第100話 月夜の依頼人
俺とアイーシャがパーティを組んだ事実は当初、冒険者ギルド王都本部では好意的に受け止められた。上位金級と下位銀級によるパーティである。普通はパーティにリーダーとして上位銅級か下位銀級がいれば実力派といったところなのだ。
とはいえ、俺達のパーティは2人。ギルドとしては幾ら実力者とは言ってもたった2人のパーティというのは使い勝手が悪い。護衛にしろ、討伐にしろ、素材採取にしろマンパワーが足りない。依頼遂行の効率、メンバーの安全や負担と疲労等を考慮するなら6人は必要だという。
よくあるパーティ構成というと、前世でのRPGでもあったように攻撃を引き受ける盾役がいて、近接攻撃をする前衛、遠距離から攻撃を加えて援護する後衛。それに盗賊とか呼ばれる斥候がいて、後方支援の回復役がいるのが理想的であり、前世の軍事ドクトリンと照らし合わせても理に適っている。
しかし、そもそもソロでいようとしていた俺だ。アイーシャから海賊紛争時に約束した"ご褒美"で俺とパーティ組みたいと頼まれたから2人でパーティを組んでいる。
だから自分達の実力と2人というマンパワーとを鑑みて、その可能な範囲で冒険者活動をやって行こうとアイーシャとも話し合っていた。それをギルド本部はメンバーを増やして欲しいと言うのだ。ギルド本部としてはおそらく、ただでさえ少ない上位金級のパーティとして俺達を大々的に喧伝して貴族や大商人からの高額依頼を受注させたいのだろう。
初めはそんなギルドからの要求をメンバーの当てが無いと言ってのらりくらりと躱していたのだけど、ギルド職員がメンバーを紹介しますよ?などと言い出したのだ。
俺はそんな見ず知らずの素性も知れない冒険者といきなりパーティを組むとかごめんまっぴら。そうしてギルド職員からの提案を断っていたところ、ギルド本部の上級職員が説得してきた。
勿論、誰が言ってこようとも嫌なものは嫌だ。しまいにはその上級職員は「いくら上位金級でもあまりギルドの助言を軽んじると今後の活動に支障が出ますよ?」などと脅しのような事を言い出したのだ。
全く「はぁ?」って感じで、馬鹿らしくなった俺はギルド本部には足を向けず、ダンジョンでの活動を中心にするようにした。
ギルドを介した依頼を受けなくてもダンジョンから充分な利益が出ていたし、その後メリッサがパーティに加わり彼女の能力「ダウザー」で効率良くダンジョン内で行動出来る様になると更に獲得出来る魔石やドロップ品による利益が増えた。
どうも件のギルド上級職員は自分の思うようにならず無視した挙句、少数パーティのままダンジョンで莫大な利益を上げ続ける俺の存在が許せなかったようだった。
すると次第にギルド内や冒険者の間に俺の良からぬ噂が出始めた。例えば、俺達のパーティ名は俺の二つ名から「猫連れ」というのだけど(アイーシャが面白がって命名)、俺がアイーシャやメリッサを連れているからギルド職員やその尻馬に乗る冒険者達は陰で俺の事を「女連れ」と呼んでいたりといった具合。俺のホルストイヤー、悪口は聞き逃さないからな。
そういう訳で、評判が悪くなった俺はギルド内や冒険者の間ですっかりぼっちで浮いた存在になってしまっていた。
これには王室工作組織の工作員にして元ギルド職員のアイーシャがギルド本部に猛抗議。自分のツテとコネをフル活用して件の上級職員の不正を暴いて懲戒免職に追い込んだ辺りで表向き俺の悪評は下火に。
まぁ、冒険者達が俺の悪口を言いたくなる気持ちはわかるっちゃわかるんだよね。一攫千金を狙い命懸けでダンジョンに潜っても大金を手にするものは僅か。利益が出ないばかり大怪我する奴もいれば死ぬ奴もいる。それなのに俺は美女と美少女のメンバーを連れてダンジョンに潜り、ガンガン利益を出しているんだから腹も立つよな。
〜・〜・〜
そして今日の事。今日はダンジョンには潜らず、メリッサと王都郊外の貧民街に行きナルディア教団本部が行う炊き出しや無料診療などの奉仕活動を手伝った。
ナヴォーリ行きの船で海賊退治をした際に俺に食ってかかってきたナルディア教団の巫女アイリーン。彼女はナヴォーリでの任期を終えて王都の教団本部に戻っていた。そのアイーシャとメリッサはいつの間にか親友になっていて、その縁で俺とメリッサはそうした教団の奉仕活動に協力するようになっていたりする。
奉仕活動はメリッサが炊き出しを手伝い、俺はというとその間はトラブル発生時の対応が専らだ。やはり場所が場所、住民が住民だけに怪しからん事を仕掛ける奴がいるのだ。
その他には教団の巫女さん達と一緒に回復魔法で貧民街の住民達の治療をしたり。巫女さん達はみんな金髪緑眼の美人ばかりだから役得ではあった。だがしかし、白猫姿のメルが一緒なので話しかけて来る巫女さん達に出来るだけ素気なくしなければならないのも中々辛いものだった。
夕方には居候先である貴族街のクリス勇者パーティの館に戻り、ひとっ風呂浴びてさっぱり。
この頃にはクリス達にもメルの正体を明かし、メルも館内では本来の美少女姿で過ごすようになっていて、本館の食堂でクリス達の料理人が調理した夕食を皆で一緒に頂いた(食費を出すと言ったけど固辞された)。
その後、借りている別館の居間兼食堂でくつろぎ、今日は女子会で決められたメリッサの日だそうなので、メリッサと夜を共にするため寝室へ。
意外な事にナヴォーリ市長のお嬢さんであるメリッサは南国の気風なのかベッドの上では貪欲で積極的。それでいて献身的で、俺が喜ぶような事も色々してくれるのだ。まぁみんな何だかんだでしてくれるけどね。
今夜もメリッサと互いに何度も求め合い、彼女は昼間の疲れもあってか事後はピロートークもそこそこにぐっすり寝入ってしまった。俺は汗ばんだメリッサが夜風に当たらないよう毛布を肩まで掛けると、ベッドから出て窓辺に立ち月を眺める。
この世界の虚空には2つの月が浮かんでいる。白い月ベルガに赤い月ブラン。2つの月はそれぞれの軌道の関係上、基本的に年に2回しか同じ空に現れない。それについての伝説や神話が沢山あるのだけど、それはそのうち機会があれば話すとして、今宵の月は満月、白い月ベルガだ。
この白い月ベルガは前世での月にとても良く似ている。赤い月ブランが嫌いな訳じゃないけど、俺は子供の頃から何故かベルガの方が好きだった。前世での記憶を思い出してからはこの白い月を見上げては前世を懐かしんでいる。
「月見れば千々にものこそ悲しけれ、か」
つい口を衝いて出てしまったな。俺も何気に
"なかなかロマンチストじゃな?"
まあな。よせやい、恥ずかしいじゃないか、って誰?
不意に念話で話しかけられ、びっくりして振り向く。すると寝室の奥に仄かに白い光を帯びた人影があった。
"夜分に失礼する。冒険者のホルスト殿で良いじゃろうか?"
その念話の"声"は初老の男性。なかなか渋いイケボと言えよう。生前はきっとこうした声の持ち主だったのだろう。
「そうだけど、俺にはレイスの知り合いはいないんだけど?」
仄かな光の人影はレイスだろう。生者の気配はメリッサだけで、霊体でこれだけはっきりとした意識を持つのは単なる幽霊じゃない。しかもこの部屋に入って俺に気付かれないとか、かなりな魔術の使い手と言える。
人影は俺の問いに答えず、音も無く近づくと月光に照らされてその姿が明確になった。フード付きローブを纏い、白髪混じり短髪な初老の男。その姿はまるで、
「マスターヨダ?」
"違うわ、馬鹿もん!そっちじゃなくて、その弟子の方じゃ!わからんのか、全く"
オビワンの方だろ?ちょっと間違っただけじゃん。こんなに怒られるとは思わなかった。
"ゴホン。少し取り乱してしまったな。儂の名はレオン。レオン・ロクロー・マルティンと申す。今でこそかようにすっかりレイスじゃが、初代マルティン子爵にして4代前の宮廷魔術師じゃ"
あれ?マルティン子爵って屋敷をレイスに追い出されたムカつく法服貴族じゃなかったか?
「これはご丁寧にどうも。それで、俺に何の用なんです?」
この人(?)からは邪悪な波動は感じないものの、レイスからの用向きなど碌な物じゃないだろう。しかもメリッサが寝入って、メルもいないこのタイミングを狙って出てきたとしか思えないし。
"まぁ、そう急ぐもんじゃない。とはいえ、話を聞こうという姿勢は評価に値するかの"
評価に値するとか、上から目線で偉そうな。やっぱり面倒臭いし、胡散臭い。
"じゃが、女子と同衾するのは良いとして、そのままの姿で人前に出るのは感心せんのう。なかなか立派なもので女子達が夢中になるのはわかるがの"
そうだった。俺はメリッサを抱いた後そのまんまで全裸だった。って、俺が裸でいるところにマルティン子爵と名乗るこのレイスが後から来たんじゃないのか?とは言え何気に恥ずかしくはある。
「し、暫し待たれたく、」
俺は急いでフグリクルム(褌様男性下着)を身に付けると、マルティン子爵を名乗るレイスに再度用向きを尋ねた。
"今宵、儂はホルスト殿を腕利きの冒険者と見込んで参った次第。是非儂からの依頼を受けて欲しいんじゃ"
いくら冒険者だからって、レイスからの依頼ってありか?
いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話もお楽しみに!




