油断なくこちらに相対している。


試合が始まると、先程の銀狼少年と違って熊僧兵はパワー系。恐ろしい程の剛拳が次々と繰り出され、それらの一発でも食らったら忽ち吹っ飛ばされる事請け合いだ。


素早い動きは得意ではないようだけど、あの重厚な肉体に生半可な打突は通用しない。スピードで翻弄しつつ打撃を加えても効かないだろう。ではパワーにパワー、剛拳に剛拳で対抗するか?これは最も愚策だ。


ならば、だ。剛に対するは柔、そして激流を制するは静水。かつて前世での少年時代、聖なる(ほくとのけん)で学んだ北斗次兄の教えを今こそ実践する時だ。


重くパワーの込められた剛の拳、剛の蹴り。心を無にして風にそよぐ夏草の如く、激流に流される落ち葉の如くそれらを全てを避け、躱し、その渦の中心へと流れ行く。


そして熊僧兵の内懐に入り込むと、その鳩尾に渾身の掌底を叩き込む。


「ぐふっ」


呻き声を口から零すも熊僧兵、しかし見上げる俺と目が合うとニヤァと笑う。どうも俺の渾身の掌打はあまり効かなかったようだ。


勿論、そんな事は想定済みだ。


俺は熊僧兵に密着したまま奴の右膝窩に横蹴りを食らわせ、同時に襟首を掴んで後ろに引き倒す。しかし、熊僧兵は左足を踏ん張って後方への転倒を防いだ。


そこへ素早く俺は熊僧兵の背後に回り込み、その頸に右腕を回して絡めると左腕を重ねて一気に締め付けた。


瞬時に熊僧兵の頸動脈を絞めて脳への血流を遮る裸絞め。俺を引き剥がそうと熊僧兵はもがき争うも、次第にその動きは緩慢となって弱まり、やがてぐったりと動きを止めて立ったまま意識を失った。


「勝者ホルスト。優勝者はホルスト、新たな拳王の誕生です!」


審判員の優勝宣言に熊僧兵から離れた俺は右腕を高く掲げる。観客席から押し寄せる割れんばかりの大歓声を浴びながら、この時ばかりはバラライカ作戦の事などすっかり忘れて俺は優勝した事と「拳王」の称号を得た事に喜びを感じていた。











いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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