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第98話 居候

「クリス、そこで剣を絡めろ。打突だけじゃだめだ」


勇者クリスが俺の模擬剣に自分の剣を絡めて構えを崩そうとする。俺はそうはさせじと剣を擦り上げて鍔迫り合いにもち込み、クリスの剣を持つ腕を下げんと更に剣に重心を掛けた。するとクリスは剣を落とされまいとすぐさま反応し、剣を持った両腕を上げた。そこで俺はガラ空きとなったクリスの腹に前蹴りをお見舞い。蹴りを食らったクリスは後方に吹っ飛び、すかさず俺は倒れたクリスの喉元に剣先を突き付けた。


「参りました」


俺は剣を鞘に収めると右手を差し伸べてクリスを引き起こす。


「動きは良くなったよ。型通りじゃなくて臨機応変に対処出来てた。ただ、クリスは貴族だからか、勇者だからか、まだ剣へのこだわりが強いな。接近すれば蹴りだって出来るし、汚い話だけど目に唾を吐きかける事も出来るからな。今度は徒手格闘術も組み込んだ戦い方をやってみよう」


勇者クリスは剣術の稽古で喉元に剣を突き付けられたからか項垂れつつも、俺が動きが良くなったと褒めたからかちょっと嬉しそうだ。


指摘すべきところは指摘する。そして褒めるべきところは褒めないと人は伸びないからね。


ここが何処かといえば、クリス勇者パーティが国王から下賜された貴族街の一角にある館、その中庭だ。そして、どうして俺がそこで勇者クリスに剣術の稽古をつけているのかと言えば、それが俺と恋人達がこの館に居候させて貰うに当たってクリスが付けた条件だったからに他ならない。


〜・〜・〜


俺は襲撃して来た暗殺者集団を返り討ちにして宿に戻ると、俺の帰りを待っていたメルとアイーシャにその日の出来事を説明した。


マリーと復縁した事については既に2人とも折り込み済みという事で、それについては「ふ〜ん、やっぱりね」といった感じで特に何か言われる事は無かった。


ソフィア第3王女に力を貸すと約束した件についてもメルは「妹さんが人質みたいなものだし、仕方ないわ」との事。アイーシャに至っては妹がソフィア王女のルームメイトになっている事をとっくに把握していて「ホルスト様の事ですから、そうなると思ってました」と曰う始末。


「それよりも重要なのはホルスト様が王女と会った直後に暗殺者の襲撃を受けた、と言うことです」


「確かに。王都に来たあたりから複数の視線を感じていた。監視されていたと言う事だろう」


敵意や憎悪が込められていた物、淡々とした静観、好奇心、打算、そんな視線だったから3つ4つの勢力から監視されていたはずだ。そして敵意と憎悪を込めていた連中は俺が第1王子に与したと判断し、ついに暗殺者を差し向けたのだろう。



「ねぇ、ホルスト。そんなのんきに構えていていいの?あなたが監視されていて襲われたって事はアイーシャやメリッサも危ないって事でしょ?」


メルの言う事は尤もだ。俺だってその辺は考えている。


「確かにそうだ。メルは神族だし、猫の姿で俺の懐の中にいるから大丈夫だとして、アイーシャとメリッサが襲われたり人質に取られたりという可能性は高いからな」


いくらアイーシャが一流の工作員で冒険者であっても一人でいるところを狙われたら危ういし、いわんやメリッサおやだ。


「それで、ホルスト様は私達を守って下さるのに、どのような対策をお考えですか?」


アイーシャは微笑を浮かべて嬉しそうに尋ねる。


「うん。俺も我を張っている場合じゃないからな。ここは素直にゾフィに頼るよ」


以前、王都に来たばかりの頃にクリス勇者パーティの弓聖ゾフィがパーティの館で一緒に暮らそうと誘ってくれた事があった。その時はやんわりとその申し出を断ったのだけど、第2王子派に恋人達が狙われているかもしれないという事態だ。背に腹は変えられない。


え?何でゾフィの申し出を断ったかって?だってゾフィは恋人だし、そこへ別の恋人連れて居候するとか傍目から見たら俺がろくでなしみたいじゃん?それに一度はボコった奴の所にタダで住まわせて貰うとか、どのツラ下げて頼めるのかって。


「そうですね。それが妥当でしょうか」


アイーシャはこの案に賛成してくれた。あとはナヴォーリ市高等弁務官事務所のメリッサに連絡して、クリス達が許可してくれたら宿を引き払う。


「メルダリス様、みんなで一緒に暮らすとか楽しそうですね?」


暗殺者に狙われているかもしれない事態だというのに、アイーシャは引越しと同棲に向けて楽しそうだ。


「そうね。みんなでとか楽しみね」


気のせいか、どうも聞いているとアイーシャとメルで「楽しみ」の意味合いが異なっているような気がするな。


〜・〜・〜


その翌日、早速クリス勇者パーティの館にゾフィを訪ねると、先日の暗殺者集団の襲撃の件を告げ、更にパーティ館に間借り出来ないかと頼んでみた。


「本当?私は大賛成の大歓迎!みんなにも訊いて来るね」


と、ゾフィはクリス達の元へすっ飛んで行った。


その日は運良くクリス達勇者パーティのメンバー全員が揃っていた。ゾフィから俺の頼みを聞いた勇者クリスと盾聖デリックと聖女ミシェルは有難い事に快諾してくれたのだけど、ただし、とクリスが条件を付けた。


「家賃について?」


「いや違うよw」とクリス。


「家賃なんて要らないさ。館は広くて部屋も余っているからね。俺が頼みたいのは館にいる間、ホルストに稽古をつけて欲しいんだ。俺個人にもメンバーにもパーティとしても。どうかな?」


何を言い出すかと思えば。


「それは元からそうしようと思っていたから、それでいいならお願いしたい」


という訳で現在に至っている。幸いに、というべきか、クリス勇者パーティの館には別棟があり、そちらを貸して貰える事となった。そこへ俺とメル、アイーシャとメリッサが入居している。


〜・〜・〜


この別棟、二階建ての間取りとしては一階が応接間にリビング兼用の食堂やら厨房、トイレに浴室等といった生活の場となっており、二階が寝室だ。まぁ、用途としては来客が泊まる「離れ」なのだろう。


客が泊まる別棟を俺達で占領しちゃって大丈夫なのかとデリックに尋ねたら、


「客といっても厄介事を持ってくる連中ばかりだ。離れが使えないとなれば長居しないだろうから寧ろ俺達にとっちゃ好都合ってもんだ」


と言ってガハハと笑った。


「いや、でもゾフィに聞いたけど、クリスもデリックも婚約者がいるんだろ?」


「イレーヌもクラーラ(クリスの婚約者)も遊びに来ても泊まりはしないから心配するな。ホルストは情け容赦無い割には細かい事を気にするな」


だそうだ。


そして、俺達が間借りした別棟ではこんな感じになっている。


「ミシェルさん、この館の立地っていいですよね。貴族街でも近くに商業施設が多くって」


「でしょ?いいお店も結構あって、今度案内するね、メリッサちゃん」


「本当ですか?是非、お願いします」


聖女ミシェルとメリッサは早速仲良くなっていて、キャッキャウフフと盛り上がっている。


「ねえ、ホルスト。私もこっちに部屋移ろうかな?」


ゾフィはソファに座る俺の横に密着しながら耳元でそう囁く。


「ゾフィさん。そんなに兄さまにくっつかないで!」


「いいじゃない。ホルストは私の恋人なんだから」


「兄さまは私の恋人でもあるんです!じゃあ反対側貰います」


マリーはゾフィと反対側に腰を下ろすや、俺の腕に抱きついた。


そんな俺をアイーシャは対面のソファに座ってメルを膝の上に乗せ、微笑みながらこちらを見ている。その瞳は暗に「いいんですよ?後で埋め合わせして貰いますから」と語りかけているよう。


アイーシャの膝の上で丸くなっているメルと目が合う。


"ふんっ"


態々擬音の念話付きでプイってされてしまった。


すると別方向からも声がかかる。


「おいホルスト、女ばかり構ってないでこっちで男同士で語り合おうぜ?」


「そうだよ。今日は海賊退治の話を聞かせてくれ」


リビングと二間続きの食堂からデリックとクリスが俺を読んでいた。


全く、第2王子派(多分)が狙っている(かもしれない)のに余裕なのか、危機感が無いのか。俺達が間借りしているクリス勇者パーティの別棟はこんな感じでシェアハウスと合宿所を足して二で割ったような感じになっている。


果たして、この動きを見て今後あの連中は手を出してくるのか、どうか。 


〜・〜・〜


こうして徐々にではあっても俺の動きを縛る(しがらみ)が増えていっている。こうなったからには俺も、もう思い描いていた正義のヒーロー人生は諦め、たりはしないけど、いったん胸の内に収めよう。これからは守るべきを守り、身に降りかかる火の粉を払いながら、自ら求めるのでは無くエンカウントする悪を叩く方向で行こうと思う。


取り敢えずはクリス達を鍛え、それからダンジョンに潜って金を稼ぐかな。




いつも『アクションヒーロー』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


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