第103話 バラライカ作戦
「丸谷六朗って、それでロクロー・マルティンか。じゃあ、日本からの転生の先輩って事か」
"そういう事だ、後輩よ。ちょっと500円やるからセブンで肉まんと缶コーヒー買って来いよ。ブラックをホットでな"
「あ、はい、ってパシらせないで下さいよ。セブンとか無いし」
いや、よもやよもやだね。
"どうだ?俺からの依頼を受けたらお前は俺が培った前世でのロボット工学エンジニア兼ヒーローマニア知識から今世での魔法を始めとする知識や技術を我が物と出来るばかりか、俺からのアドバイスが受けられるんだ。こいつは全く破格だぞ?"
どうだ?どうする?と上から目線で迫るマルティン子爵。って言うか口調とキャラが変わってない?
「う、受けます。受ければいいんでしょう、コンチクショウ」
遂に俺が依頼を受けると、うむうむと満足気に頷くマルティン子爵。
"そうか。それは上乗。ではまず最初に俺の依代になっている杖を旧マルティン子爵邸の地下室から入手する事だ。それも報酬の一部だ。では、そろそろ朝だから俺は杖に戻るからな、後は頼んだぞ"
白み始めた東の空にマルティン子爵の身体は徐々に足元から消え始めた。
「先輩は何で自分の孫を邸から追い出したんです?」
これは気にかかるところだから最後に尋ねてみた。
"それはな、馬鹿な孫が寄親に感化されて第2王子派に与してな。不肖な孫だが、孫は孫なもんで、下手に政治に首を突っ込んで自滅しないよう邸から追い出して余計な事が出来ないよう弱らせたのさ。ま、これも愛ってところかな"
「多分、愛ですかね」
"きっと愛さ"
そう言うとマルティン子爵、いや、丸谷先輩は消えていった。
こういう前世の古い歌謡曲ネタで盛り上がれるのも元日本人同士故だ。ちょっと面白くなってきたけど、とんでもない依頼を受けちまったな。これから忙しくなりそう。
俺とマルティン子爵との遣り取りなど知らずにすやすや眠るメリッサ。そんかメリッサの髪を撫でながら、俺は取り敢えずみんなを集めて依頼について説明しなきゃなぁ、などと考えた。
〜・〜・〜
翌朝、といっても3時間程後だけど。俺は朝食後の食堂にみんなを集め、昨夜の出来事を説明した。すると何故かみんなの視線がメリッサに集中。
「え?私知らないよ?あの後そんな事があったなんて」
「あの後」「あの」が何を意味するのかは誰も突っ込まない。
「愛と癒しの女神ナルディア様の眷属たるこの私に気付かれずこの館に入れるなんて、そのレイス、中々やるわね。それで、ホルストはその依頼を受けるの?」
メルは座っていたソファから立ち上がると、両手を腰に当てて詰めるように迫る。自分に何の相談も無く?といった感じだ。
「ごめんな。メルに相談しなくて」
「うん、まぁ、その状況なら仕方ないけど、」
集まって貰ったのはメル、アイーシャ、メリッサ。それからクリス勇者パーティからゾフィとミシェル。って、え?ミシェル?思わず二度見してしまう。
「い、いいじゃないですか、私がいたって。私だって、その、仲間なんですから!」
いや、これからここにいるみんな(=妻、恋人)に俺がマルティン子爵の依頼を受けた理由を話さなくてはならないのだけど。
「ホルスト、ミシェルは口は硬いし、秘密を漏らすような事なんてしないわよ?」
ゾフィはミシェルと同じ勇者パーティの一員で、当然付き合いも長いだけにミシェルの為人もよくわかっている。だからゾフィがそう言うのならミシェルは秘密を守ってくれる事だろう。俺だって別に聖女ミシェルを信用してない訳じゃないのだが。
「ホルスト様、これからミシェルだけここから追い出すというのは気の毒ですし、今後の人間関係に支障をきたす恐れがあります」
「いや、追い出すなんて言ってないよ」
アイーシャもミシェルの援護に回ったか。
「ねぇホルスト、ミシェルは聖女なんだからさ」
メリッサの言う事も良くわかる。ミシェルは聖女で、聖女になるにはその適性と才能が必要だ。それに幼少の頃に聖女候補として見出され、その後慈愛と慈悲の女神メルティースの教団で何年も修行しなければならない。それから更に女神メルティースにより祝福という名の選抜を受け、晴れて聖女となる事が出来るのだ。だから聖女は十分に尊敬に値する。
とはいえ、それはそれ、これはこれだ。
それにゾフィにアイーシャにメリッサ。みんながミシェルを擁護するというのは、ミシェルも加えたこのメンバーで何か俺の知らない裏協定でも結んでいるのではないかと勘繰ってしまうな。
俺はチラッとメルに視線を走らせると、俺と目が合ったメルに念話を送る。
"これから話す内容には俺の前世に関しての事も含まれるけど、恋人の3人はともかく、ミシェルがいるのは不味くないか?"
今のところ、俺の前世と「アクションヒーロー」について知るのはメルを除けば妹のエミリーと幼馴染のマリーだけ。そしてそこにマルティン子爵の依頼を受ける理由に関連してアイーシャとメリッサとゾフィを加えようとしている。
"それは大丈夫。ミシェルはもうこちら側だから"
"え、こちら側って?"
何だよ、その「こちら側」ってさ。
"私達が認めたホルストの恋人候補という事よ"
はぁ?そんなの聞いてないし、頼んでもいないのだけど。思わずミシェルを見てみると、ミシェルは恥ずかしそうに顔を伏せた。
"詳しい事は今度話すわ。今は依頼の話を進めましょ?"
メルの奴、はぐらかそうとしているな。だけど、確かに今はそこにこだわっている場合じゃない。
「何かモヤモヤするけど、話を進めよう」
〜・〜・〜
「では簡潔にまとめますと、ホルスト様は元は別の世界の方で、お亡くなりになってこの世界にホルスト様として生まれ変わったと。そしてホルスト様の能力「アクションヒーロー」も異世界の神から授かったという事ですね?」
長い説明を短くまとめてくれて有難う、アイーシャ。
「そういう事だね。幻滅したかい?」
「いいえ。ホルスト様はこの世界に生まれ変わって、たった一人で頑張っていらしたのですね。これからはメルダリス様始め私達がいますから」
「そうよ、ホルスト。私達がずっと一緒だから!」
「ホルスト!」
メリッサが感極まったように抱き着いて来ると他の2人も抱き着き、俺の頭はアイーシャにかき抱かれる形となった。
「あの、私も、いますから」
気が付けばミシェルもはにかみながら俺の手を握っていた。
確かに俺はこの世界に転生して、家族がいても一人だったな。でも今はメルがいて、アイーシャにゾフィにメリッサにマリーがいる。そしてマルティン子爵こと丸谷先輩と出会い、聖女ミシェルも一緒にいてくれるという(そこは今後の課題かな)。いろいろな縁で巡り合った皆だけど、こうして結ばれている。有難い事だ。
「それで、そのマルティン子爵とやらもホルストと同じ世界、同じ国からの転生者だからその依頼を受けたという事でいいのね?」
コホンと咳払いをして脱線した状況を正す。
「メル、理由はそれだけじゃないよ」
それも理由の一つだけど、おまけみたいなものだ。
「レイスになったマルティン子爵から報酬として俺に自分が持てる全ての知識や技術をくれると言う。だけでなく、その知識や技術を元にこの先様々なアドバイスしてくれるとも。このメリットは大きいものの、魔王国との戦争が間近に迫っているこの時に内乱が起きようとしているんだ。その内乱でどれくらいの民が死ぬのか。そして内乱によって王国がローメリア帝国への援軍が出せなければ彼の国が魔王国に屈するかもしれない。そうなれば魔王国の次の標的はこの国だ。そんな多くの人達が不幸となる未来を正義の味方としては看過する事は出来ない。それがこの依頼を引き受けた最大の理由だ」
一同を見渡して言うと、メルが再び声を上げる。
「ホルストがやると言うのなら私もみんなも反対なんてしないし、あなたに従うわ」
メルに続いて皆が頷く。うん、わかって貰えて嬉しいよ。
「で、具体的には第2王子派のクーデターを未然に防ぐってどうするの?」
ゾフィがそう尋ねたので、俺はここで考えていた作戦計画を説明する。
「計画は単純明快。第2王子派の根拠地から連中が行動を起こす前に連中の神輿である第2王子を掻っ攫うんだ。そうすれば第2王子派の黒幕である某公爵は行動を起こす大義名分を失い、派閥自体が瓦解するだろう」
今のところマルティン子爵から人類の裏切り者が王国に四家ある公爵家のうちのどれか知らされていない。だからまずは子爵の依代になっている杖を手に入れなければならないな。
「そこでみんなにも協力して貰いたい」
第2王子の拉致誘拐は俺が一人でやるとして、
「メリッサ、「ダウザー」で杖の在処と第2王子の居場所を探って欲しい」
「わかったわ」
「アイーシャ、第1王子とどんな形でもいい、会って話す事は出来ないか?」
いきなり第1王子と会わせろ言われ、目を見開いて驚くアイーシャ。
「組織を通じて上申します。恐らくは大丈夫かと」
「では、それで頼む」
無理言って悪いな、アイーシャ。
「メル、第2王子の身柄をナルディア教団に一時預けたい。それが可能かどうかナルディア様にお伺いを立ててくれないか?」
「えぇ⁉︎あ〜、うん。わかったわ、これも多分大丈夫」
拐った第2王子をどこに押し付け、いや、動座して頂くか?いきなり第1王子の元へ送りつけたら速攻で始末される可能性があるからね。
では、この館か?いやいや、居候の身で大家さんにそんな迷惑かけられない。
だからこういう場合は歴史に答えを求めるのだ。政敵に命を狙われた貴人が宗教施設に匿われるのは洋の東西を問わずある事だからな。まぁ、あっちが「匿ってもいいよ」って言ってくれる必要はあるけど。
では何でナルディア教団かって?だって、そこしか俺には伝手が無いからね。それにアプロス教団は俺にとって鬼門みたいなもんだから関わりたくない。
〜・〜・〜
そうした訳で第2王子を掻っ攫い第2王子派のクーデターを未然に防ぐ「バラライカ作戦」(「チェンバロ作戦」を参考に適当に付けてみた。特に意味は無し)は発動された。
ゾフィとミシェルはクリス勇者パーティの一員なのでこの作戦に参加させる事は出来ないので(本人達は何かやると言って利かなかったけど)他言無用を念押しした。
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




