第104話 ゴーストバスターズ、再び
その日の夜、早速俺達3人と1柱はその地下室にあるというレイスのマルティン子爵が依代にしている杖を入手すべく旧マルティン子爵邸に向かった。
何で態々夜にそんなお化け屋敷に行くのかって?日中じゃ目立つからな。それに何と言ってもこれ、立派な不法侵入だからね。
久々に訪れた旧マルティン子爵邸は相変わらずの幽霊屋敷。門を前に立っているだけで邸内に何か黒い霧が漂っているのがわかる。
「え〜、この中に入るの?」
そう言って顔を顰めたメリッサは実に嫌そうだ。
「大丈夫だよ。俺の「アクションヒーロー」にはちゃんと悪霊もレイスもリッチも斃せる能力もあるから。それに、ほら、何と言ってもここに本物の神様だっているんだから。なぁメル?」
俺が肩から掛けているベビースリングからひょっこり顔を出していたメルに同意を求めると、メルは皆の視線が集まって慌てる。
"え?そ、そりゃあわたしだって神族の端くれだからお化けくらいどうって事ないけど?で、でも出来れば関わりたく無いかなぁ?"
要するに嫌なんだな?
最後に残ったアイーシャに視線を向ける。
「私はホルスト様と悪霊退治に行く事は吝かではありません。ですが、私では霊的な存在への対処は覚束無いので、返ってホルスト様の足を引っ張る事になりそうで心苦しいのです」
アイーシャはそう言うとよよよとといった感じで顔を伏せる。うん、要するに嫌なのな?
「わかった。俺一人で行くから」
そう言うと2人と1柱に明らかにほっとした空気が流れた。まぁいいけどさ。
「メリッサ、杖がどこにあるかダウジングで探し当ててくれないか?」
「了解」
メリッサは画板に広げた紙にいそいそと大雑把に旧マルティン子爵邸の見取り図を描くと、その上に右手の中指にチェーンを通した水晶のネックレスをかざした。
〜・〜・〜
結局、メルとアイーシャとメリッサは邸の外で待機し、邸内には俺一人で行く事に。
塀を乗り越えて敷地内に侵入すると、案の定おどろおどろしい瘴気が漂っている。
丸谷先輩は何も言っていなかったけど、先輩の孫である現マルティン子爵を邸から追い出すに当たって、自分がポルターガイスト現象を起こすだけでなく、そこいら中から悪霊の類を呼び寄せたようなのだ。
辺り中から実に嫌ぁな視線を感じる。連中も侵入者に対して取り敢えずの様子見ってところか。
更に敷地を奥まで進む。本来、正門から本館の玄関車寄せに続くドライブウェイは何年も放置されて路面もぼこぼこで雑草だらけ。庭も荒れ放題。流石に貴族街のど真ん中だけに魔物の類は棲み着いてはいないものの、本来はここにいるはずのない大ネズミや蛇などの大型爬虫類に大型蜘蛛などが棲息していた。
さて、本館を前にするとかなりな悪霊の気配を感じた。悪意、妬み、嫉み、恨み、憎しみ、そんな負の感情がびしびし伝わって来る。
本館は見える範囲の窓ガラスは割られているものの玄関ドアはびっちりと閉ざされ、鍵が掛けられている訳でもないだろうにびくとも開かない。
バキッ、ドガン!
ドアノブを回し切り、ドアを蹴倒した。
うオォォオォォ〜
本館の中は悪霊の巣になっていて、変な叫び声が聞こえて来るかと思えば、冷気と共に常人ならば卒倒する程の瘴気が吹きかけられる。なんのなんの、こんなの能力を使うまでも無いそよ風みたいなものさ。
本館の中に踏み込むと、わらわらと複数の悪霊が姿を現した。その姿は半透明で、辛うじて男女の違いがわかるものの何も肌はドス黒く窶れ、憎々しげは表情は両目が無くて黒い眼窩となって俺を睨んでいる(多分)。実に気持ち悪いな。温かな血の通うヒトだっただろうに、生前彼等に何があったものかね。
前世の日本では幽霊や悪霊の類は、どちらかといえば精神的にじわじわと来る印象だった。だから霊感零感の人には直接関係無いねって感じだったけど、この世界の悪霊、レイス、リッチは問答無用でこっちの命を獲りに来る奴等だ。
霊的存在だからこちらの物理的攻撃が効かない割に、奴等からのポルターガイスト現象などによる物理的攻撃はしっかりこちらに効く。しかも、憑依などの奴等の霊的な攻撃、レイスやリッチの魔法攻撃などはかなりの脅威となる。
なので、これもいい機会だからこの館に巣食う悪霊どもを俺に歯向かうようなら滅してしまおう。
「吹けよ嵐!」
俺はそう唱えてラジャータを太刀に変形させる。そしてカチンと鍔を鳴らすと、変身する忍者嵐の能力が全身に漲って来た。そこから両手で印を結ぶと、魔を滅する不動明王の真言を唱える。
「のーまくさんまんだー、ばーさらだんせんだー、」
そして刀にその力を込めると、俺を囲む悪霊の群れ目がけて横薙ぎの一閃を放つ。
ぎぃやぁぁぁぁぁ〜
悪霊の群れは断末魔の絶叫を上げて消滅。奴等の放つ瘴気も雲散霧消した。うん、これでいい。
〜・〜・〜
本館の中を更に進むと、建物の其処彼処に潜んでいた悪霊が集まって来る。そして奴等はメリッサが探り当てた地下室への階段、その手前で俺の地下室への侵入を阻むように布陣、俺と対峙した。
"去れ!ここから先へ行かせる訳にはいかん"
奴等の統率者らしき悪霊は頭巾を被り、一見修道士のような格好をしていた。
「俺は地下室にある杖さえ手に入ればそれでいいのだけど?」
"それは我らが悪霊の王、レオン様の依代だ。決して渡す訳にはいかぬ"
そのレオン様とやらから持って行けと言われて来てる訳だけど。
って言うか、いつの間に丸谷先輩、悪霊の王になったんだ?
「悪いけど、こちらもその杖が必要なんだよね」
''ならば死ね!"
修道士悪霊のその声が合図となり悪霊共が一斉に襲い掛かって来る。太刀を振り回すには周囲は狭く、また、建物が壊れて地下室への入口が埋まっても厄介だから刀は振るえない。ならば、だ。俺は数歩後退すると、愛の戦士であるレインボーの男の能力を発現させるべく呪文を唱える。
「あのくたらさんみゃくさんぼだい(×3)」
そして更に太陽の化身となるべくその名を叫ぶ。
「ダッシュ7!」
すると、今度は太陽の力が全身に漲り、俺は広げた両手を修道士悪霊に向けて太陽の光を放つ。
「日輪の輝きを借りて、今、必殺のサンアタック!」
まぁ、色々なヒーローの要素が混じっているけど、基本はレインボーの男という事で。
俺の両手から放された太陽の光は遍く館内を照らし、断末魔の声すら上げられない程の瞬間で全ての悪霊を滅した。
何か派手になってしまったけど、さっさと杖を入手して、騒がれる前にずらかろう。
〜・〜・〜
今のところ邸内の間取りや地下室の入口の位置はメリッサがダウジングで探った通り。地下室へと続く階段を下ると地下室の入口は鉄製の分厚い扉で閉ざされていた。俺は8番目の昭和ライダーの能力「ブレイク」を用い極低周波でこの扉を粉々に砕いた。
光球を浮かべて地下室内を照らすと、そこは多少埃っぽくはあっても整理整頓された魔術師の部屋であった。壁の本棚には希少であろう魔術書に、何に使うのかわからない道具や鉱物塊などが所狭しと並べてある。
部屋の中央に置かれたテーブルには魔法陣が描かれ、その中心には長さ30cm程の先が尖って把手のある木製の"杖"が浮かんでいた。
いや、杖って。もっと長い賢者が持っているような奴かと思っていたら、まさかのエクスペクトパトロ的な方だったか。
すると、魔法陣上に浮かんだ杖が青白く光ったかと思うと天井高く飛び上がり、やがてゆっくりと俺の目の前に降りて来た。思わず片手で掴んでしまうと、丸谷先輩が半透明なオビワン的な姿で現れた。
"あれだけ集めた悪霊共も瞬殺か?流石だな"
「そんな事言って、あいつら先輩の事を悪霊の王とか言ってましたよ?」
"ああ言った方が悪霊の集まりが良かったんだよ"
そのぶっきらぼうな物言いは丸谷先輩にも多少は恥ずかしい自覚があるようだった。
「良い二つ名が付いて羨ましい。よっ、悪霊の王!」
"う、うるさい!さっさと杖を持って行くぞ!"
俺をいいように利用した事への意趣返しはこんなものでいいだろう。俺は宙に浮かんだ杖を手に取ると懐に仕舞い込み、メル達の元へと急いだ。
〜・〜・〜
因みに後日談として、俺が邸内に放った太陽の光は外で待機していたメル達ばかりか、周囲の貴族邸からも目撃されていた。そのため旧マルティン子爵邸の怪談は更にレパートリーを増やしたと言う。
そして太陽光によって悪霊と瘴気が完全に浄化された旧マルティン子爵邸は幽霊屋敷と恐れられつつ、貴族街の野鳥天国として一部の野鳥好きな貴族から手近なバードウォッチの聖地として重宝されましたとさ、どんとはれ。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




