第105話 力の証明を求められたら
レイスのマルティン子爵こと丸谷先輩が依代とする杖は手に入れた。では我等のバラライカ作戦、次なる行程はと言えばこの国の第1王子との接触だ。
まぁ、何と言うか、いくら俺が丸谷先輩に依頼されたからといって、当事者の一方である第1王子に話を通しておかないとややこしい事となろう。それが「勝手な事すんな!」くらいならまだ良いけど、俺が第2王子を拐った結果、大事になる事を厭う第1王子派と保身に走る第2王子派の過半数を超すであろう日和見連中との間で妥協が成立、結果誘拐した俺が騒乱を治める生贄の羊にされかねない。
バラライカ作戦の本格始動には一応こちらの安全のための保険として第1王子からの暗黙であっても"了解"が必要なのだ。
とは言え平民である俺の第1王子への伝手は、本来は王家直轄工作機間の工作員であるアイーシャだけだ。
そのアイーシャに第1王子との橋渡しを頼んではあるけど、果たしてどのような回答がくるものやら。
あ、そう言えば近衛騎士団には長兄のフランツがいるんだったな。ま、実家を出て絶縁した俺とはもう関係無いか。それに奴に第1王子との繋ぎができるとは到底思えないしな。
〜・〜・〜
「ホルスト様」
俺が休日で遊びに来たマリーと館の中庭で剣術の稽古をしているとアイーシャが声をかけてきた。恐らく第1王子の件に関する報告だろう。
アイーシャの意図は念話など使わなくてもわかるので、俺はアイーシャに頷くと部屋で待つよう目配せした。まぁこれくらいの以心伝心は恋人同士である俺達なら出来て当たり前かな。
マリーもそうした雰囲気を察して何を訊く事も無く、何か言いた気ではあったけど、その後も俺と稽古を続けて帰って行った。尤も、帰り際にいつもより濃厚なキスを求められたけどね。
「それで、第1王子からの回答は何て?」
マリーが帰った後、俺は館の食堂兼居間にパーティメンバーを集めてアイーシャに報告を求めた。クリス勇者パーティは本日所用により外出中なためゾフィとミシェルはこの作戦会議には参加しておらず、レイスの丸谷先輩は昼間なので姿を現さない。
「はい。これは私が組織の上を通して殿下に御意向を伺ったものですので直接の回答ではありません」
と、アイーシャは珍しく歯切れの悪い前置きをして続けた。
「殿下はこうおっしゃったそうです。「私に用があるならその者の力で出向いて参れ」と」
「「「…」」」
アイーシャはそう言うと申し訳無さそうに俯き、俺とメルとメリッサは互いに顔を見合わせた。
「ホルスト様に関しては組織から殿下に報告が上がっているはずなのですが。私の力不足で大変申し訳ありません」
まぁ、その報告を上げているのはあなたなんだよね。
「「用があるならその者の力で出向いて参れ」か。要するに自分に俺の実力を見せてみろという事だな」
俺はアイーシャに皆まで言わせずそう結論付ける。なかなか燃える展開じゃないか。
「で、どうするの?まさか王子に会わせろって王城に乗り込むって訳じゃないでしょ?」
「メルと一緒に行けば入れてくれるかもな」
「へぇ〜、ホルストはそれでいいんだ?」
勿論、良くない。
「実際問題としてどうやって王子に会うの?海賊船の時みたいに空から行くとか?」
メリッサを助けに行った時はそうしたけど、それだと目立つし帰りもあるからな。
「実はこんな事になるだろうと思っていたんだよね」
メルは疑わしそうに「本当かなぁ?」なんて言うけど本当の本当なのだ。
第2王子を誘拐するバラライカ作戦を実行するに当たって第1王子とどうにかして会わなければならない。しかし、俺が高ランク冒険者だからと言ってたかだか平民に第1王子という王国のVIPが態々時間を割き、場所を設定して会ってくれる訳がない。だったら公の場で堂々と会ってやろうと考えたのだ。
「で、だ。突然で何だけど、明後日から毎年恒例の王都武闘大会が行われるんだ。俺はそれに出場する事にした」
「「「えぇっ⁉︎」」」
驚く2人と1柱。
「ホルスト様、どういう事か説明して頂けますか?」
アイーシャがちょっと怒ったように詰め寄る。怒った顔もまた、いや、ふざけるのは止めておこう。
王都では一年の間に様々は祭りやイベントが行われる。娯楽に乏しいこの世界でそうした祭りやイベントは上は王族から下は貧民街の住民までが楽しみにしているのだ。まさにパンとサーカスという奴だな。
そうしたイベントの中でも人気なのが王都武闘大会。これは王都内にある競技場で行われるトーナメント形式の武術大会で、剣術、弓術、槍術、拳闘術、異種戦闘術(剣、弓、槍以外の武器)の5部門からなる。試合を対象とした賭博もあり、更には試合の前座では魔物と剣闘士の戦いなどの見せ物も行われてかなりヤクザなイベントと言えよう。それだけに人気があるのだろうけど。
この大会における各部門の優勝者には賞金として千枚の大金貨が国王から贈られ、更には国王若くは王位継承権を持つ王族から声をかけられるという名誉が賜れるのだ。
「優勝者に声をかけられるのは王位継承権を持つ王族、それも1番目の継承権を持つ王族です。今回の場合なら第1王子という事になりますね」
アイーシャの抑揚の無い声に俺は頷く。
「つまり俺が優勝者となれば堂々と第1王子の元に俺の力で出向いて参った事になるだろう?」
「まぁ、そうね。でもそれだと「見事だ」とか「天晴れ」とかの二言三言で終わらない?」
ぐぬぅ、メルめ、痛いところを突くな。
「でも第1王子だって自分と会うために武闘大会に出て優勝までしたホルストの事を憎からず思うんじゃないかな?」
そう、それが人の情というものだよ。
「第1王子が言った条件は満たすんだ。もしそれでダメならもう第1王子の寝室だろうが便所だろうが忍び込んでやるさ」
それが出来ない俺じゃない。
「ところでホルストはどの部門に出るの?」
メリッサが興味深かそうに訊いてきた。
「あぁ、俺は拳闘術に出るんだ」
そうそう、各部門の優勝者には賞金の他に称号が与えられる。剣術の優勝者なら「剣王」、弓術なら「弓王」、槍術ならば「槍王」といった具合だ。
因みに俺の父はかつてこの大会で優勝して「剣王」の称号を国王から賜り、その後準優勝した母と結婚している。
だから拳闘術とは徒手格闘の事。優勝者には「拳王」の称号が与えられる訳だけど、
けっ、拳王、だと!
畏れ多くも、この俺が拳王となるのか!
「俺が拳王!黒くてデカい馬を用意しなければ駄目か?クックック」
「ホ、ホルスト?どうしたの?」
どうやら心の声が漏れてしまったようだ。メリッサが引き気味に俺を見ている。
「放っておきなさい。きっといつもの妄想よ」
メルの奴、妄想とか言って酷いな。今夜はベッドでたっぷりとお仕置きだな。
と、その時俺は来るべき武闘大会に思いを馳せてしまい、会議の途中からアイーシャが黙り込んでしまっていた事に気付かずにいた。
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それでは次話もお楽しみに!




