第10話 君の名は、何にしよう?
俺に懐いて?ラースブルグからくっ付いて来た白猫。こいつは実に不思議な猫だった。見た目の美しさもさる事ながら、ラースブルグからヴィンター騎士爵領に帰る際も9番目の昭和ライダーの重力制御能力を使って飛んで帰った訳だけど、この白猫はそれに怯えも驚きもしなかった。むしろ楽しげな様子さえ見せて。
夕方になり、我が家であるヴィンター騎士爵家の館に着くと、俺の帰宅した気配を察してか、早速妹のエミリーが迎えに出て来た。
「お兄さま、お土産は?」
「エミリー、ただいま。まずはお帰りなさい、だろ?」
「ただいま、お兄さま」
「おかえり、エミリー。って逆だろ!」
「面白い、お兄さまって。そんな事よりもおみや…」
エミリーが黙り込むので、その視線の先を見てみれば、俺の懐から顔を出した白猫に向いていた。
「キャー!なにこの猫、可愛い!お土産ってこの子なの?」
いゃ、まぁ、お土産っちゃお土産なんだけど。
「エミリーにはちゃんと買ってあるから。こいつは何故か俺に付いて来ちゃったんだよ」
「ねぇお兄さま、うちで飼いましょうよ?私からもお父様とお母様にお願いするから」
白猫が勝手に付いて来たとはいえ、こうしてラースブルグから遠く離れたここまで連れ帰った以上は勿論館で飼うつもりではあった。
俺は白猫に興奮気味のエミリーに手を引かれるように館の中に入ると、旅装のまま父さんに帰宅の挨拶をした。そして、一緒に付いて来たエミリーが父さんに白猫を「飼っていいでしょ?お父様」と上目遣いでお願いすると、妹に甘い父さんは「ちゃんと世話するんだぞ」と捨て猫や捨て犬を拾って来た子供と親との間で交わされる鉄板の攻防を経る事無く白猫の飼育を許してしまった。
前世の日本で猫を部屋飼いするのとは違い、今の館は城のように広い。そのため猫の飼育といっても寝床を設けて食事を与えるくらいなもので、放置に近い。猫は家に着くと言うからそれでいいのだろう。
その後、晴れて我が家の一員となった白猫、直ぐに母さんにも大いに気に入られた。母さんは元金下級冒険者であった割に、実は可愛い物に目が無く、館には両親の寝室や父の執務室とは別に母さんの可愛い物部屋があったりもする。
そうしてヴィンター家の一員として迎えられた白猫だけど、俺が一つ懸念したのはエミリーの事だった。白猫を一目見て入れ上げたエミリーだったが、一夜にしてヴィンター家のアイドルの地位を奪われた形になったからだ。
「よしよし、可愛いでちゅねぇ。ミルク美味ちぃでちゅかぁ?」
しかし、自ら皿に注いだミルクを白猫に与え、赤ちゃん言葉で一人語りかけるエミリーを見る限りその懸念は必要無いようだった。
アイドルの座を奪われた事を憤るどころか、自らが推しになっていたでござる、ってところだろうか。
〜・〜・〜
この白猫が我が家の一員となって一週間が経過した。家士の娘で俺の幼馴染であるマリーとも顔合わせすると、彼女もまた白猫の可愛いさにメロメロになったものだ。
しかし、この白猫。四六時中俺に着いて来るのだ。家の中では家族や家士達に構われている時以外は常に俺の傍らにいる。流石にトイレや風呂の中までは入って来ないけど、基本付いて来て外で待っている。
夜はベッドに当然のように入って来る。エミリーが「私も白猫ちゃんと一緒に寝たい」と言った時など、白猫は俺をチラチラ見つつも諦めたように抱き抱えられて行ったものだったが。
館の外も付いて来る。ずっと抱き抱えている訳にもいかず、俺は前世の記憶から白猫用のベビースリングを作った。これは我ながら上手く出来てなかなか使い勝手が良かった。館内外の見回りから山での狩猟や釣りに魔物の討伐などでも白猫をベビースリングに入れておけば両手が使え動くのに支障とならないのだ。だから、そうした外出する場合はこの白猫用ベビースリングは必需品となった。
〜・〜・〜
(こいつも俺の何が気に入ったんだかな)
嬉々として?俺に着いて来る白猫を見るにつけ、俺はそう思ってしまう。俺がこの白猫にしてやった事なんて腸詰を一本与えただけなんだから。もしかしたらこの白猫は何か別の意図が有って俺に付いているんじゃないか?そんな思いが頭を過ぎるようになっていた。
まぁ、可愛いは可愛いんだけどね。
その謎が解けたのはその晩遅くの事だった。
その晩、俺は歯磨き(この世界にも、少なくともこの国にはその習慣はある)を終えてベッドに入ると、白猫もさも当然といった感じでベッドに上がって来た。
欠伸して大きく伸びをすると、眠い眠いといった感じで布団に入ると丸くなる。俺はその背中を撫でながら「そう言えば名前付けてなかったな」と今更ながら気が付いた。
「いつまでも白猫ちゃんじゃなぁ、お前にも何かいい名前を付けなきゃな?」
丸くなるなって俺に撫でられるがままだった白猫の両耳がピクッと動いた。
「どんな名前がいいかな。白猫だからシロとか?」
いつの間にか俺を見上げていた白猫はプイッと横を向く。気に入らないらしい。
「タマ」プイッ。「ルナ」プイッ。「じゃあ、ニャンコ先生は?」カブッ。
痛てっ、こいつ手を噛みやがった。
白猫は俺のネーミングセンスに呆れたのか、はぁ〜とため息を吐くとベッドから床に降りて歩き出した。そして部屋の真ん中辺りで立ち止まると、白猫の体が白く輝きだしたのだ。
ええ?どういう事?
白猫から発した白い輝きは眩しさを増しながら白猫の全身を包み、やがて一際眩しい光をフラッシュのように発した。そしてその光が消えると、そこには一人の美しい少女が佇んでいた。
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それでは次話もお楽しみに!




