第101話 魔王の影
前代未聞なレイスからの依頼。ま○が日本昔ばなしじゃあるまいし。さて、どうしたものかな。
仮にこの依頼を達成出来たとしても何かしらの面倒事に巻き込まれるのは目に見えている。ここはキッパリと断るべきだ。もし、それでこのレイスが俺に呪いでもかけようってんなら17番目の平成ライダーのゴーストハント能力で消してやるからな!
だがしかし。気になるのは、何で俺なの?って事。
"ふふふ、悩んでおるな?大いに悩むが良い。それが若者の特権じゃからの"
いや、そういう悩みじゃないんだけどな。まぁ、でも、この人(?)自体は悪い奴じゃなさそうなんだよな。う〜ん、どうしよう。なので、
「受ける受けないは別として、話を聞くだけ聞きましょう」
この提案にレイス氏は意外にも答えは"Yes"
"うむ、他人の話を聞こうという姿勢は良い事じゃ。まぁ、どの道お主は受ける事となろうがの"
そう言われると聞かない方がいいのかな。しかし、聞くと言った以上は聞かなければならないし、若干の興味もあったりする。それにヤバそうなら断ればいい。はず。
「じゃあ、手短に」
あまり長いとメリッサが目を覚ましちゃうからね。
〜・〜・〜
レイスである初代マルティン子爵。生前は意外な事に元は平民だったとか。
"儂は王都郊外の農村に生まれた百姓の倅での。ただ「能力」は授からなかったものの、生まれつき魔力の質が高く、魔力量も多かった。幸い実家が村長を代々務める庄屋で割と裕福じゃったため、儂は王都の魔法塾で魔法を学ぶ事が出来たんじゃ"
そうして強力な魔法使いとなった初代マルティン子爵は、次男であった事もあって家を出て冒険者となり、忽ち頭角を現したのだそうだ。
「へぇ〜って、子爵の生い立ちってここで必要なの?」
長くなりそうだからちょっと釘を刺しておく。
"勿論じゃとも。これが巡り巡って今回の依頼に繋がるのじゃからな"
だったら仕方ないのか?本当は結論から述べて欲しいけどね。そして子爵の生い立ち話は続く。
"冒険者となった儂は困難な依頼を幾つも達成し、新たな魔法も幾つも開発した。そして王領新街道建設現場に視察で訪れていたまだ王太子だった先々代国王御一行にハグレ竜が襲いかかっての。たまたま依頼で工事現場の警備をしていた儂のパーティが竜を撃退して陛下をお救いし、儂は準男爵の爵位を賜ったのじゃ"
その際に姓をマルティンとしたそうだ。
王太子だった先々代国王とマルティン準男爵は同い年という事もあって馬が合い臣下として仕え、王太子が国王に即位すると男爵に陞爵した。その後は七か国ある魔王国の一つであるベルガイム魔王国との紛争に魔術師団の小隊長として従軍、戦功を上げて子爵へと陞爵したのだそうだ。
"あの紛争では同盟軍が魔王国軍の力押して劣勢になっての。そこへ儂が率いる魔術師団の小隊が迂回して魔王国軍の側面を火魔法の3段撃ちで襲い形勢を逆転させたんじゃ"
…3段撃ち。なんか引っ掛かるワードだ。
子爵に陞爵すると同時に、マルティン子爵は先々代国王の勅命で空席だった宮廷魔術師に就任した。
要するにマルティン子爵は王太子だった先々代国王を冒険者として街道工事の警備中、偶然にもはぐれ竜から守った事から気にかけられて出世したという事らしい。
"儂は半ばお飾りである宮廷魔術師となった訳じゃが、それは飽くまで表の顔。その実態は国王直轄の秘密工作機関の設立と魔王国並びに魔王の研究だったんじゃ"
という事はアイーシャの属する組織は目の前のマルティン子爵が設立した事になるな。なかなか優秀な組織に育ってますよ?
そしてマルティン子爵は表では国王側近の宮廷魔術師として、裏では国王直轄秘密工作機関の長として先々代国王に仕えた。
"それは既存の幾つかの工作機関を統廃合し、新組織の要員として新たに獣人族を多く召し抱えた。彼等は魔法こそ不得意じゃが身体能力と格闘能力に優れており、何より忠義者が多いからの。厚遇すると良く働いてくれたもんじゃ"
魔術師や魔法使いは貴族出身者が多く、こうした連中はどこかでやはり貴族と繋がっていて信用出来ない。その点、獣人族はそうした繋がりが無く、情報を漏らしたり裏切ったりする事は少ない、と言えるかもしれないな。
そして、この国ではアイーシャがギルドの上級職に就いていた事でわかる通り獣人族に対する差別は少なく、彼等の社会的地位は比較的高い。だからその分、工作員の獣人が社会のあらゆる階層に潜入する事が出来ると。
"儂に任されたもう一つの仕事にこの新しい機関が大いに役立ってくれたんじゃ"
俺達が今いるこの大陸は地球でいう所のユーラシア大陸に相当し、このジギスムンド王国がある地域は敢えて例えるとヨーロッパに近いと思う。
因みにジギスムンド王国は位置的に中欧といった感じて、オーストリアとハンガリー、それと半島の無いイタリアを足したような国だ。大陸西側地域では大国と言っていいだろう。
ジギスムンド王国の東側にはエルフの国がある樹海と、ドワーフの国がある山岳地帯があり、この樹海と山岳地帯は人類領域と魔族領域との緩衝地帯(中立地帯)となっている。そして、その北側には広大な平原(カブラチッド平原)が広がり、その領有権を巡って人類と魔族とで度々戦争が起きているのだ。
魔族は樹海の東側に人類同様、幾つかの国を形成している。時代によってそれらの国々は数を変えつつ、現在では七魔王国として固定している。魔王国の国家元首は当然魔王で、一代につき一人の魔族の者が彼等の崇める魔神から「魔王」という「能力」を授かり魔王となるという。
"魔族、魔王、魔王国に関する資料や文献を集めて体系化し、という作業と研究の過程で儂は魔王国から我が国へ常に政治工作が行われていた事実を把握したのじゃ"
それが何故わかったかと言うと、記録を見るとジギスムンド王国で政争や治安の極端な悪化、魔物の大量発生が起こると、決まってその後で魔王国からのカブラチッド平原への侵攻が始まっていだからだそうだ。
カブラチッド平原と国境を接しているのはジギスムンド王国の北に位置するローメリア帝国。ジギスムンド王国とローメリア帝国とは七魔王国に対抗する同盟関係にあり、魔王国からの軍事侵攻があった場合、同盟国が共同して対処する事となっている。
"こちらを政情不安にして力を削ぎ、且つローメリア帝国への援軍を阻止しようという算段じゃろう。ローメリア帝国の軍事力は強大故に搦手から攻めようという戦略じゃな"
「なるほど。我が国の政情不安と魔王国のカブラチッド平原への軍事侵攻がセットになっている訳ですか。って、ん?」
"気が付いたようじゃな。現在、我が国は王位継承を巡って貴族共が真っ二つに割れて争っておる。証拠は無いが、これも裏で魔王国が糸を引いているようじゃ"
そりゃあ、そんな証拠を掴ませるほど魔王国の工作機関も馬鹿じゃないだろうし。
「という事は近いうちに魔王国のカブラチッド平原への侵攻があるという事ですか?」
"おそらく、じゃがな"
「へぇ、そりゃあ大変ですねぇ」
まぁ、俺は平民の冒険者だし、国がどこかと戦争しようが侵略でもされない限りは直接関係無いからな。相手が魔王国で魔王絡みとなればクリス達勇者パーティは事によったら戦力として援軍に出されるかもしれないけど。
あっ、そうなるとゾフィも出征するようだから俺もそう無関係でも無いのか。
王都には俺の双子の兄達もいたっけ。長兄フランツは近衛騎士団だから王都から離れないだろうけど、次兄アイクは陸軍常設第1騎士団所属だから出征する可能性があるか。どの道、俺は実家と絶縁しているし、兄達からは疎まれていたから関係無いけどな。
"お主、何を他人事みたいな顔をしとるか。それに関連してここからが本題じゃぞ?"
呆れているような、怒っているような物言いをされた。
マルティン子爵は俺が依頼を受けて当事者の一人であるかの様に話を進めているけど、依頼内容をまだ聞かされていないから俺は依頼を受けるかどうかはまだ決めかねている。とはいえ、ここまで聞いてしまうと最後まで聞きたくなるのが人情ってものだよね?
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




