第102話 報酬
「ジギスムンド王国の政情不安は七か国ある魔王国のどれかによる政治工作だった。王国内を引っ掻き回して疲弊させ、その際にカブラチッド平原に侵攻するのがパターンと気付いた宮廷魔術師のマルティン子爵。今の王位継承権を巡る王国貴族間の対立も何れかの魔王国が裏で糸を引いている?。この事態をどう打開するマルティン子爵?果たして王国の運命は?」
"何を前回まとめみたいな事を一人で言っておる?"
「いゃあ、ここからが本題って言うから軽く纏めてみたんだよ」
"誰にじゃ?まあ良い、それでは続けるぞ"
よし、どんと来い。俺が頷くとマルティン子爵は「本題」を切り出した。
〜・〜・〜
マルティン子爵は王国内に蔓延る魔王国工作機関を炙り出すべく、自らが長を務める王室直轄工作機関を指揮して内偵を進めた。そして遂に魔王国工作機関が王国に四家ある公爵家の一家と繋がりがある事を掴んだ。
"じゃがのう、そのタイミングで例の平原に二か国の魔王国が連合して侵攻してのう。ローメリア帝国と激烈な局地戦を開始したのじゃ"
カブラチッド平原北側の海は海棲魔物うじゃうじゃで、沖には火山島(ラキースタ島)があるせいで海流も早くしかも岩礁だらけ。南側はエルフやドワーフの国がある樹海(中立地帯)で、これまた魔物がいっぱい。従ってカブラチッド平原は人類領域(獣人族も含む)と魔族領域とを繋ぐ唯一の回廊地帯となっている。某銀河英雄的なスペースオペラで例えるとイゼルローンなんとか回廊といったところだろうか?
なので、ローメリア帝国と魔王国の双方はこの戦略的要地であるカブラチッド平原の両端に互いの軍事侵攻を防ぐための要塞を築いている。
その時の魔王国は2か国連合した大兵力で電撃的にローメリア側の要塞に襲いかかったそうで、ローメリア側の要塞はあっという間に包囲されてしまったという。
"そこで儂も王命でローメリア帝国への援軍に加わり参戦したのじゃ。ローメリアが魔王国軍に抜かれたら次はジギスムンドじゃからの。儂は遠距離から火炎魔法による集中攻撃で魔王国軍の攻城兵器破壊に成功しての。見事にローメリアとジギスムンドの本隊到着までの時間稼ぎに成功したんじゃが、"
「じゃが?」
"魔王国軍挺身隊の奇襲を受けて残念ながらそこで儂は戦死してしもうた"
「…」
"そして気が付けば戦場を彷徨うレイスになっておった、という訳じゃな"
レイスとは幽体離脱した魔術師が肉体に何らかの理由で戻れなくなった魂なのだという。しかし実際にはそんな間抜けな魔術師なんているのだろうか?しかも、何でわざわざ幽体離脱なんてすんのよ?って話だよな。
まぁ、それは飽くまでそう言われているって事であって、レイスとは様々な理由で魔法や魔術が使える幽霊って括りだと俺は思っている。
だけどこのマルティン子爵を見るに、人がレイスになるには生前の思いや未練が大きく影響しているようだ。
"じゃから、儂がレイスになったのは儂が掴んだ魔王国とその野望、そして王国内の裏切り者、王国を蝕む獅子身中の虫の存在と正体を国王陛下にお伝えしないまま死んだからじゃろうな"
今まで飄々としていたマルティン子爵が、ここに来てしゅんと悔しそうな、切なそうな表情をする。
「それで裏切り者って誰なんですか?それと魔王国の野望って?」
俺は子爵の表情には気付かないフリをして尋ねる。
"それは簡単には教えられんな。依頼に関係する事柄じゃからな?"
「…で、依頼って?」
いや、聞いちゃうよ、もう。だって気になるじゃんよ。後で条件詰めればいいだろうし。
"儂の依頼はな、ズバリお主に第2王子派によるクーデターを阻止して欲しいのじゃ"
う〜ん、第2王子派によるクーデターの阻止って、大きく出たな。
「…そんな大それた事を一冒険者に?」
"手段は任せる。お主なら出来るじゃろ"
「正直、出来る出来ないで言えば、俺の能力を使えば「出来る」かな」
って言うか、マルティン子爵の依頼以前に既にその手段は幾つか考えてあったりする。要するに神輿の担ぎ手共から御神体を奪ってしまえば良いのだ。それが最小の労力で流れる血が最も少なく済む解決方法だ。魔王国との戦争が目前に迫っているというのに国内でゴタついている場合じゃない。
"それで、報酬じゃがな、"
そう、そこ大事。何と言っても俺は冒険者だからな。労力に見合う報酬が必要だ。
「報酬は何ですか?」
"報酬はな、"
「報酬は?」
勿体ぶるね、このじいさん。焦らされるのは好きじゃないんだけどな。
"儂自身じゃ"
ズコッ!
これはあれか?よく美女や美少女が主人公にベッドの上で裸の自身にリボンを巻いて「私がプレゼント♡」とかやるあれなのか?
は〜い、解散、かいさ〜ん!
「さぁ〜て、朝までもう一眠りしようかな。お休みぃ」
"こ、こら!何布団に入ろうとしておるか!"
「いや、俺、ちゃんと女の子が好きで、そういう趣味無いんだけど?」
"このたわけめが!そういう意味ではないわ!"
「しーっ、静かに。メリッサが起きちゃうよ」
人差し指を口に当て、俺はわざとらしくマルティン子爵に静粛を促した。念話だからメリッサには聞こえないけどね。
"いや、儂の言い方が悪かったかの。報酬は今後、儂が今までに培った知識、技術、経験でもってお主に助言してサポートする事じゃ"
そういう意味か。でも、何か報酬としては微妙だな。
まぁ、何と言うかマルティン子爵は要するに先々代国王の王命を果たせず、知り得た情報を伝えられなかった無念を抱えた怨霊なのだ。俺をサポートすると言うけれど、それは俺を使ってその無念を晴らすという事に他ならない。何かちょっと怖いような…
"何を迷っておる。お主は強大な力を有しておる。じゃが、果たしてその力、十分に使いこなせておるのかのう?"
「どういう事だ?」
前世の等身大変身ヒーローについての知識は十分あるつもりだ。それで今まで戦ってきた。しかも俺の能力についても知っているな?
"ほう、雰囲気が変わったの。怖い怖い"
揶揄いやがって、腹立つな。
"お主、この世界に転生して16年か?色々と勉強しているようじゃがこの世界の知識が十分にあるとはとても言えないようじゃのう"
うぅ、それはそうだけど。こっちは勿論インターネットなんて無いし、誰もが利用出来る図書館だって無い。だから俺の知識なんて高が知れている。然るにレイスのマルティン子爵は数十年に及ぶ冒険者として魔術師として貴族として、そして国王側近としての知識と経験と技術が有るのだ。
"それに、お主は自分がやりたい事を出来ておるのかのう?"
ギクっ
"折角正義の味方の力を手に入れ、正義の味方として活躍したいというのに、気が付けば周りは女子にすっかり囲まれて自分の思いとは別の方向に流されているのではないのかのう"
ギクギクッ
図星だ、図星過ぎる。いや、しかし、さっきから引っ掛かるな。「この世界に転生」とか「正義の味方」とか、気になるワードの連発だ。
"お主にこの世界の十分な知識が有れば、或いは違っていたかもしれん。確かな助言があればまた違っていたかもしれん"
今の状況を悔いている訳では無いけど、たかだか16歳、前世の歳を加えても38歳の若造一人の考えでは限界がある。例えメルや恋人達の助けがあったとしてもだ。
もう一押しと見たか、マルティン子爵はここで更なる燃料を投下する。
"ならば、これを言えば良いか?"
「?」
マルティン子爵はそれまでの年寄りじみた雰囲気をかなぐり捨てると、はっきりとした言葉で驚くべき事を口にした。
"レオン・ロクロー・マルティンはこの世界での名だ。俺にはもう一つ、前世での名がある。俺の名前は丸谷六郎。昭和43年5月5日生まれ、中法大学卒業で神奈川県出身の元日本人だ。ついでに好きな変身ヒーローは仮面ライダーV3"
「な、なんだと、V3が好きだと!」
"いや、驚くところそっち?"
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それでは次話もお楽しみに!




